第10話 初恵と瞳海沙 そして今……
おはようございます。
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お疲れ様です。お付き合いを──────。
23/7/12
改稿しました。よろしくお願いします。
初恵は翔を腕に抱き、優しく髪を撫でもの憂げに見つめる。
(ふふほんとうに瞳海沙に似て、ん-かわいい。男の子にこう言うことを口にしてはダメなのよね?)
笑った後に、悩む初恵がいた。
【神社の巫女】【住人】【人格】【龍神】これらについて話すのにどう上手く翔に伝えれば良いのか、考えられないでいた。
(そう、瞳海沙は格式高い龍神を祀る神社の娘。巫女だった。本来仕える筈の一頭の龍神がなぜか二頭に。その一頭が荒神へと変貌遂げるのを封じるために胎児へ)
初恵は翔を見つめる。
(胎児の父も予め定められいた。それが湊さん。瞳海沙とは色々話した……瞳海沙)
初恵は瞳海沙を思い出す。「会いたいよ」と小声で洩らすと翔を優しい眼差しで捉えた。
(今の私が古代や郷土史を専攻したのは瞳海沙の影響だ。瞳海沙が【巫女】をしていたから……)
初恵は翔の頭に顔を半分鼻あたりまで乗せ、髪のやわらかい感触に触れ瞳海沙を懐かしんだ。
(ふふ、髪の柔らかさは瞳海沙だ)
初恵の中の瞳海沙は目力が強く、凛とした少女だった。背丈も百六十と普通に女の子身長だ。
翔の背の高さは父親ゆずりである。
肩まで伸ばした黒髪、色白の何処か神秘な雰囲気を携えた美少女。どこにいても目立ち、モテていた。
小中高とともに歩み、学び、何においても瞳海沙は秀でていた。
初恵ご自慢の幼なじみにして親友。だが、瞳海沙にはたくさんの友はいない。
友はただ初恵、一人のみ。
これには訳がある。
瞳海沙はすごく面倒見がよく、人当たりはいい娘だ。しかし、実家の行事に振り回される彼女には世間一般を普通に過ごすという時間はなかった。
その為、浮世離れした彼女は同い年の輪に入ることがない。人は寄りついても一目置く存在となり、ただ一緒に過ごす同級生がいるだけ……だから、友は幼なじみの初恵一人。
初恵と瞳海沙は互いを良く知り励まし、同じ時間を過ごす善き友達だった。
瞳海沙の全てを承知で付き合いをしていた初恵はいろいろと。魑魅魍魎や神仏に関する話を聞かされ興味を持った。今いる場所とは違う、今にない場所の話に惹かれた初恵。
詳しく知りたくなり、現在の場所に身を置く。
(ああ懐かしい思い出。よくまわりに変人扱いされたわぁ。でも、瞳海沙のお陰で私がある。フフ、翔くんは身長以外ほんとうに瞳海沙似だわ。もう、なんで死んじゃったの瞳海沙。私一人でなんて……)
翔に寄り掛かり、初恵はまだ思いに更ける。
そう、忘れられない。あれは雨が降り止まない……夕暮れ時。
(こんな日照りとは真逆の、雨が縦に落ち視界を遮っていた)
豪雨の最中、初恵は瞳海沙に呼び出された。
あれは十七才の夏の日。
急いで駆け付けたのを覚えている。瞳海沙の両親の不在に何があったのかは分からないが、瞳海沙が社の出入り口に倒れていた。
社の中央には磨かれた金剛杵と、古びた神楽鈴が転がっている。
急いで駆け寄ると携帯電話を片手に瞳海沙は……顔は青白く、胸から腹へと一文字の傷を負っていた。
床を見ると血痕がある。出入り口付近にはタオルと水の入った桶と着替えが、置いてあった。
たぶん携帯電話もここに置いてあったのだろう。中央の床からここ、扉の所まで身体を引きずり携帯を手取り、初恵を呼んだところで気力が尽きたと、いった感じだ。
(今も鮮明に覚えている。綺麗な白肌には縦に一文字がついた刃傷……。痛々しかった)
命に別状はなかった。しかしあの時肝を冷やし、真っ青になったのを初恵は覚えている。
後から瞳海沙に訊ねるとある儀式のため、両親はわざと不在だったと言う。
瞳海沙一人でも本来は事故なく、普通に終える無事な儀式だったらしい。起きるはずのないアクシデントにより、傷を負うこととなり初恵を呼んだと瞳海沙は笑っていた。
何も知らない初恵には不安しかなく、友を無くすかと悲しい思いにかられていた。
それから数日後。
容態が落ち着いた瞳海沙の胸から腹にかけ、刀傷が残っていた。泣きそうな初恵を慰める瞳海沙がいた。初恵には、そんな瞳海沙が不憫でならない。
ベッドの上で上半身を起こし、膝に初恵の頭を預かる瞳海沙はゆっくりと語る。
初恵の髪を撫で、瞳海沙は龍降ろし【龍神】の儀式について淡々と口を開いた。当たり前の出来事のように話す瞳海沙がいた。
龍降ろしは失敗に終わり、龍は二頭に分け隔てられその一頭が自分の中に宿るのだと平然と云う。
内に巣くう銀の龍。
その龍についても明かされた。瞳海沙の中に巣くう龍はやがて、湊さんとの間に生まれた子ども、翔に引き継がれる。
瞳海沙の内に巣くう龍が荒神への豹変を封じるために胎児に、翔に宿すと哀しげに云う。
胎児の父には霊力の高い相手が見合いで選ばれた。
それが湊さん……、決められた相手。
(お見合いなんて私はやだなぁ。と思ったんだ。でも二人は妬けるぐらいに仲良かった)
新緑が映え、卵からはヒナが孵り、春の息吹を感じる頃に翔が生まれた。あの時の瞳海沙の笑顔は忘れられない。
(本当に仲がよい家族だった。私の優希も翔のあとに生まれた。二人は兄妹──ってあれ? 翔はこの時から優希が好きだったのかしら。思い返すと優希にべったりだった。可愛いかったなぁ)
回想する初恵は「瞳海沙に見せられないのが残念」と、今の現状をぽそり嘆いた。
(この子らは健やかに育っているよ、瞳海沙)
……そんな緩やかな日々の最中、健やかに育つ幼い翔にある異変が起きた。
感情の起伏により左腕の一部分が銀の鱗のように光ると、小さな翔は理性をなくし暴れた。
瞳海沙は危惧する。
何事も起きねばいいと─。
その思いから数日後、瞳海沙の不安は的中し翔の感情が爆発したとき事件は起きた。
瞳海沙と初恵の子らは幼稚園に通い始めた。それぞれが園で遊ぶ最中、優希は男の子に怪我を負わされ怒った翔がその子に仕返しをしてしまう。
たかだか子どもの喧嘩。そう呼べれば良かったのだが……そうはいかず、相手の子は翔の手で瀕死状態にへと。双方の親が駆けつけたのは子ども達が遊ぶいつもの幼稚園ではなく、病院であった。
控え室にいる翔はいつもの愛らしい姿ではなく異様だ。服はぼろぼろ、泥まみれ、そして晒け出された左腕には鱗が浮く。瞳は不思議な銀を光らさす。瞳海沙が危惧していた事が起きた。
翔を眺める初恵も衝撃を受けた、その感覚は未だに覚えている。
それが翔の中に棲くう龍神にして荒神の【住人】だった。
幸せに過ごす瞳海沙は不安に、かられる。
住人がいつか翔に取って替わり、表に出てくるのではと……。瞳海沙は翔の内に巣くう【住人】を抑える為の暗示を掛けるが、将来を切望すると暗くなった。
不安が胸に押し寄せる。瞳海沙は初恵に相談し、【住人】こと【荒神】の性質を詳しく話した。そして自分の案を持ちかけた。
『翔の中に【住人】を抑える人格を作りたい』
初恵は当時、郷土史や考古学の研究員として働いていた。研究に没頭するあまり人物史にも興味持ち、精神学などの様々な知識も身につけていく。
そして瞳海沙が至った結論通り、翔に【人格】を作ることとなった。【住人】を抑え、翔の人格として住人を統合させればと考える二人は──。
(瞳海沙人格はうまく目覚めたよ。なのにあなたは……もう)
……瞳海沙も湊さんも今はいない。
そして、今。
部屋に入り初恵は翔と話す。しかしもう一つの人格に阻まれ、話しきれずにいた。今度は陽介と翔が会話をするも、異様なモノに変貌を遂げ始めようとする翔がいる。龍神の瞳孔を宿した翔は陽介の言うことに耳を傾け、今に至る。
ぽぅとする翔がいる。初恵は翔を見つめ、髪を優しく手で梳き、心配していた。
肝心の翔は表情は呆けている。本人の不安は募るばかりだった。
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