【4章・力への飢え】3
作品のあらすじがとても重要なのは重々分かっているんですがどうしても書く気にならなかったんですよね。という事で少し頑張ります!三十万突破しましたし
勇者パーティーの四人と別れたアルスは現在普段通り魔法学園で授業を受けている
前日に雷帝と死闘を繰り広げていたとは思えない表情と振る舞いはこの一年で更に磨きがかかったとアルス自身感じる
「アルスは最近雷帝様と鍛錬しているの?」
「あぁ、何で知っているんだ?」
「昨日王城に足を運んだら城内の貴族が口々に噂していたわ」
聞いてくるのはガーネット、セレスティーナも気になったのか体をアルスの方に向ける
どうやら王城では雷帝と俺の関係が噂されているという。正直問い詰められても認める事は無いのだがこの噂が原因で起こる出来事はある程度予想が着く
「アルス〜、お前に客が来ていたそうだがどうする?」
Sクラスの教室に入って来たアリティア先生がアルスに大声で告げる
アルスは席を立ち、アリティア先生の方へ歩いて行く
「その……客というのは?」
「もうお帰り頂いているがベルモット伯爵家の使者だ-------知り合いか?」
ベルモット伯爵家、アルスの知らない貴族だ
「いえ、知りませんね………一体何の用でしょう?」
「----恐らくさっき話した件についてよ」
ガーネットとセレスティーナが歩いてくる
「ガーネットさん、”さっき話した件”というのは?」
「アルスは雷帝と師弟関係を結んでいるのではないかという噂が立っているんです。雷魔法スキルを持つ他の貴族からしたら耳が痛い話ですよ」
ガーネットの言葉にアルスは苦笑いを浮かべる
「雷帝の弟子なぁ……雷魔法スキルを持つだけで希望を持つ貴族が多いんだろうな……」
要するに他の炎帝、過去に居た水帝、風帝の様な基本的な属性魔法は多くの人間がそのスキルを持つ為にスキルを持つ人間の中で力の争いが激しいという事だ
対する雷魔法、氷魔法、闇魔法、光魔法などの特殊な属性魔法は持つ人が少なく競走相手が極めて少ない為、例えレベルが低く、練度が低くてもその稀有な魔法というだけで過信してしまうのだ
「アリティア先生、その使者の方は何処に?」
「つい数時間前までこの学園に居座っていたが……………今は屋敷に戻っているんじゃないか?」
「なるほど、まだ居るのならお話する事も考えたんですけどね……まぁ無視で」
「あぁ、そうだな」
アルスはアリティア先生に背を向け歩き去ろうとしたがアリティア先生が思い出したように声を上げ、アルスを引留める
「アルス! そう言えば生徒会が呼んでいたぞ!」
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〜王立魔法学園、生徒会室〜
魔法学園の生徒を取り纏める生徒会もそろそろ代替わりの時期、三年生であり、家業に追われる彼女等に学園を卒業という概念を持つ者は少ないのかもしれない
三年に上がってからというもの学園にすら来る時間が減り、生徒会最低限の仕事しかしてこなかったというのもあるが、学園で問題になる事件が起きなかったというのも大きいだろう。それだけ平和だったという訳だ
部屋の中で一際目立ったデスクを挟み椅子に座るのは生徒会長のアナスタシア=セーズ=エードリッヒ。そして生徒会長室の扉の前で腕を組み仁王立ちする副会長のゼロ=シス=エーデガルド、大きいソファに腰かけ寛ぐ書記ルナ=ドゥ=ケルストと会計ミナ=ドゥ=ケルスト
「ちょっと…ゼロ、そんな所にいたらアルス君が入ってきた時に驚いちゃうでしょ……」
「ハハハ、大丈夫だぞ……彼奴は時空間魔法士でもある」
「「空間知覚だね♪」」
「あぁ、彼奴は普段見えていない振りをしているが学園の六割は常に把握しているぞ」
「はぁ……相変わらず恐ろしいわね、お父様が欲しがる訳だわ」
「会長はまだ諦めていないのか? エルロランテ家の引き抜きを」
生徒会室が少し緊迫する。普段笑顔のルナとミナも思わず顔を合わせて苦笑いをしている
「いえ、もうしないわ。彼も既に侯爵よ? 公爵になるという噂があるのに変な真似は出来ないし…色仕掛けも金銭も何も彼には通用しないのは分かってるから」
「そうか」
「----何よ?」
「いや、何も無い」
トントントントン
「「どーやら来たみたいだね♪」」
アルスが扉を開けて入ってくる。入ってくる姿から緊張は感じず、正面に居たゼロとソファに座る双子に挨拶する
「やぁ、義弟よ。会長から何か話があるようだよ」
「えぇ、ちょっと来てくれるかしら」
「はい」
アルスはアナスタシアとデスク越しに対面する。一年生という事もあるが王族の護衛という立場でもあるアルスは本当に生徒会と関わりの無い生活を送ってきた
水面下で貴族の権力争いに巻き込まれもしたが、学生らしく勉学に励んだ方だと自負している
もしここで”次の生徒会は任せた!”なんて言われたらたまったもんじゃない
「実はそう大した話じゃないんだけどね、二年生の初めに行われる課外授業なんだけど……」
(全然大丈夫だったぁぁ…………)
規模の大きい話を予想していたアルスは自分の過剰な妄想と過信に恥ずかしくなってくる
「課外授業ですか……」
「えぇ、本当は場所や日程を事前に教える事は駄目なんだけどね…今年は王族の方々も居るし……ね」
「なるほど、事前に確認しておけと?」
「えぇそうよ。-----そしてこれがそこの地図よ」
デスクに広げられた王国の地図には赤い丸印で記された小さな森と平原がある。恐らくこの地点が課外授業を行う場所なのだろう
「ここに出現する魔物は?」
「魔蟲……昆虫種だったらポイズンホーネットにアイアンビートル、魔獣はデビルファンゴかな」
ポイズンホーネットは全長80〜100cm程の雄も雌も両方毒を持つ中級魔獣、アイアンビートルは外骨格が鉄の様に硬い昆虫で硬い外骨格を持ちながら腹の部分が柔らかく低級魔獣に部類されている
そして少し凶暴な猪、デビルファンゴ
「なるほど……了解しました。後は地形の事前確認ですね」
「うん、そうだけど……本当に言ったら駄目だよ? この課外授業は準備して挑むものじゃないんだからね!」
「えぇ、肝に銘じておきます」
地図を受け取り時空間魔法でしまう。残り数日まで迫った進級も特に何かあるわけじゃない、噂だと今年新しく入ってくる一年生の中に目を引くスキルを持つ者がいないらしい
改めてアルスの世代が色々とおかしい事を再認識させられるが神の采配だと考えただけで自分が納得してしまうのは既に神という存在に害されているという事なのだろう
「以上よ、後は特に……」
「じゃあ俺からいいか?」
「何でしょうゼロ義兄さん」
「卒業前に一戦交えないか? 雷帝の弟子に勝利したって実家に戻った時に良い自慢話になりそうだからな」
そう言いながら笑うゼロだが、巫山戯ている訳ではない様に見える
「何故最初から勝利を確信しているのか分かりかねますが…………何処で?」
「模擬戦場だな」
「了解しました」
先に生徒会室の扉を開けて出て行くゼロを追いかけるアルス。閉まりかけた扉を前に振り返り軽く会釈をして出て行く、それに合わせてミナ、ルナ、アナスタシアは軽く手を振って応える
ゼロは王立魔法学園で随一の刀使いだ。その抜刀術のレベルはアルスも羨む程
しかしアルスが負けることは無い。あくまで模擬戦、剣と刀の技術を競う試合において抜刀術を扱うゼロは厄介というだけ
扉が閉まり模擬戦場に向かうアルス
(勇者パーティーもそうだが最近面白いスキルを持つ人間が多くないか……?)
それから夜中、日が変わる寸前まで模擬戦場では剣と刀のぶつかり合う激しい剣戟音が鳴り響き、翌日には不自然にならされた地面と不気味な程変化が無い模擬戦場だけが残されたのだった




