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未到の懲悪  作者: 弥万記
零章 外道丸
35/61

32;うらぎり

 そうして、一年が経過した頃、私は当主光家から縁談の話をされたのであった。私は、美代姫のことを心残りと思ったが、これで美代姫への想いは絶ちきり、美代姫の邪魔はしないと誓い、一条家への恩義を報いる為、その縁談を受けることとした。


 私の結婚相手は、朝廷雇用足しの陰陽師の家系である藤原世津(ふじわらのせつ)という女性であった。世津は陰陽師としての能力は持ち合わせていなかったが、大事な跡取り娘であるため、能力を持たずとも力を授かった私に何かを見出したらしい。一条家からしても名家藤原家から門下生が婿として迎えられると、朝廷との更なる強い繋がりができるこれ以上無い申し出であった。明らかな政略結婚ではあったが、双方に利益があり、何よりこの私が求められているという事実が正直嬉しかった。


 世津は、美代姫と並ぶ美女であり、しかし性格は正反対。私より五つも年上ということもあり、冷静で表情の変化は乏しく口数は少ないが言動一つ一つに落ち着きがあり、時折見せる笑顔が魅力的な女性であった。善は急げと二人の同意が得られた後の顛末はあっという間であった。


 そして、この結婚を機に幻彩家・・・美代姫からの任務依頼は全く来なくなってしまったのであった。私は美代姫の気持ちに気付いていながらも、この結婚に乗り切ったのだ。もう会えなくなる・・・居場所がなくなるなんて考えるのは・・・お門違いである。そう自分に言い聞かし、今後の一条家の発展と、新たな家族と共に自身の居場所をつくって幸せな家庭を築いていきたいと願っていた。


 私達は、最初はぎこちなさもある夫婦であったが、世津は非常に尽くしてくれ私の生活面を援助し、そして勉学にも精通しており非常に博識であったこと・・・そして何より、時折見せてくれる笑顔・・・それが愛おしくその笑顔を見るために朝廷の依頼を数多く請け負っていった。


 そして半年後には待望の長男・・・壮太(そうた)を授かった。また、自身の屋敷も建築し正に順風満帆であった。私にも守るべき者が増えたと、血の繋がった実の息子・・・家族に感動した。


 それからというもの、私は更に仕事に精を出した。今までは自身の楽しみを追求し刀を振り続けていたが、今まで無かった使命感や責任感に駆られ仕事に励んでいた。そして、数々の武功を挙げていき、私の評価は益々上がるばかりであった。いつか、壮太から誇られる父でありたい・・・私の父のように道しるべとなる人間でいたい・・・そう思っていた。


 そして、更に一年が過ぎたときであった。私は、いつも通り仕事を熟し帰路に就き家族団欒の時間を過ごしていたときであった。突如、私の死を予感する第六感が刺激された。私の周りに数多くの殺気・・・明らかな敵襲であった。この仕事柄・・・誰かに恨まれるなど当たり前で想定の範囲内の出来事であった為、突如の襲撃に対しても私は落ちついて対処した。


「世津!来なさい!今、この家は何者かに取り囲まれている」


「え?大丈夫・・・なのでしょうか?」

 世津は、壮太を抱きかかえ不安そうに震えていた。


「お前達は、ここに隠れていなさい。私が、誰一人ここへは通しません」

 私は、震える妻の両肩を持って笑顔で、そして力強く言った。それに安心したのか、世津の震えは少し収まったように感じた。私は予め、この様な事を想定し、家の構造も逃げ道と数々の隠し扉、隠し部屋を設計して建てていた。また、柳鬼を使いこなしていくうちに六感も非常に発達していき、美代姫との特訓や助言もあり危険察知能力にも非常に長けていた。今まで何度か襲撃に遭いそうになったが、未然に察知し対処できる様になっていた。能力を持たない私が、この家の構造や環境が六感を刺激し、結界のような役割を果たしていたのだった。


 しかし、今回の敵は・・・今までの敵とは訳が違った。もう、既に敷地内への侵入を許してしまっていたのだ。私が、そこまで気が付かないなどあり得ない。それこそ侵入者が強大な能力者であればあるほど、その強さを隠しきれず六感を刺激し違和感をいち早く察知できる。しかし、それが遅れしまったということは、侵入者は能力者では無く・・・且つその気配から普段から接している我が身に慣れた人間・・・気を許している人物・・・ということになる。侵入者は約三十名・・・こんな大所帯を目の前まで気付かないとは・・・私は、嫌な仮説を立てた・・・決して当たって欲しくは無い仮説・・・しかし、それしか考えられなかった。普段から側に居て気を許している大所帯の人間達・・・一条家の門下生では無いかと・・・


 私の予想は、当たっていた。私と最初に対峙した男は私と同時期に入門した男であった。そして、その瞬間、上空に大きな術式が展開された。そして、その術式に当てられた門下生達は、苦しむように豹変し、力を何倍にも増幅させていった。体は大きくなり筋力も速度も剣技も何倍に向上していったのだった。


 私との戦闘に対し相当練り込まれた作戦で、最も効果的だと自覚した。先ずは、心理戦・・・仲間達と対峙させるとは・・・それだけで剣先が狂う・・・そして、上空の術式・・・それで私に強大な術を発動させるものなら切り伏せてやるのだが、身体強化・・・恐らく狂乱の術であろう・・・三十名を強化し私に肉弾戦と消耗戦に持ち込んだこと・・・私の力を知り尽くした者の犯行であることが窺えた。そして、対峙したと同時に展開された術式・・・恐らく術者は敷地内に隠れている・・・そいつを倒せば術は解除される可能性はあるが・・・この三十名を前にしてそれは至難であった。


 しかし、私も殺される訳にはいかない・・・私の死は、つまり・・・愛する妻と子の死を意味する・・・私は、徹した。仲間であろうが何だろうが、私達の命を脅かす者は生かしてはおけないと。殺さなければ、殺されるのだ・・・生憎相手にはもう自我は残っていない。ただ殺戮を繰り返す狂乱者となっている。私が・・・同じ門下生として成敗を・・・関係の無い人間を巻き込む前に落とし前を付けるのが、彼らに対しての義理立てでもあった。


 多頭戦は何度も経験したことがある。先ずは地の利を生かし、両脇と後ろが壁に囲まれた部屋で、多くても三、四人同時に相手にできる箇所この箇所で、迎え撃つことにした。室内では相手も大勢で切り込んでこれない。味方を斬り倒してしまう場合があるからであった。室内の戦闘では相手も一定間隔空けざるを得ない。三人同時相手を十回・・・単純ではあるがその様に計算していた。


 そして、目の前には鎌の飯を食ってきた仲間の変わり果てた姿が並んでいた・・・その姿をみて、せめて苦しまずに・・・一撃で・・・集中力を極限まで高め無駄な斬撃はうたない・・・そう誓った。そして、計算通り三人を動じに相手取る。この程度であれば余裕であった。しかし、次の瞬間私の思考は一瞬で凍り付いた。なんと、後ろの壁からすり抜けるように、斬り掛かってきたのであった。何に凍り付いたかと言えば、壁からすり抜けてきたことでは無く、世津の居る空間からすり抜けてきたということになる。私は、その後ろからのあり得ない攻撃にも反応し対処できたが、即座に扉を開け、世津の生存確認をした。


「世津!大丈夫か?」


「え・・・ええ、壁から出てきたので驚きました・・・しかし、あの人は私など見向きもしなかったです」


「成る程・・・世津、不安であろうが・・・引き続きここに居るのだぞ・・・」

 私は、一つ仮定した。上空の術は特定の人物に狂乱の術をかけるものであろうが・・・恐らく結界の類いであろう。結界による空間支配・・・恐らくこの家はもう要塞としての意味は成していない・・・先程壁をすり抜けた時点でそうだ。狂乱の術をかけられた者は自由に壁を行き来できる仕組みだ・・・いや、もうそれは我が屋敷の壁では無い・・・私の家を模倣した敵の要塞だ。


 三十名もの大人数を術にかけ、空間操作までしている・・・恐らくだせる命令は単純。目的は定かでは無いが・・・私の命のみを狙うことのみに重点が置かれている・・・世津が無視されたのが良い例だ。


 となれば、戦法を変えるしか無い。私にとって家の中は死角だらけ・・・私は壁を自在に出入りできない・・・となれば壁の無い見渡しの良い箇所での戦闘・・・大混戦しかないと・・・私がこの場を離れても良さそうだ。壁を通り抜けるのだ・・・それこそ私が世津の近くに居ては危険であった。私に引きつけるしか無い。


 敵は狂乱の術がかけられているとはいえ・・・流石一条家の人間だ・・・剣の扱い、隊列など統制された動きをとってきた。おそらくは無自覚に・・・ただ襲っているだけなのだろうが、それでも潜在意識と言うべきか・・・内在する物はやはり侍としての基礎だった。何とか、見晴らしの良い庭まで出ることができ、その間に倒したのは六名・・・残り二十四名に取り囲まれた。 


 しかし、いくら門下生が化け物じみた強さを持ち合わせたとは言え・・・私にその刃が当たらなければ意味は無い。今まで血反吐を吐く程に稽古と打ち合いをしてきた仲だ・・・手の内は全て理解している。それに相手を格下とは思わず一人ずつ確実に相手が何をして来るのか先を読め・・・それに集中しろ・・・そう自分に言い聞かし徹底して相手の剣を見切り後の先をとった。


 取り囲まれたとはいえ、やはり一斉に掛かってくり訳では無い。多くて四方に四名が上限・・・この場合、何振り構わず命を顧みず、仲間の斬撃を受け手でも捨て身の攻撃を切り出してくる方が厄介であった。私は、相手の強力で且つ破壊力の申し分ない統制された四方からの斬撃を悉く受け流し、躱していった。そして、刀を相手の急所へ置くように、一つずつ・・・一つずつ命を絶っていった。


 私はこの時のことをあまり覚えてはいない・・・集中力の底に沈んだような・・・無意識の境地であった。その為、二~三人を過ぎた頃からどの様に倒していったのかさえ思い出せない。人間、熱さを感じると考えるより先に手を引く様に、まさに反射の領域で、相手の斬撃に対応し刀を振っていた。恐らくそれは、あの時・・・初めて刀を握ったときに感じた理想の型を体現していたに違いなかった。覚えていないので、定かでは無いが・・・しかし、結果として三十名の化け物達を無傷で倒してしまったからにはそうであったとしか言いようがなかった。そして、いつかそれを意識下の中で体現することこそが私の侍としての最終目標であった。


 再び、記憶として思い出せるのは最後の二人を残したときであった。記憶を無くすほど深く集中し、周りを見渡すと死体の山・・・この殺し合いも終わりが見えかけてきた頃であった。その光景をみて私は一瞬何が起きたのか理解できなく体が動かなかった。その隙を突かれ危うく斬らる寸前のところで刀で受けた。そしてその力は凄まじく、後方まで吹き飛ばされた。私はそれで我に返り、これ程までの化け物と対峙していたのだと寒気がした。再び、その集中力の底に行くことは無かったが、二人であればと、自力で問題なく倒す事ができた。


 もう、辺りには敵の気配も感じられない。そして、敵の結界もいつの間にか解かれていた。あわよくば、術士を見つけて討ちたかったが、もう逃げているに違いなかった。深追いはせず、先ずは世津と壮太の安否確認が先決であった。私は直ぐさま駆けつけた、二人が身を隠している部屋の扉を開けた。


 すると、世津はまだ恐怖しているのか、頭を抱えながら震えていた。私は二人の無事をみて安心した。そして、一声かけた。


「終わりましたよ。安心して下さい」

 優しく、そして笑顔でそう答えた。


「・・・け・・・もの」

 震えながら、擦れる様な微かな声で世津は何か言った。


「ん?」

 私は聞こえず聞き返してしまった。まだ、恐怖から解放されていないのか、それもそうだ・・・いきなり大人数が攻め込んできて自身も生きた心地がしなかっただろう・・・私は二人を抱きかかえようと、そっと近づいた。その瞬間・・・


「・・・近づかないで・・・」

 次も微かな声であったが、聞き取ることができた。近づくなとはどういうことだろう・・・単純に理解できなかった。確かに生きた心地がしないほどの恐怖に打ちひしがれていたのは分かる。それでも亭主が迎えに来たのだ・・・どういうことか理解できなかった。


「どうされたのです?大丈夫ですか?」

 私は、何か異変が起きたのでは無いかと思った。例えば・・・何か罠が仕掛けられている・・・そう思った。そして、何か術が仕掛けられているのであれば私であれば対処できると思い、近づいてそっと両肩を支えるように触った。


「触らないで!この!化け物が!」

 その瞬間、両肩に触れた手を振り払いながら、あり得ない罵倒が返ってきた。私は、理解できなかった・・・何を言われているのだと・・・


「何故!貴様は死なない!何故!何故!何故!」

 世津は、頭を掻きむしりながら、声は裏返り奇声を発している。今まで、穏やかで声を荒げたことなどは無い。明らかに今までの世津では無い・・・邪悪で異常な姿であった。


「せ・・・世津?・・・ど・・・どうしたというのだ?」

 私は何が起こったのかまるで理解できなかった。狂乱の術を世津もかけられたのかと思ったが、先程声を掛けた時は普通であった。それに、そうであるなら私に襲いかかってくるはずであった。考えたくは無い・・・考えたくは無いが・・・その発言は、まるで・・・この結界の発動者で、術を破られた時に発する声・・・敗北の声・・・そう考えると辻褄は合う・・・


「貴様には何故、隙が無い!妻にさえも片時も!」


「・・・」

 私の・・・信じたくなかった仮説が当たってしまった。その言葉に私は何も言い返せないでいた。常日頃から死と隣り合わせにいた環境に身を投じ・・・そして美代姫が私に言い聞かせた教えが、片時も離れなかったのだった。完全に無自覚であった。世津と壮太の事は勿論愛している。心から気を許したつもりでいた。


 しかし、それは、思い込んでいただけで、私は愛する妻と子の前でさえ常に警戒し身を守っていたのだ。それが功を奏し命を守っていたのは事実であり功績なのであるが・・・私が家族を愛しく心地よいと思っていたあの場所は・・・偽りであり、家族の愛など幻想に過ぎなかった。常に気を張り、家族さえも敵とみなし気を抜けなかったのだ。お前には家族など持つものでは無いと言い聞かされているような気がした。


「寝込みさえも襲えず・・・二年間もかけて、気付かれない様少しずつ作った結界術・・・そして、三十名の化け物相手に何故勝てる!何故、同胞達を平然と斬れる!」


「・・・」

 何も言い返せなかった。私は先程の闘いで、無意識ながらも理想の型を体現できていたかも知れないという事実に心が湧いていた。しかし、思い返せば・・・そこらに転がっているのは、仲間達なのだ。それなのに心も痛めず、剣も鈍らず・・・斬っていったのだ。


「貴様は、鬼だ!化け物だ!人間では無い!」


「・・・」

 私は、人間の心を持っていない・・・鬼か・・・子どもの頃からそう呼ばれていた・・・


「やはり、父の言ったことは間違いでは無かった!貴様こそ、我ら術士の敵!悪なのだ!」


「待ってくれ!」

 私は、世津が何をしてくるのか理解した。心底、自分自身に嫌気が差していたが、世津と壮太を愛している事実だけは変えることも否定することもできない事実であった。世津は術式を展開している。しかし、もう彼女に私の声は届かない・・・


「ここで、この家族ごっこもお終いだ!」

 私の言葉には何の意味も無く・・・世津は、そう言い放った後、息子もろとも私を道連れに自爆をはかってきたのであった。私は、自分自身への失望感と、目の前で愛するものが爆発する光景を目の当たりし、その悲しみの現実逃避から、再びそこからの記憶を失った。


 しかし、それでも私は無傷だった。家が一軒吹き飛ぶ爆破から生き延びたということは、恐らく柳鬼でその爆破を絶ち斬り受け流すことができたからに違いない。記憶にないので意識してやったことでは無い・・・先程のような反射とも言える自身の命の危機に咄嗟に体が反応したのだった。


 そして、その爆破から粉塵がまだたち込める中、男の声がした。


「世津・・・やったか・・・」

 その爆破を待っていたかのように、その男は現れ、事が全て終わったかのような悟った声でそう言い放った。勿論、その男は私が生きているなど思ってもみなかったのだろう・・・隙だらけであった。そして、私は瞬時に理解した。この男こそが黒幕であると・・・


 私は、本来であれば、その男を捕らえ尋問し情報を引き出すことが求められるが、今の私にそんな余裕など無かった。この感情を、やり場の無い怒りと憎しみを、そして悲しみをどうしたらよいのか・・・しかし、目の前に居るのはその憎き黒幕・・・私は、その男を悟られもせず、そして、殺されたことなど気付かれもせずに、斬首した。そして、私はその頸を持って・・・一人、歩き出した。


「私が、死んだと・・・そう思いましたか?」

 私は、気付いたときには当主光家の頸元に刀を突き立てていた。あれほど高く高貴で誇りある敷居を土足で跨ぎ、主君に刃を向けているのだ。光家は突然の襲撃に、対処もできず、ただただ情けない形で・・・腰を抜かせたまま突き立てられた刀で体を動かせずに震えて私を見上げていた。


「す・・・すまぬ・・・外道丸よ・・・そうするより他なかったのだ!」


「それは、何に対して謝られているのですか?」

 私は表情・口調を変えず唯淡々と言い放った。私が、この様な行動を取った理由は、一つ・・・私が倒した門下生達は、我が家に着いてから狂乱の術にかけられたことであった。私の家の敷地外から、狂乱の術をかけられ我が家に押し入っていれば、私は取り囲まれる前に察知し、対処もいち早くできていた。しかし、それができなかったのは、何の術も使えない、心許した人間達が殺気もないまま忍び込んだからであった。その様な手引きができる人間はただ一人・・・この男光家であった。恐らく、門下生には帯刀して私の家に集合せよとでも言ったのであろう。理由は分からなくても当主の命令は絶対である。そして、三十名というのが、狂乱の術の効果範囲なのであろう。その三十名に光家が命令を出したという事が、先程斬首した黒幕と光家が繋がり首謀していたということが想定される。


「お主を・・・討とうとしたことだ・・・ただ!仕方なかったのだ!私も、家族を人質に取られ・・・どうすることもできなかったのだ!」

 光家は情けなくうろたえ、声を裏返しながら言い訳を述べてきた。


「成る程・・・貴方を脅してきたのは、こいつか?」

 私は、先程倒した男の頸を光家に投げつけた。


「まさか・・・こいつまでも・・・倒したと・・・言うのか?」

 光家が驚くのも無理は無い。私が斬首した男は、陰陽師での三本の指に入る大物であったからだ。私もよく知っている人物・・・世津の父親である藤原道蔭(ふじわらのみちかげ)であった。道蔭は、朝敵では無いが、私がいずれ術士の存在をも危ぶむ存在になると危険視していたそうだ。しかし、私は幻彩家を通じ朝廷から評価を受ており、如何に藤原家であっても表だって行動はできなかったのだ。そこで、最終手段として世津を使い私が油断しているところを暗殺し、事故に見せかける・・・その様な算段であったらしい。しかし、一向にその任務は果たせず、結界の作成という下準備が終わった頃合いに。この様に大々的に行動に移したのだ。


 まず、道蔭は光家に、依頼を断れば一門全て皆殺しにすると脅迫紛いの依頼をしていた。何をしようにも一向に隙を見いだせない私に、それであるなら一条家の門下生を使うまでと判断したのであった。光家は我が門下生をどの様に扱われるか理解できないほど馬鹿な男では無い。しかし、光家からすれば、藤原家は雲の上の存在・・・抗う術持っていなかった。そして、これが成功すれば、大量の金と地位を約束すると飴も与えれば・・・私や下っ端など簡単に切り捨てられるのだ。


「流石の私も・・・操られて自我が無かったとは言え・・・同じ釜の飯を食ってきた者達を斬り殺すのは、耐え難い事でした・・・貴様・・・貴様は!我々のことをなんだと思っているのだ!私に掛かればこの様な下僕!取るに足らぬ!侍であるならば!目先の利益に眩まず、悪に抗う気概は貴様には無いのか!それでも当主か!・・・私は、ついていく人間を間違えたらしい・・・この家紋!返却する!」


 私は、こんなに人に対し憎しみという感情を持ったことが無かった。怒りという感情をぶつけたことなど無かった。それ程までに信じてきた人物の裏切りや許せず、また悲しみも相まり感情をぶつけずにはいられなかった。今にでも斬り殺してしまいそうな勢いであったが、最終的には殺す価値も無いと踏みとどまった。


「私は、このまま姿を消す。この所業で私も死んだと世の中に伝えろ。金輪際私に関わるな・・・もし・・・私の元に刺客でも送ってみろ・・・今度は貴様と家族が、そこに転がっている者と同じ運命になるぞ!分かったな?」

 私は自ら破門をし、一条家との縁を完全に絶ち、姿を消した。そして、当てもなく歩き出した・・・

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