第8話 ひまわりと防犯カメラ
おはようございます。
こんにちは。こんばんは。
こちら、カクヨムにて投稿しております。
話はあちらの方が先です。
21/12月11日
23/7/12さらに改稿。よろしくお願いします。
これは、翔にどう両親の話しを打ち明けるか悩んでいる数分前の優希の両親。初恵と陽介のちょっとした出来事……。
家にたどり着いた夫婦は互いで「ただいま」を交わした。
玄関の扉を開け靴を脱ぐ。置いてある履物を注視し、子ども達の不在を確認していた。いつもの所に翔の靴は並んでいるが、優希の夏用サンダルがない。
顔首揃え、そうして二人はリビングへと足を向けた。
優希の父にして家主の陽介はソファに腰掛け、寛ぐ姿勢で膝上にノートパソコンを置いた。家の下階に取り付けてある防犯カメラ。それらを自身が持つノーパソで確認している。その横に座る妻の初恵も同じように、画面を目で追った。
「優希は外に出かけたのかしら」
「だね。翔は部屋かな?」
会話をしつつ、家内の防犯映像を確認していた陽介がふと吹き出した。視線を外し、余所見していた初恵は不思議に思う。画面を横から覗くと苦笑いしていた。
「あら、仕様のない二人」
「アイタタ、とんでも映像ですねぇ。困った」
何故防犯カメラがこの家にあるのか。それは二人が就いている仕事に関係している。
大学で史学の専攻教授をしている陽介。古代遺跡、郷土史の研究者として大学で働く初恵。二人は趣味も、勉学も、共有する仲良い夫婦。
そんな二人は、互いの大学の資料などを家に持ち寄り書斎部屋で保管していた。中には高価な調度品もあることから何度も空き巣に入られ盗られそうに。防犯カメラは当たり前のように付けられた。
侵入者を捕らえるためのカメラには思いもよらぬ……、優希と翔が相愛を確しかめ合う密事を捕獲していた。
「あぁ翔くん。いつもならカメラの電源切るのに……」
「困りました……。折檻ものでしょうがこほほんぅでもね?」
陽介は口ごもらせ、気まずそうにするもある部分を指差した。
「良い発見もありますよ。ほら、ここ」
その部分とは、翔の腕肌の一部だった。皮膚には鱗めいた銀色の何かが反射している。
陽介が指置く一角に、食いつく初恵がいた。
「翔くんの腕、何が光ってこれは皮膚? 鱗……うん、単なるサメ肌にしてはおかしいわやはり鱗ね」
「うーん、鱗かなぁ。どうだろう、直で見ないと何が映っているのかはっきりしないけど収穫ありかな? 翔に問いただす必要有りだね」
真剣な眼差しの二人だったが思わず、陽介が零した次の台詞に初恵は白ける。
「いやぁ翔くん、良い体してるなぁ。それに自分の子どもなのに視て火照るのは僕が男だからかな? 初恵さん」
「もう冷静にしてくださいこのドスケベさん。仮にも私たちの子どもですよ」
「だってこれ、一種のアダルテぃい痛ぁ!」
陽介は言い掛けてる途中で初恵に、頬を強くビンタされた。
「この人は何言ってるのかしら」
幸運にも優希の裸体は翔の影に隠れ、陽介に晒されることはなかったが初恵は即座にキーボードのdeleteを押した。
二人の情事を記録から消し去るとひと仕事やり終えたかのように、ソファの背にもたれた。
「でも良い子に大きく育ったわね翔くん。亡くなった瞳海沙が喜ぶわ」
背伸びし、楽しげに声を弾ます初恵は心底翔の成長を喜んだ。
初恵の口から出て来た瞳海沙とは翔の母親であり、初恵の親友でもあった。
「もう少しすると瞳海沙の命日ね」
「そうだね。その後すぐ父、湊さんも他界したからなぁ。よくグレずにいい子に育ったよ翔は」
(本当に。本来なら一度に拠り所を亡くしているんだ。愚れていてもおかしくはない)
陽介は翔との暮らしを思い起こした。陽介と初恵の思いは同じであり、深刻に考える二人がいる。
「もう三年ね」
「ああ、早いな」
三年前の七月、初恵たちは瞳海沙の訃報をこの家で知る。
初恵たちの庭では、豪快に咲く黄色い笑顔を誇らす向日葵があった。優希は翔に自分が植えた花を自慢する為に家に招き、軒先の縁側に坐らせる。陽介もそこで胡坐かき、スイカを食していた。
勿論、翔も一緒に夏の旬を味わい、寛いでいた。
そんな矢先に、事件は起きる。
陽介は今もはっきりと──。
(あの時の翔の顔は忘れられない)
翔が中学二年生の時の出来事。母の死の知らせに身体を竦め、食べていた赤々しいそれはぐぢゃりと音を立て地面に落ちた。まるで瞳海沙の事故死を具現化しているかのように。
落ち込む翔に追い打ちをかけられる。今度は父も……。
しかし翔は心を閉ざさず明るく健やかに、好い少年へと成長した。
陽介にはそれが嬉しかった。
母親の死に目にも遺体にも会えなかった翔は、同様に父親の死に目にも会えていない。そしてその死が、翔に巣食う『住人』が関係して亡くなっている。
……翔はその事実を、知らない。
初恵は天井を見て考える。
「翔くんにそろそろ告げるべきかしら。母のこと、父のこと、『住人』が関連して亡くなっている、ことを」
キーボードとカーソルに手を添えたまま、陽介は応える。
「そうだね。特に瞳海沙さんについては大いに関係しているしほら、【人格】のこともあるから話したほうがいい。君から話すかい? 君は……ある意味、当事者だからね」
「そうね、私と瞳海沙が作った翔くんを助けるための人格……」
二人が話す【人格】とは、翔がトイレで見た鏡に映り込んだ、【睨む】自分のことである。鱗が出たということは同時に【人格】も現れる。そうなるよう初恵が翔の【意識】にすり込んで於いたのだ。
鱗肌の発現は翔の異変を意味し『住人』も関係している。伝えるにあたってどう話を切り出すか、悩む二人がいた。
「そうだね難しいな。頭の中の『住人』は翔がまだ小さい。翔が産まれる前に瞳海沙さんが胎児《翔》に封じた『龍神』ということだが」
「そう、瞳海沙の家は格式高い神社で瞳海沙は巫女だったから」
初恵は翔の母、瞳海沙について頭の中で振り返る。
「まぁ、何にしても話さないと駄目よね」
「そうだね出来るかい? 僕は片付けてから翔の部屋に行くよ」
「話せれば良いけど。ふむ」
ソファーの上で初恵は深呼吸とともに腕を伸ばし、背伸びをする。
「ん~~~~~~」
(って。私でさえ理解してるか難しくなってきたわ。でも話さなくてはいけない)
二人の視線は二階の部屋にいる翔に向けられる。思わず初恵は歎声をもらすと起ち上がり、腰に手を当てまた背筋を伸ばした。
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