37;産まれてきた意味
「失礼した御武人・・・私の名は外道丸。いざ、尋常に勝負を・・・」
酒羅丸と思われる男は突如、外道丸と名乗り勝負を申し出てきたのだ。その男は腰の刀・・・妖刀柳鬼を抜きながら言い放った。
「どういうことだ?貴様は酒羅丸ではないのか?」
「先程まで酒羅丸であったよ。今は、外道丸。ただの人間だ」
「どういうことだ・・・しかし、貴様・・・人間であるならば何故、私に刃を向ける?」
(外道丸・・・?ん?・・・どこかで聞いた名前だぞ)法山は、そう思いながら目の前で起きているあり得ない状況を整理するかの様に問いただす。
「単純なことだ。武人として当然であろう?」
外道丸は、曖昧な答えで返答をする。いや、曖昧と言うより今、彼が待ち望んでいる欲求しか無い。外道丸の時間は、死の直後・・・未到の領域・・・すなわち全盛期に達した瞬間で止まっているのだ。全てに絶望しそれでも、剣に導かれ剣で得られた至福や運命を試さずして、鬼に命を投げ出したのだ。それに、外道丸は侍として剣の道に進みながらも、その強さ故に未だかつて、自身の命を脅かす程の侍と対峙したことは無かったのだ。格下相手に剣を取り、大勢に取り囲まれながら、不意を打たれようと常に人のためにと剣を振り、ことある毎に裏切られ・・・人生に失望したのだ。それが、五十年の時を超え、決して相まみえることの無い『最強』の二人がここで対峙している。術全盛のこの時代・・・術などには邪魔をされない侍と侍の真剣勝負。外道丸にとって生れて初めての同格・・・それ以上の存在。心が沸く以外あり得なかった。
「今、その様なことを言っている状況ではないことは分かっておる筈だ。武人としての心構えがあるのなら、その闇に落ちた体、自ら腹を割いて事の決着を収めよ」
しかし、法山にとって外道丸の心情など、どうでも良いのだ。外道丸に人間としての良心があるのなら、闘わずに鬼と化してしまった責任をとり自決するのが、最善の手立てであった。
「興味ない。私は、もうこの時代には生きていない身である。この身を鬼に委ねたのだ・・・人間の心などとうに捨てておる。今、私が興味あるのは貴殿との勝負のみ・・・」
外道丸も、その要求には応じる訳にはいかなかった。何が何でも目の前の男と勝負がしたい。それであるならば、自身の心を鬼と化し、法山の敵となるためにそう言い放つしか無かった。もう、誰かのために剣を握るなど考えられない。今は自分のために・・・唯一与えられたこの時間は、我が儘を通して何が悪いか・・・例え今のこの世が滅びようとも・・・外道丸の決意は堅く愉悦を求めた。
「なるほど、では貴様は人間ではないと・・・鬼として成敗するがそれでも構わんと?」
「ああ・・・それで構わぬ。貴殿がそれで本気を出せるならそれが良い」
「承知した。では、貴様を成敗させて頂こう」
最初は、人間にも関わらず鬼に加担する外道丸に怒りもあったが、何かを思い出すように・・・外道丸の思惑を見抜くかのように・・・あっさり勝負を了承する法山であった。そして、清々しく返事をした後に、再び居合いの姿勢をとった。
「なんと・・・剣にはこの様な素晴らしい出会いがあるとは・・・私は・・・この日のために生れてきたのだな。勝っても負けても私の残された人生は、恐らく・・・これが最後であろうな。悔いばかり残る人生であったが・・・悪くない。故に、全勢力を挙げて私の全てをぶつける・・・心して掛かるが良い。もう一度問おう。私の名は外道丸・・・」
外道丸はやや切ない表情を浮かべながらも、今この瞬間に今まで生きてきた証を捧げることとした。そして、法山は、その清々しい表情をつい見入ってしまった。その鬼まで化したその男の半生を察し、男の悔いを全て受け止めることにした。そして、思わず微笑んだ。侍の存在は虐げられ、霊力と術士が横行するこの時代。純粋な侍の真剣勝負。武人として、男として・・・名をかけて勝負できることの嬉しさを・・・剣に生きる誰もが待ち望んでいる真剣勝負がここにあるのだ。今までの人生が証明される。努力が無駄では無かったと。息子ではなく我こそが現代における剣士としての最強なのだと。それを証明できる『最強』の相手が目の前にいるのだ。法山もまた・・・立場など捨てて、心震わせざるを得なかった。
「私の名は、鬼一法山。いざ、尋常に勝負を」
二人は清々しい表情から一変し、真剣勝負の眼差しとなった。もう、誰も二人の邪魔はできない。静寂の中、繰り広げられるのは二人の駆け引き・・・どちらが先に仕掛けるのか・・・外道丸は後の先を得意とし、法山はその対極・・・相手の打ち込みを見極め、その間合いに入ってくる物全てを、相手が仕掛ける前に、神速の居合いで切り落とす、先の先を得意とする侍であった。しかし、にも関わらず、先に動いたのは外道丸であった。一気に法山の間合いへと近づいていく。
「・・・やはり、私の杞憂であったか・・・」
その姿に、法山は肩を落とし、ため息をつくような形で呟いた。そして、外道丸の刀が届く前に、その神速の一の太刀が炸裂した。
「・・・貴様・・・測ったな」
法山は、ニヤリと笑いながら外道丸に問いただした。外道丸は闇雲に突進していた訳では無かった。法山の間合いであろう境目で、急停止し後ろへ回避したのであった。そして、瞬時に態勢を前方へと変化させ再び間合いの内へと入り込んだ。勿論、法山は既に収刀を終え、再び二の太刀が炸裂するが・・・それはもう遅く、今の間合いは完全に外道丸の間合い。二の太刀は、外道丸の斬撃を防ぐ為に抜刀された。その神速の居合いが無ければ、法山の頸は胴から離れていたであろう・・・二人は鍔迫り合いの状態となっている。
「其方の間合いとその早さ・・・やはり化け物じみているな・・・」
「何を言うか・・・これを避けた貴様の方が化け物だ」
二人は、鍔迫り合いの最中・・・顔を見合わせながら、会話をしていた。
「勘であるよ。その剣劇、全く見えなかったぞ」
「あの一瞬で貴様の間合いに持ち込むその速さも、大したものだ・・・」
二人は、再び表情が和らぎ、さながらその殺し合いは、童子の遊んでいるかのような・・・そんな情景を思い浮かばせるようであった。次はどう仕掛けるか、相手は何をしてくるのか、自身が未だ出会ったことの無い強敵に心を弾ませていた。
「さて・・・仕切り直すか・・・」
そして、外道丸が再び冷静に言い。再び緊張の糸が張り詰めた。そして鍔迫り合いから双方、刀を押し返して再び静寂の時間が流れた。そして、次に先に動いたのは、法山であった。
法山は、少しずつ徐々に間合いを詰めてきた。間合いの範囲は法山の方が格段に広く、圧倒的に有利であった。外道丸が法山に勝つには、先程のようにその神速を掻い潜り詰め寄らなければならない。圧倒的な間合いの広さ故に、全ての侍が自身の間合いに到達する前に法山に斬られてしまうのが当たり前であった。あり得ないところから、誰もが経験したことの無い箇所から見えない斬撃が飛んでくるのだ。対処のしようが無かった。
しかし、外道丸はそれに対し先程、線を引いたのだ。外道丸の見極める力と直感により、神速の太刀を回避。それと同時に、法山の間合いの距離を測ったのであった。その為、法山が徐々に近づく度に距離を取り、一瞬の隙さえ与えず、中途半端な太刀を振るうものなら、次に斬られるのは法山であった。
暫く、その膠着状態は続いた・・・瞬きすら許されない極限の状態・・・その緊張が二人を疲弊させる。そして、外道丸がその乾いた喉を潤すように唾を飲み込んだ。その瞬間、法山は一気に間合いを詰めてきた。僅かに、途切れた集中の連鎖・・・生理現象であるが、それでも体は僅かに喉に注意が向いてしまう一瞬であった。それをすかさず法山は狙う。
隙とも言えないその隙に付け入る法山に外道丸は、見事に反応した。しかし、それはごく僅か・・・ごく僅かではあるが、その途切れた集中力は、外道丸に反撃の隙は、与えてくれなかった。その神速の太刀を、防ぐことが精一杯であった。そして、何とかその太刀を刀で防ぐことに成功したが、その剣先は外道丸の右肩に刺さっていた。幸い、浅く致命傷には至らなかったが、完璧に防いでみせたにも関わらず、身体まで届いたことは正直、驚愕であった。しかし、驚いている場合ではない。続けざまに、二の太刀、三の太刀が飛んでくる。
流石の外道丸もその太刀全てを受け止めることは不可能であった。しかし、何とか急所を外しながら、受け流していった。急所を外しているとはいえ、激痛であり血しぶきも飛ぶ・・・それでも一切表情を変えること無く神速の太刀を受け続けている。三の太刀以降は、収刀せずそのまま連撃であった。やはり、神速の太刀はその抜刀があってこそであった。それ以降は、速度が緩み、外道丸は太刀を全て受け止めることができた。しかし、それでも常人離れした剣速であり、後の先を得意とする外道丸ですら、反撃を加えることは不可能であった。そして、一方的に法山が切り伏せた後、再び両者は距離を取った。外道丸は、血まみれで既に肩で息をしている。圧倒的優位なのは法山ではあるが、このまま長引かせても埒が明かないと感じ、法山から一旦仕切り直すこととした。
「驚いた・・・貴様、見えているな」
法山は再び、表情が緩みため息をつきながら外道丸に問いかけた。外道丸は、既に法山の神速の居合いを見切っていたのであった。法山は、初撃で手応えがあった。完全に頸の動脈のみを完全に分断し外道丸の命を絶ったと・・・相手が届きもしない間合いから見ることもできない速度で、頸の皮一枚を削ぐような、無駄な太刀は一切入れずに討ち取ったつもりであった。しかし、気付けば刀で受け流され、肩で受け止めていた。偶然かと思い、それでも直ぐさま二の太刀を、腹部目掛けて打てば、僅かに脇腹しか切れず、三の太刀は目を狙えば避けられ額を斬ってしまったのだ。
「・・・かなり、斬られたけどね・・・」
外道丸は、数カ所斬られているにも関わらず、その痛みなどまるで感じていないかのように笑って返した。
(ん?なんだ?この男、雰囲気が変わったぞ?)
法山はその子どものように無邪気に笑う外道丸を見て、先程会話していた人物とは別人のように思えた。
「違う・・・違うぞ・・・外道丸、あの時降りてきた未到の域はこれでは無い・・・」
すると、外道丸は何やら、自問自答するかのように、刀と語り出した。
「なんだ?それは、呪いの類いか?」
居合いの構えはしていたが、十分に距離があった為、その不可解な言動を問いかけた。法山は、外道丸の強さは認めていた。今までで一番の強敵であると・・・自身の神速の居合いも見切るほどに・・・しかし、余裕もあった。見切られはしたが、それでも剣速と間合いは圧倒的に優れ有利であったのだ。その心の余裕が、次の外道丸の動作を許容した。
外道丸は、自問自答しながら、剣を様々な方法で振っていた。まるで法山のことを忘れているかのように熱中していた。何かを思い出すかのように、玩具を与えられた子どものように・・・
如何に、外道丸であっても法山に勝つことはできないだろう。酒羅丸でさえ(この空間において)勝ちを見いだせなかった程の実力を持つ剣術なのだ。どんなに力があっても、どんなに相手の動きを先読みできても、自分がそれより早く動けなければ意味が無いのだ。そう・・・その神速と同等かそれ以上の速度無くして勝つことはできない。
法山は、外道丸のその動作を許容していたが、徐々に身震いと同時に寒気と恐怖が襲ってきた。外道丸の剣筋は先程の物とは、まるで別格であり、振れば振るほど速度が上がってきているのであった。
(こ・・・この男は、まだ発展途上だというのか・・・恐ろしい・・・)
法山は、今のうちに・・・まだ自身より剣速が遅い内に倒すべきだ・・・そう咄嗟に判断し、最大の力を込めて踏み出し間合いを詰めた。それは侍として外れた、臆病な行動ではあったが、その死を連想させる寒気が、法山を冷静にさせた。自身の行動が、人類の未来が掛かっていることを・・・そして、何より・・・今、命を掛けているのは自分だけでは無いことを・・・
そして、容赦なく素振りをして隙だらけの外道丸に斬りかかっていた。最大の力を込めて一の太刀をその頸目掛けて放った。しかし、その一の太刀は、最大の手応えであったにも関わらず、完璧に受け止められてしまったのであった。
「あぁ・・・悪い・・・あんたがいること忘れてた」
剣を受けながら外道丸は、悪びれる素振りも無く言い放った。法山にとって初めての経験であった。自身の居合いが正面から・・・しかも不意打ちにも関わらず完全に受け止められたのだ。その驚愕の事実に、心が落ち着かず、咄嗟に距離を取る法山。そして、外道丸はその隙を逃さない。すかさず、間合いを詰めていく外道丸であった。その姿を見て法山も一瞬で我に返る・・・心乱している場合では無いと。間合いこそ、法山の方が広く分はあるのだ・・・既に剣速は同等であろうと・・・そう、外道丸もまた、この境地を得て神速の太刀を会得していたのであった。
法山は、得意の居合い一手で攻めた。それが一番の勝算であるからだ。外道丸は、真っ直ぐに間合いを詰めている。急所を狙うのは止め、正確に且つ四肢末端から徐々にそぎ落としていくこととした。正々堂々の勝負に卑怯と言われるかもしれないが、それ程までに、今・・・外道丸の間合いに入り込んでしまうことは、死に直結してしまうと・・・そう直感した。
そして、外道丸の体の一部(右上腕)が自身の間合いに入った瞬間に、居合いを・・・一の太刀を放った。外道丸には決して届かない範囲で・・・後の先で見切られたとしても対処できない範囲で・・・
外道丸は、考えていた訳では無い・・・しかし、幾度となく切り込まれ見続けたその剣筋・・・何処に飛んでくるのか理解できていた。法山の間合いに自身の体が触れたと同時に、それが飛んでくると・・・であれば、それに負けぬ様、同時に動作を開始し、同時に仕掛けながらも法山より早く切り込むことを試みた。しかし、剣速は同等・・・であれば、踏み込む速度を更に速くし、法山の太刀が自身の体に届くより早く、自身の太刀を法山の体に通すことを試みた。
そして、それは目論み通り法山の居合いより先に、外道丸の刃が法山の左脇腹を切り裂いた。法山の居合いには一つ弱点がある。それは居合いを発動させてしまったら最後、攻撃を中断できないことである。そして・・・もし、その居合いを逃れることができれば、一瞬ではあるが最大の隙が生じてしまうことであった。後者に関しては即座の納刀後の二の太刀で補っていたが、前者に関しては、自身より速い存在などいなかった故に、ここで初めてまみえる弱点であった。そう・・・法山にとって、またしても初めての出来事であった。
(何だ!今の・・・今の動きは・・・)
法山は、今までの外道丸の所作とは全く別の動きを垣間見たのであった。傷口は浅く致命傷には至らなかったが、それでも激痛と出血で一旦距離をとり防御の姿勢と間合いを保ちながら外道丸を観察した。
(上達したのは剣速だけでは無いのか?動き・・・戦法その物が変わっている。あの動き・・・あの動きは正しく「対の先」・・・)
後の先を得意とする外道丸にとって人生で初めての戦法であった。しかし、それにも関わらずその所作の切れは抜群であり、長年磨き上げてきたかのような熟練されたものであった。
そう、外道丸目指していた至高の域とは、全ての反撃の『先』を会得した・・・究極の型・・・相手や状況に応じて様々に柔軟に変化・対応させ、神速の速度で先の先・対の先・後の先を使い分け、且つ同時に使いこなすという代物であった。人間離れしたその代物は・・・人生には愛されなかったが、剣のみに愛された男に与えられた強すぎる力であった。
そして、再び外道丸は法山に向かっていった。法山は、居合いの姿勢はとっていない。先程、自身の居合いの弱点が晒され、もう外道丸にはそれは通じないことが証明されたからだ。刀を抜き、防御の型のまま構えている。そして、形成は逆転し、法山の防戦一方となった。外道丸の乱撃と言わんばかりの斬撃が法山を襲っている。法山は反撃を一際せず、防御に徹して乱撃を悉く打ち払っている。しかし、それはあくまで致命傷となる攻撃のみ・・・それでも取りこぼした斬撃は数知れず・・・徐々に法山の体力を削っていく。
法山には、もう最終手段しか残っていなかった。それは・・・近距離からの居合い斬りであった。この乱撃も永遠には続くはずは無い。外道丸の体力が尽きるか、法山の体力が尽きるか・・・神のみぞ知る勝負であった。そして、その時は一瞬であった。正に猛攻に次ぐ猛攻の外道丸・・・その為、無呼吸状態が続く。その一瞬・・・息を継ぎ変える瞬間に、納刀したと同時に抜刀したのであった。回避不可避の近距離からの居合い・・・外道丸の胴を分断させる為に、最大最速の一の太刀を放ったのであった。
しかし、その瞬間・・・法山の左腕が宙を舞っていた。外道丸は、法山の乾坤一擲の一撃をも対の先で反撃していたのだ。居合いと同時に行動し、それより速く相手の懐に入り下から斬り上げ、腕を飛ばしたのであった。
しかし、それでも法山は戦意を喪失していない。そのまま、外道丸に向かって片腕で刀を振り落とした。対する外道丸は腕を斬った直後、すでに納刀していたのであった。それは勝利を宣言する・・・為のものでは無かった。次なる手・・・それは、今、片腕で刀を振り落としている法山もそれが何の構えであるか瞬時に理解できた。
「先の先・・・居合い・・・柳流一鬼」
(それは、私の・・・!)
外道丸はその剣術の特性上、居合いを得意としていない。しかし、この勝負で嫌という程身をもって体感した、その居合い・・・外道丸にとっては、初めて剣術を他人から教えられているような感覚であった。初めて、剣術に技名もつけ、法山の居合いを更に昇華させた、外道丸の最大の奥義となっていた。
もう、法山にそれを逃れる術は無かった。であれは、自身の体に染み込んだその居合い・・・どの様な軌道と速度で斬撃がくるか理解できた。自身が斬られても尚・・・この命を囮にして外道丸の心臓を目掛けて一の太刀を振るった。外道丸は既に、居合いの態勢に入り抜刀に入っている。法山同様・・・その抜刀の弱点は、ここからはどうあっても攻撃を止めることはできない。
しかし、外道丸はその刹那の瞬間に、法山の目論見を察知した。攻撃が止めることができないのであれば、動きながら変えれば良いのだ。外道丸は居合いの態勢から、対の先による反撃の所作を追加した。法山の動きに同時に仕掛けながらも、法山の刃より一瞬早く居合い「柳流一鬼」を法山の頸の動脈に目がけて抜刀・・・対と先を複合させた、最終奥義を完成させたのであった。
法山は頸から血しぶきをあげ、その半分切れ、ぐらついた頸を押さえながら振り返り外道丸をみた。
「・・・流石だ・・・さすが・・・私の憧れた・・・」
法山は言葉を全て言い追えること無く、その場に倒れ込み絶命した。外道丸もまた、その場に倒れ込んだ。呼吸をするのも忘れる程、集中し酸欠を起こしていた、また、致命傷では無いが出血量も酷かった。しかし、意識はあった。
(ありがとう・・・鬼一法山・・・決して出会うことは許されない違う時代に生きる私達であったが・・・私はこの闘いのために生れてきた・・・そう思える瞬間だった。最後に、再び剣を愛することができて・・・全てを忘れるくらい楽しかった・・・私の人生、思い返せば散々であったが・・・最後にこんな素晴らしい出来事があるとは、生れてきて良かった。心からそう思える。もう、これで悔いは・・・ない・・・父さんと母さんの所へは逝けないけど・・・一目で良いから会えないかな・・・まぁそれはしょうが無いか。悔い・・・悔いか・・・悔いがあるとするなら・・・やはり、もう一度・・・)
外道丸は眠るように意識を失った。体の所有権を返還する時がきたのだ。最後は・・・何に後悔を感じたのかは不明であるが、その瞬間、愛刀『柳鬼』を強く握りしめ、その思い出に浸りながら、酒羅丸へと意識が変化した。




