第5話 壊れた水道管
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21.12/10
まぶしい日差しが照りつける。
本来なら、水の中で騒いでいるはずの翔と哲弥はトイレにいた。
「ごめん、先に戻ってよ。落ち着いたら俺も戻るからさ、わざわざ待たなくても」
トイレの洗面台で、左腕を洗う翔をただ黙って眺め待つ哲弥が腕のことを訊ね始めた。
「その腕、今にってことではない雰囲気だけど。優希やおばさん達は知ってるのか」
「いや、知らない。コレは見せられない。訳あり過ぎて……。優希には見られたがこんなではなかったし、まさかまた出てくるとは思わなくて。その、あれれ、話しの要点がまとまらない」
翔は蛇口を目いっぱいひねり、水を腕に流し当てた。
水の流れを見つめる翔は、異変に襲われる。眼前の蛇口が壊れ、水が噴き出すと奥の洗面台も一つ一つと順に激しく、破裂していった。
「テツ、危ない!」
翔は哲弥を床に押し倒し、激しく噴く水から身を守るため身体を重ねた。
瞳を揺るがし、勢い溢れ出る水に驚いている哲弥が次に目撃したのは……。水から守るように二人を包む、薄い皮膜壁だった。
「ごめん、大丈夫? 前と同じだがここまで大きくなかったのに」
まるで自分の仕業だと知らせる翔を哲弥は見ているのだが、それを拭いさるかのようにまったく関係ない言葉が口からついて出る。
「色男に床に押し倒されているのに場所も場所さながら色気も何もないとはコレいかに?」
「……焦るかと思ったらテツ、余裕だな。助かるよ」
(いや、おれ焦っているけど?)
哲弥はそれなりに焦ってはいるのだが、逆に見えた翔は心の中で笑っている。床に寝転がる哲弥の上に股がる翔の表情は心持ち晴れやかだった。
「左腕から血が流れると、なぜか水が過剰に反応するんだ」
(まさか、こんなところを見られ、さらにこのようなことに巻き込むとは。俺に何が起きている?)
破裂している水道管を見て落ち込むものの、翔の表情は哲弥のお陰で暗くなることはなく困るだけだった。
困り顔の翔を見ている哲弥はまだ起き上がらず翔を眺め、シチュエーションのせいか跨がる翔を見て顔を赤らめる。
哲弥は、自分の胸が高揚しているのを感じていた。
(うっ、落ち着け。たぶん状況も状況だろうし驚きもあっての高鳴りだ。そうだ、吊り橋効果ってやつだ落ち着け)
哲弥は何かを言い聞かすように、胸の上に跨がる翔を見やった。
「あっごめん。苦しいよねこの体勢。起こすよ」
左腕の手を差し伸べ、哲弥を起こす翔は右手で髪をかきあげ困った顔をしている。しかし哲弥にはなぜか色っぽく見え、ドキドキが止まらない。
水も滴る──なんとやら。
もしここがトイレではなく一般公衆の面前、もしくは彼らの通う学校であったならよからぬことを連想さす女子達に黄色い声が上げられているだろう。
破裂した水道管から溢れていた水は、落ち着きつつあった。
「おいっ、男のおれがおまえにドキドキしていると言ったらキモイ?」
「えっと──、とりあえずはお礼かな? ありがとう」
にこやかにほほ笑む翔になぜかときめく哲弥の恥ずかしさは止まらず、葵の常日頃の文言が頭をかすめていることに気づく。
(おお、これか。葵が言っていることは。さすがにお礼の言葉なんて普通は出て来ないわ。子どもの頃から一緒にいて今さら気付くとは視点の違いか。う─ん、葵もだけど女子はすげぇな)
おかしなことに感心する哲弥がいた。
「テツ? 痛いとことかあるか?」
「いや、ない。大丈夫だ翔は」
「俺は大丈夫だけど……」
ぼやいた翔は天井を見上げた。訝しがる哲弥は呆け顔の者に訊ねた。
「これは超能力? そう言いきってもいいのか」
目の前の事象をどう捉えていいか分からない哲弥は自分で解釈し、眼前にいる能力者に訊ねた。
「ごめん、俺にも分からない。だけどこの似た状況は以前にも覚えがある」
(ああ、そうだ。以前も左腕がこのようになり……その時は、公園だった。側の噴水が異常に高く湧き上がって終わったから……水の故障かと思ったんだ。あと一つは家の風呂。その時もおかしかったが軽いモノだったし)
左腕を擦り、優希が心配してくれた様子を思い出し、笑む翔は嬉しそうだったが鏡が捉えた姿は逆に怒り顔の翔を捉えた。
鏡の姿を瞳に映した翔は青ざめた。
「チッ」
鏡に映る翔は、舌打ちをすると明らかに自分を睨み凄んでいる。
鏡に映る自分の姿を、哲弥に確認させようとするも気づくどころか見てもいないことに翔はなぜか胸を撫でおろした。
(今の姿は、本当に俺か? もし舌打ちする自分がいたとするとああも怖い姿なのか)
普段、見ることも考えたこともない姿に打ちのめされた翔の心は沈んだ。だがそんな余裕を与えない事象が起きる。
静まっていた水道管の水が息を吹き返し、二人に襲いかかった。
しかも荒れ狂う水の形は先ほどのように噴き上がる感じではなく龍を模し、大顎を開け二人を狙い走ってきた。
「チイイィッ」
翔は両腕を頭の前で壁に見立て構え、空気の被膜壁を創り上げた。ここぞと言わんばかりに荒れ狂う龍は翔に襲かかる。
龍を象った水に押され、踏ん張る翔の後ろには哲弥が。
しかし哲弥は、その背中に守られていることに気づき、彼を支えた。
「ありがとうテツ。そのままでいてくれると嬉しい」
翔は腕を前に伸ばし、水の龍頭を押しのけ合気でやるような感覚で手を広げた。模された形の顎を捕み持ち去なす。「──ッセイッ」と掛け声とともに捻り上げた水の張りぼては床にバッシャンと大きく、叩き落とされた。その大量の水は飛沫を上げさらに轟音を引き連れ、翔に襲いかかった。
翔は水の被膜壁を眼前に張り、身を守った。
……ポチャン、ポタタと天井の壁や周りの壁に大量の水が垂れ落ち、周囲は静けさを取り戻す。
翔は長く息を吐き、ゆっくりと深く息を吸いこむ。
「ふぅうう、すぅううう……」
身体を落ち着かす為に流動の構えを取り、胸を張り姿勢を正した。
(何故水が。しかも龍の形はどういうことなの?)
伸ばしていた腕を息を吐きながら戻し、真っすぐな体勢はだらりと力抜けた。
リラックスする翔がいる。
後ろで背を押す哲弥は翔を覗く。背中が強張っていた翔の柔らかさに哲弥は気付くと脇腹をむにゅと握った。
翔はこそばゆくなり、身体をくねらす。
「アハハ。くすぐったいよ」
「ねぇ翔? おれ達さプールに入らずトイレで水遊びしてるけど……いいのか?」
「いや─! ダメだよ。ごめん」
起きたことにも驚く二人だが、肝心なことを思い出し慌てる二人がいる。
先ほど起きたことはなかったことには出来ないがそれよりも、プールで遊んでいないことに衝撃を受けた二人。
その場で佇み、青ざめた。
天井からはまだ水が滴り、脇では破裂した水道管から水がぶぴゅ──と噴き、ガシガシに割れた洗面台。
二人の視野を暗く落とす光景はまだ続く。ひび割れ、突き刺されば如何にも危ない鏡に穴が大きく開いた壁の黒色。
室内の異様な雰囲気が二人を気まずい空気へ、導いた。
翔達の平身低頭する心と、遊びたい向上心が鬩ぎ合う。
崩壊されたトイレで考え込む二人が人の気配に気付き、飛び出したのは言うまでもないことだがそんな二人は秘密を共有したことに楽しそうであった。
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