【3章・国の均衡】7
王城〜玉座の間〜
「ほぅ、闇ギルドの掃除屋がそんな事を……我とて息子や娘達にこういった話はしていない故掃除屋との邂逅は避けたいのだが………」
「難しいでしょうね……」
玉座の間ではジョン=トロワ=バラムトレス、ディーン=バラムトレスがアトランティス国王が話している。いつもであれば国王の隣にいる近衛騎士団長も珍しくこの場には居ない
「闇ギルドの動向はとても気になる所だが………調査は中断だ」
「やはりガリウス第二王子殿下の件でしょうか?」
「うむ、ガリウスの企みは大方予想がついているのだが改めて対策が必要だな」
国王は気づいているという面持ち、ジョンとディーンはまさか第二王子が何か企んでいるとは思っていなかった様で混乱している
「フロイドっ!!」
国王が声を張り近衛騎士団長を呼ぶと奥から近衛騎士団長が出てくる。やはり玉座の間に国王と客だけというのは無理があるのだろう
「なんでしょう?」
「ガリウスについているあの猛者達の情報をバラムトレスの二人に教えてやってくれ」
近衛騎士団長はガリウスと共にアトランティス王国に乗り込んでくる人間の名前と特徴を述べる
ジェレマイア=フォースター ----刀を扱い貴族風の服装で金髪、長くも短くもない髪型
ウェルナー ----剣を扱い銀色の全身鎧、灰髪で短髪
ルーファス ----槍を扱い金色鎧の全身鎧、黒髪で長髪
「フォースター?あの一家がアトランティスの外にも居たと?」
「ジェレマイア=フォースター、奴は幼い頃一家丸ごと処刑された筈だった。しかし生きていた……それもガリウス殿下の下でね」
フォースターと言っても一概には言えない。ガゼフ=フォースターとジェレマイア=フォースターは母も異なれば父も異なる。血は繋がっていてもその血縁関係は遠い
「ガリウス殿下は何故ジェレマイアを?」
「そこが分からない、ガリウス殿下とジェレマイアには共通点が無い、強いて言うなら年齢が近い事くらいなんだ。確か陛下も理由が分からないんですよね?」
「あぁ、ガリウスは昔から思考を読みにくいのが特徴の子だった。ジェレマイアという子供と昔仲良くしていたというのも聞いた事がない」
近衛騎士団長はどうやって個人情報を集めているのだろうか。服装から容姿まで割り出せているというのはいつでも接触出来ると言っても過言ではない
現在、ジェレマイアや《マスキュラー》の二人は既に王国内にある貴族御用達の宿に泊まっている
王国騎士副団長であるアルセンディオ=ディベイルの報告からオニキス共和国内で王国騎士が複数人殺害されている事は既に玉座の間の四人は知っていて、恐らくガリウスの周辺人物の犯行というのも四人の共通認識である
「ガリウスの事は我に任せよ、バラムトレス家は引き続き不要な貴族の処理を頼む」
「「はっ!」」
謁見を終えたジョンとディーンは玉座の間を出る。二人は王城が緊張感に包まれている事に気づいているが下手に手を突っ込むと痛い目を見るというのは昔からよく言われている為、嗅ぎまわったりはしない
「それにしても近衛騎士団長の槍の迫力は凄いな♪」
「あぁ、神器と引替えに視力と味覚、嗅覚を失ったらしいが納得出来る”強さ”を感じたよ」
二人は王城内を会話しながら歩く、城門辺りだろうか二人は女性の悲鳴が聴こえた事で走り出す
走り出し、辿り着いた先には王城の庭園があった。王宮にも庭園はあるがそれよりは控えめの土地と花畑が広がるこの庭園はこの国の第一王女自らが手入れをする程の大切な物だ
悲鳴は確かにここから聴こえた筈だが肝心の悲鳴を上げた本人が見当たらない。王宮の庭園より小さい土地とは言え人が倒れていたり、死んでいて血を流していたりするとすぐに見つかるものだ
そして常時庭師や騎士が居る筈の庭園が無人という気味の悪さ
「おい、ディーン………もしかしてだが………」
「あぁ………もしかするなこれは」
ジョンとディーンは背を合わせて互いに銃を引き抜き、剣を引き抜く
「王城だぞ……ここは、有り得ると思うか?」
「思えないね、だけど実際起きてる」
二人の居る王城の庭園はいつの間にか霧に包まれ、霞んで見えるその先には幾人かの黒い人影が見える
「チッ……掃除屋か………どうする?」
「それは勿論k「ちょっと待ってくれよお二人さん」………誰だ?」
「ジョン=トロワ=バラムトレス、ディーン=バラムトレス殿、初めまして……かな?私は骸……………闇ギルドで活動している者だ」
霧の中から姿を見せるのは骸だった
周りには大勢掃除屋と呼ばれる黒ずくめが居るが一定の距離を保って近づいてこない
「ご丁寧にどうも………で何の用だ?」
「おいおい………アルス君はもう少し礼儀良さそうな子だったが?」
「アルスに何をしたっ!?」
「安心してくれ何もしてないさ、それに今日の本題は別にある。簡潔に言うが何故我等を殺す?」
ジョンとディーンは何を聞くのかといった表情で首を傾げる
「何故って………お前らが国に不利益をもたらすからだろ」
「本当にそうか?我々はバラムトレス家に手出しをしていなければ、まともな貴族を殺す事なんて滅多にしないんだぞ?要らない貴族をこの国から消す………仕事は同じ筈だ」
ジョンとディーンはこの男の言葉も一理ある事に気づき始める。しかし何故わざわざ危険を犯してまで王城の庭園まで忍び込んできたのか
「お前らの目的は何だ?先日は屋敷に乗り込んで来て今日は和解か?………巫山戯るなよ!」
「では脅しを一つ………私達はお前らが一つ前の転移者を殺したことを知っている」
「「……なっ!?」」
「どうだ?交換条件として我等に手を出さない代わりにこの国に転移者殺しの正体を広めないというのは?」
転移者殺しというのは五年前、二人が当主のギャスパー=トロワ=バラムトレスと共に帝国が召喚した転移者を殺した事を指す
この事件は帝国ではなくアトランティス王国に大きく影響を与える言葉をになったものでバラムトレス家の犯行と知れ渡ると大変な事になるのは目に見えて分かる
この決断を始めにしたのはアーバンドレイク公とギャスパー、そしてもう一人男との会話が事の発端である。そして実際に行動に移したジョンとディーンの二人は自軍の砦を破壊し、大量の王国騎士を殺した転移者を殺害したとしか認識していないだろう。転生者が神を殺す事と同じ国の人間を殺す事を天秤にかけて国を優先してしまう程傍観者としての意思が揺らいでいるのだろう
意思が揺らぐのも分かる。傍観者は傍観者でしかない、眺める事しか出来ないのだ。真実を知っていても………いや知っているからこそか、本能的に身近な物事を気にかけるのはしょうがないと言える
「そこまでして俺達と対立したくない理由は何だ?」
「いや、我々の人員が減る、ウザイ、心が痛い、などなど……まだ挙げるか?」
少しの沈黙の後、ジョンは剣を鞘に戻しディーンの肩を掴んで立ち去ろうとする
「---ちょっ、ジョン!条件を飲むつもりか!?」
「あぁ」
「ありがとうバラムトレス。あ、最後に一つお願いがあるんだが今回の転移者は法王に飼われているようだぞ………意味は分かるな?それじゃあ、また」
ジョンとディーンを混乱させる言葉を置いて立ち込める霧の中に消えた骸と掃除屋達は霧が晴れた時には庭園から消えていた
「ディーン、信じるか?」
「まぁ、嘘をつく理由が無いな」
「じゃあ……取り敢えず調べるか」
「あぁ」




