02;鬼の仲間達
鬼達は今宵の晩餐も大いに盛り上がっていた。その暴れっぷりで最も目立っていたのは酒羅丸であるが、それ以外で一際目立っていたの鬼が、酒羅丸に次ぐ実力がある若頭の芭浪と、酒羅丸の側近である、権左兵平という老爺の鬼であった。
「今宵も、喰うて喰い尽くす!やはり、陰陽師の奴らがおらぬと楽であるな権爺よ!」
若頭の芭浪が、人間を喰いちぎり笑みを浮かべながら人間が隠れているであろう家に向かって突進していた。
「ほほ・・・芭浪よ。深追いするでないぞよ。奴らは同胞でさえ囮に使うぞよ」
楽観的な芭浪ではあったが、権左兵平のその言葉に心当たりがあるかの様な表情を浮かべ若干身を引き締めながらも、躊躇なく家の中に入り隠れている人間を捕らえていた。
「あちらこちらで聞こえる断末魔が心地よいわい」
かく言う権左兵平の狩の方法は、芭浪とは相反する。少し酔いしれ逃げまとう人間達を愚弄しながら、一歩も動かず術を展開し人間を引き寄せていたのだ。
「やはり喰うなら女が一番じゃのぉ」
芭浪は、右手で人間の足をつかみ引きずりながら家から出てきた。
「芭浪よ。お主が連れてきているのは男じゃぞ?」
「何?」
「お主、まだ性別も区別できぬのか?」
「大体、雄か雌かなんて区別出来るのは、お頭か権爺くらいだろう。家畜を見分けるのに一々服を脱がせてられんよ。喰うてみなければ分からないのも、また興であろう」
笑いながらそう言うと、芭浪はその人間を喰いだした。
「この堅さ・・・やっぱり男だ」
「だから言うたでは無いか。お主は性別で決めているが、やはり人間の美味な部分は頭内であるぞ。年を取れば取っているほど味が濃縮されているわい」
そう言いながら、権左兵平は頭を啜りだした。
「へぇ・・・権爺も変わっておるのぉ。やはり我は、若い女の柔らかい肉が一番じゃ。噛んだか噛んでないか分からない位に口の中で溶ける極上よ・・・口直しに後でまた、喰いに行こうか・・・しかし、変わっておると言えば、お頭も変わっておるのぉ」
「酒羅様がか?」
「お頭も、好みが分かれているというか・・・男の肉しか食わず、後は酒を呑んどるところしか見たことが無い」
「酒羅様は、女に別の楽しみを見出されているのじゃよ」
「別の楽しみ?・・・あぁ、あの女どもか」
「そうじゃ。酒羅様は人間の女を妻と娶っておられる」
「あの六人の女達か・・・いつか喰うてみたいのぉ」
「ほほ・・・そんな事をすれば、お主殺されてしまうぞ」
権左兵平は、ため息をつきながら続けて答えた。
「儂ら、鬼一族がここまで存続できるのも、酒羅様のお陰じゃ。酒羅様の行いは絶対であり、彼の興に我らも付き合ってやろうぞ」
「分かっておるよ。お頭の強さも偉大さも・・・十分承知している。ただ、少し人間みたいな事をするなと不思議でのぉ」
芭浪は右手を顎の下にやり考え込むような姿勢で答えた。
「顔色の事でか?」
「それもあるが・・・」
「儂ら鬼の成り立ちは知っておろう。儂もお主も、元は人間の死体からできあがったのじゃ。」
「それは知っておる」
「その死体が腐っていく過程で人間の皮膚の色が変色し、赤にも青にも黒にも白にもなるのじゃ。お主が赤・・・儂が黒であるようにのぉ。そこから呪い・怨念・妖力等が取り囲み儂ら鬼が誕生する。しかし、酒羅様は生きた人間からそのまま鬼としての生を獲得されたのじゃよ」
「そんなことが可能なのか?」
芭浪は驚き顔を上げた。
「それが、出来てしまうのが、酒羅様の力であり、千年前からの・・・」
「何の話をしているの?」
やや甲高い声が権左兵平の話を遮り、呪璃という鬼女が会話に割って入ってきた。
「お頭の話よ。人間の女なんか娶らず喰うた方が良いということよ」
芭浪がやや投げやりな口調で答える。
「それは、お前の主観であろう?」
呪璃の後ろから威波羅という鬼が、目を合わさず小声で言った。
「聞こえているぞ、威波羅よ。お父様の肩持ちか?」
芭浪は鼻で笑うように言い放ち、威波羅の反応を伺う。そして、威波羅は何も答えず、目も合わせてこないため芭浪が続けて答える。
「確かに・・・貴様が言えば説得力もある。我ら鬼の趣向など様々でどうでも良くなるのぉ」
「俺の出生など関係ない!」
威波羅は初めて芭浪の方を向き強く言い放った。その場の空気が張り詰める。
「そーよ、そーよ。鬼の数だけ好き嫌いがあるの」
呪璃が空気を読まず、脳天気に言い放つ。
「そうだな、ところで呪璃よ。その威波羅様は今回、何人喰ってたのだ?」
芭浪は子どもをあやす様な口調で呪璃に訪ねた。
「さぁ・・・知らないけど、陰でコソコソ死体喰ってたよ」
その呪璃の返答に、芭浪が嘲る。
「何が、可笑しい?」
威波羅が、強い口調と眼差しで言い放つ。
「こら!お主共、下らぬ言い争いは止さぬか」
権左兵平が間に入る。
「そーよそーよ。喧嘩は良くないよ。芭浪も趣向は様々って言ったじゃない。好き嫌いで言うと私は子どもの・・・特に男の子の肉が好きだもん」
呪璃が場を宥めるように言い放った後、少し口調を変え続けた。
「けど、私も酒羅様が人間の女を娶っているのは反対。だって、妻なら私を娶ってくれても良いのに。酒羅様なら殺されても・喰われても構わないもん」
「ほほ・・・酒羅様のお眼鏡にかないたいならもっと色気を付けることじゃな」
場の空気を和ますように、権左兵平は窘めた。
「あー権爺・・・酷い・・・」
場の空気が、また少し和らぎ、談笑をしながらも鬼達は今宵の晩餐を各々で楽しんでいた。