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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
四章・嵐の前の静けさ
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【4章・ネクロポリス】

大陸を完全に抜けて、一時間が経つ。二人は『空間収納』から取り出したパンを齧りながらドラゴンという恐ろしく速い移動手段で海を渡っている



「アルス様……気になったのですが、セレスティーナ様はどうするのですか?」



「大丈夫。危険を感じたら教えてって言ってあるし、ここからでも移動出来るから」



「こんなに離れていてもですか!? 凄いですね」



「まぁ、でもセレスには俺の魔力が込めてあるピアス……要するに魔道具だね、それがあればどんな場所に居ても、どんなに離れて居ても駆けつける事が出来るのさ」



時空間魔法の特徴として魔力消費が大きく、その消費量は魔法の規模に比例するというのがある。『空間移動』は場所と場所を魔法で繋げるといったもので移動先の場所を想像して今居る場所と繋げる際に魔力を多く使う。そしてそれが遠ければ遠い程繋げるのが難しく魔力を多く使うのだ。しかし、その移動先を予め把握して更にそこに自分の魔力が存在していれば移動先の自分の魔力と連動して”楽に”その場所へ移動する事が出来る



「魔道具の力だとしても十分凄いですよ!」



「ヴァイオレットも要るか?」



「頂けるのであれば! 肌身離さず持ち続けますっ!」



頷いたアルスは歪んだ時空に腕を突っ込み、明後日の方を向き悩んでいるのか時々眉間に皺を寄せながら吟味している



「これは……どうかな? メイドだからピアスはどうかと思うし、指輪だと何かと不便だろ? 」



アルスの取り出した物。それはミスリル特有の光り方をしている腕輪、波のような彫刻が施されている事以外特に装飾は見当たらない


しなし魔法スキルを持つヴァイオレットだからこそ分かるこの腕輪に込められた魔力


外部に漏れないように腕輪内に練り込まれており、相当優秀な魔法士でなければこの腕輪が魔道具で魔力が込められていることすら分からないだろう



「ありがとうございますっ! こんなに素晴らしい物……この命尽きるまで大切にしますっ!」



「ハハハ、嬉しいよ。自慢の作品なんだ」



「す、凄いです……アルス様、魔道具師になれますよ……」



あまりの精巧さに愕然としているヴァイオレットはアルスから渡された腕輪を天に掲げて陽の光と照らしながら眺める


当たり前だがミスリルはそう簡単に手に入る物ではない。手に入ったのはアルスが侯爵家の息子という肩書きを持っていて、金を持っていたからだ。そして運が良かった


戦争が近い今日この頃は鉱石の値段が跳ね上がり、ミスリルに銀、そして鉄は商会でさえ中々手に入らなくなっているのが現状だ


正直な所アルスの渡したミスリルの腕輪、これが武器防具に鋳造される物以外で市場に出回る最後のミスリルといっても過言では無い程



「光魔法がこの腕輪にどう影響を及ぼすのか実験したい所だけど、こんな海の上じゃ何も出来ないな」



「腕輪に何か魔法でも?」



「俺の魔力は勿論、その彫刻実は魔法陣って言われていた古代の技術を応用した物でね…俺の一日で生み出せる最大出力の結界魔法が発動出来るようになっている----------発動には俺が魔力を連動させる必要があるけどね」



今から太古の昔、魔法という能力が定着し始めた頃に生み出されたとされる”魔法陣”という技術は現在では魔道具として普及しており、現在歴史という観点でしか魔法陣というモノに触れる事は無くなっている


その為に魔法陣を見ても何とも思わない人間が増えたのも利用し、装飾品などに密かに記された魔法陣というのは暗器や暗殺道具に用いられている


アルスはこれを学園の大書庫にある資料を参考にして造り上げたのだ。しかし大陸の歴史に関する資料は何処に行っても少ないのが世の常で、言わずもがな王立魔法学園の大書庫と言っても一番魔法が栄えたと言われている千年、二千年前の文献が圧倒的に足りないのだ


ヴァイオレットがアルスを”魔道具師”と褒め称えるのも世辞などでは無く、ただの偉業をヴァイオレットなりの知識を駆使して相応の言葉で褒めただけで本人もこの事がどれだけ凄い事なのか言葉で言い表せなかっただけ


過大なのでは無く、寧ろ過小な褒め言葉だった



腕輪のプレゼントから暫く経った頃、空が段々赤みがかって来るのに気付いて時空間から二人分のローブを取り出すアルス



「そ、そんな物まで入れているんですね……王国はアルス様の価値をもう少し見直した方が良さそうですね------あ、ありがとうございます」



アルスから受け取ったローブを纏うヴァイオレット。ただでさえ障害物の無い海上に加えてドラゴンの高速飛行で受ける風は体感温度を下げている



「ヴァイオレット、着いたら起こしてくれ…少し寝る」



「はい♪ お休みなさって下さい」




▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢



何だろう、肩を揺らされている


深い眠りにはついているものの耳に聞き慣れた女性の声が永遠と聴こえる


数々の死体が積み重なった上で棒立ちになり空を見上げる黒い鎧を着た男。手に握る剣からは血が滴り落ちていて刃毀れが酷い


その様子を遠くから見ているアルスはその異様な光景に何故か親近感が湧きながらも頭に響く女性の声に耳を傾け、目を覚ます



「アルス様っ! 着きましたよ!」



「済まない……夢を見ていた様だ」



「---夢ですか…それは良い夢でしょうか?」



「どうだろう、死体が積み重なっていて血に塗れた男が居たが不快感や忌避感は一切感じなかったな」



「悪い夢だと思いますけど…疲労ですかね、『慈愛の光(カリタス・ルクス)』-----どうでしょうか?」



疲れを癒し、傷を塞ぐ光の雨はアルスに降り注ぎ、同時にドラゴンの手足に空いた小さな穴も塞がっていく



「良い気分だよ……これが光魔法か。-----お、ドラゴンの傷が癒えてるぞ!」



「そうですね、しかし目と胸の傷は治癒出来ない様ですけど……」



「なぁに、ヴァイオレットが気にする事じゃないさ」



レッドドラゴンは多少高度を下げて一際大きい山に向かって一直線に飛んで行く。下を覗くと所々に村や街が見え、辺りに人間が住んでいる可能性が出て来たのだが肝心な人間そのものの姿が見えない



(このレッドドラゴンを恐れているのか……それともまた別の問題か……)



山の山頂まで飛んで来たレッドドラゴンは長い飛行の末、ようやく地面に脚をつけ二人を地面に降ろす


アルス達二人を地面に降ろすとレッドドラゴンは再び飛び立っていく。その飛び立ち方はまさに脱兎のごとく逃げる様だ


実際アルスから逃げているのだが、その事を本人とヴァイオレットは知り得ない為に二人は首を傾げる事しか出来ない



「正直な所、何も考えずに此処まで来たが…此処が何処なのか人間が居るのか……何一つ分からない」



「はい」



「でも直ぐに帰りたくないのは俺だけか?」



「私はアルス様の意向に従います」



「じゃあ、少し散策しようか」



アルスは山を降りようと崖の下を覗いてみる。しかし見えるのは霧で底が見えない断崖絶壁のみでとてもじゃないが徒歩で降りる事が難しそうに思える



「ヴァイオレット、三秒程目を瞑ってくれるか?」



「は、はい!」



アルスはヴァイオレットを抱え込み、体に雷を纏うと走り出す



『迅雷』



人間どころか動物、魔物さえも足をつけることが難しいような絶壁を這うように移動するアルスはまさに落雷の様



雷鳴と共に一本の巨木が爆ぜる。辺りに散乱した木片には火が燃え移り、周囲に木が焦げた匂いが立ち篭める



「はい、着いたよ。地上」



「あ、あ、ありがとうございます……この地は私達が居た大陸と大差無いように思えますね」



「-----うん、地質とか植物は見た事があるものが多い。でも知らない魔物が生息しているね」



「というのは……?」



「二足歩行で身長は人間と同じかそれ以上の個体も多い、武器を持って歩いている……何だこれ」



「それは……オークやゴブリンでは無いでしょうか? 太古の昔には私達の暮らす大陸でも生息していたらしいのですが、最近は何も見聞きしないので絶滅したのかと」



「でも、この大陸には居た訳か……」



『空間知覚』でオークの存在を確認したアルスはヴァイオレットを連れてその場から少し歩いて離れる


木の根を跨ぎ、草木を掻き分けながら抜けた先には何も無い荒原。ヴァイオレットは何か見つけたのかしゃがみこんで地面の砂を両手で払う



「どうした?」



「ここに何か……ありました……これは剣ですね、人間が使った物でしょうか?」



「その様に見えるな…取り敢えず人間がこの地に居るという可能性が増えた、街を探すぞ」



「はい!」



旅人風のローブを纏った二人は荒原を再び歩き出した。星の光を頼りに向かうその先に街はあるのかだろうか、闇ギルドの誘拐からアルスの殺害計画、ドラゴンの移動や遠く離れた大陸への旅、と最早意味の分からない目的の変化に自然と溜息が出てしまう


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