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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
三章・忍び寄る神の手
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【3章・零落の王子と悔悟の剣聖】2

いつもご覧頂きありがとうございます! 前の話でも書かせて頂いたんですけど誤字報告は本当に助かります!引き続きこの作品を宜しくお願いします

王城〜玉座の間〜



出入口の爆破によって孤立したフロイド=セーズ=トランツェルは共に閉じ込められたガリウス側の騎士を無力化し、どのように脱出するか思い悩んでいた



そこに後ろから忍び寄る一人の男。フロイドはそれが誰か分かっているが振り向かず黙ったまま



「----どうした? この瓦礫の山くらいならば抜け出せるだろう?」



「それは貴方を待っていたからですよ……ガリウス殿下」



「ほぅ……? 俺は気分でここに来ただけだぞ? 本来ならば王宮で父上と兄上を殺している所でしたが?」



声色に変化は無い、フロイドとしては今回の騒動がガリウス単体で計画され実行されたものでは無いと願っていたのだが、脅されているような素振りを見せなければその場しのぎの配下で一国を落とそうなどと本気で考えている辺り、洗脳の類いも考えられる



「本当にそれが可能だと?」



「んー、そうだな……難しいな」



「では何故?」



「国力を削ぎ、混乱を招きつつ戦争に持ち込む? そうすれば晴れて俺は空いた玉席に座ることが出来る………それに今俺の配下が晩酌中の貴族を殺し回っている頃だ。計画は少しづつ進んでいるだぞ?」



「随分と俯瞰的に見ているようですが……ここから無事に逃げ出せるとでも? 高みの見物を何処でするつもりなのかは知りませんが………ここで殺しますよ?」



「ハハハハ、難しいと思うぞ? 知り合いから聞いた話だが…お前は聖剣を持つ勇者の次に神を殺しているらしいな。ならば神の恐ろしさは十分に知っているはずだ」



「まぁ…頑丈で、再生が早い人間もどきってところでしょうか。貴方は人間でしょう? 急に神の話なんか……」











「あーあ、言っちゃった」



フロイドは背後から気を失う程の強烈な殺気を感じてゲイボルグで後ろに一薙する


フロイドの人外的な反応速度で振られたゲイボルグも空を斬り、両断には至らない



『酷いこと言うねぇ、君』



目が見えないフロイドでも後ろに居る存在が神である事はひしひしと伝わってくる


地面から数センチ浮いた状態の”人型の白いモヤ”はフロイドに構うことなくフワフワと浮いてガリウスの方に寄っていく



『ウルス二ドラ様がもういいって〜』



「分かった。イザベラはもうそっちに?」



『うん』



「じゃあ、俺も頼m…「神器解放……『追従』」……っな!?」




「まさかオニキスに居ながらエストと繋がっていたのか……? 博打が過ぎますね…殿下」



小声での神器解放によってゲイボルグの矛先がガリウスを捉える、その速さは瞬き一度程。よっぽどの危険を感じたのか人型のモヤは慌ててガリウスの心臓に迫っていたゲイボルグをガリウスを引き寄せる事で腕の位置までずらす



「………っく……あ”がぁ」



『まずいまずいまずいまずいまずい』



腕を貫いたゲイボルグは空中で方向転換し、再び二人に迫る



しかし二人がその場から突如消え仕事を失ったゲイボルグはそのままフロイドの手に戻っていった



その場に残されたガリウスの左腕からはまだ血液が流れ出ていて切断してからどれ程一瞬だったかが伝わってくる




「はぁ……逃げられたか。取り敢えず王都の貴族に連絡だな……」



そう言ってフロイドはゲイボルグを瓦礫に向かって投擲する



地面が少し揺れるほどの衝撃波が生まれ、瓦礫が吹き飛ぶ



槍を拾い足早に玉座の間を出て王宮に向おうとするフロイドは王宮に続く廊下から複数の騎士が駆けつける足音を聴く



「フ、フロイド近衛騎士団長!! ご無事ですか!? 先程の音は一体!?」



「王城のあらゆる出入口が爆破された。犯人はエストと協力関係にあるガリウス第二王子、既に逃走されていて追跡は不可能。王都の私兵を持つ貴族に至急連絡を、狙われている。と」



淡々と走ってきた近衛騎士に内容を伝え、指示を出す。流石近衛といったところか指示に戸惑うこと無く内容を全て聞き取っている



「出る場所が無いな……ちょっと待てここをこじ開ける」




ガァァァン




再びゲイボルグでとてつもない厚みがある壁を破壊して外と廊下を繋ぐフロイド



見慣れているのか、それとも今日一日で驚き過ぎてこの程度では驚かないようになっているのかは分からないが騎士達は無言で貫通した壁を通っていく



「近衛騎士団長はこれからどうされますか?」



「私は陛下の方へ向かう、王都の貴族はお前らと王国騎士団に任せる」



「「はっ!!」」







▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢



翌朝〜王都のアーバンドレイク邸〜




長い夜が明け、目が覚めたセレスティーナは日課である素振りをしに屋敷の庭に出る



いつもならば滅龍騎士が数名鍛錬しているような時間帯だが、門を固め、屋敷の庭を大人数で巡回していていつもと違う朝を迎える



(ところで起きたらガーネットが居なかったけど……何処に……?)



気になりセレスティーナは近くの滅龍騎士に問いかける



「ガーネット殿下は門の前でずっと立っていらっしゃいますよ」



「ありがとう、行ってみるわ」



門の近くまで行くと滅龍騎士だけでなく近衛騎士が数名何かを探すように突っ立っている



「ガーネット、どうしたの?」



「あら、セレス。起きたのね、それにしても早いわね鍛錬?」



「えぇ、少しアルスの真似をしようかなって」



「良いわね、察してると思うけど”そのアルス”を待っているのよ私」



予想はつく回答だったが、わざわざ屋敷の門で待つ必要はあるのだろうか



「それなら……中で待たない? 王城の件も解決した訳じゃないし、いつここも襲われるか分からないわ」



「その時は撃退よ。それにカルセインの持つ奴隷軍団がそいつらの事調べてくれているらしいわ、中に入るとしても報告を待ってからね」



頑固なのか、素直にアルスを待っていたいのかよく分からないガーネットにセレスだけでなく、近くの近衛騎士や滅龍騎士、そしてカルセインまでもが苦笑いだ




〜約一時間後〜



馬の駆け、馬車の車輪が弾むような音。朝方にも関わらず少し急ぎ気味なその音の正体はエルロランテ家の馬車だった



近くで剣を振っていたセレスティーナも音に気付き寄っていく



黒い馬車の扉が開き、中から出て来るのは勿論アルス本人。ガーネットは腕を組み仁王立ちで馬車から降りようとするアルスを塞ぐ



「通れないんだけど………」



「----何で私達だけで移動させたの?」



開口一言目はそれだった。一度爆発という事象で護衛を失った身であるガーネットにとって再び護衛が爆発を身に受けたというのは本人が無事でも精神的にショックを受けるだろう



しかもアルスの自分が囮になるような魔法の使い方も拍車をかけ更に精神的ダメージを与えてしまっている



「あそこでの判断は間違っていなかったと思うよ。俺はガーネットやセレスの様に精霊から魔力を貰うことも出来なければ特別に魔力が人より多い訳でもないんだ。二人の安全を考えた時の最善があれさ、爆弾魔をほったらかす訳にもいかないしね」




(俺は……?)


さりげなくその場から消されるカルセインも表情筋をピクピク動かし握っていた魔槍を力一杯握りしめるのみ




「今度から離れないでね………………ってセレスが言ってたわ!」



「え、あ、うん。勿論」



「私? まぁアルスと離れててもすぐ来てくれるって約束してるからね♪」




アルスは馬車から降りてアーバンドレイク邸に入っていく。到着しただけで大袈裟だがアーバンドレイク公爵まで門近くまで歩いてきていて少し申し訳なく思ってしまう



「いやー、アルス君は流石だよ。私が昨日人探しの為に部屋を出たのを覚えているかい?」



「はい、覚えてます」



「実はあの時探していた時の六人の内五人がアルス君が”懲らしめてくれた”奴らだったんだよ」



「そうなんですか!? 知らなかったです。でも王城を破壊しましたよね、あの人達。中々の人物だったんじゃないですか?」



「それがそうでも無いらしいんだ。確かにあの五人は爆弾作りで少し有名な五人だったらしいんだけど背後関係もなければ黒幕っていう黒幕も見つからなかったよ」



「雇われ傭兵にしては……やる事が大き過ぎますね」



「多分……ガリウス殿下は捨て駒のつもりで雇ったんだろうね。」



▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢



それから屋敷の中に戻り、屋敷に居た全員で会議が始まった。内容は王都にある私兵持ちの貴族が虐殺されていて未だに犯人が捕まっていない事。ガリウス側の人間の仕業と予想されるが別の勢力が絡んできていたとしても不思議ではないため、まだ断定できないというのが現状だ



「続いて……今回の事件における他の公爵家の意見を話そう。ネルマンディー家は特に意向を示さなかったがエーベルシュタイン家はエストとの全面戦争を望んでいる」



「もし全面戦争になればネルマンディー家も参戦するし、しないならしないでそのまま動かないという事だ、王城が破壊されたとはいえエストの戦力を十分に鑑みて消耗状態のアトランティスでは戦争でエストに勝てないと踏んだのでしょうな」



アーバンドレイク公爵の言葉を補足するようにザナトスが付け足す。城を破壊され激怒するエーベルシュタイン家の気持ちも分かるが、騎士を多く失ったアトランティスでは勝機は無いと判断したネルマンディー家の気持ちも分かる



「最期にアーバンドレイク公爵家当主としては時期の先送りを提言するつもりだ。これについて何か意見は?」



流石に公爵に意見を求められて進んで意見出来る者などこの場所では限られてくる




「それでは、私から一つ」



カルセインが軽く手を挙げ、皆の視線が一斉にカルセインへ集まる



「何年後の先送りを考えているんだ? 騎士の数を補填にかかる時間は最低でも3〜5年はかかる。私の考え過ぎかもしれないが例年より粒揃いと言われている私達の学年が卒業して成人するのが二年後………偶然か?」



「そこは偶然と言っていいでしょう、”天の神”の思し召しでしょうか? 私が持つ滅龍騎士団、副団長…ミストレイ=バージェスと同じバージェスの家名を持つ御曹司や王国騎士団長の息子に、クラスは違うが剣聖も居る。確かに偶然とは思えないですね」



「え? 同じ家名が同時に存在して宜しいのですか!?」



ミストレイとエリゴスの家名が同じバージェスである事に驚いたアルスは思わず口を挟む



「そっか、アルス君のとこはお兄さんの方がバラムトレスになっているからね。基本アトランティスではアルス君のところと同じ様に家名は変わるのだ。しかしバージェス家は少し特殊でな、元は養子の本家当主と、バージェスの血が繋がっている分家当主の二つに分かれている。両者ともバージェスを継ぐのに問題は無く、先代もたいそう迷ったそうだ。この後継者問題は要するに実力をとるか血縁をとるかの問題でな…国で大規模な裁判も行われた、しかしこの問題に結論を出してしまえば今後のアトランティス貴族の後継者問題に争いが起こると考えた国王陛下は両者とも”バージェス”とした。軽く説明するとこんな感じだな、因みにSクラスの御曹司は本家、ミストレイは分家の出だ」



確かに”実力をとるか血縁をとるか”という問題は養子をとる貴族にとって極限とも言える問題だろう


養子をとる。 即ち血縁関係にある後継者が育っていない、もしくはいないという事


前提として血縁関係がある後継者より武力、もしくは知力が優れた人間が養子として迎え入れられるのは当たり前で養子となる者の大半が貴族家の次男、三男など嫡子になれなかった者達、例え自分の方が優れていたとしても産まれた順で全てが決まるという苦い思いをしてきたのだ、家督を継げる可能性に縋らない訳がない



(ん? あれ、じゃあバラムトレスはどうなるんだ………父上の方が弟であるなら何故エルロランテを継げたんだ……?)



アルスはまだまだエルロランテ家を知らない。表から裏まで知ったつもり………いやそもそも自分の家にそこまで疑問を抱くのは良いのだろうか?



ウルグとギャスパーとの間で何かあったのかもしれないし、何らかの先代の判断によるものかもしれない。ただ事実としてお互いの関係性になんの問題も無い事は確かだ



「すまない、話が少し逸れたな………えー、確かに殿下の年代を狙っていると捉えられてもおかしくはありません。しかしそれは自意識過剰というものです」



王族であるカルセインに”自意識過剰”と言えるのは公爵であるアーバンドレイク公の特権だろう。周りに控える近衛騎士も表情が固まっており、アルスまで緊張が伝わってくる



ここで笑えばカルセインが何らかの処罰を下すのは容易に想像出来る。入学時の印象からだいぶ柔らかくなったカルセインだが、未だに奴隷愛好家で気難しいという印象は払拭出来ない



「----それは、どういう意味だ?」



まだ怒っていない、ただ聞き返しただけ。そんな印象を受ける



「私が一番最初に目をつけたのは殿下の世代ではなく、今の三年生…つまりエードリッヒ家の長女が中心の代ですよ」



アナスタシア=セーズ=エードリッヒ。貴族派最大と言ってもいい侯爵家でその長女に生まれたアナスタシアは魔法銃を扱い、在学中の貴族では最高峰の実力を持つ女性



「---ちょっと、待って下さいお父様。まさかとは思いますが他国との戦争に国内の派閥問題を持ち出す気ですか!?」



「そうだ、エードリッヒ家の長女が実際に戦場に立つ事は無くとも当主…最低でも長男くらいは引っ張り出すことが出来る。長年蓄えたであろう資力を尽くして貰うつもりだ」



セレスティーナの疑問には私情が入っており、アナスタシア=セーズ=エードリッヒが”生徒会長”という学園の象徴であるというフィルターでエードリッヒ家全体の認識が甘くなっているのだ。勿論アルス自身アナスタシアが悪い人間だとは思っていない。事実悪い人間ではないのだ



しかし国力が低下し、王族派の力が減少しつつある中で敵派閥であり、力のあるエードリッヒ家を戦争に導入出来ると考えた場合、戦争でも勝機が生まれ、派閥争いでもこれ以上の派閥間での差は生まれないだろう、という一石二鳥だ。



貴族にとって戦争を拒否する材料となる学園も卒業してしまえば王命で何とか出来る。そして公爵であるアーバンドレイク公からの頼みならば国王は進んで王命の発令をするだろう



ここで何故学園に在籍することが戦争への参加を拒否する材料となり得るのかだが、短く説明すると家の後継者がまだ学園に在籍中、つまり成人していないという事は”その家を継ぐ者がまだいない”と言い訳が可能なのだ。これは後継者がいないまま当主が死ねばその家は取り潰される



例え子供が一人、そして当主から家の仕事を託されていたとしても公言していなければその子供は後継者ではない



言い換えれば現在成人しているエードリッヒ家の長男はエードリッヒ家をいつか継ぐだろう。しかし同時に成人していないアナスタシアが卒業後、家督を継ぐという事もありえない話では無い



”後継者不在”はアトランティス貴族にとって最強の言い訳であるのだ



アルスの様にエードリッヒ家の長男が”継嗣”などと名乗っていれば話は変わったのだが



「私としたことが……私情を持ち込んでしまいました……」



「セレスが世情に疎いのは仕方のない事だ、気にするな」



〜三十分後〜



それから三十分、騎士であるザナトスの意見を交え具体的な時期の決定を行った。必ずしもアーバンドレイク公爵の意見で戦争をするか否かを決めるとは限らない


国王も相手が自分の息子となると決断を渋る可能性がある



(エストとの戦争か……長い戦いになるだろうな)



この場でこの戦争を神と人間の直接対決と考えているのはアーバンドレイク公爵とアルスのみ。戦争という言葉が軽く思えてくる程の内容に不安を覚え、少し興奮するアルスだった

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