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龍に喰われる前に喰ってやる  作者: 珀武真由
第一章 夏休み
21/64

第20話 煙草のにおいと甘焦げるにおい 弍 

おはようございます。

こちら後追い更新にも拘わらずお付き合いありがとうございます。嬉しいです!

ではお付き合いください。


23/7/29日改稿


  

 片手にはフライ返し、服の上にエプロンを纏う優希が翔の目の前にいた。


 服装は──、覚えがある。レイヤード風ニットの半袖パーカーにジーンズ。昨日、翔が家を出る優希を見送った時と同じ服装である。


「ヘッ?」


 ある考えが脳裏に過ったが、驚きの方が上回っていたのだろう。翔の声が裏返っていた。

 優希は翔の不安なんて知らないのか、笑っている。


「楽しそう、フフ」

「ゆ、うき」


 翔は優希の顔を見て安堵すると同時に、怒りと腑甲斐なさに陥った。


「なぜ、ここに」

「ん……心配したんだよ」

「優……」


 翔はヤミを見たあと確認するようにまた優希を見て、固まる。

 ヤミはといえば、翔に向かって言い切った。


「なっ! おまえの女だろ? アレ」

「……ああ」


 翔は顔を下に向けヤミから視線を逸らし、呟くように返事をした。優希からも目を逸らす翔を、ヤミは不思議そうに観察する。

 翔の内情を納得するやニヤついたものの、笑いを引っ込めて抑えてやった。

 優希は翔の様子に戸惑い、声をゆっくりこぼす。


「翔、私を見てくれないの?」

「……」


「優さま」

「優ちゃま」


 巫女が沈黙する二人を心配そうに見ながら、優希に声を掛けていた。

 沈黙にヤミが堪えれず起き上がり歩き始めた途端、その足を翔が掴んだ。その所為でヤミは盛大に転んだ。


「ブッ」


 ヤミは翔を睨みバツが悪そうに髪を掻き、しゃがみこんだ。

 その姿に笑う優希。気まずい空気はヤミのおかげで一転するや、穏やかな雰囲気と化す。ヤミと優希が笑い合う。

 二人を静かに傍観していた翔は突如、声を荒げた。


「焦げ甘い──、パンケーキ!」


 翔は焦げる匂いをいち早く、捉えていたのである。


「あっ、忘れてた!」


 優希が下のキッチンへと急いで向かう。ヤミは優希の慌ただしい様子を見送ると翔の頭を、優しく撫でた。


「翔、喧嘩した訳でもなかろう?」

「……」

「悪いのは翔を攫った俺ダ」

「だけど……」


(優希。なぜ付いて来た)


 脳裏に過った考えを反芻する。ヤミに、なぜ連れて来たか叱責しようとしたが、自分が招いた失態に寄る結果だ。

 翔は口をつぐむが、ヤミにはすべてを見透かされていた。


「約束を破ったのか或いは、心配させたことの方がつらいんだな? ったく」

「─!!」


 ヤミはふぅと重く息を吐くと、翔の横に座った。


「どうした? 謝ればいいだろう。俺も悪かったと詫びる。優ちゃんはきっと……」

「うん。心配してくれただろうね」

「そうだゾ」


 翔は、深く深く呼吸をした。ヤミの優しさに触れ、翔はもちろん感謝をしているが、それ以上にある不安が頭を過る。


(この人優しいが、これが徒になることも……)


 呼吸で気持ちの高ぶりを整えた後、ヤミを凝視し口を開いた。


「何だ?」

「ヤミさんは人格の言う通り、ほんとにアホウだな」

「おまえなぁ」


 項垂(うなだ)れるヤミを見て、翔は笑った。ヤミは頭を掻き、翔に訊ねた。


「人格とはどこまで統合を」

「ほんの? 少し」

「そうか意識はしてるんだな」

「うん」

「……飯にするか」

「……優希に持って来させてよ」

「優ちゃんを責めるな。怒ってやるな」

「……」

「何だ」


 なぜか急に目が据わる翔がいる。

 空気がピリッとなると蛟竜(みずち)が現れ、ヤミを威嚇した。

 この蛟竜はヤミが翔を攻撃する際に出した物である。今やすっかり翔に懐いており、飼い犬に手を噛まれた気分だとヤミは思った。


「おいッ! ソレ返せよ」

「俺のだ! まだ出せる癖にけちらないでよ一匹ぐらい。いいだろう」

「お、欲しいのか」

「うん。気に入った」


 腕に巻きつく蛟竜を見て、おもちゃを与えられた子どものように微笑む翔がいる。


「参った。おひい様に似た笑み、表情をされるとイヤとは言えない」

「……ヤミに話したいこと、聞きたいことがたくさんある」

「ああ、俺もある」


 ヤミは翔の腕を軽く握り取り、そして皮膚の鱗を眺めた。


「立派な龍だ」

「そうなのか」

「ああ、他の龍遣いが喰いたがる訳ダ」

「喰う?」

「龍はある時期が来ると友喰うんだ」

「友、喰い」

「翔、おまえは明らかに狙われている」

「……俺の中の銀が──、でしょう」

「いや。おまえダ」


 翔は不可解な表情を浮かべて、ヤミを見入った。ヤミは溜め息してから翔に問い掛ける。


「……二発目の雷。覚えているか?」 

「え? いや、知らない」

「だろうな。だが俺は見知ってる。薄々予想はつく」

「それって……」

「あくまでダ。詳細が分かれば伝える」

「……」


(友喰い。共喰い? ……カマキリかよ、なんだよそれ……)


 翔は聞き慣れないおぞましい単語に躊躇しつつも、胸から這い上がってくる悪寒に嘔吐(えず)きそうになった。ヤミは、暗く陰を落とす翔の不安に気付くと、話を切り換えた。


「まあ、詳しい話しは今度。飯にしよう」

「ご飯は優希と二人きりで食べたい。ダメ?」


 翔は間髪入れずヤミに頼み、目線を下に配り瞳を伏せた。「ハァ」ヤミは呟き、まぁいいだろうと二階で食すことを許した。


「優ちゃんと仲直りするならナ」

「え?」

「言っておくがエッチしたければ鍵締めろ!」

「えっ、いいの?」

「布団もクリーニング! 喜べ防音だ」

「整いすぎ」

「俺ん()なんでな」


 ヤミは翔にニカッと笑うと手を振り、ドアを開けたまま下へと降りて行った。開け放たれた部屋に階段の音が鳴り響く。

 翔はその音を訊き、目頭を抑えた。


(相談する相手が出来るとは思わなかった)


 溜め息をついて、床の上に寝転び直す。見上げた天井は塗り直されたばかりなんだろうか。

 その白さは翔の不安を白く塗り替えていく。


(心配してるよなぁ。おじさん、おばさん)


 陽介や初恵以外に相談相手が増え、翔は安堵した。しかし、押し寄せた安心感を否定するみたいに頭の奥がチリッと痛む。

 単なる頭痛かと、深く考えないでいた翔だったが歯痒い痛みの原因。それは翔の愉悦に気が付き、そのことに喜んでいない『住人』の懊悩(おうのう)だった。







お疲れさまです!

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カクヨムでもお待ちしてます。

ありがとうございます。


カクヨムだいぶん先行してます。もしよろしければ、お願いします。

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