【1章・新たな歯車】3
アルスはセレスティーナに連れられ店の外を数分歩いた場所にある巨大な木の下に腰掛ける
「ねぇ…アルス」
「お父様が言ってたんだけどアルスが使える剣術って覚えるのが難しくて使える人が少ない剣術って言ってたんだけど……どんなやつなの?」
セレスティーナが旧王国流剣術について聞いてくる。正直アルスも最近名前を知り旧があれば新もあるが今の王国流剣術を知らない
「セレスは今の王国流剣術を知ってる?」
「んー、私の家に私兵がいるんだけど、その人達が使っているのが王国流剣術だわ」
「あー、聞いた事あるな“滅龍騎士団”だっけ?」
滅龍騎士はアーバンドレイク公爵が持っている私兵の事で主に龍種のモンスターを討伐するためにアーバンドレイク公爵が軍の管轄から引っ張り出してきて設立した騎士団である
龍種と言ってもリザード、ガーゴイル、ワイバーン、そしてドラゴン、五色龍(赤龍、青龍、緑龍、白龍、黒龍)がいる。
軍の管轄下に無いため騎士になる際の身分は関係なく、実力主義の騎士団である。その代わりアーバンドレイク公爵直々に実力を見て入団テストをするのは有名な話だ
「そうよ、滅龍騎士団は半分が王国騎士団出身なのよ、ずーっと家に居たものよく見てたわ」
「そうか、今の王国騎士団が使っているのか」
「実は俺も自分が使う旧王国流剣術なるものがよく分かっていないんだ」
「え?そうなの?」
「父上に剣術はこれだと教えられたよ」
「確かに技を見ても習得するのは難しかったかな、3年くらいかかったからね……」
「でも3年って……そんなにかかってないんじゃない?」
「え?そうなの?」
「そうよ、流石エルロランテ将軍がベタ褒めする息子ね」
「父上が俺を褒めてくれるのは嬉しいな…」
「あとお父様があの剣術が露見したら指名手配されるって言ってたんだけど指名手配されないでよ?」
「えぇぇー、何教えてくれてんだ父上はっ!!!」
「ふふっ、それにしてもアルスの剣って何処から出したの?腰には提げてなかったわよね」
「あー、それは時空間魔法だよ」
「へー、結界魔法だけじゃないのね」
「あと雷魔法と、鑑定は持っているよ」
「……凄いわね、三つの魔法に、鑑定を持っている14歳なんて世界に何人いるかしら…」
「でも鑑定はそこまで使わないんだ」
「なんで?便利じゃない」
「確かに便利は便利かもしれないけど、隠蔽とか、魔道具でいくらでも無効化できるし、高レベルの直感持ちだと鑑定してるのバレるんだよ」
鑑定は基本冒険者ギルドの受付や、奴隷売買人など戦闘職についていない人が持っていることが多い。そして貴族では鑑定無効の魔道具を持っていることも多く活躍する場が限られてくるのだ
「因みに私のも……視た?」
「ごめん、つい気になって…」
アルスは教会で一度セレスティーナのスキルを見ている
「…まぁ、アルスだから許すわ」
「あ、ありがとう」
自分だから許すという発言に少し喜びを感じてしまうアルス
「……そうだ!アルス!貴方王族の護衛したことあるってエルロランテ卿言ってたけどまさか王女じゃないわよね?」
ウルグがパーティーの時に言った事を言っているのだろう
「あー、それはねガーネット殿下だよ」
「やっぱり王女じゃない!!それに洗礼の儀式で火の精霊魔法に選ばれた逸材じゃない!!」
「王女は王女だけど特に何も無かったよ」
「それに精霊魔法にレベルなんて無いじゃないか、選ばれた事に逸材というのならセレスも逸材だよ」
精霊魔法は一般的な属性魔法も行使でき、精霊魔法特有の魔法も行使できる。そして精霊魔法にはレベルがない、しかし成長しないというわけでもなく大気中の精霊との相性によって威力が上がるという。精霊と契約した者は契約者と精霊の信頼によって威力が変わるという。更に契約した精霊を顕現させる事が出来る。顕現した精霊は精霊本来の力を出すことが可能で精霊には精霊でないと対処は難しいと言われている
アトランティス王国には現在火の精霊サラマンダーと契約している炎帝がいる。これまで不利な立地ながらも戦えてこれたのは炎帝、雷帝、2人の騎士団長の存在が大きいだろう
「本当?何も無かった?」
「あぁ」
「私も逸材って呼ばれるようになるかな?」
「精霊と契約したセレスは特訓すればガーネット殿下を超えることも出来るさ」
ガーネット殿下が魔法の鍛錬をしていない事はない ガーネット殿下が現在進行形で鍛錬しているならばセレスティーナは倍の鍛錬が必要だ
「そうね……今から特訓できない?」
「あぁ、いくらでも付き合おう」
アルスはセレスティーナの鍛錬を手伝うため少し開けた場所にいた
アルスはセレスティーナに精霊魔法を自分に向けて使わせる使ってきたのは『風弾』だがセバスの風弾と大きさが違うセバスの風弾は手のひらサイズなのに比べセレスティーナの風弾はそれの5倍近の大きさであった
セレスに風弾の大きさを絞りその代わりに速度を上げることを教えると飲み込みが早いのか精霊と契約しているおかげかすぐに大きさを絞り速度を上げることが出来た
アルスは風魔法が使えないため、魔法の内容にはあまり口出しできないが、効率的な発動や無詠唱での発動は教えることが出来る
属性魔法は基本無詠唱で魔法名だけ唱えて発動することが多い、アルス自身雷魔法は全て魔法名だけで発動することが出来る、鑑定や身体強化は属性魔法に属さないため詠唱どころか魔法名を唱えなくてもいいが、戦争など、殺し合いにおいて無詠唱は大きなアドバンテージになる
しかし、無詠唱が最強ということでは無い。無詠唱と詠唱するのとでは威力に差が出てくる、これは魔法レベルが低ければ低いほど威力の差が顕著に現れる
精霊魔法にはレベルが無いが詠唱はあるらしい、セレスティーナに詠唱ありの風弾を撃ってもらうと威力が上がることがわかった。詠唱さえすれば格上の魔法士の無詠唱に勝つことが出来る。この事は今後アルスにとってもセレスティーナにとっても極めて重要な事だ
スキルのレベルで勝敗が決まらないのは武術にも言える事だろう
アルスは剣術と少しの体術を修めているが【剣術 10】に至っているアルスでも未だにウルグと10戦2勝といった所だ、これは経験によっての物だとアルスは感じる。
戦争を経験しているウルグに剣術の技を修めただけのアルスでは経験の差が違う
剣も持ち合わせていないのでセレスに魔力量を上げる鍛錬を教える
「アルスそろそろ一時間経つよ」
「そうだね、でもちょっとセレスいいかな」
「どうしたの?」
アルスは時空間からベルツ商会で買ったピアスを出す
「俺からセレスにプレゼントだ、公爵のお嬢様には大したことないかもしれないが俺の魔法を込めてある、いざという時にピアスにセレスの魔力を込めたら俺に伝わるようになっている」
「えっ……ありがとう!一生大事にするわ!」
「ハハハ、一生はしなくていいよ」
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二人は笑いながらグラムの武器屋に行く、中ではグラムが待っており、机の上にはアロンダイトと黒を基調とした美しい鞘が置かれていた
「グラムさん、お待たせ致しました」
「全然待ってないぞ、今完成した所だ」
鞘を手に取るアルス見た目はただの黒い鞘だ
 
アロンダイトを入れてみるとアロンダイト特有の圧が感じづらくなる
「…………凄いです」
「そりゃ、シークレットカメレオンの素材を使ってるからな、金属部分はミスリルを使わせて貰った」
ミスリルは魔力伝導力が高く、魔法武器の主な素材になっている鉱石である。このミスリルのお陰でシークレットカメレオンの隠蔽が鞘全体に広がっているのだろう
アルスは貴重な白龍素材で剣を作り、シークレットカメレオンの皮を見ても特に驚いた様子なくミスリルまで使って武器ではなく鞘を作るグラムの事を少し怪しく思っていた
「グラムさんって何者なんですか?」
「俺はしがない武器屋さ」
(何かありそうだな、詮索はやめておこう)
「……お値段の方は?」
「んーーー、5金貨だな」
「安すぎじゃないですか!?ミスリルも使ってくれているんですよ!?」
「いや、ミスリルは俺の独断だからなぁ、まぁ気にするな」
予想より安い買い物を終えたアルスとセレスは店の外に出る
いつの間にか大通りに人だかりが出来ていた
 




