【3章・国の均衡】8
ワクチンの副反応で寝込んでました。久し振りの発熱キツいっすわ〜
アルスが滅龍騎士団のザナトス団長から「冒険者二人は頼んだ」と言われてから一週間が経った
本番まで二日といった所だが、アルスは合併した王立魔法学園に意識を取られていた
「なぁストレイフ。アイツらを止めて来てくれよ〜」
「なんで俺が…………オロバス行ってこい」
「断る」
「はぁぁ、Sクラスの男は腰抜けなの?私が行くわ」
アルスがストレイフに譲った”典型的な貴族と平民の言い争い”をストレイフはオロバスに譲り、オロバスが断る事でグレイスが承る
「ちょっとあんた達、何事?煩いわ」
グレイスは今にも殴り合いそうな集団の中に単独で入っていく
「グレイス=セーズ=ステラクチート………侯爵家の方でしたら勿論此方側について下さりますよね?」
「貴族はいつもそうだ……偉そうにしておきながら自分の家より上の位の奴が出たら態度を変えて遜る……」
貴族が上の貴族に遜るのは当然の事なのだが、平民にはその意識がない為、媚びを売っているように見えるだろう。出る杭は打たれるように目立ち過ぎる貴族は他の貴族に消されるのだ、下級貴族は上級貴族に従順に従う他無い
「貴方達は何か勘違いしているようだけど、上級院Aクラスも下級院Aクラスも実力は同じなのよ。今までは貴族と平民で分けられていただけ、お互いがお互いに口を出せる程の実力の差は貴方達に無いわ」
((辛辣だ〜〜!!!!))
アルスやストレイフ、オロバスはあまりにも辛辣なグレイスの言葉に目を見張る
「つ、つまりグレイス様は私達に差は無いと?」
「えぇ、争いの種が何であれ貴方達は争うより先に自分の腕を磨いて少しでも国に貢献できるようになるべきよ」
グレイスの一見自分勝手な説得はSクラスという誰もが認める力を持つクラスだからこそ言える事だ。侯爵だからでは無く、入試で圧倒的な成績を出しているから言えるのかも知れない
実際に様々な貴族が賄賂でSクラスに入ろうとした。一年前ならば通用したかもしれない額の賄賂も今年はガーネット、カルセインの二人の王族の入学により無効な物になった
「私は侯爵家の娘だから説得力が無いけどSクラスには男爵家出身の奴も居るわ。要は実力主義って感じね」
「で、でも俺達平民はSクラスに入れないじゃないか!」
「当たり前よ、貴方達平民は責任が取れないもの。勿論貴族は取れるわ、実際問題この貴族が私に襲いかかったとしたら私のお父様は間違いなくこの貴族を家族諸共殺すわ。殺し方は色々あるけど拷問にかけたり、闇ギルドを雇ったり色々ね………この様に貴族っていうのはある程度の責任が取れるのよ、貴方達にそれが出来るの?貴方達は同じ事をして急に家族を殺されたりしたら権力の濫用だって騒いで暴動を起こすでしょ?」
平民の学生は押し黙る。饒舌に、そして畳み掛けるように話すグレイスに言い返す事が出来ない
一方的に言い放ち踵を返すグレイスにアルス達も続いていく
「凄いなグレイス、理由も聞かずにその場を収めるなんて」
「あんな揉め事の大半は傲慢な貴族と執拗に貴族を嫌う平民が起こすものよ………アルスも伯爵家で首席なんだから巻き込まれないように気を付けた方がいいわよ」
「俺は陛下からの”プレゼント”のお陰でだいぶ動きやすくなったけどな」
Sクラスは合併後も特に変化は無い、ガーネットとカルセインは居ないが授業はいつも通りだ。因みに今日の授業は土魔法の有用性と戦闘面以外での活用法だった
土魔法は見た目に派手さは無いものの、防御から攻撃まで多彩な使い方が可能らしく、現在では道の修復や建築作業にも用いられている
「…………という事だ、因みにお前らが戦った後の模擬戦場の修復にも使われているからな」
(へぇー学園にも随分と優秀な魔法士が居るようだな………)
「この後は冒険者ギルドから《ワルプルギス》の皆さんが魔物と渡り合う方法として実戦練習をつけて下さるそうだ」
どうやらこの後は入試の際に試験を担当してくれた冒険者チームが授業を請け負ってくれるらしい
魔物と言ってもこの大陸においてそこら中にいる存在では無い、廃村や森でよく見られるのだが飛び抜けて魔物の生息地として挙げられるのが虚無の大森林である
アルスは毎朝キングベアー狩りの為に森に潜っているが未だに虚無の大森林の全てを探索した訳では無い
(魔物の専門家に話を聞けるのは貴重だな)
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〜模擬戦場〜
アルス達は各自武器を持って《ワルプルギス》のリーダーを務めるリュークの話を聞いていた
「大陸には色々な魔物がいる訳だが、俺達が出会った中で一番驚いたのはやっぱり龍種だな。幼体であれば俺達でも倒せるんだが、成体になると話は別だ。貴族嫌いが多い冒険者もその点に関しては滅龍騎士団を尊敬している奴が多いな」
(やっぱり滅龍騎士団って相当強いんだな…)
「今日は龍種を倒す術を教えに来た訳じゃないぞ、低ランク冒険者が一番苦戦する魔物……デビルファンゴの対処法だ」
デビルファンゴは牙が異様に発達した猪だ。発達した牙が悪魔の角の様に見える為デビルファンゴと呼ばれている、街に下りてくる事も多々あり、冒険者がよく駆り出されると有名な魔物だ
(普通に速いな)
そう考えながら正面から突進してくるデビルファンゴをギリギリで躱し腹を蹴り上げて魔法で仕留める
授業内容は捕獲されて鉄の籠に入れられたデビルファンゴを模擬戦場に放ち、生徒が狩るというものだ。貴族とはいえ日頃から魔法や剣、槍、等の武術を学んでいる、とても素早い猪に苦戦しつつも順調に狩れていた
「流石だな、Sクラスは……こういうのは貴族向きじゃないと思っていたんだが、予想外だったよ」
「貴族と言っても全員が椅子に座ってふんぞり返っている訳ではありませんからね」
「そう言うアルス君も魔物には慣れていたようだけど?」
「まぁ、キングベアーを狩った経験があるからだと」
「へぇ〜」
ワルプルギスのリュークはアルスがキングベアーを狩ったと言っても動じなかった
Sランク冒険者からしたらキングベアーの討伐くらい大した事ないのかもしれない
その後も特に何かある訳でもなく時間だけが進んでいく
そしてそのまま二日経った




