【4章・命の価値】3
傷負いのレッドドラゴン。やはり聞いた事のない言葉に目に見えて訝しげな表情を浮かべるアルス
「なんだ本当に知らないのか!? 多大な犠牲を払って”捕まえた”というのに……」
「ドラゴンを捕まえたのかっ!?」
「あぁ、片目と胸に大きな傷を負っていたが強敵だったよ。それ故に私が雇った傭兵達はほぼ全滅してしまってね……悲しいよ」
レッドドラゴン、それは体内器官から無尽蔵とも言える量の炎を吐き周囲を一瞬で焼き払う龍種
アトランティスの南、それより南の海から年に数回この大陸に渡ってくるドラゴンや五色龍は渡ってくる度この大陸に尋常じゃない損害を与えるとして大多数の人々からは畏怖の象徴として恐れられている
アーバンドレイクの滅龍騎士団が積極的に活動を始めたのを機に比較的減ったドラゴンの被害、そして高ランクの冒険者達が団結して炎を撒き散らかすドラゴンに立ち向かうのは御伽噺でよくある話だ
「滅龍騎士団は出てこなかったのか? 彼奴ら龍種の専門家じゃないか」
「そうだな、彼奴らは本物だ。しかしすぐころされてしまうのは勿体無いだろ? ドラゴンは利用価値がある……例え傷を負っていたとしてもな」
「俺は餌か、笑えるな」
「ただ餌になるだけじゃないぞ、エルロランテ。お前には雷魔法でレッドドラゴンを殺してもらう」
段々と事の目的が分かってきたアルス。要は雷帝候補であるアルスを殺したレッドドラゴンを本当はアルスが雷魔法で殺したのにも関わらず、自分の息子が代わりに雷魔法で殺したと、自分の息子は雷帝候補より優れていると喧伝したいわけだ
「大体話は読めたが一つ聞いていいか?」
「何だ?」
「俺がレッドドラゴンを殺すと思い込んでいるその理由は何だ? 俺がレッドドラゴンに向ける雷光をお前に向ける可能性だってあるわけだろう? それに俺がレッドドラゴンを殺した後に殺されなければ…ただ俺が殺しただけになるな?」
口角が自然と上がろうとするのを必死に抑えるアルスと非常に口角をつり上げるベルモット伯爵
「ハハハ! 面白い事を考えるじゃないか……仕方ない、教えてやろう。それはな……」
ガンッ
アルスから見て右、ベルモット伯爵から見て左の扉が勢いよく開いて長身の艶かしい女性が突然部屋に入って来る
「あまり私を待たせるなよ、伯爵。その長話でこの男に情報を抜き取られていると何時になったら気付くんだ?」
「ハハハ、申し訳ない。紹介しよう…この方はエスト神聖王国のカリス殿だ」
『鑑定』
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《カリス》
[スキル]
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(クソッ、神かっ!本当…次から次へと面倒臭いっ!)
「鑑定使いか……残念。人間如きが私を読み解くなど無理な話だ」
カリスはアルスを嘲笑うかの様に嗤う
「戦争を控えているのにエストの”人間”がどうしてアトランティスに?」
「-----ふっ、隠し通せると思っているのか? それともマスティマを人間だと信じ込んだまま殺したのか? お前は分かっているだろ、私が誰か、何なのか、---------何の為にお前を見つけて今話しているのか」
どうやらアルスはエストに目を付けられていたらしい。エストがアルスの死を、ベルモット伯爵もアルスの死を求めているこの状況は混沌としており、迂闊にアロンダイトに手が伸ばせない状態だ
「どれだけいる?」
「何が?」
「人質」
「王族の一部とお前の婚約者、そしてその家族」
「チッ、王宮に入り込んだのか……だが残念ながら王女とセレスは学園に居ないぞ? それに公爵には滅龍騎士団が着いている」
カリスは縛られて地面に座るアルスに同じ高さまでしゃがみ込み寄って微笑む
「エレガイレ。既に二人の命は私の手の中にあるから」
「あの街は広い、それに王族の馬車でもなければ貴族の馬車に乗っている訳でもない二人を見つけたのか? 五万といる観光客から一人一人虱潰しに探したと?」
「いえ、そんな手間かけてないわ。だって一番近くに居るもの………わざと闇ギルドに捕まってこの場に来た勇気は認めるけど失敗だったわね、私の合図一つで彼女等はぐちゃぐちゃになるのよ? 自ら救いに行こうなんて馬鹿な考えはしない方が身の為だな」
カリスは一つ勘違いをしている。アルスは確かにわざと闇ギルドに捕まった。しかしそれは双方の合意済み、幸いその事はどうやらまだ知らないらしい
「あの近衛騎士かっ……!」
「さぁ…どうする? アルス=シス=エルロランテ、大人しく私達に従うの? それとも最愛の人を亡くして国を滅亡へと導く大悪人へと成り下がるのか?」
「----従うよ、これがせめてもの”時間稼ぎ”になるからね」
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何分程歩いただろうか、縛られたままベルモット邸の奥へ引っ張られていくアルスは暫く歩くと目の先に何も無い平原にひっそりと佇むレンガ造りの小屋があるのを見つける。現時点で『空間知覚』に反応は無いがこの場所にレッドドラゴンが居るというのだろうか
因みに屋敷の周りの掃討を頼んでいたヴァイオレットはしっかり職務を果たしていて、アルス達が屋敷を離れた時には既にベルモット伯爵が雇った傭兵もカリスが連れて来たエストの騎士達も半壊させている
そんな事は露知らず、アルスを引っ張り連れてきたレンガ造りの小屋にはベルモット伯爵の息子だろうか、鎖で縛られ拘束具で身動きが取れないレッドドラゴンにひたすら雷魔法を撃ち込んでいる少年が居た
「父上っ! まだ僕がレッドドラゴンを倒せないと決まった訳じゃない! まだやらせて下さい!!」
「時間切れだ、ジェイク。このレッドドラゴンはカリス殿の手助けが無ければ今この場で繋ぎ止める事すら出来んのだぞ、それにお前では傷を与えることすら出来ぬ!」
ようやく心の奥底にあった疑念が晴れ、腑に落ちた。いくらなんでも日雇いの傭兵だけでレッドドラゴンを捕らえるなんて無理な話なのだ。それにしても雷帝の地位を得たいが為に息子がレッドドラゴンを倒したという事実が欲しいのにも関わらず、息子を信じようとせずに不可能と割り切るその辛辣で残酷な物言いは狂っているとしか思えない
数々の魔力の衝撃波や稲妻がレッドドラゴンに襲い掛かっているのを傍目にアルスは伯爵に手枷を着けられてただ一人、魔法を撃ち込むジェイクの所へ歩いて行く
「フンッ! 他人の助けなんて要らないんだ!」
「ハハ……」
あまりにも切羽詰まった口調、目に見えて分かるジェイクの焦燥感に思わず笑い声が漏れてしまう
耳が良いのかレッドドラゴンに背を向け、殺気を放つ。勿論その方向はアルスに向けてだが当のアルスはジェイクを目に入れる事無く、ただひたすらに此方を見向きもしない傷負いのレッドドラゴンを眺めている
「何だお前、俺を舐めているのか?」
「----俺は一応侯爵家の出なんだが……どちらかと言うと舐めているのはそっちの方だろ?」
未だ目を合わせないアルス
「成り上がりの新興貴族が……人質を取られれば何も出来ない癖に調子に乗りやがって…!」
ジェイクは憤りながら毒突き、アルスの横をそのまま過ぎ去っていく
手枷と言ってもある程度可動域はあり、レッドドラゴンに魔法を撃ち込む事は出来る。しかしアルスにその必要は無い
実は時間さえ経てば、例え脅されているとしてもレッドドラゴンを殺す必要は無くなるのだ
しかし問題はその”時間”にあり準備が整うまで大体数時間は掛かると予想される為に迷っているのだ
(さてさて………どうやって時間稼ぎをしようかな)




