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未到の懲悪  作者: 弥万記
二章 疑惑
15/61

13;勝利の末

「酒羅様!何かこう・・・ムシャクシャします!」

 鬼の一行はその場から再び、村へ戻っていた。その道中、皆言葉を発すること無く、なんとも言えない胸くそ悪さがあった。そんな胸中を呪璃がその空気を読まず大きな声で代弁してくれた。


「貴様も・・・賢くなったなぁ・・・」

 酒羅丸は初めて、呪璃の言葉に共感しその言葉が的を得ていることを実感した。そして、感動の余り思わず心の底から言葉が溢れてしまうほどであった。しかし、その発言のお陰で、重い空気にあった鬼達一行は、やや明るさを取り戻していた。いつも呪璃の一言に頭を悩まされ、明後日の方向から返答が返ってくる彼女の言動であったが、ここにきて初めて役に立ったのだ。空気が読めないのもまた役に立つ物だと酒羅丸は学んだ。


「馬鹿にしてるんすかぁ?もう、帰りにもう一村襲っちゃいましょうよ!」

 しかし、呪璃とてやり場の無い怒りの様な、何をされたかも理解できないまま人間達にしてやられた感は拭えないでいた。そこは全鬼達が同じ意見であり、折角人間界に居るのであればもう一暴れしたかったのだ。


「駄目だ」

 酒羅丸は乗ってくれるかと思いきや、意外な返答に皆は少し驚いた。しかも、酒羅丸の口調は、先程のような砕けた口調では無く、食い気味に強く否定したのであった。その口調では・・これ以上問うことは出来なかった。


「何でですか?」

 しかし、そんな他の鬼達の心配も裏腹に呪璃は問答無用に理由を問うてくる。空気が読めないのもまた便利な物だと皆は再び感心した。


「・・・」

 酒羅丸は面倒臭そうにため息をついて、呪璃を横目で眺めていた。その呪璃の表情を見ると理由を答えてくれないと納得しませんと言わんばかりの膨れ顔をしていた。これは、答えてやらないともっと面倒になりかねない、しかしその説明も面倒だ、と思ってしばらく黙っていた。


「ほほほ・・・貴様ら知らぬのか?夜行には掟があってのぉ・・・当日以外にしてはいけない大きな理由が二つある」

 それを察した権左兵平が気を利かし理由を話してくれた。気が利く側近は大切であるなと噛みしめる酒羅丸であった。それと同時に一行は村の中央までたどり着いていた。


「まず、一つが・・・呪璃よ、儂ら鬼が夜行をしている最中に、他の妖共が同じく夜行をしていたらどうじゃ?」

 呪璃にも理解しやすいように、分かりやすい例えを挙げる権左兵平であった。如何に権左兵平といえど理解できない相手に何度も説明をするのは面倒であった。


「ハァ~そんなん、ブッコロですよ!」

 呪璃がそんな事当たり前と言わんばかりに即答した。


「そうじゃ。他の妖共との兼ね合いもある故、不用意に遭遇してみよ、最悪・・・妖怪大戦争の勃発であるぞ?」

 呪璃含め他の若い鬼達も納得いくような反応を取っていた。権左兵平はこの事を理解していなかったのが、呪璃だけでは無かったと、日頃の鬼共の勉強不足を痛感し肩を落とした。


「特に天狗、玉藻前などは酒羅様に匹敵する力をもっておる。人間達が躍起になってくるのも仕方あるまい」

 絶対の数を誇る人間が、この少数の鬼に躍起になって討伐にかかってくる最大の理由がそれであった。鬼、天狗、玉藻前・・・日本の三大「悪」妖怪として謳われ、恐れられている。鬼を殲滅できたところで、まだまだ倒すべき存在がおり、その為の勢力も分散していた。人間の立場ではやはりこの三大悪から倒さねば、妖怪の勢力を増していくばかりであった。鬼からしてみれば、陰陽師、呪術師、祈祷師が三大「悪」人間と言ったところであった。


「もしや、今回人間共は妖同士で戦わせるつもりであったのでは?」

 仞が横から質問を投げかけた。そう、人間からすれば、妖同士で戦わし消耗をさせた方が、一番効率よく妖怪退治が事を進む方法であった。


「なくはないが、そう上手くいく物でも無かろう」

 しかし、もしその闘いは、人間が仕向けた物と気付かれたら・・・この大妖怪が手を組むような事があるとしたら・・・それは、人間社会の崩壊も危惧される重大な事であった。その為、妖怪同士をむやみに接触させることは避けなければならなかった。


「そして、二つ目が運良く他の妖に遭遇せず夜行に成功したとしよう。しかし、その日は我らの夜行の日では無いのだ。我らの手柄が・・・例えば天狗共の手柄になっていたらどうする?」

「それも、ブッコロですよ!」


「ほほほ・・・理解が早くてよろしい」

 権左兵平はにっこりと笑い呪璃を褒めた。いや、呪璃が一度で理解した事よりも、呪璃が一度で理解できる説明をした自分を褒めてやりたかった。


「権爺の、馬鹿でも分かる説明のお陰ですよ」

 仞が馬鹿にした口調で言うと、周りの鬼達もそれに大きく頷いた。


「馬鹿とは何よ!」


「ほら、貴様ら頷いておったが、後ろの若い者達も知ったかをしておったぞ」

 このやりとりで完全に重苦しい雰囲気は脱していた。これには酒羅丸含め、権左兵平も呪璃には感謝しかなかったが、天然であった為、権左兵平は言葉にはしなかった。


「じゃあどうやって帰るの?」

 そう、来た道を帰ることができなければどの様にして帰るのか疑問であった。


「酒羅様の空間転移で一鬼ずつ帰還するぞよ。もう術を展開されておるぞ。ほれ、皆の者ここに飛び込まんか」

 酒羅丸は呪璃と権左兵平のやりとりの間に詠唱を唱え、空間転移の術を発動していた。地面には黒く鬼が一鬼程通れる穴が渦を巻くように空いていた。薄気味悪く普通の感覚であれば飛び込むなど考えられなかったが、そこは鬼達であった。普通の感覚を持ち合わせていなかったため疑うこと無く次々と飛び込んでいった。


「あーそう言えば・・・威波羅居ないよ?」

 それが呪璃の順番となり、飛び込もうとした瞬間にまた大声で喋りだした。


(こやつ・・・今頃気付いたのか・・・)

 酒羅丸は、呆れて声が出なかった。


「だって、あいつ・・・いつも夜行でどこか行ってコソコソ喰ってるからさぁ」

 呪璃が気付かなかったのも無理は無い。確かに呪璃の言うとおり威波羅が狩りをしているところを誰も見たことが無かったからだ。夜行ではどの鬼も単独行動であるが、威波羅に至っては襲う村に一歩も入らない事もある程であった。


「ここに入ってみれば全てが分かる、早く入れ」

 酒羅丸に促されるまま呪璃が転移の穴に入った。しばらくして、全員が転送されたのを権左兵平が確認して移動し、最後に酒羅丸は自身を転送して帰島した。

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