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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
三章・忍び寄る神の手
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【3章・岡目八目、少しの暗躍】3

服を買い、ようやく王城に着いたアルスは王城の厩舎にエクリプスを預け、王女の護衛を口実に再度王城に入っていく


廊下には騎士が目を光らせており何者かを探している様に見える


現在『空間知覚』も常時発動していない為王城内で怪しい人物を見つけるなどは出来ない



「アーバンドレイク公の部屋は何処にありますか?」



「案内します」



アルスは王国騎士に連れられて広く入り組んだ城内を歩く。案内された部屋の前には何かと縁がある滅龍騎士団の騎士が立っている



「アルス=シス=エルロランテです」



「…なっ!?………まさか本当に……少々お待ち下さい!!」



騎士の一人は慌てた様子で部屋の中に入っていく、扉が一瞬開いてまた閉じるまでの時間、中から複数の知っている声が聴こえる事で部屋の中の人物が薄々思い浮かぶ



「お、お待たせしました!どうぞ中へ!」



公爵の許可が降りたのか先程の騎士が扉を開いて中へ招く。招く騎士の表情や態度から少し怯えているを感じる



「お疲れ様、アルス。怪我は無い?」



「あぁ、大丈夫だよセレス------アーバンドレイク公。Sランク冒険者マスキュラーウェルナー、ルーファスの両名の排除…完了しました」



「畏まらなくていいぞ、私と君の仲じゃないか。しかし……すまないなウチのザナトスが迷惑を掛けた」



アーバンドレイク公爵は腰を上げアルスに近付いていき両手で固い握手を交わす


公爵のアルスに対する態度を見る騎士達はまるで珍しいものを見る様に目を見開き、感嘆の声を漏らす者までいる


突然王城から姿を消したアルスと《マスキュラー》は約半日の時間が経ちアルスのみが無傷で城に戻って来ている。事実を鑑みて状況を整理するならばアルスが冒険者二人を無傷で倒した事になるのだが、騎士達は未だ信じることが出来ない



「私からも心からの謝罪を、アルス=シス=エルロランテ殿」



「えぇ、お陰様で魔力を使い切る程大変な戦いでしたよ」



魔力という外見では判断出来ない要素は体の傷の様に目に見える要素と違い幾らでも嘘がつけるものだ


勿論アルスに嘘をつくメリットは無いのだが、この場の殆どがアルスと初対面であり疑いを抱く者も少なくない



「それは本当に申し訳無かった……滅龍騎士団を代表して謝罪する」



ザナトスの言葉と同時にこの部屋の全騎士がアルスに騎士の敬礼をする







「------全く。私の護衛は一体何者なのかしらね」

「Sランク冒険者二人を相手に無傷か……少し……いや大分気持ち悪いぞ、アルス」



部屋のソファーに腰を下ろし優雅に紅茶を嗜んでいるのはガーネットとカルセイン。その後ろには数名の近衛騎士も居る



アルス自身この一件を自分の口からガーネットに言うのは憚られる為助かったのだが



「ガーネット殿下もカルセイン殿下も何故アーバンドレイク公の部屋に?」



「それは………知ってるでしょ?」



「ガリウス第二王子の件ですね?」



ガーネットはガーネットでアルスの居なかった王城で起きた一連の流れをアルスに話す





「なるほど……それはマズイですね」



「それについさっき、陛下が三つの公爵家に救援要請を出したわ。恐らく陛下と二ーヴル兄上は王宮に避難しているしこの城が閉鎖されるのもそう遠くないわ」



アルスはガーネット達と同様にソファーに腰を下ろし、ローテーブルの上にある菓子を食べながら話を聞く。緊張感が無いのが果たしていい事なのかは置いといても長旅だったアルスにとってこの四人で楽しく会話出来るのはとても楽しかった



「ところでアルス、ここまで魔力無しでどうやって来たの?」

「そうね……それ気になるわ」

「どうせ馬とかだろ?」



「あぁ、馬だよ。道中見つけた村で貰ったんだ」



「無償でか?……今どき珍しいな」



商売には基本的に商品とそれに見合う対価が必要になる。この大陸には貨幣がある為物々交換などは少ないが街から遠く離れた地では貨幣が意味をなさない場合がある


その場合、食料であったり衣服であったり鉱石などが対価となる。今回のアルスはとても良質でアトランティス王国の商会では決して手に入らない程の立派な馬を貰っている。特殊な条件付きでだ



「その代わりに条件がある」



「ほぅ…どんな?」



「違法奴隷の売買に関わっているメラヴィル侯爵家とその辺りを治める男爵家の処罰と違法奴隷の解放だ」



カルセインはアルスがこの四人全員に話しているのではなく自分のみに、自分に向けて話している事に気付くと溜息を吐きながらずっと後ろに控えていた執事の様な容姿の男性を呼ぶ



「覚えたか?」



「はい、至急調べます」



「---という事だアルス。これでいいか?」



「感謝します」



こういう時に面倒くさがりながらも引き受けてくれるのは少なからず信頼関係が生まれている証拠だろうか


学園を一時的に休んでいたガーネットとカルセインは最近変わった学園の新しい制度について興味がある様でセレスティーナに合併後の学園内の話を延々と聞いている



(…………ん?………おいおいおいおい)



アルスとセレスティーナが座るソファーは間にローテーブルを挟み向かい側のソファーにガーネットとカルセインが座っているという配置だ



アルスが紅茶のカップを口まで運び目線が少し上に移った時だった。カルセインの少し後ろで控えているメイドの一人の目線が時折カルセインを見据えている事を確認する



そのメイドはこの部屋に紅茶や菓子を運び込む為先程この部屋に入ってきた。アーバンドレイク家に従事している訳でもなく、王城に仕えている者だろう



一見何の変哲も無いただのメイドに見えるが紅茶を注ぐ際に一瞬見えた腕の傷がとても気になる



メイドの傷は雇い主からの虐待が主だが王城のメイドがそんな事をされるのは滅多に無い、この場合考えられるのがメイドの格好をした暗殺者という事だが紅茶の注ぎ方といい、所作は完全にメイドそのものである



(考え過ぎか……?)



それから暫く経った頃、アーバンドレイク公爵がザナトスを連れて部屋を出て行く。本人曰く、正体不明の人物の捜索らしい。部屋には書類整理をしているミストレイ副団長と数名の近衛騎士、アルス達四人とあのメイドが傍に控えている



「そう言えば、聖騎士殺しが王都に現れたそうよ。まぁ……聖騎士殺しって言っても聖騎士は生きていたようだけど」

「学園にな………アルスとセレスティーナは何か知らないか?」



「聞いた事ないな」「えぇ、初耳だわ」



ガーネットとカルセインが仮面の男の話を切り出す。この話は国王自らが箝口令を引いているからかガーネットとカルセインですら詳しい事情を知らないのだろう。事情を知らないのなら好都合だ、二人が関わっている事を確信していてもアルスとセレスティーナが否定した場合、それを否定出来る証拠が無い為ガーネットとカルセインも唸るのみ



空いた皿を片付けるメイドを横目にガーネットの質問を知らないで突き通す



ソファーに座る四人の意識がメイドから完全に外れたほんの一瞬でメイドが隠し持つナイフをアルスは見抜き、ローテーブルの上にあったデザートフォークをメイドの首元目掛けて投擲する



「……っぐ! あ……あ、がっ……」



アルスの投げたフォークはメイドの首に命中して突き刺さる。深く刺さり血を垂れ流しながらもナイフをカルセインに振り下ろそうとするメイド


あまりの一瞬の出来事にアルス以外の三人は勿論、近衛騎士でさえ動き出すのに何拍か遅れる


ソファーを地面にしてメイドに飛び掛り左手で顔面を鷲掴みしたアルスはそのまま地面に顔面を叩きつける


大理石の地面に叩きつけられたメイドも意識を落とす事なく、服の下に隠してあった別のナイフをアルスの上腕に突き刺す。そして地に伏した不利な状況ながらもアルスを蹴り距離を取ろうとする



上腕に突き刺したナイフは半分も沈まない、緻密で強靭な肉体を持つアルスには研がれた暗器でさえも骨まで届かない。そして”人並外れた生物”でなければなかなか動じないアルスだ。体勢が悪い蹴りなどではびくともしない



「---近衛騎士捕らえろ」



アルスの言葉で近衛騎士は凄い勢いで息絶えそうなメイドを拘束する



「アルス、大丈夫!?」



「大丈夫だよ。頑丈だからね」



「まさかメイドが………それにしても恐ろしいな。ナイフが突き刺さった奴の出血量じゃないぞ」



「ミストレイ!今直ぐここを出るわよ」



アルスの疑念が確信に至った瞬間だったが、同時に今まで食べていた菓子も飲んでいた紅茶に毒を盛られていないか不安になる



「まずいな……なんの躊躇いもなく口に入れてしまっていた」



「お前ら!お嬢様と両殿下を王城から避難させるぞ」



「「はっ!」」



ミストレイが作業を止めて周りの滅龍騎士に命令を出す。アーバンドレイク公爵の部屋を開きアルス達四人を囲うように外に連れ出す


カルセインが襲われてから一分も経っていないのにとても早い行動だ


城内の貴族も何事かという目でこちらを見てくる



「お嬢様はこのまま王都のお屋敷へ護衛します。殿下はどうされますか?」



「私もアーバンドレイク邸にお邪魔してよろしいでしょうか?」

「私もお願いしたい。今王宮へ向かうのは危険だろうからな」



王城の外で待機している馬車の前まで来る。今のところ即効性の毒では無いのは判明しているが睡眠薬を盛られている可能性もある。ガーネットを始めとしてカルセイン、セレスティーナという順番で馬車に乗り込んでいく


アルスも皆に続いて乗り込もうとするが何処からか飛んできた火矢に気づき顔を傾けそれを躱す


(……チッ…なんだ…?)


火矢での暗殺にしてもアルスを狙うのもよく分からない。どうせなら乗り込む前のガーネットやカルセインを狙うだろう


火矢という目立つ物を正面から放ったのも分からない



ドォォン



飛んできた火矢はアルスの斜め後ろの木箱に突き刺さる。ガーネット達が声を出す前に、そしてアルスが振り向く前に爆発が起こる



爆発したのは斜め後ろにあった木箱、突然飛来した火矢も爆発させる為の要素だった



耳鳴りが凄い、砂埃で周りがよく見えない、地面に伏しているのか頬に石と砂の感触がある、肩と腕に木片や鉄くずが突き刺さっていて微量の血が服に滲んでいる。幸いアルスを遮蔽物として馬車の壁に穴は空いたものの、中の三人には一切爆発が届く事は無かった。ミストレイも風圧で多少吹き飛んだだけ。しかし馬の足と腹に鉄くずが刺さり、その場で暴れている



アルスより後ろに居た近衛騎士は近距離で爆発に巻き込まれた様で鉄くずが鎧を貫通して血を流しながら倒れている



辛うじて意識があったアルスは膝に手をつき立ち上がる。流血も少なく突き刺さる鉄くずや木片も簡単に抜ける



「「アルスっ!!」」



ガーネットとセレスティーナの呼び声も上手く聞こえない、霞む視界で二人が寄ってくるのが見えて片手を前に突き出し制止する



「駄目だっ!馬車に戻れ!-----魔力は回復した、今直ぐアーバンドレイク邸に”移動”する」


アルスに気圧され再び馬車に乗り込む二人、ミストレイも乗り込み生存者が全員乗ったのを確認したアルスは馬車に手を当てる



『空間移動』



空間が歪みあっという間に馬車がこの場から消える。消える瞬間、中から何かを叫ぶ四人を見て思わず笑みがこぼれる



「---エクリプスを置いて自分だけ逃げれないよ。さて次は俺の番か、………鏖殺だ」


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