【1章・新たな歯車】
アルス少し成長しました
アルスは父に呼び出され執務室にいた
「アルスよ、お前は私の技を全て受け継いだが、私の仕事を全て受け継いだ訳では無いな?」
「はい。貴族としてはまだまだかと」
「そこでだ!」
息を飲む
「アーバンドレイク公爵のパーティーに行くぞ」
「なっ!?わかり……ました」
アルスは公の場に出たことがない訳では無いが、パーティーなどは一切経験した事がなかった。多少困惑したもののパーティーなどの経験は多い方がいいだろうと自分の中で無理矢理結論付ける事で行く事にしたのだった
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アルスは父とパーティーでの注意事項を聞きながら馬車に揺られていた、暫くすると目的地に着いたのか馬車の速度が落ちゆっくり停止する
「着いたな」
アルス達は馬車を降り屋敷に入っていく
(大きい屋敷だな….流石公爵の屋敷だ…)
「エルロランテ将軍閣下一行がご到着されましたっ!!」
騎士風の男が声を張り、一気に会場が静まり騎士が敬礼をする。将軍の位に就く父は騎士達からしたら上司で畏まるのも無理はないのだろうがそこら辺の事情を深く知らないアルスはこれを大袈裟だと感じていた
「お久しぶりです、アーバンドレイク公」
「おぉ、久しぶりだなエルロランテ卿よ。-----其方がそなたの息子か」
「はい、優秀で聡明な自慢の息子です」
意外にもウルグに絶賛され、アルスは頬を緩めかける
「初めましてアーバンドレイク公爵様、アルス=シス=エルロランテです」
「うむ、私がフェビオ=ディズヌフ=アーバンドレイクだ、宜しくアルス君」
とても接しやすい御方だった。軽く挨拶を交わしたら次に控えていた方にその場を譲り、この華美な雰囲気に若干酔ったアルスは少し風が出ているバルコニーに出て寛ぐ事にした。少し強めの風が今のアルスに心地よく、固く緊張した気持ちが解れていくのを身を以て実感出来た。寛いでいると自分と同じ年齢位の女の子がいつの間にか隣に居り、アルス同様外を眺めて寛いでいたのだ
何処かの貴族の女の子だろう、銀色の髪の毛はとても綺麗で艶もあり月の光が反射して時折光っている。華奢な体に、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる様な身体付きの女の子
アルスは“一目惚れしかけた”
しかけたと言うが実際は“していた“父から女性関係だけは特に気を付けろと言われていたためあまり、女性には関わらないように心がけていたアルスだが突如隣に現れた美少女に少し動揺していた
(自分もまだまだ精神は弱いのだろうな………)
隣の美少女は何も喋らない、アルスも喋らないため風の音だけの静寂だった。そこに若い男の声が響く、静寂が崩壊して男が言う
「そこの女、こっちに来て話でもしようじゃないか」
「おい!聞いているのか」
「何でしょうか? 少し体調が良くないので後にして頂けませんか」
銀髪の少女は体調があまり優れていないらしい。その場凌ぎの嘘なのか、本当の事なのか、本当だとしたらバルコニーにいる場合ではない。早く室内に安静にさせてあげたほうがいいだろう
「な、なんだとヘルムント様直々のお誘いを断るのかっ!!」
取り巻きらしき人物が声を荒らげる
「おい、女生意気が過ぎるのではないか?、ウィンターズ伯爵家のヘルムントだぞっ!!」
(おいおい…伯爵家の子供かよ、問題になるぞ…)
「そこまでにしないかヘルムント殿、ここで問題を起こせばウィンターズ伯爵家の泊が落ち、貴殿のお父上が困るのではないか?」
アルスが止めに入る
「なんだ貴様、伯爵家の息子である俺に文句があるのか?何様のつもりだっ!」
(こいつ……もう冷静じゃないな、相当な自信があるのか?)
【鑑定】
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《ヘルムント=シス=ウィンターズ》
[スキル]
【剣術3】
【火魔法2】
【水魔法1】
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(んー……弱いなぁ……)
「ふっ、後悔させてやる!死ねっ!!『火弾』」
『結界』
アルスは『結界』で少女を入れて自分の周りに結界を張った、火弾は結界に防がれ結界に当たってはじけた。
「調子に乗るなよ……お前とそこの変な髪色の女ッ!」
「おい……彼女の見た目を悪く言うな。それと罵る言葉には気を付けろ、殺してしまいそうだ」
「罵るだとぉ……? 何も罵ってはいないさ。気味の悪い髪色を恥ずかしげもなくひけらかすその女の事実を言ったまで」
「ほう、お前の目にはこの素晴らしい艶が映っていない様だ」
「濡れている髪が月光を反射しているだけだろう」
「例え濡れているだけだとしてもこの輝きは彼女の持つ美しい髪色があってこそのものだ」
「………殺すッ!」
「-----来いよ」
髪の毛が逆立つような覇気と見る者を凍らせる眼力。そのアルスの圧に耐えきれなかったヘルムントとその取り巻き達は脱兎の如く逃げ出して行く
「大丈夫ですか? 体調が悪いなら中まで着いて行きますよ」
「では、少しお願いしても宜しいですか?」
「えぇ、勿論」
「-----セレスティーナです」
「ではセレスティーナさん行きましょうか」
(ん……。何か悪い予感がするな)
「彼処に父がおりますので彼処までエスコートしてくれます?」
「は、はい。了解しました」
(あっちって父上が居るんだが、ん?アーバンドレイク公爵様も居るじゃないか………まずい、本当に悪い予感がしてきた…)
「おぉ、セレス、アルス君とどうしたんだい?」
「極めて失礼で不埒な連中に絡まれたところを助けていただき此方までエスコートして頂きました」
「おぉ、そうかそうか、ありがとうなアルス君、エルロランテ卿、紹介しよう私の娘のセレスティーナだ」
(やっぱりそうだったか)
「それにしても貴殿の息子は頼もしいな」
「そうですな…アルスは結界魔法持ち、人を守る事“にも”とても優れていますから」
「ほぅ…人を守る事“にも”優れているのか、結界魔法か……王族の護衛に抜擢されるのではないか?」
(すごい…これが貴族の探り合いか…)
「一度ありましたが、一人息子ですし、自由にさせたい気持ちも有ります………アルスどうだ?」
(あ、父上俺に投げたな)
「そ、そうですね騎士が嫌という訳では無いのですが…自分の幸せを犠牲にするくらいなら騎士にはならないでしょう」
「そうか、そうか……ならば冒険者はどうなんだ?」
「冒険者の世界はとても広いです、何も知らない十四の子供が自由に伸び伸び生活出来る世界ではないと思っています。冒険者にはならないでしょう。父上から”伝授してもらった剣術”である程度まで頑張れるとは思っているのですが」
(伝授してもらった剣術か……ん?エルロランテ卿から伝授してもらった剣術……王国流剣術か?いや、まさか…………)
「エルロランテ卿っ!!まさかアルス君に“あの剣術”を教えたのかっ!?」
「えぇ、旧王国流剣術です。私が何時倒れてもエルロランテ家が大丈夫な様に習得させました」
「習得だと!?、全ての技かっ!?」
「えぇ」
「身体の方は大丈夫なのか!?」
「まだ壊れてないですね、優秀です」
「なん……だと…アレをまともに習得するとは。それに教える方も教える方だぞ! もしアルス君が死んだらどうするんだ!」
父上の教えてくれた剣術は旧王国流剣術というらしい。あの鍛え方に異常性は感じたがアーバンドレイク公爵様の反応からして相当異常な部類に入る剣術なのだろう。アルス自身は体も丈夫になり、剣の腕も上がったから満足している
「……アルス君、君は騎士になるのは嫌だと言ったね、それに冒険者も」
「はい」
「それでは……………騎士としてではなく、一人の貴族としてセレスを護衛してくれないか? 護衛と言っても堅苦しいのは好まないだろう? セレスは長年病を患っていてね屋敷に引きこもりだったんだ、そのセレスを変な連中から守り、助けてほしい。表向きは護衛でね」
「アーバンドレイク公っ!!それは…「了解しました」……何っ!?」
ウルグの言葉を遮り、アルスは了承する
「セレスティーナ様が良ければその役目喜んで受けさせて頂きます」
「私は構いません!七年の内に随分周りの環境も変わりましたし、来年から学園生活ですもの………こちらこそ宜しくお願いします、アルス様」
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長いようで短いようなパーティーはセレスティーナ様との会話で終わった。アルスとウルグは家に帰り、執務室でセバスも交えて今日あった出来事を語り尽くしていた
「アルスよ、いいのか?」
「はい」
「アーバンドレイク公の“お願い”がどんなものか分からないお前ではないだろう?」
「はい、分かっています。正直一目見た時から惚れていました。全身全霊でセレスティーナ様をお守りします」
「アルス様も成長なされた、今も魔法の練習を続けておられるのでしょう?既にそこらの有象無象を退ける力は持っております。ここはアルス様を信じては?旦那様」
「そうだな……セバスの言う通りそこらの有象無象を退けれても、今は欲にまみれた貴族が跳梁跋扈している。手段を選ぶなよ」
「はっ!!」
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〜アーバンドレイク公爵家〜
「セレス、今回のパーティーどうだった?」
「そうですね……とても疲れました」
「それは仕方ないな、今後こういう機会も増えるだろう体調管理はしっかりとな………しかし、これからは彼奴の息子が居るから身の危険は少なくなり、安心出来ると思うが」
「お父様の言う彼奴の息子ってアルス様ですよね?確かに結界魔法は素晴らしいものでした。でもお父様のいう安心は結界魔法の事を言っている訳では無いですよね?」
「流石セレスだ、鋭いな」
「いえ、アルス様のお父上は確か将軍でしたよね。当然武術の方も優れているのでしょう?」
「ハハハハハ、セレス。正直に聞けばいいだろう“旧王国流剣術”とは何ですか、と」
「す、すいません」
「その名前を聞いたお父様の驚きようは凄まじいものでしたから…」
「そうだな……いくらセレスと言えどもこの話は下手したら王国に指名手配される話だからなー」
「そ、そこまでの話なのでしょうかっ!!」
「あぁ、あまり深くは語れないが習得が難しい且つ習得段階で死者が出る故に習得者が少ない、とだけ言っておこう」
「その様な剣術が……」
「”存在してしまう”のだ。全く恐ろしい剣術だよ、詳しくは二人きりの際に聞くと良い。これからそういった機会は増えるだろうしな」
「お、お父様っ!!!」
「ハハハ、ではセレス今から真面目な話をするぞ」
アーバンドレイク公爵の顔が切り替わり、セレスティーナも気持ちを切り替える
「既に耳に入っているとは思うが、セレスの病気が治った事で数々の家から婚約の申し込みが来ている」
無言で耳を傾け、次を促す
「実はその中に第三王子のカルセイン殿下の名があった」
セレスティーナは少し驚く
(カルセイン殿下は奴隷愛好家として有名な王子)
「“アーバンドレイク公爵家”としてはとても嬉しい申し出だ。だがっ! 何が奴隷愛好家だっ!!!奴隷をいたぶるのが好きな異常者というのを聞こえを良くしただけに過ぎん!!!王家には申し訳ないが、この申し出は断ろうと思っている。セレスはどう思う? 王子との婚約だ、受けるか?」
「断ってください。噂が噂です私だけでなくお父様や家にも悪影響が出ます」
「分かった、それでは他の家の縁談はどうする?」
「それも断ってください。その中で今日のパーティーで声を掛けて下さった方は一人も居りません。言ってしまえば、公爵家の権力と私の身体目当てでしょう」
「そうだな……それもあるだろうが……第一にあるのは……」
「アルス君だろ」
正に言葉の隕石と言ったところか。公爵から放たれた隕石が無表情且つ饒舌に他貴族を語っていたセレスティーナを木端微塵に破壊した
「ふぇっ!?」
「決定だな。エルロランテ卿に相談するとしよう……」
こうして新たな歯車が動き出すのだった
 




