【3章・平穏な日常】
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〜王都、ネルマンディー家の馬車〜
アルスが馬車に乗り込むのを断ってから一時間、オーギュスト元帥と青薔薇騎士団一行は王城へ向かって馬車を走らせていた
「ん……?雨か、突然だな」
「そうですね、急に雲が増えた様な気がします」
そう話すのは青薔薇騎士団、団長のシャルル=ネルマンディー
「シャルルはあの青年をどう見る?」
「強いです。あの様な人間は見たことが無い、突然現れた時に流していた血も…去る時には…」
あの時アルスの肩には穴が開き、決して少なくない血液量の出血をしていた。しかし数分後、国の戦力を握る最高位の軍人である誘いを断り、血液が付いて学園の制服に穴が空いているものの一滴も血が滴り落ちる事無く、場を去っている
「うむ……私はエルロランテ将軍を知らない。社交界でもあまり顔を出さない家なのだろうが、知る必要がありそうだな」
「そのエルロランテ”伯爵”閣下ですが、どうやら単騎で滅龍騎士団に並ぶとの噂も」
「ハハハ、そんな馬鹿な。噂の出処は?」
「アーバンドレイク公爵閣下です」
笑うオーギュストは信じられないようだがシャルルの顔は至って真剣。その真剣さにオーギュストは唸り、顎に手を当てる
「うむ……奴の鑑識眼を疑う訳では無いが俄には信じ難い……」
「はい、私もです。しかし此の親にして此の子ありという言葉があるようにアルス=シス=エルロランテの怪物ぶりを鑑みると有り得る話ではあります」
やがて悩む二人の馬車は王城に着く。青薔薇騎士団の鎧は所々に青色が使われており、滅龍騎士、王国騎士や近衛騎士などとは差別化されている。薔薇の紋章の馬車は王国騎士も中々見ることの無い物で目を奪われている者も多い
「元帥、オーギュスト=ネルマンディー閣下と青薔薇騎士団、団長シャルル=ネルマンディー、陛下に謁見を求めに来た、念の為陛下に確認を」
「はっ!!」
敬礼する王国騎士達を横目に、王城へ入っていく二人、残りの青薔薇騎士団は王城の入口を固める。最近あった城門の爆破を防げなかった事への皮肉か大人数で城門の前に立っている
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〜王城、玉座の間〜
「遠路遥々お越し頂いて感謝する、オーギュスト殿。ただ気分で王都に来る様な御方ではない貴方がここまで来た理由とは?」
「国王陛下、貴方は既に一国の元首…もうシュトゥルム第二王子では無いのだ。私に対する敬語も要らん」
アーバンドレイクもネルマンディーもエーベルシュタインも王族の血が入っている。王位継承権は無いものの親戚であるのに変わりはない
「ハハ、中々難しい事を仰るな…オーギュスト殿は」
「何も難しい事ではありません、主君と臣下…それだけです」
「まぁ、それを言いにここまで来た訳ではないでしょう?」
頷くオーギュスト
「人払いは?」
「このままで構わん、それと…二ーヴル王太子と虚無の大森林の遺跡調査に関わった者を数名呼んでくれ」
国王は近衛騎士団長に指示を出し、近衛騎士団長は玉座の間を出ていく。数分後二ーヴル王太子とその臣下数名が近衛騎士団長に連れられ玉座の間に入ってくる
「お呼びでしょうか陛下」
「呼んだのはオーギュスト殿だ」
「お久し振りです、ネルマンディー元帥閣下。そしてシャルル騎士団長も」
「お久し振りです、ニーヴル王太子殿下」
「お久し振りです」
軽く頷いた後、二ーヴルは臣下達と共に膝を突いて国王が喋るのを待つ
「今回呼んだのはオーギュスト=ネルマンディー殿が皆を呼んだ為だ。----オーギュスト殿頼む」
「了解した、ではこの場を借りて王太子殿下一行に質問を………エストが崇める主神が偽物だったとして、過去にこの付近の国が滅びていたとして、そこまでエストを警戒する理由とは?」
「元帥閣下は私の報告書を読まれたようですが、予備知識として必要な事を述べさせて頂く…前提としてエストはアトランティスよりずっと前に建国されている国です。国力も高く、軍事、政治、両方が優れている。これは遺跡で発見した資料にも…現在の資料からも明らかです」
場の全員が頷く
「続けます。この軍事と政治について…まず軍事から、エストの聖騎士及びエスト神聖王国軍は非常に強い。それも大国ストロヴァルスを破る程に…」
「ストロヴァルスが大国だと? 国土が大きいだけじゃないか」
オーギュストが反論する。最近はストロヴァルスで国の中枢を担う人物が大量に殺された事もあり、ストロヴァルスの滅亡が密かに囁かれている
「いえ、大国ですよ。国土が大きいのは勿論、諸外国と比べて国内貴族の対立が少なく、その統率力は我々アトランティスより上です」
国内の貴族で対立し、それが大きな枷になっているというのはオーギュスト、そしてこの場の全員が感じているアトランティスの弱み
「どうやら私の知識不足だったようだ……続きを」
「では続けます。我々の遺跡調査でとあるオニキスの文献を見つけました。そこから解説させて頂きます」
エストでは無くオニキスという所にこの場の全員が首を傾げる
「オニキスと言っても国名が明記されている訳ではありませんでした。あくまでその周辺に存在した国である、という事を念頭に置いて頂きたい」
多少疑問が残るが取り敢えず納得といった感じで頷くシャルル
「続けます。何故エストの文献では無いのか? それは無いからです。エスト程歴史が長ければ良い歴史も悪い歴史も少なからず後世に引き継がれるものです。アトランティス、オニキス、ストロヴァルスはエストと比べて歴史が浅い…しかし魔王や千年、二千年前の歴史的文献は存在していました」
「なるほど……だから滅亡した国と魔王、魔人についての報告がやたらと多かった訳か」
「はい。文献が多いと思われたエストの文献は見つからなかった。なのでオニキス周辺にあったと思われる国の文献から…」
確かに少し怪しいとこの場の全員が頷く
「近衛騎士団長が神を殺せる”神器”というのを持っている事は公表しているという事もあり有名ですが…そんな代物を持っていて近衛騎士団長がエストから咎められない理由とは? 本当に神を殺せるのならばエストは神器を持つ近衛騎士団長を恐れている可能性があります。同時に勇者一族も恐れている」
「それは…」
「エストには神が居ます。それも偶像崇拝などではなく本体を崇拝していると見て良いでしょう。これは遺跡に書かれていた”神は何時でも人族を監視している”という言葉の意味がエスト神聖王国が人間を監視しているという意味に変わります」
これは亡命してきた枢機卿の証言を元に導いた結論だ。枢機卿曰く、数十年周期で神聖王国内の人間が大きく入れ替わるという。これは法王の交代時に大きな変化があり、その即位する法王によっては諸外国で大きな事件、事故が多発するという事も少なくないようだ
「私が見つけたオニキス周辺の文献にも異常な程エストを警戒する様な記述が見られました。聖剣があるオニキスとエストが対立していた理由がもし、神器ならば…我々も既にエストから警戒されている可能性があり、そして我々も警戒しなければならないのです」
「少し、二ーヴルに付け足す……約一年前にはガーネットがエストの間者によって殺されかけ…護衛だった近衛騎士が命を落としている。最近ではエストと繋がりが深い貴族も多く見つかっていて日々背後関係を詳しく洗い出すのに奔走しているのが現状だ」
二ーヴルの結論に国王が付け足す。ここまでの説明でオーギュストとシャルルは改めて現状を把握したのか頷く
「有難う王太子殿下、状況は理解出来た。しかし強敵エストを相手に何か勝算があるのだろうか?」
「六割と言ったところです」
「ほぅ……詳しくお聞きしたい」
二ーヴルは全ての王国騎士、近衛騎士を対象にした戦力増加と個々の戦闘技術の向上計画を話す
「なるほど…しかし騎士にも貴族が多いこの時代だ、中々難しいと思うが?」
「そうですね、元帥閣下の言う通りです。その為…現在これらの理由を含めた致命的問題を解決する計画を進めています」
これは一部の王族しか知らない極秘情報。二ーヴルの臣下もオーギュスト、シャルルも驚いた様子で二ーヴルを見つめる
「陛下、言っても?」
「もう既に言っておるだろ…」
「では、私はこのアトランティスに新しい貴族位を設けようと考えております。その名は騎士爵……貴族名は”アン”全く新しい制度です。因みにその者に与える土地は褫爵、奪爵で没収した土地をそのまま与えるつもりです」
「----面白い。平民からの成り上がり…これを考える者は少なくない、そして騎士爵か……仕事が騎士という明確な表示、上級貴族が飽和しているこの国にとって素晴らしい計画だな!」
「えぇ」
絶賛するオーギュスト。その横のシャルルからの反応もいい
「実は明日、制度の詳しい説明と王国騎士の新規募集をかけるつもりです」
「ハハハハ、本当に最近のアトランティスは面白いよ」
それから数時間、新しい伯爵の貴族名や最近の王都の日常、久し振りの王城で楽しい会話を弾ませたのだった




