【7章・紫電】6
どうでしょうか、少し作風というか字面というか構成を変えてみました。自分はなろうでしかWEB小説は読んでいないもので他を語る事は出来ないのですが、今回変更したものはWEB小説の書き方としては馴染み深い一般的なものだと思うんです。
読みにくいな、など思ったら気軽に報告を下さい。
最後にいつもご覧頂き誠にありがとうございます。本当に感謝しています! じゃみるぽんでした。
「第ニ師団魔法大隊所属アルバート、アルス=シス=エルロランテ中尉率いる特別護衛小隊の方々と共に参上しました」
「入れ」
流石に大尉への昇格という最新情報はこの最前線まで届いていない様で、アルスは中尉として紹介されてしまう。これ自体は仕方の無い事で、いちいち指摘していては初対面の相手に自分が高慢な性格だと自己紹介する様なものだろう。
将軍二人との初対面をその様な形で迎えるのは心苦しく思ったアルスは前に出て喋ろうとする分隊長達をハンドサインで鎮めた。
「でも隊長……」
「――いい。起きた事は仕方無い」
「いや、何を言っているんで……」
デュークの言いかけた台詞を遮る様にアルスは敬礼をする。師団を指揮する程の高官が作戦を練る部屋にしては簡素であるこの小部屋に小隊が足を揃える為に立てた足音が一つの音となり響いた。
「エルロランテと言ったな、貴殿が我々の救援を受けたのか?」
「はっ」
「特別護衛小隊は王家の護衛を務める部隊の筈。何故此処まで出向く事となったのだ? そして何故此処まで”早い”?」
「王命です。そして直ぐに動く事の出来る部隊が我々しか居なかった、というより全王国軍の中で我々が最速で救援に向かえるから――ですね」
「それは魔法だな? あの時空間魔法を連発出来ると?」
「体調次第では此処から王都まで十往復は可能です」
勿論それ以上も可能だが変に警戒しされては困る為に過小に伝える。正直現在の魔力量はそこまで多く無い為に意地を張って実は百回の使用が可能だとか、二百回までなら余裕だとかは豪語出来ないアルス。そしてそれを横からチラチラ様子を伺うセレスティーナはアルスの魔力が少なくなっている事に気付いているのだろうか。精霊魔法士であるセレスティーナ程魔力に精通していれば他人の魔力量も測れるのか、定かでは無いが聞いてみる価値は十分にあるだろう。
「何と……おっと、申し遅れた。アキレウス=サンク=ベイルートだ。隣に居るのが……」
「ヴィンセント=セーズ=エードリッヒだ。娘とはもう会ったかな?」
固い握手を交わす三人の間では階級や身分といった”区分”や”壁”が取っ払われ、独特な雰囲気の空気がほんの一瞬流れた。
「ハハハ……すまない、セレスティーナ嬢の前で話すべきでは無かったな……」
「おいおい、一瞬焦ったぞエードリッヒ……」
「私は構いませんが……アナスタシアさんの事ですよね?」
誰かが息を深く吸い込み、胸一杯に溜め込んでその一部始終を見守ろうと三人を凝視する。
「えぇ、アナスタシアとアルス殿は特別な関係だったと知人から聞き及んでいたもので……」
硬直するアルス。身に覚えが無い事は勿論、目立つ事無く学業を終える予定だったアルスに”匂わせ”だとかの動きも見られなかった筈。
硬い金属一枚で覆われたこのヘルムだけがこの場の苦しい視線を遮ってくれる。
「特別とは……「どの様な?」」
「え、それはもう…………”親密な”」
親密。その単語が発せられた直後、突如としてヘルムを脱いだアルス。
「ガハッ! ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
地面に片膝から崩れ落ちて過呼吸になる。傍から見ると何が起こったのか全く理解出来ないものだろう。それはそう、アルスは緊迫する空気感の中、孤独に二酸化炭素で満たされた自身のヘルムと格闘していたのだ。犯人は勿論セレスティーナと契約を結んでいる風の精霊シルフィード。
悪戯か、怒っているのか、突然呼吸が苦しくなったアルスは本来数秒で気絶し、死に至るその小さな空間の中で十数秒耐え凌いでいたのだった。
「「「隊長ッ!」」」
小隊の騎士達に駆け寄られるアルスだが倒れる寸前で何とか意識を回復させ、膝に手を突きながら立ち上がる。
「大丈夫だ。少し目眩が…しただけだ」
「長旅で疲れたんだろう。それに時空間魔法は発動にとてつもない魔力を消費すると聞く……休んでくれ、アルス=シス=エルロランテ」
「――いえ、問題ありません。お話ししたい事もありますし」
「な、何だ?」
「簡潔に説明します。此処の偵察に動いていたエスト神聖王国軍の先遣隊、三百六十五名の内、拠点を出ていた十名と部隊の指揮官、副官を除く三百五十三名を排除。本隊の襲撃を遅らせる事は出来ましたが安全に本国へ帰還するにはそれでも時間が足りません。直ぐに安全な砦まで撤退しましょう」
淡々と話すアルスに驚くのはセレスティーナ以外の全員だ。あの場に居なかった人間は信じる事が難しいだろう、魔法学園の首席で、若き小隊長、稀有な魔法を幾つも保有する魔法士、次代の雷帝などなど。彼を高く評価する言葉は多くあってもそれが今まで信じられているのは目撃者、つまりは保証人が居たからであって元から”信じられない驚き”の話である事には変わりなかったのだ。
ざわつくこの部屋で、頭を抱える将軍二人。
突然意を決した様に強く頷いたエードリッヒ侯爵は一歩、アルスの方へと歩み寄って灰色の瞳を覗き込みながら言う。
「私はある程度君の話を色々なところから聞いているから、突拍子も無い現実離れな話には耐性がある。――仮にだ、君の話を信じるとしても気になる事が二つあってな、聞いて良いか?」
「はっ。なんなりと」
「拠点を出ていた十名というのは先遣隊の中の先遣隊、斥候という事で間違いないか?」
「間違いありません」
「ではもう一つ。何故指揮官と副官を”生かしているんだ”?」
この聞き方ではまるでアルスがわざとあの幼い指揮官と老年の副官を生かしているみたいではないか。
「はっ。それは……」
そう実はこれ、故意的に生かしているのだ。アルスの持つ戦略の一つに”明確な復讐対象を作らない”というものがある。これは言葉の通りだが相手、もしくは相手の親族に恨ませない事を目的とした作戦。戦争という何処に矛先を向けるべきか曖昧な現状況こそ本領発揮するものなのだ。
親を殺された恨みや子を殺された恨み、更には兄弟を殺された恨みなどは悲しみに暮れる当人に絶大な復讐心を与え、簡単に言うと”強化”される。
今回の例を挙げて言うと指揮官である少年は生かしている事でエストにある自分の家に戻った際に殺された恨みなどは買わないだろう。そして本人だが、精神を破壊している為復讐に走る事は無いと言える。
たった一夜、一時間にも満たない時間で三百五十三名の部下が戦死したのだ。その衝撃と負荷は到底あの若さで耐え得るものでは無い。
「指揮官、副官の帰還は結果はどうであれ喜ばしい事。そうですよね?」
「ああ、確かにそうだな」
「自分が恐れたのは指揮官という大きな存在を殺すという事によって生まれる復讐心や士気の向上です。”指揮官と副官が生きているからまだやれる。再編して立て直そう”エスト人にはこの気持ちで居て欲しいのです」
「――狂っているのではないか? アルス=シス=エルロランテ」
「大尉で結構です」
「じゃあ大尉、その……本人はどうなんだ? 指揮官本人の復讐心は無視か?」
さりげなく昇格している事についての紹介を交えるが気に留めない将軍達。
「その指揮官は幼かった。部下が殆ど殺されたという事実で戦場に立つ事はおろか、立ち上がる事すら出来ませんよ。精神攻撃です」
「幼い……か……」
既に盛りを過ぎた年齢である将軍達にはアルスでさえ、幼く思えてしまう。そんな彼等に腰程の身長しかない指揮官なんて信じられる訳無かった。
「話を戻します。先遣隊を排除したとはいえ、まだ騎士の数が何倍もいる本隊が後ろに控えております。撤退されますか?」
「君達の小隊はどうするんだ? 殿となるのか?」
「ベイルート! 我等第二、第三師団命の恩人だぞ……」
つい数秒前までアルスの報告に驚いていた一向だが事態の深刻さは理解している様で、アルス達に殿を務めて欲しいという願望が見え隠れしていた。
「――御要望とあらば」
「なっ!? 本当か……?」
「本音を言うのであれば自分達も共に帰還したいのですがね。我々特別護衛小隊の任務は元から追撃の足止めであって撤退の援護です。まだやり残した事が多く残っているのですが……仕方の無い事でしょう」
「此処に来てまだ冗談が言えるとは……恐ろしいぞ」
紫髪を軽く揺らし再びヘルムを被るアルスとそれを黙って見つめる人間で沈黙が生まれる。
「撤退だな」
「うむ。そうだな、全員でだ」
「そうだ悔しいが国境の戦線を後退させるぞ」
「「「はっ!」」」
そうして第二、第三師団は甚大な被害を被ったものの壊滅には至らず、国境付近数キロを侵攻される程度で抑え込む事に成功した。この判断は英断とされたが、それぞれの陣営で共に悪魔の存在が囁かれたという事も同様に注目を集めたのだった。
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