【3章・国の均衡】
アルスと雷帝が戦っていた黒ずくめの男達は云わば暗殺者と清掃業者を兼用しているような輩な訳だが闇ギルドの連中という事以外に背後関係は何一つ明らかになっていない
アルスと雷帝は数人に逃げられたものの複数の男の拘束に成功していた
「師匠、此奴らはこの後どうしますか?」
「この場で尋問する、此奴らを支持している貴族だけでも聞き出すつもりだ」
そう言って雷帝は顔に袋を被せられ、縄でぐるぐる巻きになっている男をつま先で軽く蹴る
「おい、誰に雇われた?」
「………」
雷帝は続けてもう一回蹴る、あまりの反応の無さに被せていた布袋を強引にとる
(うん……まぁ、その位は用意してるよな……)
中の男は白目で口から泡を吹いて死んでいた、外傷が無いのを見ると毒で死んだと予想が出来る
「師匠、どうします?他の奴は喋りそうにない」
「……チッ……振り出しに戻ったが問題ない。もうじき夜だ、アルスは帰れ、陛下への報告とか諸々は俺がやっておく」
「感謝します」
アルスは空間を歪めて生まれた異空間に吸い込まれる様に入っていく、『空間移動』の使い勝手の良さに呆れたように溜息をついた雷帝は近くの馬車に乗り込み王城に向けて発つ
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アトランティス王国〜王城 玉座の間〜
中に居るのは雷帝とアトランティス国王のみで護衛の騎士も居なければ王城に住み着き、国を腐敗させていくような肩書きだけの貴族も居ない
「-------っていう事なんですが、どうします?アルス君は聖騎士殺しを一度否定した身ですからね、陛下に嘘をついたとなると………死罪でしょうね」
「冗談はよせ、エル。自分の弟子の処刑を進言する雷帝などいくらなんでも笑えないぞ」
実際国王に嘘をついているのが重罪で処刑されてもおかしくないことはこの二人は勿論知っている、しかし同時に国王がそんな事でアルスを処刑をする訳が無いという信頼がある為、雷帝はこのような事が躊躇いもなく言える
「陛下〜、何故今回の件を容認されたのですか?」
「質問を質問で返すようで悪いが、エルはアルス=シス=エルロランテがそこらの有象無象の貴族と同じように平坦な人生を送り生涯を終えるような器に見えるか?」
「見えませんね〜、当人は目立つ事を嫌う傾向にありますがねー」
国王の目論みは雷帝には分からない、だがアルスを利用した計画を企てている事は分かる
現アトランティス国王は歴代の王と比較して頭が良い、そして狡猾である
巷の噂ではそれぞれ個性の強い王子達を争わせる事でそれぞれにつく貴族派閥の分断を狙い
それぞれの王子、王女にある程度力のある人物をつける事で牽制しあい、そして力を蓄えさせ、消耗させる、これが前々から計画されていた貴族の削減計画の布石とも言われている。真相は国王のみ知っているが
「正直に言おう、我はアルスを利用しようと考えている」
「………ふぃー」
あまりにも直球な発言に思わず気が抜けたような声が出る
「なんだその反応は………予想してた事だろう?」
「そうですけどー…………何故私に?もし私を巻き込んでアルスを利用しようと考えていらっしゃるのなら、お断りしますよ?」
雷帝自身アルスを弟子として迎えたのは単純にアルスに興味が湧いたという理由からだが、雷帝の弟子、言い換えるならば雷帝の後釜になる人物はなるだけ王に忠誠を捧げられる人物である事が望まれる。この望む人物こそが目の前の国王である事を踏まえると思わず背筋が凍る
「-----今はまだだ、予想以上に国外の動きが激しい、ガリウス側の戦力増強が著しい現状でお前ら二人を使うわけにはいかない」
「陛下はデルドリアン伯爵家名代の報告を御存知なのですね………それでも尚援軍を出さないと?こちらから追加の騎士を送らなければ出自も分からない共和国側の騎士がガリウス殿下につくことになりますが?」
実はつい数日前に王城にデルドリアンの名代、アルセンディオ=ディベイル来ていた
内容や状況は全て把握しているはずの国王は 「そうだな」 としか喋らない
「-----なるほど、分かりました〜。ところでアルス君にはどんな見返りを命じますー?」
「そうだな………舞踏会やその他諸々のパーティーにはアーバンドレイクの娘だけでなくガーネットとも一緒に居てもらおう……それだけだ」
(居るだけ………?)
雷帝は言葉に妙な引っ掛かりを覚えるが追求せず玉座の間を後にする
玉座の間を出た雷帝はそのままの足取りで聖女や枢機卿が居る部屋まで歩く
「ん?誰かと思えばエル=ドゥ=フェル殿ではないか、奇遇だな」
雷帝の道に立ち塞がるように現れたのは恰幅と言うには少し脂肪が付いているような男
「これは…これは……今日も次期雷帝の話ですか?」
「そうだ、私の息子は非常に素質がある。10歳で【雷魔法 3】だぞ、そこらの有象無象とは格が違う」
この時雷帝はそこらの有象無象の定義が分からなくなる、魔法の希少性は置いといてもレベルが低ければ戦場では淘汰されていくのが世の摂理なのだ、外見的なものではなく内面的なものが重要という事だ
(チッ……話にならないな……)
「確かに素晴らしいですね、ですが10歳ではまだ先にやる事がある、学園に入って魔法の事など学んだ方が……」
「…フンッ………学園だと?あんな所才能が無い奴が行く所だろ?」
「そんな事は無いですよ〜将来有望な学生も多いですよ、それに今年はカルセイン殿下とガーネット殿下も入学されましたし」
「ほぅ……ガーネット第三王女か………」
男の不気味な笑みは見る者を震撼させるものがある。明らかにガーネットに何かしようとしているような顔だ
「まずは学園に入学してみては?息子さんの実力が良く分かると思いますよ」
「黙れ、男爵風情がっ!大人しく私の息子を雷帝の継承者に任命しろ!」
男は甲高い怒鳴り声を出し雷帝に詰め寄る、顔には血管が浮き出ていて血走った目で雷帝を睨む
対して雷帝は飄々とした表情をしていて怯む様子も、竦む様子もみられない
「おい、そこの騎士達、此奴を拘束しろ。もし抵抗するなら牢にいれても構わない」
「「はっ!!」」
巡回中の騎士は雷帝の言葉を受け男を左右からがっしり掴む
「お、おいっ!!離せっ!!おい!覚えておけよ!!」
雷帝は男を無視して歩き出す、度々絡まれる雷帝も大抵の貴族が自分の息子に過剰な期待と自信を持っているような者ばかりでアトランティス王国の貴族の底が伺える
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