【1章・冥土ノ土産ならぬ冥府のお土産】2
ガーネット殿下が王族だからか、一人で洗礼の儀式の間に入って行った
洗礼の儀式とは不思議なものだ、こうも簡単にスキルが得られる。まるで
“神の御業”
そう思わざるを得ない。それに秘匿する程なのだろうか、世の中に魔物が蔓延る中ら冒険者などに受けさせた方が魔物被害など減っていくのではないか
アルスが教会の中で一人考えを巡らせていると、“何か”からの此方を見つめる視線を感じた
(何処だろう?)
辺りにはアルスとクシャトリアしか居らず、此方に視線を送る者は見当たらない
決して気の所為などでは無い。クシャトリアの気にした様子も無い所を見るにアルスだけが感じている視線なのだろう。もし、見つめている“何か”が教会の内側に居るならば護衛として障害を取り除かなければならない
そう神経を張り巡らせていると儀式の間の扉が開いた
ガーネット殿下が司祭らしき人物と歩いて出て来た。表情を見るに悪い結果では無い事は分かったのだが安心出来ない。やはり精霊魔法関連の魔法スキルを得たのだろうか
「いやー、殿下はとてもいいスキルを得られた」
「ほぅ、ガーネット殿下どうでしたか?」
クシャトリアは結果が気になる様で笑顔で問い掛ける
「まぁ、予想通りでしたわ」
とても嬉しそうな顔をしている
(へぇ、やっぱり精霊魔法なのかな、鑑定したいな…)
「お次はアルス様の番ですね、私に付いてきてください」
俺は司祭に連れられて儀式の間に入っていく、儀式の間はとても煌びやかで中央に巨大な石像がある。エスト神聖王国で崇めている神
“ウルスニドラ”を模した物だという
エスト神聖王国では主神として崇められている神らしいが、洗礼くらい平等に受けさせてやれよと思ってしまう
白装束を身に纏ったアルスは石像の前に膝まづいて聖水を浴びた
「主神の御加護を」
司祭の言葉と共に目を瞑り、心を鎮める
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
突然動悸が止まらなくなる、尋常ではない圧迫感に襲われアルスは目を開ける。人生二度目の思考停止だ。白装束で教会に居た筈の俺の体はいつの間にか護衛のため身に着けていた軽装で空は萌葱色 浮かぶ雲は真っ黒、荒廃した地面に薄浅葱色の 雑草が所々生えている謎の場所に居たのだ
状況整理をしようと辺りを見渡そうとすると不意に後ろから声が掛けられる
『おい、貴様…“神”の遣いか?』
声が掛けられた方に振り向くと人族の頭蓋骨の様な顔面を持ち二mはあるだろう身長に、黒いローブを纏い右手に等身大ほどの大鎌を持った男?が居た
この時アルスは確信した。この男?から出ていた圧は最初に感じた圧迫感の正体だと、そして、教会での謎の視線の正体もこの男?だという事に
『答えよ、貴様は“神”の遣いか?』
「違うと…思います」
『では何故、貴様は一度死んでいる?』
なぜこの男?は自分が一度死んでいることを知っているのだろうか、“神”なのだろうか、もし、神だとしたらここは何処なのか、御伽噺のような神界なのだろうか、見るからに禍々しい雰囲気を出しているローブの男からはそうは思わない
「分かりません」
そう、本当に分からない自分が何故死んでから5年後の世界にいるのか、それもニヒルとしてでは無く、アルスとして
『そうか…“異世界”から来ている訳でもないからな…』
『異世界転移という訳でもないな………』
『うむ…“転生”か…』
『“神の誓約”は有効なのだろうか…興味深い……』
目の前の男?は独りでに頷きブツブツ何かを呟いている。
『自己紹介をしていなかったな、我の名はハデス、冥府の管理者であり、魂の管理者である』
目の前の男?はハデスというらしい
「ハデス様、少しお聞きしても宜しいでしょうか」
『許す』
「異世界、異世界転移、転生、神の誓約とは一体何なのでしょうか」
取り敢えず分からない単語を聞いてみる
『良いだろう』
~数分後〜
俺はハデスから異世界、異世界転移、転生、神の誓約について話せる範囲で話して頂いた、中々興味深い話を聞くことが出来た。
“異世界“とはアルスが生きている世界とは全く違う世界の事らしいお互いの世界はお互いに干渉せず、普通に生きる程度なら知る事すらない世界の事らしい。
“異世界転移“は異世界の人物がこの世界に召喚魔法などで召喚される事らしい、召喚された人物は強力なスキルを持つ事が多いのだとか、異世界転移の者を神の遣いと呼ぶこともあるという。
“転生“はアルスのような存在の事らしい、死んでから生まれ変わるただそれだけの事らしい、しかし、異世界から生まれ変わる者、アルスの様に現地で生まれ変わる者の二つのパターンがあるらしい。
“神の誓約”は様々なものがあるらしい、基本的に
1 人族は神を殺せない
2 神による永遠の監視
3 人族へのスキル付与
等があるらしい、アルスは神の誓約という単語を聞いた際スキル付与が貴族のみが行える事が誓約によるものだと考えていた、しかし、そんなものはなく、教会あるいは国に情報規制されているだけであった
嘗て主神が人族と交わした誓約は三千年も前に遡る。大陸に蔓延る魔物、それを統括していた魔王を倒すため神自らの保身と人族に平和を、と交わされたものであった
しかし神の誓約を利用した他の神が地上に降り、地上で好き勝手をする様になる
三千年の中で、国が滅び、分裂し、建国され、また滅び、誓約の内容を知る者は時代と共に少なくなっていき、主神以外の神は地上で権威を奮い、何も知らない人族はそれを崇める、正に負の連鎖が続いた、神による主神への冒涜ともとれる行為に主神は怒り、“神の誓約”に囚われないものを二つつ生み出した。 異世界の人族を召喚する魔法 と“神器”と呼ばれる神をも殺す武器を
神器の数は五つ
神槍ゲイボルグ
聖剣カリバーン
聖杖エスト
魔剣アロンダイト
神弓アポロン
各国の団結と魔法、そして神器のお陰で大陸が平和に包まれた
しかし、人族は国同士を団結させ掴み取った平和を直ぐに捨てる事になった。魔王が去った事で、人族が生活できる範囲が広がったことで領土を巡り戦争が起こった
各国は領土を巡り国同士で壮大な殺し合いをした。この時、神の誓約を知る者は既に数える程しか居らず、偽物の主神を背後に欲求のままに大陸の土地を争ったのだ
現在実在が確認されているのは神槍、聖剣、聖杖の3つである。神槍はアルスのいるアトランティス王国の近衛騎士団長が、聖剣はオニキス共和国の勇者が、聖杖はエスト神聖王国の聖女が持っているのを確認されている。アルスが実際に見た訳では無いため人伝に聞いた話だが恐らくそうなんだろう
ハデスの話によると神器はその強大な力故に、代償として、大きいものを失わなければならないという、これもセバスと父上情報だが神槍を持つ近衛騎士団長は 聴覚、触覚 以外の、視覚、味覚、嗅覚が無いとの事
視覚と味覚、嗅覚無しにどうやって近衛が務まるというのか…相当な化け物なのが伺える
他の神器保有者がどんな犠牲を払ったのかは分からないが、きっと化け物なのだろう…
残念ながらアルスも神の誓約が適用されているらしい、アルスは目の前のハデスがどんなスキルをくれるのか心躍らせながら聞いてみる
「俺にはどんなスキルを得るのでしょうか?」
『知らん』
「えっ?」
会話が成り立っていたのかすら怪しい程変な声が出る
『スキルを付与するのは神で、我も神の末端だが我は付与できぬ』
「で、では……何故俺は此処に…?」
『とても興味深かったから呼んだ、我以外生きて出入りが不可能なこの空間に生きて入っている事は誇っていい事であるぞ。それに……』
「それに?」
ハデスは何か言いにくそうにな雰囲気を出しながら告げる
『神器を欲しくはないか?』