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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
三章・忍び寄る神の手
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【3章・最強と最凶】5

〜王立魔法学園、模擬戦場〜



飛び交う魔法はどれもレベルが高く、一つ一つの技に感心する暇が無い程だ



「どれだけ硬いんだっ!」 「効果無しか……」



「俺は護衛だ。対象を護れなかったら意味が無いだろ?」



エリゴスの水魔法とオロバスの火魔法がアルスを包み込む。水蒸気が立ち込めて模擬戦場全体の視界が悪くなる


その水蒸気の中、走り出したアルスは小回りが利かないハルバートを持つオロバスに迫り、鉄剣を振るう


確実にハルバートを叩き落とし降参させるつもりだったアルスの鉄剣はエリゴスの魔法剣によって防がれる。ハルバートと魔法剣の隙間はほぼ無く、間一髪と言うのが似合うほどギリギリだった



「やるな…エリゴス」



「俺は水蒸気には多少慣れているからな…でも見えているのは俺だけじゃないぜ……………やれっ! ストレイフ!」



エリゴスの呼び掛けに応じるように背後上空からストレイフが迫ってきているのを”知覚”する



アルスは前の二人を蹴り、後ろを向いた時の追撃を防ぐ。アルスの蹴りは加減されているとはいえまるで大型の魔獣に体当たりされた様に吹き飛ぶ威力がある



十分に距離をとったことを確認すると頭上に迫った剣を少し体をずらすことで躱し、更に剣を横に振ろうとするストレイフの手首を掴み前に勢いよく引っ張る。そしてバランスの崩れたストレイフの脇腹目掛けて前蹴りをする



「…っがはっ……」



転がり蹲るストレイフに歩いて近付き、首元に剣を当ててアルスが勝利する。三対一の勝負はアルスの勝ちとなった



「これで十八回目か……? そろそろ勝てるかと思っていたんだけどな」



「あぁ、それくらいだな。本当に強いな……それで本気じゃないんたろ? その剣も中々抜かないし」



「何か理由があるのだろう? 俺達もまだまだやれる事はあるさ」



アルスが何か言おうと口を開いたその時、風と火だろうか、アルスの体が浮き視界が燃え盛る炎で一杯になる。結界を展開していなければ風で肉は裂け、炎で骨まで焦がされていただろう



「不意打ちも駄目ね」 「そうね…それにしても硬いわね。あんなの破れるの?」



(セレスとガーネットか……人一人浮かせる程の風量に見るだけで汗が出てくるような火ね……)



俯瞰的なアルスだが、抜け出す方法などは微塵も思いつかない。ここで『空間移動』を使うのは卑怯だと、そう思っている



「瞬間移動しないね……魔力切れまで待つ?」


「それは流石に面倒だわ……」



天井があるこの会場で『飛天雷鳴槌』は使えない。雷が天井に阻まれ意味を成さないからだ


アルスは『迅雷』を使う事も考える。しかし、視界が頼りにならない以上地面と衝突、もしくはセレスティーナ達にぶつかる可能性がある



(チッ………駄目だな)



アルスは鉄剣を破壊する覚悟で冗談に構えグリップを握る握力を強める



次の瞬間、アルスを包んでいた炎もアルスを浮かせていた強風も霧散する。アルスが下に向けて放った『破撃』は垂直方向の地面に衝突し、強風にも劣らない風が生まれ、更にその衝撃波が辺りの炎を霧散させる



「俺の勝ちだ」



「よく分からないわ…」 「えぇ、ほんと…」



「それにしても……シトリーはどうした? 今日は居ないのか?」



「あぁ……アルスなら既に知っていると思ったんだけど……最近出た三人組が殺される前にメルウッド家を襲ってたらしいのよ。それで今は家に帰っているわ……」



触れてはいけないような話題に触れてしまったアルスは目を伏せ、そうかと一言だけ呟く



「王都にあるというのに此処は情報が閉ざされているものね、自分が知るという事がないのなら当然他人が知るという事も無い……アルスが気に病む必要は無いわ」



「そうか……伯爵の安否は?」



アルスの質問にガーネットは横に首を振る。アルスというより、エルロランテ家には貴族の知り合いが比較的少ない。その数少ない知り合いであるメルウッド伯爵の死は受け入れる事が難しく、胸が痛くなる話だ



「まぁ…一つ謎だったのはシトリーと同年代位の青年の死体も同時に発見された事ね。シトリーは黙ったまま行っちゃったし……兄弟が居たなんて知らなかったわ」



メルウッド伯爵家にはアルスと同年齢の男児が居たはず、その子の事だろうが学園にも通わず連絡も暫くとれていなかった。しかも王家も知らないという



(一体何が……)



謎が解けては謎が増える。解ける以前に増えている気もしなくもないが首を突っ込むと嫌な予感がするこの状況を前に俯き黙る事しか出来なかった




授業が終わり、砕けた鉄剣をアリティア先生に返しに行く



「武器屋が泣いて喜ぶぞ……鉄剣の注文が増えたって…いやでも………怒られるか? 粗末に使ったと見られるかもしれん」



「ハハ……気を付けます」



この時、害意しか持たない存在が学園の外で彷徨くのを知覚する。こういった場合の多くはガーネットや学園に通う上級貴族を狙う暗殺者なのだが、身も偽らず、そして殺気を隠す事もしない



(歩き方からして男か…何か見覚えがあるような…)



アルスは模擬戦場を出て遠くからその人物が見える場所まで歩いていく



数分歩いた所で男を見つける



その姿は変わり果てているものの、つい先日言い争った転移者そのものだ。アルス自ら死ぬギリギリに魔法を調節したものの、自分の力で歩ける程手加減した覚えはない


しかし足以外の損傷はとても目立っており、切れた布地から時折見える前腕は赤黒く、地下収容所で様々な拷問を受けた事が分かる


明らかな不審者を見つけ駆け寄る学園の職員は一定距離まで近付くと”消える”


この男、西条拓斗の目的はアルスだ。ここで近付いていく職員を止めていては位置がバレて本末転倒だろう



数人の職員が目の前で次々と消えていく、それを見た他の職員は慌てて逃げようとするがそれも叶わない



学園から騎士団に応援を求めるのはそこまで時間はかからない。しかし騎士団はこの男を倒せるのだろうか


アルスでさえ結界を多重を張ることでなんとか凌いだのだ。余計な被害者を生むだけではないだろうか



(俺が行くか…)



アルスはアロンダイトを抜き、結界を何重にも重ね、西条拓斗の元へ歩いていく



アルスは最近の鍛錬をしていて一つ思った事がある。自分はまだ強くなれると、ウルグ、セバスとの違いは何か、そして以前セバスの言っていた真意を思い出す



少しずつ歩幅が開いていく、そして駆け足、やがて全力疾走と速度を上げ西条拓斗に迫る



西条拓斗が此方を見た途端にアルスの張っていた結界が一枚消滅する。そしてまた一枚、一枚と次々と消滅する。アルスは何度も結界を張り直し、飛び膝蹴りで西条拓斗の顔面を破壊する。頭骨の破砕する音が響き、そのまま数メートル吹き飛んでいく



地面に伏せている西条拓斗の傍まで歩いていき覗き込む。顔面が崩壊して血を流すその姿から死んでいる事は容易に判断が出来る



数秒の硬直



あまりの呆気なさに驚くアルスの肩に突然一筋白い光が貫通する。多重の結界の崩壊音は呆然としていたアルスを現実に引き戻し、久しく感じなかった激痛が肩に走る



(なんだっ!? 知覚外からか……この魔法、聖騎士のっ…….!)



未だに『空間知覚』で姿を捉える事が出来ない



幸い傷を負った方は右の肩でアロンダイトを握る事は出来る。瞬時に『空間移動』で学園を出る



「なんなんだ……一体」



「驚いた…時空間魔法士が王都に居るとは…」



移動したアルスは横に止まっていた豪華な馬車から声を掛けられる。害意は無い、寧ろ感じるのは興味



「失礼、怪我をしているようだが……大丈夫か?」



「えぇ……まぁ」



「その剣……」



学園外で神器を抜くのは危険だ。いくらシークレットカメレオンの鞘を使って隠しているとはいえ、この素材を使う事は同時に何かを隠している事も意味する。剣の話題も、そして鞘の話題も避けたい


話し掛けてきた老人は軍人なのか軍服を身に纏っていて胸の辺りにはロゼットのようなものが多く付いている。その数と種類から高位な軍人である事は予想が着くのだが、見慣れない勲章に後ろに控える護衛の数。ただの騎士では無い、王都ではあまり見ることの出来ない騎士団だ



「すまない、自己紹介がまだだったな…」



アロンダイトを鞘にしまい、姿勢を正すアルスを見て口角を上げる老人



「私はオーギュスト=ネルマンディー。ただの軍人だよ」



「ただの軍人などと…ご謙遜はおやめください、魔法学園に通う者でその名を知らない者はおりません…お初にお目にかかります。オーギュスト=ネルマンディー元帥閣下」



アルスは掌を前に向けた敬礼をする。アルス自身滅多にしないこの敬礼は父であるウルグが将軍位を持っているため、貴族のパーティーや王城に行く度見ることが多い



「貴殿の名前を聞いていない、楽にして良いぞ」



「私はアルス=シス=エルロランテ…学生です」



「ほぅ……エルロランテ、新しい将軍だな…それに第三王女の護衛と見た……違うか?」



「はっ、父は国王陛下から将軍位を賜り、私自身ガーネット第三王女の護衛を命じられております」



頷く元帥はアルスを馬車の中に誘う。射抜くような周りの視線に耐えながら馬車に乗り込む元帥を止める



「元帥閣下、私は現在正体不明の存在から命を狙われております…お誘いは有難いのですが…安全の為にも私は……」



「そうか…それは残念だな。申し訳ないわざわざ引き留めてしまった」



「いえ、お会い出来ただけでも光栄です。またお話出来る機会があることを願っております」



最後に敬礼をしてその場から『空間移動』で去る。アルス自身あれ以上居座るのは無理だと思っていた。後ろに控えていた騎士団はネルマンディー家が持つ青薔薇騎士団



滅龍騎士団に並ぶ王国随一の騎士団だが王都に駐屯していない少し珍しい騎士団



その威厳凄まじく、アルスでなければ一言も喋る事無くその場から逃げ出していたに違いない。アルスの『空間移動』が”逃げ”と言われても否定出来ないのが事実。しかし、移動した先は西条拓斗の死体が転がっている学園の敷地



(どこに行っても……災難は着いてくるもんだな)



西条拓斗の死体まで歩いていき、目を閉じる。異世界から来て誰がこんな目に会うと想像出来るだろうか



『死んじゃったかぁー、所詮スキルだけの異世界人……もう少し頑張って欲しかったなぁ』



斜め後ろに感じるのは人間の気配では無い、朧気に覚えているハデスと出会った教会で感じた事のある気配



汗が出てくる。心臓の鼓動が大きくなっていくのを感じながら声のする方へ体を向け、自分を落ち着かせようと深呼吸をする



「----お前は何者だ?」



『君の敵さ』



「敵ね……生憎俺には敵が多くてね、出来れば詳しく名乗って欲しいんだが?」



『まぁ…こんな体だ。歴史上で神と崇められている主神ウルスニドラ様と同じ神さ……正直知っていただろう?』



目の前に居る人型の白いモヤは神らしい。しかし偽物の主神と同じと名乗る時点でいい神とは思えない。ハデスの言っていた悪神という奴だろう



「知らなかったよ、因みに俺に信仰心は微塵も無いぞ? 主神? ウルスニドラ? 分からん」



『下手な嘘だなぁ〜、君学生だろ? アトランティスで習う主神はウルスニドラ様しか居ないんだよ』



「ハハハ、まるで”他に主神が居る”かのような言い回しだな」



表情は無い、しかし確実に機嫌を損ねた事は明らか



『お前が喋れるうちに聞いておきたいんだけど……その剣は何処で手に入れた?』



その剣とは勿論アロンダイトの事を言っているのだろう。神としか思えない存在を前に魔物の皮如きで欺くのは不可能なのだろう



「この剣か? ---拾った」



『そんな訳ないでしょ、ここ数百年この大陸の隅々を探し回って見つからなかったんだよ?』



「そうか……で、何だ?」



『渡せ、それは我々神の物だ。名は魔剣アロンダイト。大陸に残る数少ない魔剣の祖となった剣だ……以前は聖剣と呼ばれていたものの扱う者が悪く、今は魔剣。忌忌しい代物だと…そう思わないかい?』



饒舌に話すその様子はまるで持ち主であるかの様



「思わないな……魔剣であろうと聖剣であろうと手放すには惜しい剣だよ。それに忌忌しさなんて微塵も感じない」



そう言って静かに剣を抜き、剣身を撫でるアルスは人型の白いモヤからすればただ剣を抜き、懐かしむように剣を撫でる青年に見えるだろう



『はぁぁ….分かってないなぁ、『天斬(てんざん)』』



白いモヤが手を振るとその方向に斬撃が生まれアルスに迫る。予め剣を抜いていたアルスはこれを弾き『迅雷』で即座に白いモヤと距離をとる



『君ぃ……本当に人間か?』



「あぁ、正真正銘の人間だよ」



『『聖貫通砲(ホーリーレイ)』----今防いだそれを身に受けて立ち上がってきた者は少ないんだよ?』



白いモヤから発せられた白い光線をアロンダイトで方向を変え防いだ。少し前に右肩を貫通した傷も既に回復に向かっていて、出血は既に無い



「それは嬉しいな。例えば?」



『▉▉▉▉▉っ!』



突然アルスの方に手を翳したと思えばアルスの体が後方へ吹き飛ばされ、全身に強烈な衝撃と気を失いそうな程の直接的な脳の振動を受ける



『おいおい…嘘だろ、肉片にしようと吹き飛ばしたのに…………化け物じゃないか』



右手で頭を押え、アロンダイトを左手で拾う。少し傷んだ全身の筋肉に雷魔法で刺激を与え、首の骨を鳴らす



アルスは斬り掛かる。それも間髪入れずに、躱され弾かれ、突然腹筋が破壊される様な懐かしい衝撃波を受けて空中を舞う



『貴様ぁ……何なんだぁっ! その身体人間の比じゃない!!』



「お前を殺す、俺の幸せな生活にお前は要らない。初撃で殺すべきだったな…………恨むなよ、----神器解放っ!!」



『不壊・絶対防御』



魔剣アロンダイトの解放の能力は絶対的な防御


相手のどんな攻撃も効かず、原子レベルの崩壊も許さない最強の防御



『君…知ってたんだ。その剣の事』



アルスは『迅雷』で目の前まで迫り、『四閃四死』を、対する白いモヤは『天斬』で対抗する



流石神と言ったところか四つの斬撃の内三つは『天斬』によって相殺されてしまう。しかし残りの一撃が白いモヤの肩を抉り、その辺が消えかかる



『その技っ……!!』



アルスが立つ下の地面が陥没し、複数の斬撃、白い光線が襲い掛かる。勿論無傷なアルスはその陥没した地面から足を抜き、全力の『破撃』を放つ



白いモヤが吹き飛ばされ、立ち上がる。消えかけるその身体は死を意味しているのだろうか、地面が揺れ大気が荒れる。突然降る雨もアルスを濡らす事など無い



『▉▉▉▉▉▉▉……』



白いモヤが何か喋った時、アルスは既に背後で剣を構えており、頭から足先にかけて大きく裂ける


音速に近いその一撃が生む衝撃波で二人の周辺の雨が三秒程止む


人型の白いモヤが発した最期の言葉は絶望の呟きだった。地形を変え、天候をも変える神に恐れを抱くこと無く近付くアルスに、絶対的な神器の能力に


神器が人間に与えられ、数百年。年々地上の神も駆逐されていき、純粋な神など数える程しか居ない。神器を持たない人間ならば秒で殺せる、しかし神器を持つ者は別だ。それも歴代で一番神を屠った魔剣アロンダイトの保有者ならば尚更




この世界は狂っている




本物の主神が人間と誓約を結んでから、全てが狂い始めた。人間は魔法という力を得て傲慢に、そして優れた魔法士に嫉妬し、強欲になり、色欲に溺れる。貴族は暴食となり怠惰になる。それに憤怒した平民が貴族を殺し、やがて内戦に発展していく



神が地上に降りたからというのは単なる引き金にしか過ぎないという事。これは何千年もこの世界を見てきた者だから言える事であって、この世界に生まれて十五年のアルスでは到底到達出来ない思考回路と言える



「疲れたな………」



『空間移動』でその場から去るアルス。学園の敷地内で繰り広げられた戦闘は敷地に大きく損傷し、打ち付けるような激しい雨の中で西条拓斗の死体だけが残された


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