【2章・王立魔法学園】8
二人の少女が学園の中の生徒会室で椅子に座り紅茶を飲んでいる
「ミナ、見た!?」
「見た見た!アルス君消えたよね!?」
「時空間魔法かなー?」
「そうかもー」
「どうする?会長に言う?」
「んー、時空間魔法を持ってるのはもう知ってるからいいと思うよー」
「ならいっか」
二人が結論を出した時、生徒会の扉が開く。入って来たのは会長のアナスタシアと副会長のゼロだ
「今から生徒会会議を始めるわよ」
「珍しいな、何を話し合う?」
生徒会では時々この様に全員で集まって学園に上がる問題などを議論して対策案、代替案を出すのだ
「皆はAクラスに剣聖のスキルを持った子が居ることは知ってる?」
「あぁ」
「「うん」」
「どうやら、同じAクラスの子と喧嘩になったらしくてね。喧嘩したAクラスの子が大怪我をしたらしいの」
「へぇ、剣聖スキル持ちがAクラスなのがまず驚きだが今回の剣聖は気が短いのか?」
「「今回、実技で試験官に勝ったのはアルス君だけだけど、今回の剣聖君もいい勝負してたよ。多分筆記の点数が悪かったんだね」」
「そうね、剣聖スキルは決して弱いスキルではないわ」
「でも、スキルが喧嘩の理由なのか?」
「いえ、試験の順位よ。怪我した方は剣聖のジャレット君より順位が上だったらしくて……」
「良くある一年生の喧嘩だな、下級院ではそんな事一切無いらしいんだがな」
「「そんな事を会長はわざわざ議論するって事は何か他に問題があるんだよね?」」
「そうよ……怪我した子の名前はゴードン=セーズ=ヘルブリンディ……学園長の孫よ」
「………そういう事か」
ジャレットが怪我をさせた生徒はこの学園の学園長であるジオ=セーズ= ヘルブリンディの孫であった
学園長の孫はジャレットに貴族としての決闘を申し込んだ
貴族の決闘は単純な一騎打ちだが決闘で負けたら勝った相手の条件を必ず飲まなければいけない。決闘で相手の条件に従わない場合国から貴族位の剥奪と罪人として投獄される
「決闘の条件は?」
ゼロが聞く
「怪我した生徒側はジャレット=セーズ=アムステルダムの学園追放。ジャレット側の条件はSクラスへの転入が条件よ」
「なるほど……学園長はなんと?」
「生徒会に任せると」
今回怪我した側の条件は過去数回同様に出された物だがジャレット側のSクラスへの転入は初めてなのだ
それもそのはず基本的には決闘での条件は決闘相手に出されるもので他人や他の物を巻き込むことは出来ないはずだからだ
しかし、今回怪我したのは学園の取り仕切る学園長の親類に当たるため学園に関する内容も条件としては不正では無いのだ
「これは……ジャレット君…狙ってたかな?」
ゼロが笑いながら言う。ジャレットはスキルだけで言えばSクラスに入れるだけの素質がある
それが惜しくもSクラスに及ばなかったが喧嘩を売ってきた相手が学園長の孫だとはどんな偶然だろうか
「しかし、この問題例年であれば許可していただろうな。しかし今年は王族がSクラスに居る、例年とは事情がだいぶ異なる」
「あぁ、まず剣聖は確実に学園長の孫に勝てるだろうからな」
「そう簡単にSクラスに入れる事は出来ない…」
「難しいな…」
決闘の件は保留となった
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エスト神聖王国とストロヴァルス帝国の国境
国境では停滞していた戦線をアトランティス王国の炎帝と雷帝が参戦した事でストロヴァルス帝国が少し押していた
雷帝は前線を上げてもエスト神聖王国が反撃して来ない事に疑問を抱いていた
「おい、炎帝これをどう見る?」
「恐らく…我々に勝てないと踏んで撤退したのでしょう」
「敵軍に殴り込みに行くか?」
「いえ、ここは待機でいいでしょう…敵も策が無い訳ありません、無闇に突っ込んで死ぬ訳には行かないでしょう」
国境の砦で寛ぎながら喋っている二人をエストのSランク冒険者は部屋のすみから眺めていた
(王国の炎帝と雷帝……随分と若いな…リーダーに報告するか…)
いつの間にか居なくなっていた冒険者は部屋の誰にも気付かれること無く去っていった
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エスト軍では大勢の兵が後方に周り、代わりに冒険者が前線を張るという大規模な作戦変更が行われ、正に前線と後方が入れ替わる時だった
「おぉビックリしたぁ!チカどうだった?」
「問題ない、アトランティス王国からの援軍は炎帝と雷帝の二人だけだった」
「マジか……首取れそうか?」
「無理、部屋まで入って話を聞いていたけど此方の国の作戦も予想していたし、私も実は気付かれていたかもしれない」
「チカがバレるなんて事今まで一度もなかったぞ」
「油断大敵」
「そうか、ご苦労さま二人も奥で休んでるからチカも行ってこい」
この冒険者は最近エストでSランクになった冒険
者《C4》
リーダーがカカオで剣を扱う。先程チカと話していた男だ
セトは魔法を使う
ケイスも魔法を使う
チカは斥候、偵察を担当している。直接戦闘することは少ない
今回エストに参加したSクラス冒険者は3組でエスト全てのSランクが集結している。《C4》もその一つで1組は別の国境を守護している。残り1組はどちらかが敗れた場合の保険として後方待機である
その内ストロヴァルス軍は攻めてくるだろう一時的な安泰だが、その安泰を壊す様な青年の声が響く
「そうそう、こっちはそっちの作戦知ってるし君の仲間が俺達の話聞いてる事は聞いていたよ」
突然響いた声に警戒するカカオ
「誰だっ!!」
「待ってな、今行くから」
けたたましい轟音と共に一人の青年がカカオの前に立つ距離は1メートルあるかないかの距離だ
「…なっ……はぁぁっ!」
カカオが目の前の青年に剣を振る
「遅いよ」
雷を帯びた青年の右腕がカカオの脇腹に貫通する
「…っぐっ」
「何事だっ!」
奥のテントから男が一人女が二人出てくる。女の一人は少し前に雷帝と炎帝の話を聞いていた女だ
「カカオっ!」
「貴様は、ら、雷帝どうしてここがっ!?」
「敵を偵察する時は後ろに気を付けろ、俺は音には敏感だ”近衛騎士団長”程では無いが」
「カカオを離せっ!」
カカオの脇腹からは血が垂れ流れている数分で失血死するだろう。助かるには今直ぐ止血する必要がある
「大丈夫だ、エストの情報を教えてくれれば離す」
「は、話すっ、だから離してくれ」
雷帝エル=ドゥ=フェルはカカオの腹に刺していた腕を引き抜き、チカに投げ返す
「な、なんの情報が欲しいんだ?」
「エストの体制と現法王と前法王について、知っている事全てだ」
「いいだろう……エストはここ数年で法王が変わり大きく変わった、政治から軍まで全てだ」
ここで雷帝があっさり、カカオを渡した理由は目の前居るのが冒険者だからである
冒険者は国から雇われただけ、軍特有の国に対する忠誠などは持っていない冒険者が多い
自分達の保身を好む冒険者はしっかり条件を差し出せば従ってくれる冒険者が多い。例えそれが敵国の冒険者でもだ
「前法王はどうなった?」
「それは正直詳しく知らないんだ……今のリクス法王が殺したとかの噂もあれば、ただ退位しただけとの噂もある……」
「お前達C4は調べないのか?」
「調べたら聖騎士に殺されちまう、危険はなるべく犯したくないね」
「なるほど、やはり今の法王は危険だな早めの対処がいるな…………ありがとう、助かったC4のリーダーには謝っといてくれ」
ゴォウゥ
雷帝が去る、その場所には瀕死のカカオとC4のメンバーだけが残っていた
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上空では雷帝が『迅雷』で空中を移動していた
(鑑定持ちが欲しいな……でもスキルレベルが6以上ないと厳しいかな……魔法で移動手段がある奴も欲しいな…高望みし過ぎかなあ)
雷帝は数秒で王都に着く。数人の騎士に迎えられ王城に入ると一直線に玉座の間に向かい、扉に控える騎士に言う
「陛下に謁見を」
「はっ!」
騎士が玉座の間に入って出てくるまで数分
「陛下の許可が出ました、どうぞお入りください」
「ありがとー」
雷帝が玉座の間に入る。中には数人の家臣と王太子と国王に近衛騎士団長が居た
「どうしたエルよ、そんなに急いで」
「陛下ーいい鑑定スキルを持った奴と魔法での移動手段を持ってる奴知りません?」
相手がその国の元首でも変わらない口調は流石と言うべきか
「んー、誰か知らんか?」
国王が周りの家臣や王太子、近衛騎士団長に尋ねる
「アルス=シス=エルロランテはどうでしょう?」
一人の家臣が言う
「確かに移動手段はある、しかし効率が悪いだろ」
もう一人の家臣が反対する
「そうだな……ん?確かエルロランテの息子は雷魔法使えなかったか?」
国王が家臣に聞く
「そうです!アルス=シス=エルロランテと言えば今年雷魔法『雷霆』の無詠唱で首席になった奴ですよ!」
この発言に反応したのは誰でもない雷帝エル=ドゥ=フェルだ
「随分と面白そうな奴じゃないか、そいつ借りれるか陛下」
「駄目だな」
「えーどうしてですか?」
「エルロランテの息子にはガーネットの護衛を任せている。本人も学業に没頭中だ。貸してやりたくても貸せん」
「んーそれは確かに無理だな、でも王女の護衛か……益々興味が湧いたよ」
「それでは陛下、俺は戦争に戻ります。途中報告ですがやはり今回の法王交代で何やら起こったようです。では」
雷帝が玉座の間を出ていく
(アルス=シス=エルロランテ………いつ会いに行こうかな……)
次回はエルロランテの幕間です。5年前の話を少し




