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未到の懲悪  作者: 弥万記
四章 鬼の日常
28/61

25;謎の解明

 それから八日後、夜行の日となった。鬼達は出発するために城郭に集まりだしてきた。そしていつものように集まった鬼から酒盛りをしたり、小突き合いをしたり、各々自由な振る舞いで酒羅丸の号令を待っていた。そして、一番遅れて酒羅丸がゆっくりと、城郭広場の上座へ登壇して喋りだした。


「貴様ら、やっと夜行の日となった。思えば暫く失敗続きであったからのぉ・・・今回は少し羽目を外すことを許可する」

 その発言を聞いた、鬼達は忽ち興奮状態となり、雄叫びを城郭中に響き渡らせた。その様子を見て酒羅丸も微笑む。


「しかしだ・・・現在、鬼ヶ島の人間共が足らぬと権が嘆いておる・・・最低でも二十五名は連れ帰るからそのつもりでな・・・貴様らもこれ以上、権の皺が増えるのは見たくなかろう?」

 興奮状態が続き好き勝手されても困るので予め釘を刺す酒羅丸であった。そして、最後の冗談めいた発言に鬼達の笑い声が響いた。笑いものにされている権左兵平は目をつむって黙って耐えていたが、最初に人間を捕らえることを言ってくれた事に安堵していた。


「念のためだ、ここから出る時から霊体化して出発するぞ・・・」

 その指示に鬼達は一斉に霊体化する。


「よし!我に続け!」

 酒羅丸の号令と共に、鬼達は一斉に鬼ヶ島から飛び出した。


「お頭、今回は行く村は決めてるので?」

 移動しながらいつもの様に芭浪が声を掛けてきた。


「いや、決めておらぬ。今、見ながら探っておる」

 酒羅丸は高速で移動しているにも関わらず片眼を閉じ、村を選びながら、且つ芭浪の返答をしていた。


「さすが・・・それが良いだろう。賢い奴は今日本当に成功するかまだ疑っている奴もいるのでな」


「その辺は、権にも念を押されたよ」

 芭浪には目を合せず淡々と返答をする酒羅丸であったが、ここで閉じていた目を開き、芭浪を見て続けた。


「しかし、すまなかったな。貴様には威波羅の面倒を任せていたが、まさか野良になるとはのぉ」


「いや、奴には鬼としてそれくらいの方が良いだろう・・・そこは頭も分かっているのでは?」


「・・・そうだな」

 常々、威波羅に対して何か窮地に立たせるような、そんな切っ掛けが欲しいと思っていた双方であったためにその意見は一致した。そんな、世間話をしながら一気に海を抜け、林に差し掛かっていた。その瞬間、芭浪は何か違和感を声にした。


「ん?」


「ん?芭浪よ、どうした?」

 その芭浪の不自然な動作に問いただしながら、その方向を振り返る酒羅丸であった。


「いや、気のせいだ・・・」

 しかし、芭浪は別段気にするほどのことでも無く、夜行を止める程の事でも無いと判断をして、そのまま流すこととした。


「そうか・・・まぁ次、威波羅に会うときがあればどうなっているか楽しみであるな」

 酒羅丸も芭浪の違和感をそのまま流した。そして、威波羅の成長を見込んで、その強くなったであろう姿を想像して嘲笑い続けた。


「・・・それにしても、周りが五月蠅いな・・・」

 辺りを見渡しながら獣達が騒いでいるのを鬱陶しく感じ、愚痴を溢した。しかし、その発言に疑問を呈した。(ん?五月蠅い?)


 酒羅丸は足を一気に止めた。酒羅丸の突然の制止に当然、全鬼も同時に止まり酒羅丸の周囲へ何事かと集まってきた。


「お頭・・・どうしたので?」


「芭浪よ・・・貴様の違和感は間違っておらぬぞ。何故、奴らは騒いでおる?」

 その発言に芭浪は息を止めた。そう、流してはならない忌々しき事であった。林の獣たちが鬼の気配を察知して騒ぎ立てているのだ。気配を完全に絶ち姿も見えないように移動しているにも関わらず・・・


「何故、奴らは我らが見えている!権!」


「い・・・いえ・・・」

 予想外の突然の問いに対し博識である権左兵平も答えを持ち合わせていなかった。そして、酒羅丸が右手で頭を抱え考え込む・・・(考えろ・・・何か違和感は無かったか・・・)


「・・・そう言えば、先程振り向いたとき・・・なにやらでかい猿が居たな・・・」


「お頭も気付いたか?我も確認したが・・・気のせいかもしれんが、我はそいつと目が合ったような気がしたのだ・・・」


「何だと?」


「猿?・・・でかい猿・・・よもや狒々でございますか?」

 大きな猿と聞いて、権左兵平は思い出したかのように発言をした。そして、その特性に対し知る限りの知識を提示した。


「狒々の言い伝えでは・・・奴は、我ら鬼を見破り、狒々の血を飲んだ人間は、我ら鬼を見る事ができる能力を得るとされています・・・」

 狒々とは、老いた猿が妖怪へと変貌したもので、知能も高く、人と会話ができ、人の心を読み取る事ができるのであった。そして、狒々となった際には鬼や魑魅魍魎、全てを見通す眼を授かるのであった。


「それか・・・夜行失敗の原因は!」


「まさか・・・これと、妃姫逃亡作戦は別物・・・?」

 権左兵平は酒羅丸の発言から事の真相に気付く。


「そうだ、何らかの方法でこの周囲の人間達は狒々と結託・・・または討伐し血を得て能力を得たのであろう。しかし、入り口にいる奴と獣の騒ぎ様を見て、恐らく前者!」


「と言うことは、奴が監視役で、獣たちが騒ぐことで人間達に伝達していたと?」

 芭浪が冷静に皆にも分かるように聞き返した。


「そうだ!であるから、あの様な無様な逃げ方であったのだ」


「なるほど・・・」


「前者であるなら、まだ対処はできる!貴様ら!この辺り一体の猿を殺してこい!我は、その狒々とやらを片付けてくる!」

 鬼達は酒羅丸の命令に、一斉に散った。酒羅丸、権左兵平、芭浪のやりとりを聞いて、ただ事では無いと感じたからであろう。誰一人文句を言わず、唯々動物としての猿を殺していった。狒々は特殊な能力はあるが戦闘能力は鬼と比較して雲泥の差であった。そして、動物であるなら尚のこと。疑わしき者は罰せよ・・・関係の無い多くの命が失われた。


 どれだけの、猿が無残に殺されていっただろう・・・鬼からしてみれば、このまま狒々を増やしてしまうことは存続の危機であった。ましてや人間と会話ができ心を読むことができる特性など・・・人間達から重宝されるに違いない。これが広まっては商売あがったりであった。三度の夜行失敗でその重大さは身にしみていた。


 そして、酒羅丸はその狒々の方へ向かっていた。狒々は林入り口の高い木の枝に立っていた。その木の隣で、ほぼ同じ高さの木の枝に酒羅丸も登っていた。


「貴様か・・・近頃夜行の邪魔をしておるのは?」

 酒羅丸は狒々に語りかけ、狒々は振り向いて喋りだした。


「もう、鬼の時代は終わったのだ。これからは人間達の時代・・・我らは人間達につく」

 酒羅丸の問いかけに対しては、狒々は特に返答せず、明らかな敵対宣言を受けるのであった。そして、狒々の低くてゆっくりとした口調が、更に酒羅丸を苛つかせた。


「自分たちの力だけでは存続できない弱卒が・・・」


「であるからこそだ。我らは強くない」


「人間と仲良しである事は何も咎めんよ・・・それこそ、勝手だ。好きにするが良い。しかし・・・我が気にくわんのは、妖としての尊厳を失っている事だ!」


「そんな事を言っているから、鬼の時代は終わったのだ」


「貴様ら!それでも本当に妖か!」

 酒羅丸はその怒号と共に狒々に突進し、その爪で狒々の体を縦六つに切り裂いたのであった。そして、崩れ落ちる狒々の体に問いかけるように話し出した。


「我ら妖は、人間から畏れられる存在でなければならぬのだ。我らは決して相容れないのだ。人間の下につき機嫌を伺っている様では、貴様らも終わりであるよ・・・」


「貴様らは・・・滅びの・・・道を歩んで・・・」

 狒々の最後の一言であった。最後まで言えずそのまま消滅してしまった。


「我らが滅ぶ?そんな事、恐れておっては鬼などしておらぬよ。そうだな、どうせ滅ぶのであれば、人間達を恐怖のどん底に落として滅ぶのも悪くないな」

 暫く、その木の上で頃合いを見ていた酒羅丸であったが、鬼達に集合をかけた。


「これだけ見せしめれば・・・もう我らに刃向かう事はなかろう・・・ふふ・・・ハハハハハ」

 鬼火により林は燃やされ、漂う獣の肉が焼かれる悪臭と、無残な死骸・・・その光景を高々と見下ろしながら、酒羅丸は高笑いをした。そして、今まで感じていた夜行失敗の疑問やその心労・・・それが全て爽快に解消された気分であった。


「これで、また酒羅様は恨みをかってしまったのぉ」


「恨まれてこそと言っておるだろう」


「いつか、猿と雉と犬に襲われても知りませんぞ」

 権左兵平も笑いながら冗談めいて言った。


「フハハハハ・・・それは大歓迎だ!」

 酒羅丸は狒々とのやり取りでかなり苛ついていたが、その林の地獄の様な惨劇をみて更に気分が高揚していたのであった。


「よし・・・皆の者・・・待たせたな・・・楽しい楽しい夜行の始まりだ」

 酒羅丸は不敵な笑みを浮かべ笑った。その顔は、鬼火と月光に照らされ不気味さをより演出した。そして、酒羅丸は方向を変え、本来行こうとしていた村とは全く別方向の村を目指すこととした。暫くして、夜行の一行は人間の村に到着した。そこにはいつもの光景があり、日常がこうも恋しい物だと鬼達は実感した。


「おるわおるわ・・・今から何が起こるか分からず、のうのうと寝ておるわ・・・」

 酒羅丸は引き笑いをしながら、人間達を見下しながら眺めていた。他の鬼達は酒羅丸が早く合図を出さないかと落ち着きが無く、一番良い狩り場を見つけながら村の周りを何度も回っている。そして、日付が変わった瞬間、酒羅丸が一気に飛び出し咆哮をあげる。


「我は、酒羅丸。鬼ヶ島より馳せ参じた次第。今宵の夜行も存分に盛り上がるがよい」

 鬼達は水を得た魚の如く、久方ぶりのこの感触を存分に楽しむかの様に、人間達を襲いだした。そして血の臭いに更なる興奮状態に達していた。家から引きずり出す者、そこから飛び出た者を待ち伏せる者、弄びながら喰らう者、戦闘を楽しむ者、様々であった。人間達の悲鳴・断末魔・血が飛び交う心地よい空間・・・これぞ夜行であった。


 鬼達は勿論、二十五名捕らえよという命令も忘れていなかった。興奮状態にあるが、そこは冷静さがあった。後から権左兵平の執拗な怨言を聞かされるのだけは、耐え難かったのであった。この様な興奮状態でもその理性だけは保てるとは・・・それだけ、権左兵平の陰湿な性格による怨言が、呪いであるほどの効果があるからであろう。


 酒羅丸も一足先に食事を終え、村の中央で屋根の上から、この絶景を見ながら美酒に酔いしれていた。

「絶景であるな・・・」

 物思いに耽るかのように、酒を嗜んでいた。そして、暫くすると食事を終え持て余した鬼達が少しずつ集まってきて酒盛りをしだしていた。そして、捕らえた人間は丁度二十五名。狩りをしながら、今回はほんとに良い仕事ぶりであった。それ程、権左兵平の怨言は聞きたく無かったのだろう・・・


 そして、鬼達は食事を終え、財宝探しや趣向品探し、予備食を捕らえたりと自由行動をしている鬼達も目立ちだした。運の良い人間達は大方、社へ逃げ込んでいるであろう・・・矴と呪璃が各々何やら見つけて落ち着きが無いが、何か良い物を見つけたのだろう。存分に楽しんでいる様子をみて酒羅丸は微笑ましかった。それを見ているだけで酒が進む・・・しかし、短い楽しい夜も終わりを告げようとしていた。


「そろそろ、夜明けだ!鬼ヶ島へ帰還するぞ!」

 酒羅丸の声が響き渡り、鬼ヶ島への帰路についた。隊はいつも通り、酒羅丸らが先陣を切り、後方に若手の鬼達が続いた。いつもと違うのは、最終の陣を威波羅ではなく、苦鳴に任されていたことであった。そして、いつもの如く緊張感が無く喋りながら帰路につくその一行であった。


「皆!聞いて聞いて!」

 その開口第一声はやはり呪璃であった。明らかに気分が高揚している呪璃の言動に周りの鬼達は、ため息をつき相手にしていなかった。しかし、そんな事はお構いなしに呪璃は自分の話を続けた。


「ねぇ、アタシ遂にやったよ!」

 周りの鬼達はそれでも無視を続けた。


「ねぇ聞きたい~?聞きたい~?」

 しかし、それでも纏わり付くように答える呪璃であった。


「はいはい、聞いてあげるわよ!何?」

 呪璃のその言動が鬱陶しく目障りで、早く終わらせたかった苦鳴が、痺れを切らして適当にあしらうように返答をした。


「アタシ子持ち人間捕まえちゃった!」


「なに!」

 その発言に全員が驚いた様子であった。まさか、この様な貴重種を呪璃なんぞに先を越されてしまった事への動揺も隠しきれていなかった。


「はぁ?本当なの?」

 苦鳴も同様に驚いていたが、いつもの冗談かと思い一応確認した。しかし、呪璃はその問いかけに大きく首を縦に振った。そして、苦鳴は項垂れる様な姿勢になりあからさまに残念がった。


「何故、貴様の様な適当な奴がそんな貴重な物を・・・」

 面倒だと口を紡いでいた天下六が思わず、口を開いた。呪璃のような適当で空気が読めず、知性の無い鬼に先を越されるとは・・・その美意識からも許せなかった。


「前、矴が見つけてから・・・私も入念に探したのだが・・・どこに居たのだ?」


「んー、一番南にあった大きな木が目印の家の中に隠れてた」


「え?私も探した場所だぞ・・・」


「苦鳴ちゃん・・・まだまだ探し様が甘かったみたいだな!」

 遂に、呪璃から馬鹿にされるとは思ってもみなかった。


「矴は何見つけたの?なんか、今回もコソコソしてたけど・・・」


「まさか!お前・・・今回も見つけたのか?」

 苦鳴が強い口調で矴に問いただす。


「ふふふ・・・そのまさかだ。貴様ら、驚くなよ。遂に俺の人間の頭蓋収集に決着が付く・・・長年追い求めていた頭蓋が手に入ったのだ!」


「はいはい」


「勝手にやってー」

 今回は、鬼女達から冷たくあしらわれる矴であった。


「・・・」

 何も助言ができない天下六と、言い返せない矴は黙るしか他なかった。そうこうする内に鬼ヶ島へ帰還した。


 今回も一行は岩山の麓までたどり着き解散となった。そして、いつものように酒羅丸は今回捕らえた人間達に目をやった。しかし、今回捕らえた人間達は皆、戦意喪失しており、従順であった為、酒羅丸の悪趣味な示威行為は行われずにいた。


 それに他の鬼達はやや残念がっていたが、それにはお構いなく権左兵平はそのまま集落へ連れて行った。今回は呪璃もそれに同伴しており、それに手を引かれるように苦鳴も一緒に同伴していた。


「ねぇ・・・コレ・・・どうやって人間取り出すの?」


「はぁ?知らないわよ、そんなの」


「矴は・・・もう行っちゃったか・・・んーなら、出てくるまで待っていよう。人間は人間に任せるのが一番だし」

 そう言って、呪璃は妊婦を捕らえられた人間に一任した。


「それ・・・出てきたらアタシに言いなさいよ。言わないと・・・どうなるか分かってるね?」

 最後は、表情無く、淡々とそして冷酷に言いつける呪璃であった。その姿はあまりに不気味で人間は従わざるを得なかった。やはり、どの様な風貌であっても鬼は鬼であるのだ。


 そして、粗方人間達の管理が終わった権左兵平が、酒羅丸の元へ駆け寄り現状を報告した。


「現在、人間達は四十四名。内、五名は妻達。それらは、結界は解かれず出ておりません。また、個別で連れてこられた人間が三名・・・これも、一旦は集落で管理させます。今回は二十八名の収穫です」

 いつもより事細かに詳細説明をしてくる権左兵平であった。それもその筈、前回は自身の結界を破られた上に逃がしてしまっている。人間を管理する立場にある以上、これ程の失態は考えられなかったのだ。その為、いつも以上に入念であった。


「あぁ」


「あぁ・・・じゃござらん!さぁ!」


「ん?」


「ん?じゃござらん!さぁ!行く!さぁ!」

 そんな、権左兵平の面持ちなど関係ないと言わんばかりに、興味を示さず、面倒臭そうにする酒羅丸であった。その尻を叩くように、腕を引っ張りながら、半ば強制的に術で山頂まで移動した。そして、天道の淵の発動を促す権左兵平であった。これは、今すぐ行わねば、怨言を永遠に聞かされる・・・渋々重い腰を上げ、権左兵平の強い視線に見守られる中、天道の淵を発動・・・鬼ヶ島への結界作成と現在の状況を把握した。


「権よ・・・貴様の報告で正しいぞ・・・鬼、二十八、人間四十四だ・・・今回は誰も逃げておらんよ・・・」

 酒羅丸は面倒臭そうにため息をつきながら報告をした。全て、自分の思うがままに事を進めたい性分の酒羅丸は、他人に促されたり指図されたりといったことが許せないのだ。その為、気分は下がる一方であった。


「おぉ!それは安心!今回は、誰も逃がしてなかったですな」

 権左兵平は安心した面持ちであった。前回の失態がそれ程、衝撃であったか・・・完璧主義である故、かなり神経質な所もある。それで性格は陰湿であるからこうなったときの権左兵平には、酒羅丸も黙って従うのが吉であった。しかし、権左兵平にとっても、ここまでの失態は恐らく史上初であっただろう。自分の役目をこなせなかったこと、妃姫にしてやられたことが悔しくて堪らなかったのだろう・・・


「さて、酒羅様・・・女達にも更に強く術をかけておこうかと・・・」


「駄目だ」

 流石にこれは許さなかった。確かに、天道の淵発動は必要不可欠なことで、その権左兵平の気持ちも理解はできていた酒羅丸であった為、促されるままに術を発動したのであった。流石に自身が理解できないことを促されるのは、断固拒否し、下手をすれば死に値する言動でもある。ここは、権左兵平との関係が築き上げていたからこそであっただろう。


「ですな・・・ほほ・・・冗談である」

 そして、権左兵平もそれは理解できており、冗談交じりであった事であると、すんなり引くのであった。


「では、今晩も女達を送りますがよろしいか?」


「そのつもりであったがな・・・貴様のせいで興が逸れたわ。今晩はあの馬鹿共と酒を呑む」


「では、その様に・・・手配致します」

 権左兵平は、酒羅丸の楽しみを奪ってしまった罪悪感で押しつぶされそうにはなったが、これも鬼存続の為と強く自分に念じていた。


 しかし、暫くして権左平兵はその罪悪感から、城郭にその様子を伺いに行ったが、酒羅丸含め若手の鬼達と大層馬鹿騒ぎをしている姿を見たときは、その様な感情を抱いてしまった自分自身がが馬鹿馬鹿しくなっていた。

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