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未到の懲悪  作者: 弥万記
三章 滋岳 妃姫
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19;新たな任務

 その話は陰陽寮に瞬く間に広まった。本来であれば中隊規模で追っていた罪人であったが、たった二人で討ち取った事もあり、その功績も非常に大きかった。私達は一気に陰陽寮に一目置かれる存在となった。


 そして、篤麻呂の研修も約一年が過ぎた。私は既に作戦の立案等も任せられる様になっていた。篤麻呂は作戦を立てるのは苦手・・・とのことであったが、私の先見の明をより磨くために機会を与えて頂いたと思っていた。基本は二人で任務を遂行していくが、大きな任務の際は他の部隊への派遣もあった。そして、その派遣任務で事件は起こったのだ。


 ある日、陰陽頭(おんみょうのかみ)から指令が入ったのであった。「滋岳部隊へ合流し鬼討伐任務にあたれ」という内容であった。そう。父の部隊であった。七年前、父親の任務へ同行はしたが、それはあくまで後方のみの参加であった。(最終的には、私に合わせて任務の調整もされていたが)実質、父の部隊で同じ前線に立ち、両親の仕事場面をこの目で見るのは初めての経験であった。指令書には詳しい詳細も追記されていた。それによると、酒羅丸一派の夜行の情報を得た。そこで酒羅丸一派を一網打尽にするためどうしても人数が必要、とのことであった。集合日時・場所まで詳しく記されており、私は両親の仕事ぶりを間近で見られるとは非常に心が躍っていた。しかし、篤麻呂はため息をつきながら浮かない顔をしていた。


「刀祢様。どうされたのですか?」


「いや、どうにもしておらぬよ・・・」

 篤麻呂はやや言葉を濁したが、ため息をついた後真剣な眼差しとなり続けた。


「妃姫よ、今から陰陽師として世に出るには今、知っておくべきだろう。滋岳様・・・つまり妃姫のお父上は、従七位であり陰陽師の六本の指に入る・・・所謂、陰陽師の頂点でおられる大変素晴らしい御方だ。その滋岳様が統括する特殊部隊は、正に精鋭部隊。鬼殲滅しうる可能性のある、国からも一目置かれる集団である。しかし、その部隊。我々達・・・いや、陰陽寮に所属する全ての者達から何と呼ばれておるか知っておるか?」

 篤麻呂は私が応える前に更に続けた。


「死神が統治する死に逝く部隊・・・任務遂行時の派遣者の致死率四割、鬼の皮を被った正義の集団・・・そう呼ばれているのだ。しかし、勘違いするでないぞ。決して部隊その物が「悪」と言っている訳では無い。常に特級の任務依頼を請け負い、私達、別部隊の危険が極力回避できるよう、自ら危険な任務を請け負ってくれているのだ・・・しかし、任務の危険度が高すぎ、時にその戦法も過激なものとなっておる。私達が押しつけているのもあるのだが・・・それでもあれを目にしたら・・・」


「はい。知っていますよ」

 私はあっさりと笑って応えた。


「え?」

 篤麻呂は虚を突かれた様であった。


「実際の闘いぶりを見たことはありませんが、その様な噂というか異名を聞いています」


「では何故・・・将来はこの部隊を希望しているのだ?」


「妹の・・・沙姫には反対されていますけどね。そんな死に急ぐなって・・・勿論、研修開けたら直ぐに行くわけでは無いです。恐らく一般的には技の全盛は二十五歳~三十五歳・・・それまでにしっかり実力を付けてその年代で入隊したいと思っています。けど・・・私は何となく理解しているのです。自分の力を。決して自慢とかそういうことではありませんが、私の力が全盛となった時、部隊へ入り指揮をとれば、その致死率を三割は減らせると確信しています。それが私の使命で、何より鬼をこの世から殲滅するのは私でないといけないのです」

 篤麻呂はここまで自身の能力を分析し、自分の適切な使い方を熟知している陰陽師にはであったことが無いと言われた。それにこの年で・・・鬼才と呼ばれる訳であった。


「ってこれ、何か父のこと否定している様ですよね」


「そうだな」

 それに対してはお互い笑って答えた。


「そうじゃないんです。けど、何度十年後の私の実力を再現し考察してもこうなって・・・」


「分かっておるよ。では、もう覚悟はできておるな?」


「はい。でなければ陰陽師は目指していません。それに、私は死にませんから」


「ふふ・・・生意気な奴だな」

 お互いの意思を確認しながら、ここで依頼の承諾を決意した。


「酒羅丸討伐は、三日後だ。それまで準備をしておくのだぞ」


「はい」


 そして、三日後。私は篤麻呂と共にその任務地へ集合した。そこには大勢の陰陽師が集結されており唯ならぬ雰囲気を漂わせていた。そう、今から戦争でも引き起こさんばかりの雰囲気であった。私は、この初めての雰囲気に篤麻呂の側から片時も離れようとはしなかった。まるで、迷子にでもなった子どもの様であった。しかし、その緊張も知った顔が目の前を横切り緊張は僅かに緩和した。


「あら!妃姫じゃない。あんたもこの遠征に招集されたの?」

 そう明るく声をかけてくれたのは学生自体、最も仲の良かった同期の川神時世(かわかみときよ)であった。


「はい!なんかこの雰囲気に慣れなくて・・・時世さんが居て良かった!」

 私は、安心しながらそう答えた。


「流石のあんたも緊張するんだね」


「そう・・・ですね。この雰囲気もそうだけど、やっぱり父と一緒に仕事をするのは緊張するかも・・・」


「そりゃそうだ!あんたも人の子だね。ちょっと安心したわ」


「私をなんだと思っていたんですか?」

 そんな話をしながら私達は暫く談笑をしていた。


「あんた・・・なんかまた強くなったんじゃ無い?やっと追いついたと思ったら・・・」


「そうですか?けど、それは時世さんもでしょ。離れていても良い評判を良く耳にするよ」


「またまたぁ」

 時世は満更でも無さそうに照れ笑いをする。


「あんたが強くなれたのは・・・あっ!あの指揮官のお陰ね!」


「はい!刀祢様です」

 篤麻呂は気を利かせてか少し離れた所へ移動してくれていた。そしてその話を耳にしてこちらを向いて笑顔で会釈してくれた。


「いいなぁ・・・めっちゃ男前じゃん・・・私なんか見て・・・あのおっさんよ・・・」


「ハハ・・・」

 私は何と返して良いか分からず苦笑いで返した。


「けど、確かにこの雰囲気はちょっと呑まれそうになるわね。流石の妃姫でもそうなるか・・・私も、あんたの顔をみてホッとしちゃった」


「それは私が一番そう感じてるよ・・・時世さん、ありがとう」


「あんた私より断然強いんだからね。私の代わりにどんどん倒しなさいよ!」


「はい!それは勿論です」

 私は笑って答えた。


「けど!あんたは私が守るから、安心しなさい。あんた、危なっかしいからね」

 時世は私の額を軽く小突きながら笑顔で答えてくれたが、その表情にはやや切なさも感じ取れた。


「時世さん・・・」

 私の気負いや鬼に対する異常なまでの執着、そして死に急ぐかのような生き方。時世は学生の頃から目をかけてくれていた。その優しさに私はつい甘えてしまうのであった。


「さて、二人とも・・・そろそろ部隊長の訓示が始まりますよ」


「はい。お時間頂きありがとうございました・・・またね妃姫」

 時世は丁寧に挨拶をした後、私に手を振って挨拶をしてくれた。


「うん」

 私は、隊に戻る時世を見送った。手を振って挨拶をしたのはいつぶりであっただろうか・・・


「刀祢様。ありがとうございました」


「いや、緊張は取れたようで何よりだ」

 篤麻呂は笑顔で答えてくれた。


「あれ?刀祢様・・・その刀は?」

 今までとは見たことが無い得物を腰にしていたので気になった。


「あぁ・・・これか?今日の相手は鬼だからな・・・これは、鬼殺しの刀だ」


「え?鬼殺し・・・鬼専門の刀ですか?・・・ください!」


「駄目だ!私の宝であるぞ・・・それにお前刀など扱った事が無かろう・・・」

 あっさりと断られた後、ため息を吐きながら答えた。そして暫く談笑した後、父の訓示が始まった。


「この任務は確かに、本来人の命を守ることが優先される我らにとって、非人道的な手段である。しかし、この機を逃せば今後、何百・何千もの人が苦しむ事となる!決して私情は挟まず、今は耐えてくれ!そして私達五名が必ず鬼の頭領酒羅丸を打倒する。それ以外のものは小隊となり陽動となってくれ」


 全員が招集後、父の鼓舞が響き渡る。今回招集されたのは父の部隊二十四名と他十二名。そして特別招集された高名な陰陽師・・・中臣(なかとみ)須賀(すが)家原(いえはら)宮道(みやみち)の四名であった。この四名は、過去に父直属の研修生であり、鬼専門では無いが、各部隊長であり、今や実力は父同等と言われていた。この五名が組むとは、妖怪大戦争でも相手にするのでは無いかと言われるほどの戦力であった。


 今回の作戦は三十五名が五人小隊となり、周囲に待機。鬼達が村を襲った後に、腹を膨らませて油断したところで奇襲をかける戦法であった。陽動が成功し、道が開けたら中央の酒羅丸の元へ父含めた五名の特級戦力が一気に酒羅丸を殲滅するという算段であった。


 確かに、この作戦に異を唱える者も居た。しかし、先程父の鼓舞を聞き、集められた陰陽師をみてそう甘い事も言っていられなかった。誰もが今日ここで確実に鬼が討伐される・・・そう感じる布陣であった。そう、私も鬼殲滅の悲願が果たされると思っていた程であった。そう思えば、皆、犠牲も覚悟の上で目をつむる事ができていたのだ。


 何故、この村に鬼達が出現するかという疑問が浮上したが、以前酒羅丸に遭遇した隊士数名が命と引き換えにこの村へ向かうという事を微かに聞き取れたからだと言うことであった。確かに、情報としては不確かではある事であったが、来るかもしれない・・・それで十分な情報であった。それまでが、正に神出鬼没で出現箇所の目星など立てられない状況であったからだ。


 そして、ついに日付けが変わった。陰陽師達は全員、本当に鬼は訪れるか・・・心配をしながら姿と気配を消して待機している。そして、突如・・・咆哮が鳴り響いた。そう、待ちに待った酒羅丸が出現したのだ。


 村は一斉に襲われ始めた。当然、村人が襲われているにも関わらず待機命令は解かれない。やり場の無い思いに手と唇を震わせながら全員が耐えていた

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