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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
四章・嵐の前の静けさ
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【幕間・どっちつかずの英雄】

大変遅くなり申し訳ないです。最近ホビットを初めて見て夢中になってしまい、なろうどころじゃ無くなっていました。本当に申し訳ないです

〜メルウッド伯爵邸〜


舞踏会の前でエルロランテ家が密かに侯爵に陞爵していた時より少し前の事、メルウッド伯爵家を標的に定めた三人の猛者が居た


抜き身の刀は既に血に塗れており、地面には王国騎士らしき人間が数人転がっていてその惨状からこの三人と交戦したと一目で分かる


そしてその三人は最後の一人であろう王国騎士へ歩み寄っていく



「お前ら………こんな事して生きて帰れると思うなよ!!」



王国騎士の心からの叫びは三人に届かない、表情一つ変えることなく無慈悲に近付くその姿に王国騎士は恐怖を感じるが同時に手も足も出ない悔しさが湧き上がり、震えていた脚を殴り強制的に震えを止めて剣を握り直す



「ジェレマイア様、ここは私が」



「あぁ」



アルマが前に出て手に持っていた刀を一度納刀し抜刀術の構えをとる


アルマの雰囲気の変化は後ろに居た二人だけで無くアルマに向かって走る王国騎士も気付く



「抜刀術か………」



速度を緩め様子を見る王国騎士の頬を汗が伝う。意を決して飛び込んだ王国騎士の剣は腕から離れて宙を舞う、剣を目で追ったその一瞬でアルマの刀は王国騎士の鎧を叩き割り鎖骨辺りを斬り裂く、安心したのも束の間、鎖骨で止まったと思われたアルマの刀は向きを変え、その刃は首に迫る。吹き出す鮮血がアルマの顔に付くと同時に崩れ落ちる王国騎士の呆気なさに思わず溜息が出るジェレマイア



「良い抜刀術だ、この速度を捉えられる人間は居ないだろうな………それにしてもここの騎士は手応えが無いな…」


「でも、もうそろそろ援軍の騎士が来るんじゃないか?」


「あぁ、厄介なのは公爵家の騎士団だが近衛騎士も忘れるなよ…彼奴ら護衛という枷がなければそれにも並ぶ強敵になるからな」



そう話しながら血で濡れた刀を布で拭き取るアルマに近付いていく二人、既に屋敷に戦える騎士は居ないのか中から人が出てくる事は無い



「入るぞ」


「あぁ!」 「はっ!」



屋敷の中は閑散としており屋敷の何処かに隠れたのか灯りはそのまま着いていて、ついさっきまでここに人間が居た事が分かる



「伯爵を探せ、夫人もだ」



三人はそれぞれ別れ、違う方向へ歩いて行く



▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢



「ララ! トーマスと奥の部屋にいるんだ! キルト、応援はまだかっ!?」



メルウッド伯爵家ベイル=サンク=メルウッド。元はシスを名乗っていたがアトランティス国王の王命により伯爵家の称号が変わっている。そしてベイルは伯爵夫人のララ=サンク=メルウッドにトーマス=サンク=メルウッドを連れて奥の部屋に行くように指示を出す


そのまま執事のキルトを呼んだ伯爵は額の汗を拭いながら部屋中のカーテンと窓、そして扉を固く閉ざす



「えぇ…連絡に向かってから三十分、あと少しの辛抱でしょう」



「クソッ………全ての兵を用いてどれだけ時間を稼げる?」



「もって三十分でしょう。………どうされますか?」



「流石に貴重な戦力を此処で削るのは早計過ぎる……”貴族殺し”いや”騎士殺し”か、彼奴らの目的は私兵を持つ貴族、私と屋敷の騎士を殺すのが目的ならば無闇矢鱈に戦うのは愚策だろう?」



「では何故聞かれたので?」



「あわよくば撃退出来ると、お前が言ってくれると期待していただけだ」



部屋に流れる沈黙は決して悪い沈黙では無い、剣を抜き、気を張っている騎士達はこんな時でも自分達を思ってくれる伯爵に驚いて声が出ない沈黙。キルトは自分に対する期待の高さに驚き声が出ない


しかし時が時、このやり取りに浸る程気が緩む事は無い


時折部屋の外から聴こえる足音に息を飲む騎士達




そして運命の時、伯爵達が隠れる部屋の取っ手が引かれ扉が押される。しかしこちら側から塞いでいる為に扉が引っ掛かり何度も確認する様に扉を打ち付ける


確信したように取っ手を戻し遠のく足音は仲間に報告に向かっていると、見えていなくとも分かる



「終わりか……シトリーに別れの言葉も言ってやれないとはな」



「伯爵様、まだ死ぬと決まった訳では…」



「そうですよ、旦那様。諦めてはいけません」



騎士達やキルトが励ましの言葉を投げ掛ける一方で塞いだ扉の隙間から一瞬見えた火花


眼球で火花を捉え顔を向けた次の瞬間、固く閉ざされていた筈の扉が吹き飛び、近くの騎士が吹き飛ぶ瓦礫に巻き込まれてその場に倒れる


恐らく火魔法だろう。立ち込める煙で前があまり良く見えない


伯爵は身を捩り立ち上がろうと床に手をつき立ち上がろうとするが肩に痛みを感じて傷口を押える



「…っ…!?」



傷口を触ろうとした伯爵は自分の肩を貫く細い金属の感触に冷や汗が止まらない。手が震え、恐る恐る首を上げて目を凝らすと目の前には刀を持った男が一人立っており、伯爵の肩を軽く貫いていた



「メルウッド伯爵、夫人と御子息は何処に?」



「----お前は……誰だ?」



「私はジェレマイア=フォースター。この国を正しに来た者だ」



「フォースター………一体何を考えているんだっ!この国も少なからず私兵によって治安が保たれ、周辺国からの進行を防いでいるのだぞ!!」



「だから殺すんですよ。分かっているでしょう?」



女性の悲鳴が聴こえて伯爵は立ち上がろうとするが刺さっている刀はそれを妨害する



「ララッ!!おい!お前ら家族に手を出したら許さんぞ!」



「許しは要らない、全ての決定権は私達にある。アルマ、殺せ」



伯爵は見ることが出来ない、しかし斜め後ろでドサッと何かが床に倒れた音がする



「クソがぁぁ!!」



痛みに耐えながら素手で刃を掴み肩から引き抜こうと力を強める伯爵もミゲイルに蹴り飛ばされて蹲る


蹲る伯爵に近付いていくジェレマイアとミゲイル



「お前が雇っている騎士も執事も妻も隠していた息子も既にこの世を去った。どうする? お前を守る者はもう居ないぞ?」




バァンバァンバァン




突然屋敷の外から聞き慣れない銃声が聴こえる



「何だこの音は?」



「恐らく銃です。古典的遺物で使用している人間は非常に少ない武器です」


「ジェレマイアさんよー、俺この音知っているぜ………この国で銃を使う人間は本当に少ない。そしてこの音の大きさはただ一人だ」



笑って言うミゲイルの表情は引き攣っており、本当なら笑えない状況というのは伝わってくる



「----誰だ?」



「闇ギルド、銀狼とも虐殺者とも呼ばれているが本当の通り名は骸。限られた裏社会で有名な殺し屋ですぜ」



「私も聞いた事があります。現存する銃で一番の威力を誇る二丁の拳銃の一発一発は鎧を砕くとも」



ジェレマイアはなるほどと頷き、閉じられたカーテンを少し開いて屋敷の外を覗く。外には黒いコートに身を包み多種多様な帽子を被る掃除屋の姿が見える



「その男は果たして私達が目的か? それとも伯爵か?」



「分かりません…しかしここに残るのが危険なのは確か! 今すぐここを出ましょう」



「何故そんなに闇ギルドを恐れているんだ?」



分からないと言わんばかりに首を傾げて溜息を着くジェレマイア



「ジェレマイア様やガリウス殿下はオニキスに居て王国内の情報が不足している様ですので申し上げると、王国内の闇ギルドは四人…下手したら王国騎士団長を越える実力を持つ人間が居ます」



「その中の一人なのか?」



「えぇ」



部屋の中に居る四人は耳を澄ます。静寂の中聴こえる数人の足音に伯爵は震え上がる


コツコツと足音が近付き破壊された扉の向こうに黒いシャツに黒いジャケットを着た白髪の男が現れる



「-----ベイル=サンク=メルウッド。お前を殺しに来た」



「「「……は?」」」


状況を理解出来ていないかの様な一言目にジェレマイア達三人から唖然とした声が出る



「お前は私達が見えないのか?」



「ん? 見えているが?」



そう言って両手でホルスターからシルバー基調の大型拳銃を抜き構える骸に三人は刀を構えて警戒する



「メルウッド伯爵はじきに殺す。それに家族も既に殺している……お前が手を下さずとも伯爵は死ぬぞ?」



「それじゃあ…意味が無いんだよ。こっちは金を貰って仕事してるんだよ、意味の分からない三人組の流れ者とは訳が違う」



「貴様ッ……!」



バァン



小さい爆発音に勢い良く動くスライド、通常の弾より大き目の空薬莢が押し出されて宙を舞う。そして放たれた弾丸はアルマの刀目掛けて飛んでいく


正面で刀を構えていたアルマは銃弾に反応出来ないまま、銃弾の衝撃で刀が弾かれよろめく



「……くっ…!!」



「次は脳を貫くぞ、俺は伯爵以外を殺すつもりは無い。去るなら今の内だぞ」



骸の台詞と同時に複数の掃除屋が部屋に入って来る。それぞれが剣を持ち斧を持ち杖を持っている



「舐めているのか……?」



ミゲイルは刀を握る力を強めて掃除屋に近付き刀を突き付けるも黒づくめが間に入る



「去れ、それだけだ」



骸のあまりにも無関心で見下す様な口調にジェレマイアは刀を抜き放ち、もう片方の腕を前に出して炎を生み出す。威嚇だが骸達に効果は無い



『火弾』



ジェレマイアの放った火弾は真っ直ぐ骸達の方へ飛ぶ



屋内での火魔法はとても扱いにくい、周囲が焦げて辺りに相当な損壊を与える。相手だけでなく自分にもリスクのある魔法に変わる


しかしジェレマイアが放った火弾の先に骸は居ない、居なくなっていた



バァン



再び室内に響く銃声の方へ顔を向けるジェレマイア


視線の先には頭から血を流して倒れるアルマ



「何故だっ!? どうやって避けたぁッ!!」



叫び、斬り掛かるジェレマイアに合わせてミゲイルも骸に向かって飛び掛る


一回二回とジェレマイアの刀を躱して膝を撃つ



「ぐっ……」



ミゲイルが接近し、刀を振りかぶる。ミゲイル自身も勝利を確信した様に口角を緩めるが横から迫る剣に気付き間一髪で防ぎ、床を転がる



「チッ…!」



黒ずくめの剣は転がるミゲイルに迫る。黒ずくめ三人とミゲイルの斬り合いは互角に思えるが室内で物が多いこの部屋ではお互い本領を発揮出来ていない



膝を撃ち更に四発ミゲイルに向けて放つ。激しい剣戟の最中に高速で放たれる銃弾を捌くのは至難の業。当然の様に肩に、そして胸に、腹に、最後に頭を撃ち抜く。通常の銃弾とは威力が違うこの弾丸は古風だといって舐める事は決して出来ない代物だ



「ミゲイル……」



怒りに任せたジェレマイアの一振は骸の頬を掠める



「やるじゃないか」



ジャケットの内側からマガジンを取り出しリロードしながら言う骸。両手に構えていた拳銃も既に片方をホルスターにしまっている


骸と交戦した事のある人間なら口を揃えて言うだろう


”彼は本気では無い” ”舐めている”




重いスライドを慣れた手つきで引き、ジェレマイアの額に押し付ける



「因みに冥土の土産に教えてやるが…お前らの敗因は今日、この時間にメルウッド伯爵家を襲った事じゃないぞ。いつ、どんな時でもこの国で好き勝手をするならば何れ我々に消されている。世の均衡を崩すお前らにこの国で生きる資格は無いんだ。この国の貴族を殺す…ここまでならまだ許容範囲内だったんだが…兵力を削ぐのは許容出来ないな、”ついで”に殺せて良かったよ」



バァン



至近距離から放たれた弾丸はジェレマイアの額を貫き、その衝撃で顔面の半分が悲惨な状態になる



「此奴ら三人を王城の前に置いてこい、それと屋敷の前の足跡は消しておけよ」



無言で三人を抱えて出て行く掃除屋達、部屋に残されたのは骸と苦しみ悶えるメルウッド伯爵のみ



「待たせたなベイル=サンク=メルウッド。最期に言い残す事はあるか? 依頼は殺害のみだ、娘に金を残すだったり資産を残すだったり…言ってみろ」



「………っ……し、シトリーにこの家の相続権を、それと愛していると……伝えてくれ」



「それだけか…依頼主に伝えておこう。二つ目は俺が直接言っておく」



伯爵は小さく頷き目を瞑る



バァン



倒れかける伯爵を支えて床に丁寧に寝かせて銃をしまう骸。ジャケットを整えながら破壊された扉に向かって歩くが途中で歩を止めて振り返る



「驟、帰るぞ」



窓際の壁に背中を預けて佇んでいた驟が姿を見せる



「気付いていたんですね」



「お前が死体を運ぶとは思えないし、証拠隠滅の手伝いをするとも思えないからな。何処かに隠れていると思っていたよ」



「そうですか、バレてましたか」



未だに木材の焦げた匂いがするこの屋敷に別れを告げて二人は屋敷を出る。最初に来た時、辺りが血塗れだった屋敷の前も綺麗に掃除されており転がっていた騎士の死体も見つからない


この家を襲った三人を殺した事で他の貴族から英雄と称えられるかもしれない闇ギルドも依頼で父を殺されたシトリーからは恨まれるだろう


しかし闇ギルドがあの時居なければ三人が伯爵を殺していた


一体闇ギルドはどちらの味方なのか、それはこの国アトランティス。見方を変えれば悪魔にも英雄にもなりうるこの組織は今日も貴族の依頼を受けて権力争いの核爆弾的切り札となるのだった

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