【2章・王立魔法学園---武闘大会編】19
オロバスの先鋒戦がSクラスの勝利で終わり他のクラスも低スキルでSクラスを相手取る事が可能である事が分かったのかクラス内で話し合いが行われているクラスが多い
「オロバス勝利おめでとう。相手には悪いが試合の流れはとても良かったぞ」
「ありがとうストレイフ、そうだな……初戦で手札を見せびらかす訳にはいかない、少し残念だ…」
ストレイフはオロバスに声を掛ける、激励とまではいかないがアルスには入学時のイメージから相対的にストレイフが激励している様に見える
(これは……偏見だな……ストレイフも変わったと考える他無いか……)
次は次鋒戦だがオロバスが一本取っている為そこまで無理をしなくていい試合だ、初戦ということもあり手の内はなるべく晒したくない所でもあるが
「カルセインは大将として何か案があるか?」
ストレイフがカルセインに聞く、数ヶ月経ちSクラスの男性陣はカルセインの事を呼び捨てにするのが慣れてきた様だ
「では、一つ。今回の次鋒戦は徹底的にやる方が今後の為になると思う、というのも先鋒戦の勢いを殺さないというのもあるが下級院は武術特化のクラスだ。魔法に秀でていない限りオロバスの様な試合は出来ないだろう、より迅速に勝敗を決す必要があるがただ圧倒的な武術で勝利する事で何れ当たる上級院クラスへの牽制になるからな」
カルセインが言いたいのは簡単に言うとはったりだ。武術特化の下級院クラスに武術で勝つ事での余裕を上級院クラスに見せる事で本来存在しない手札の有無を相手に推測させ、迷わせ、想像させるという事だ
初戦で手札を見せないという常識を逆手にとった破天荒とも取れる戦法だ
しかし、この戦法もカルセインがシトリーを信頼していなければ成せない戦法だろう、手札がバレてもシトリーなら勝利するという信頼が
「なるほど……逆をつくのか……シトリー、どうだ?」
「私はそれでいいよ、なんで私がそこまで信頼されているのか知らないけど大将の言う事だし…………数発で終わらせるわ♪」
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王都〜闇ギルド〜
まるで血を吸っているかのように王立魔法学園でアルスと出会った時より少し赤黒く染まった片手斧を持つ男は面白そうな依頼を探していた
(-----ん?これは……へぇ…面白そうだな、エルロランテの餓鬼に教えるか……)
「すまない、この依頼はもう受注済みとあるが何故まだここに貼られている?」
「其方でしたら依頼内容が非常に困難な依頼ですので受注者が失敗した時の保険として直ぐに他の方に受けて貰えるよう掲示しております、-----死神様はこの依頼受けられますか?良ければ予約という形で依頼の取り置きをしますが?」
「遠慮しておく……この依頼はいくら俺でも成功するビジョンが浮かばない……」
〈ウルグ=シス=エルロランテの殺害〉
(あの時は即決でアルス=シス=エルロランテと契約を結んだが、まさかあのエルロランテとはなあの場で気づかなかった俺が馬鹿なのか……)
死神ことグロウノスは白い仮面の下で笑みを浮かべながら思いを馳せる。アルス=シス=エルロランテを少し調べたら出てきたエルロランテ伯爵家の情報
伯爵家であり当主のウルグ=シス=エルロランテは国の将軍位に就いており武勇に優れているという
アルスから聞いた親戚の家とはドッセルに居る最凶一家バラムトレス家と判明した時は思わず溜息が出た。自分は何故数秒で契約を結んだのか?と何故相手の素性を言葉の上辺だけで判断したのか?と
(まぁ……契約は契約か……これと言った不満が無い以上やるしかないな)
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王都〜闘技場〜
アルスは次鋒戦を前に相手の鑑定を行おうとしている所だったが突然老人に声を掛けられた
「あの〜ちょっといいかの?」
アルスは振り向き老人の姿を確認すると対応しようと口を開くが目を見開いて静止する
「驚いた……仮面の下が老人だったとは……形容し難いが凄いな」
「ほぅ…鑑定を使ったか……そこら辺の人間にもしているのだな、その徹底ぶりは見事だが王女の護衛という肩書きが無ければただの気色悪い覗き魔と同じだぞ、それにこの顔は素顔ではない」
「それは確かに間違いないな、素顔が気になるところだがここに来た本当の理由があるのだろう?」
「あぁ、お前と契約した事でだ」
アルスはグロウノスから自分の父に殺害依頼が出ている事を教えて貰う
「暗殺ではなく、殺害か……父上を殺すのが目的では無いのかも知れないな」
「そうだな、俺はお前の父がどんな人物かはある程度調査済みだが不正や横領、売春もしていない男だった」
「そこはどうでもいいだろ…………恐らく、父上を殺す事での周囲の影響が目的だろうな」
「父の心配は無いのか?」
「無いと言ったら嘘になるな………父上が惨い返り討ちをしないか心配だ」
グロウノスは大声で笑う、しわくちゃの老人が大声で笑うのを見ると今にも息絶えそうで周りの目は奇怪な者を見る目から徐々に命を心配する目になっている
「おい、死にそうだぞ」
「何を言ってるんだ、中身はこの年齢では無いと言っただろう、まだ18だぞ」
アルスにとってこの魔法学園生活の半年間で一番の衝撃だった
「おいおい、俺は18歳の闇ギルドに入り浸る餓鬼の存在を第三王子に教えた事になるのか………」
「あぁ?お前の方が餓鬼だろ、それに入り浸るだと?これが仕事だ受け入れるんだな。齢18の平民がまさか貴族と王子の後ろ盾を貰えるなんて誰が予想できる?」
「それはそうだが………歳が近いんだこれからは俺の事は一貴族を相手していると思って接してくれ、敬称を忘れるなよ何れ家族に紹介するからな」
「誰が年下の生意気貴族に敬称なんか付けるか、伝える事は伝えた。もう去るぞ」
そう言ってグロウノスは行き交う人混みに紛れていつの間にかアルスの目の前から消えていた
アルスは足早に闘技場の舞台端に戻り次鋒戦の開始を待つ
舞台ではシトリーと下級院Bクラスの生徒が向き合っていた
シトリーは弦が無い一見したら弓とは思えない武器を持っており相手生徒は大剣の様で地面に突き刺している
『王立魔法学園、武闘大会初戦第二戦、上級院Sクラス、シトリー=シス=メルウッドっ!!下級院Bクラス、トーマスっ!!』
会場の熱狂は衰える事無く、とてと初戦とは思えないSクラスが試合をするというのでネームバリューのようなものが働いているのか
次鋒戦だがシトリーの宣言通り魔法の矢数発で終わった
シトリーが弓に手を添えると本来あるはずの弦の部分が青く光り、青く光る弦を弓を射るように引き絞る
弓に水で出来た矢のような物が形成され轟音と共に放たれる
水魔法だろう矢は相手の大剣を弾き飛ばすと共に相手の指を色んな方向にへし折った
相手生徒は蹲りつつも折れた指とは別の手で大剣を握り立ち上がろうとしたが既に放たれた土魔法の矢で相手生徒は吹き飛ばされ完全に意識が途絶えた
僅か二本の矢--------放つのは魔法なので二発かもしれないが
「呆気ないな……」
「あぁ、カルセインの策が上手く働くといいけどな」
オロバスとストレイフの会話は言葉上では心配しているが内心はそうでも無く、会場の雰囲気からカルセインの策が上手くいっていることは察していた
因みにSクラスが圧勝していて分からないがこの試合のルール上、相手を戦闘不能にするだけが勝敗を決める訳では無く、制限時間内があり勿論引き分けも存在する
「ねぇアルス、ストレイフさんって強いのかな?」
「んー、剣だけなら少なくともセレスよりは強いと思うが?」
「それはそうだけど……少しへこむなぁ」
「別に剣だけならだぞ、風の精霊魔法が使えるセレスは魔法で圧倒できるし使い方次第だよ」
「アルスが言うなら安心だわ」
「別にセレスが戦うことなんて無いだろうし、あっても学園だろう?学園外は俺が代わりに戦うし、守る以前にまず危険な目に合わせないよ」
アルスとセレスの何気ない会話はいつの間にか痴話のようになっていた
「ちょっとセレスとアルス、ここはイチャイチャする所じゃないわ、あとアルス、守る以前に危険な目に合わせないって何よ、せめて君を守るくらいにしておきなさいよ。何だが言い方が怖いわ」
「別にイチャイチャなんてしてないわ、ねぇアルス?」
「あぁ、していない」
アルス達Sクラスの雰囲気も二度の勝利で緊張が解け明るくなっている
シトリーの勝利から直ぐに切り替わり中堅戦が始まろうとしていた
「ストレイフさん、負けないで下さいよー」
そう声を掛けたのはセーレだ、セーレが扱うのは双剣であり今回の試合には向かないということでアルス達と一緒の観戦組だ
「あぁ、当たり前だ。手を抜いたりはしない」
親が来ているというのはそこまでプレッシャーを与えるのだろうか、アルスには理解出来ないがストレイフは目の前に迫る試合にのめり込むような集中をしている
舞台に上がると観客席から歓声が上がる、ストレイフは優れた体躯に整った顔つきをしており、王国騎士の頂点にいる父親を持っており王国の中では相当人気な様だ
『武闘大会初戦、第三戦、上級院Sクラス、ストレイフ=シス=デルドリアンっ!!下級院Bクラス、エンリケっ!!』
明らかにストレイフの時の方が歓声が大きいが両者特に気にした様子は無い
『これより初戦、中堅戦を始めます。両者構えっ!!』
ストレイフが剣を抜く、相手生徒も槍を構える
『始めっ!!!』
ストレイフが地面を蹴りエンリケに肉薄する、アルスがよく見る剣術だ
ストレイフの剣術は身体の動きから剣の構え方まで他の流派が混じっていない純粋な王国流剣術
純粋故の強みもあれば弱みもある
王国流剣術はアルスが使う旧王国流剣術から自傷攻撃をそのまま抜いたような技だがそれだけで成り立ってしまう
ストレイフは魔法剣にまだ魔法を込めていないが魔法無しの正々堂々の勝負がしたいのだろうか
エンリケも特殊な型とかでもなく、一般的に知れ渡っている槍の捌き方をしている。因みにこの闘技場に今回来ている近衛騎士団長も槍の神器を使うが果たしてどんな使い方をするのだろう
ストレイフの剣戟は目を見張るものがあり、アルスですら驚く剣戟で的確にエンリケの槍の刃に剣を当て弾き、流し、受け止めている
(………お?ストレイフの圧勝かな)
ストレイフの剣が的確に冷静にエンリケに打ち込まれるのに対してエンリケは捌くのが手一杯になってきたようだ
エンリケの顔に焦りが伺える
アルスは既にエンリケのスキルを視ているが多少魔法が使えることは知っているが、焦りからかエンリケからは魔法を使おうとする挙動は一切見られない
ストレイフの重くて”早い”攻撃にエンリケは遂に槍を弾き飛ばされてしまう
ストレイフの剣の柄頭がエンリケの鳩尾に入る
エンリケはその場で崩れてストレイフの勝利と共にSクラスが二回戦に進むことになった




