僕のお父さん。
近々、霊媒師が来る。
それが果たして俺達を祓う目的で来るのかは定かではないが、親友はどういう訳かやる気満々だった。
「ほんとに大丈夫なのかい? しんご君……。」
「ヤマちゃん、お前も例の胡散くせぇ霊媒師の話聞いたのか。」
「う…うん……。」
日の出とともに眠くなった親友と別れ、ひとり昼ふかしをしていた頃、ふわふわと近づいてきた小太りな幽霊友達が心配そうに話しかけてきた。
彼は生前、俺達の罠に嵌って運悪く死んでしまった走り屋の霊だ。
他にもそういうヤツは何人もいるのだが、死んだあともそれを恨んでいるヤツは一人もいなかった。
その為彼らともすぐに仲良くなり、中には面白がって俺達と一緒に共謀するヤツまで現れた。
ちなみに、このヤマちゃんは所謂オタクで、生前は黄色い二型のスイフトに乗っていた。
「ねぇ…しんご君…もうやめようよ……。
きっとあの霊媒師の人、強いよ……。」
この狼狽えた様子、既に俺達より多くの情報を持っているとみて間違いないだろう。
「何か知ってるのか?
その霊媒師のこと。」
「え…うん、実はその霊媒師、僕の、お父さんなんだ。」
は?
「え? ヤマちゃんのお父さん…霊媒師なの?」
「う…うん……。」
胡散くせぇとか言っちゃったよ……。
ごめん、ヤマちゃん……。
「お父さん、僕が亡くなったのが幽霊の仕業だって知って、きっと凄い怒ってる。」
やべぇ、それは間違いなく俺たちのせいだ。
「それに、実はもう何度かこの山に来てるんだ。」
「え!? そ…そうなの??」
「うん……。
しんご君はこの辺りにいることが多いから気づかなかったと思うけど、ケーブルカーの山頂駅の幽霊が既に何人も祓われてるんだ。」
そうだったのか……。
ケーブルカーの山頂駅には何人か俺の友達も住んでる。
そういえば…最近タロちゃんやキーちゃんの顔を見てない気がするが、まさか……。
「なぁ、タロちゃんとかキーちゃんって……。
それにアツシやリンダも……。」
ヤマちゃんは不安げな表情のまま目を逸らしてコクっと頷いた。
「クッッッソォォオオオオオオオオオオオッッ!!!」
俺の腹の底から爆発した怒りは山の麓のバス停まで響き渡った。