第16話 鈴の音が鳴り響く
おはようございます。
今日はというかここ最近、忙しいんだよね。
でも頑張りますよ。
お付き合いよろしくお願いします。
23/7/14日改稿です。
よろしくお願いします。
暗闇は静かに翔とヤミを飲みこむ。気つけば夕闇が濃く、辺りがどんより沈んでいた。
ダンデライオンが艶やかな黄色を浮かせて揺れていたが、二人により踏みつけられる。
翔に顔を捕まれ踏ん張るヤミと、それを持ち上げようとする翔。
手から逃れようと藻掻くヤミだったが翔の指爪は伸び、徐々に顔の皮膚にめり込んでいく。やがてヤミはそのまま身体を持ち上げられ、足の爪先が浮いた。
持ち上げたヤミを、冷ややかな面構えで翔は笑う。
先程とは、あからさまな雰囲気違う翔がいた。
「翔くんにさ。無駄な入れ知恵止めて貰えますぅ。ヤミくん」
「ガッハッ、お前」
ヤミは翔の指の隙間から外を覗く。そして落ち着きある声で語りかけた。
「銀龍か。そんな簡単に交代できるのか?」
「翔くんが今不安定なんですよ。ふん、私のことも知っており尚且つ「おひい」のこともとなりますと……」
「ガアッ、離せ! 銀龍」
「血族縁者ですか?」
翔と入れ代わった『住人』がヤミを詰める。ヤミが蹴りを繰り出す中、翔の爪はヤミにめり込み血が垂れ落ちていった。
ヤミの紅い花が翔の顔に散る。
翔は微動だにしないどころか顔に付いたヤミの温く、紅い花弁を舌で舐め取りご満悦な顔を見せびらかした。
「さっきの翔……は可わ、いかっ、たぞ」
「ソレはどうもです」
翔の手を掴み、ヤミが抵抗する。
「こぉの、馬鹿ち、から」
「ふむ。そんなこと言われましても、ふふふ」
「……」
「翔クンは自分で自分のことを知る必要があるのです。ですから入れ知恵しないでください」
「何をする気だ?」
「いただきます。あなたの内なる龍を」
翔は唇を卑しく舐め、嘲笑う。艶めかしい顔つきでヤミを睨んでいる彼は、翔ではなく『住人』だ。
ヤミの前に『住人』がいる。
住人は口を開き、ヤミの内に潜む龍を喰らおうと……。
すると、『住人』とヤミの間にポテポテと駆け寄る二人がいた。おかっぱの日本人形のような小さい二人。愛くるしい瞳を輝かせ、ピタッと地面に手を翳し住人を見るとしっかりと呪言を落とす。
「遠ツ神。急々如律」
「何?」
驚く住人の足元には、小さな巫女二人が呪言を唱え終えた。
二人は叫ぶ。
「零」
咄嗟に、術返しする住人《翔》がいる。
「零」
翔の足元と地面に手を置く巫女の間に、二重の結界が出来上がった。不完全な結界を目に焼き付ける巫女達は声を、上擦らせた。
「あわあわ。そんな」
「どうしよ。どうしよ」
巫女達は戸惑い、瞳を滲ませた。一人は泣き、もう一人は住人《翔》を睨みつけている。睨みつけた巫女は住人と瞳が合うと威圧感で怯え、顔を強張らせて唇を震わせた。
そんな二人に『住人』は微笑みをひとつ。
「ふぅ、う゛えっ」一人は声を上ずらせ、もう一人は再度キッと睨むが翔と瞳が合うとやはり怯えた。
「そうですね、結界は必要です」
住人《翔》は足を軽く二回踏みならし、「零」と唱えた。
すると、平地の四隅に光の柱が浮かび上がっていく。四角形の空間を煌々と照らし出し、結界の壁ができあがった。
「ふふふ、代わりに張って上げました。君達も後で能力を吸って上げましょう。君達は愛らしいので眠り姫のようにソフトにして上げますよ」
「ひいぃぃいいい」
「やだやだやだ」
怯える二人は「雷」と唱えた。フラッシュを焚いたような眩い閃光が住人の足元を捉える。幼い巫女の非力な抵抗であった。
ヤミをも一捻りさせる住人に対して小さな稲光を打つけてもダメージはなく、住人はかったるい表情をして片足を軽く振るだけであった。
「ふうん。私に喧嘩を売るのですか」
住人は巫女達を冷ややかに瞰下し、辺りを見直す。
「良いでしょう。ですが、まずヤミくんを先ィぃギぃッごふっ」
と、言葉の最中に鮮血を吹いた。
住人は口を触り、手についた生温い物をその目で確認する。
『住人』が驚いていると住人《翔》の意思とは別に口が開く。
巫女達が不思議そうに翔を眺めると言葉を、呪言を放つ『翔』がいた。
「遠忌懾伏」
リィィンと鈴の音が一つ響いた。
同時に巫女達の着物の袖が光る。巫女の袖の中には、丸く可愛い鈴が入っていた。
二人は袖から光る鈴を出し見遣る。
「これは鈴の御ちから」
「うん。誰が鳴らしたの?」
二人は翔を見上げた。すると目が合う。滲んでいる二人の瞳には、優しく微笑む翔が映った。
「翔さま」
「翔ちゃま」
「鈴を、借り、自……中の自分を……呼ん─、だ」
ゲホッ、ボタタ──。翔は大量の血を吐いていた。手の力が緩み、ヤミを手放す。翔は息を絶え絶えに、刀で身体を支えた。
ヤミの額から吹いていた血垂れは止まる。傷が少しずつ塞ぎ始めていた。傷が治りかけているヤミは、浮かない顔をした。
「翔、お前……」
隣では刀を支えにしゃがみ苦しむ翔がおり、手を差し伸べるヤミだったがその手は雷で払われた。
「ッ痛──翔」
「触れるな。ヤミ、逃……げろ離……ろ」
見上げた翔は苦痛で顔を歪ませた。
「ヤミさま」
「ちゃま」
二人の巫女は怯えるも、無我夢中でヤミにしがみついた。先ほどの態度と打って変わり、巫女を抱きとめ慰めるヤミがいた。
「翔ちゃまの意識が」
「翔さまが」
「大丈夫。恐くない。怖くない」
(ああそうだ。まだガキだョ。まだ。こいつらを含め目の前にいるあれもまたただのガキだ! 自分の。俺の使命を忘れるな)
ヤミは泣き始める巫女を撫で、二人の瞳から零れ落ちる涙を拭うと頷いた。
「おまえら、分かっているナ」
「はい。これですね」
鈴を握ると一つ音を立て、笑う巫女達がいる。
「ああ、配置に着け。神鎮めだ」
ヤミの命令に従いトテトテと小走りに散る二人がいる。
翔を前にヤミは煙草に火を灯し、考えに耽る。長い煙を吐き、再び視線を翔へと遣った。
(……美人には弱いンだよ。俺)
煙太の火を足で消し終え、何かのタイミングをヤミは計っている。
(仕返してやる銀龍。助けに成るか解らんが翔、待ってイろ)
翔を俯瞰し、ヤミはその場から足を動かし自分で決めた持ち場へと進む。
翔のために。ヤミはいつの間にか翔を気に入っていた。
屈む翔はヤミの動きにピクリと、反応したが……。
眉間に皺を深く寄せ葛藤する翔。
自分の内なる対話に身を沈め、翔本体の意識はトンと暗闇に落ちて行く。ヤミはそんな翔に気付かない。
「何故に!?」
怒りを言葉に乗せ、叫ぶ翔を中心に孤を描く風が一瞬散った。
怒りに叫ぶ『住人』の耳に、声が届く。
凛とした声が──。
翔の中のもう一つの人格『停止装置』だ。
(それ以上の狼藉赦さぬ。言ったよな! 俺は停止装置だと、ん? 銀龍《住人》よ)
苦しむ翔は自分と葛藤している。
「グウッ。龍を喰うのが私の宿命。間違ったことはしていないです」
(フン、ソレを止めるのがもう一人の翔だ。龍を喰らうもどうするも決めるのは翔。住人ではない。覚えていて貰おうか銀龍)
「うざいですね。もう一人の「翔クン」は」
刀で身体を支え、俯く翔の異変は続く。
(ふん、その為に俺がいる。狼藉を働くな)
「グフッ」
血を吐く翔がいる。内なるもう一つの人格は『住人』を止めるに自分を傷つけることを厭わない。
「これ以上、体内で【鎌鼬】を放つと翔クンが死ぬよ?」
(ふうん、確かに。だが治癒は目覚めている。お前と翔の根比べだ)
ヤミとの戦いで【鎌鼬】を掠め取った翔は、自身の体内に放つ。翔の身体は立つことを放棄し、刀とともに地面を這い転がる。口からは大量の血が溢れ、身体は細かな殺傷痕が無数に出来始めた。痙攣を起こし、このまま沈むかのように見えた翔だが──!
「ガァァァアアアアアアアア」
(!!!!!!!!──。)
「違う! 私は封じこまれません。全てを喰らい、金龍を金色 を喰らいます」
叫び立ち上がる住人がいる。
翔の中の人格と対話は終わり、素に戻る翔がいた。
翔は立ち上がると概観を見渡し、フラつく身体を踏ん張った。
自分の立ち位置を確認している。一直線上正面にはヤミ。両端に巫女を確認すると銀の瞳が妖しく光る。
「!!」
翔は正面のヤミを睨む。翔はヤミに手を翳し、何かの準備をし始めた。
翔は口端を噛み締める。
……ヤミはそんな翔に眉尻を下げ、訊ねた。
「俺は銀龍《住人》を鎮め、お前を助けたい。無理かナ?翔」
翔に睨まれるヤミも静かに手を翳し、応える。
「!!!」
「まだ銀龍だな。手伝うからそんな顔するな。おひい様と同じ顔が醜く歪むのはどうかト思うゾ?」
「ふっ、お前が消えれば治りますよ」
睨み合うヤミと翔がいる。翔が手に持つ刀を抜き始めると、脇で控えていた蛟竜が翔目掛け飛んだ。
刀に絡まる蛟竜がいる。
「なんですか? 斬ります、よ」
刀は半身だけ、鞘から抜き出された状態であった。蛟竜が抜刀を阻止するために絡んでいる。翔が蛟竜を雷で焼き熾こそうと蛟竜を睨み付けたところで、鈴の音が響いた。
美しくも儚い、音が鳴る。
鈴音を響かせる巫女はヤミと声を合わせ、音を放つ。翔を縛る為、神の御魂を下ろす呪を唱えた。
「恵み給え、|一二三、二実代、五六七世《ひふみ、ふみよ、いむなぁんせ》神力、通力檻なんせ。十九!」
《リイィイイイン》
合わさる鈴の音と声に、翔は眉を顰めた。ヤミと巫女達を眺めると降参の意を示し、深く息をついた。
住人は降参する。
呪言と共にヤミと巫女二人の身体が白く光り、三点を結ぶ。結ばれた後、天から轟音と共に一筋の雷が翔に目掛けて落下した。
雷と共に豪雨が降り、四人を叩く。雨はそこにいる者達を浄めるかのように、激しく降り注いでいた。
お疲れ様です。
お付き合いありがとうございます。
一応カクヨム先行です。よろしくです。
いつも昼休みはぼへーしてるけど、せかせか
動くよ!
ブクマ、ポイントお待ちしてます。
ありがとうございます!