【7章・紫電】2
どうやらSimejiで文字を打つのはやめた方がいいかもしれないですね。下書き上では出来ていた一字下げが出来ていなかったと今現在確認しました。悲しいです。
「陛下、宜しいでしょうか?」
「何だフロイド。何か案でもあるのか?」
「今直ぐに動ける部隊はそう多くない。王都に駐屯している第四師団も歩兵が大半で、機動力は皆無に等しい。そこで機動力も有している適任一人、いや一つの小隊を指揮する者が彼処に」
近衛騎士団長が指を差した先にはアルス。真隣に居るセレスティーナでさえアルスの突然の指名に驚いているが当の本人は全く動じていなかった。
「アルス君………か、今ガーネットは何処に居る?」
「王宮でお休みになられているかと」
「いくら特別護衛小隊が優秀だとしても数が少ない。追撃の足止め程度しか期待は出来ないぞ」
「元からそのつもりです。既に撤退しているという状況にあるのならば戦況を巻き返す事など万の騎士でも居ない限り不可能に近い事だというのは承知でしょう?」
「うむ。しかしなぁ………」
数秒の沈黙。
「-----我は以前君を信じていると言ったな、アルス=シス=エルロランテ」
「はっ」
「今でもそれは変わらんが、君の圧倒的な強さは我に疑念を抱かせる。ガーネットを安心して任せられるのは良い事だ、しかしその強さで謀反を起こされては……」
「陛下、私は……「聞けっ!」………はっ」
「元々、特別護衛小隊というのは君とガーネットを繋ぎ止めるもの、君には王国から離れて欲しく無い。行く行くは共に王国を支える柱となって欲しい、それも今までとは違った新しい柱でだ」
これが新しい公爵家の設立を比喩しているというのは全員理解出来た。そして、アトランティス王国第三王女の相手も、認めたく無いという思いを抱く者も居たかもしれないが事実として誕生してしまった。今まで噂程度で囁かれていたガーネットの婚約は現実味を帯び、眼前に迫っていたのだ。
アルスは指輪の記憶を通してウルグと国王が激論を交わしていた事を知っている。国王はその会話の中でエルロランテ家がアトランティスを出るという手段を有していると予想を立てていたのだろう。そしてそれを恐れた。エルロランテ家の何を知って、アルスの何を知っているのかは現状分からないものの、実力の半分は知れていると考えた方が良いだろう。
”シス”という貴族名で乖離した存在となったエルロランテ家はその称号を与えられた時に逃げるべきだった。
「ガーネット殿下不在で出陣致しますか?」
「うむ。だがしかし、か弱い精霊魔法士でも不在となれば部隊としての損害は大きいだろう、多少の引き抜きは構わない。何か希望はあるか?」
「セレスティーナの同行を」
「-----許す。アーバンドレイク公には自分から言うのだぞ、他には?」
「有り難き幸せ。-----では一つ具申させて頂きます、ガーネット殿下はか弱くありませんよ。彼女も学園最高位の成績を収める人間です、それに魔法に特化した彼女に馬での長距離移動は酷なものですし、初陣での殺人は精神的にも疲労が蓄積します」
「それにしてはアルス君、君は疲弊していない様に見えるが?」
「殺人は初めてではありませんし、体力には自信があります」
「まぁ……いい。我は君達の口から直接良い報告が聞けるのを待っている」
「「はっ!」」
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
〜王城、エーベルシュタイン家執務室〜
ギリギリギリギリ
エーベルシュタイン家の執務室で何故かアーバンドレイク家の当主であるフェビオ=ディズヌフ=アーバンドレイクから激しい首絞めを喰らい、顔を青くしているアルスの前に座る青髪の女はアルスとセレスティーナ達が向かう救援に興味津々の様子で、紅茶を飲みながら作戦の参加を頼み込んでいた。
そしてそれを眺めているのはアビゲイルだけでなく、オーギュスト=ネルマンディー元帥も何故かこの場に居た。
「アーバンドレイク公、お願いします………セレスには指一本触れさせないと誓います………そして無事に帰還します………お願いします………」
「一度それを飲み込んで戦況把握の為の資料を各地から集めてやっているんだ、一度くらい私に殺させろ!」
「ちょっとお父様っ!」
「良いんだセレス………こうなる事は分かっていた………」
「分かっていて陛下に言ったのか!? このぉ…!」
アルスの持つ【時空間魔法】を使っても現場の把握は不可能に近い。向かったその場で魔法が飛び交っていた場合、アルス単騎ならまだしも小隊という大人数では被害が出てしまう。
「アーバンドレイク公よ、其方の騎士が来たぞ」
「その様ですな、感謝しますネルマンディー元帥閣下。やはり貴方の情報網は頼りになる」
「世辞はいい。今は戦争中、互いの協力が大切なのだよ」
偶然か、三大公爵家が集結したこの場で中心に立っているのはアルスでその公爵家の面々が協力し合っていた。
「旦那様、現在判明している被害を纏めた資料が此方です。そして、これが残存戦力の内訳になります」
滅龍騎士が大量に抱え込み、中央のローテーブルに広げた資料には断片的な現場記録が山程記載されていた。アーバンドレイク公爵もアルスの首を固めていた腕を解いて資料を見るように促した。
「有難う。アルス君、これを見たまえ」
「はっ」
アルスは先ず残存戦力の内訳であろう資料に目を通し、『空間移動』に必要な座標を判明する限り割り出していく。
「把握しました。此処の丘陵地帯ならば安全に移動可能で、周囲の状況把握も容易でしょう。見た所騎馬隊が極めて少ない様に思えますし、魔法部隊は敵と距離が縮めば縮む程壊滅の危険があります」
「そうだな、第二師団の魔法部隊はどの隊も優秀だが逃げ切れるかどうかは怪しいところだ」
「セレス、外に居る俺の部下を呼んでくれないか?」
「分かったわ」
ソファに深く座り込んでいたセレスティーナを扉へと向かわせて、外に待機している特別護衛小隊、第一分隊長のデュークを呼ぶ。
「お呼びでしょうか小隊長」
「ああ、今移動先の座標を確定したところだ。各分隊に連絡を”装備を整えて城門前にて待機”と。あとこれを全員が目を通しておく様に」
「はっ! 最後に確認を、殿下はご同行なさらないのですね?」
「そうだ。陛下からの許可は降りている」
「承知しました。それでは五分後城門で」
「ああ」
ガーネットの初陣という任務を終えた特別護衛小隊は全員鎧を脱ぎ、軍服を着ていたのだが新しい略綬が胸に付いているのをアルスは見逃さなかった。エストとの戦争に従軍した証の戦役章だ。少し気の早い気もするが文句は言えない。
「アーバンドレイク公、元帥閣下、アビゲイル、必ずやこの場に吉報を届けます」
「別に失敗しても良い、セレスと無事に帰って来ればそれで良い」
「はっ」
「私も着いて行きたかったな〜。駄目?」
「駄目だ。アビゲイルは別の任務があるんだろう? それに専念しろ」
「ちょっと、何で知っているのよ……!?」
それぞれ鎧を着ながら喋り、着終えると公爵と元帥二人に敬礼し、もう一人に手を振りながら部屋を出るアルスとセレスティーナ。限られた人間にしか情報が行き届いていないのか、第二、第三師団が窮地に立たされている事など知らない様子の騎士が歩く城内の廊下を歩いて行く。
「アルス、私は戦場に立てるのかしら?」
「それはどういう意味で?」
「瞬きの間に死ぬ人々を私は見届けられるのかって。今更自分が生き残れるかなんて疑問は捨てたわ、でも見知った人達が死ぬのを見るなんて耐えられない……」
「目を背けるのか?」
「え?」
「大切な人が死ぬ時に、その最期を見届ける事こそが全ての始まりだ。復讐も、後悔も、見ない事には何も始まらない。まぁ、そんな悲しい始まりなんて誰も望んではいないけど」
外では雨が降り出して、時刻も六時を回っていた。悪天候とは言えないものの、地面のコンディションは最悪で移動先の丘陵地帯で雨が降っていない事を願うばかり。
「小隊長、全隊準備が整いました。渡された作戦資料も全員が目を通しており、把握済みです」
「上出来だ。呑気に歩いて此処まで来た俺が言うのは怒られそうだが、事態は一刻を争う」
「「「はっ!」」」
「追撃をする神聖王国軍の士気は最高潮である事や王国軍の撤退時の士気の低下を加味すると先ずは戦線に乱入するというよりも敵の本部を叩いて神聖王国軍に混乱をもたらす事が望ましいというのは資料に書いてあったな?」
「「「はっ!」」」
「移動先の座標も考えると本部を叩くのは俺単騎が相応しいという訳だが人員を追加する、隣に居るセレスティーナ=ディズヌフ=アーバンドレイクだ。以上」
少し困惑するセレスティーナをアルスの愛馬であるエクリプスに乗せるとアルスは即座に『空間移動』を発動した。
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
〜エスト神聖王国、丘陵地帯〜
願いに反して雨が強く降り注ぎ、稀に雷光が黒い空に光るこの天候は王国軍の撤退の足を遅らせている事だろうと予想が着いた。
「先が見えない天候だけど、両軍共此処に居ないのは確かね」
第二分隊長であるレイラの呟きに各々が頷くと共に真上では雷光が雲の中を走る。
「それでは作戦を始めよう。特別護衛小隊は全員で南下して味方を捜索、交戦中ならば援護に回れ。俺とセレスは三十分で敵の前線基地を叩いて、何れかの分隊長の元へと合流する」
「「「はっ!」」」
エクリプスから降りたアルスとセレスティーナ。エクリプスを近くに居たソロモンに預けるとアルスはセレスティーナと手を繋ぎ、何やら激怒しているかの様に唸る天を見上げた。
鳴り響く轟音に警戒していないこの瞬間こそ正にアルスの独壇場。それに付随して降り注ぐ雨や強風もセレスティーナという強力過ぎる魔法士にとって最適な環境を形成している。
「ふぅ……」
有利な戦況に不利な天候の神聖王国軍。不利な戦況に有利な天候の王国軍は上手く均衡が保たれていると言っていいものだろうか、自分が手を出した事で均衡が大きく崩れる事は無いだろうか、という”調停者”の様な思考を巡らせて、アルスはセレスティーナと包み込む空間の歪みに身を任せたのだった。
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