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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
六章・暴風
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【6章・黒騎士】7

「という事でした。お父様は公爵であるのにこの情報を伝えられていなかったなんて、陛下は身内の裏切りを相当警戒しているのでしょうね」


「本当だな、ありがとうセレス。少し悲しいが情報を守る事は大切な事だ。甘んじて受け入れる他無い」


「それとお父様、ヴァイオレットについて……いえ、エルロランテ家について大切な相談が」


「ほう………良いだろう、話してくれ」



セレスティーナは以前、計画されたものの実行に移すには時期的な問題があり不可能だった”将軍位を持つ当主の家には私兵の保有を推奨し、必要な設備等の費用は国が負担する”という計画を話して騎士爵を持つザナトスが独立せずにアーバンドレイク家に尽くしているという状況をヴァイオレットにも応用すると話した。



「今は亡きイシュタルフォーゼ家の次女であるヴァイオレット嬢を当主に据えて、その家をエルロランテ家の私兵を管理し、統率する家とする事で他の貴族家に介入されない関係を二つの家の間に築くという訳か。確かに良い考えだな」


「ですが父上、セレス。イシュタルフォーゼ家の長女と嫁いだ先の男爵家が簡単にそれを許すとお思いですか?」


「ダンの意見も分かるが、エルロランテ家は侯爵家で、次期当主であるアルス君の背後には私達公爵家は勿論、エーデガルド辺境伯家も付いているんだ。多少の批判で揺ぐ様な集団では無いぞ」


「ハハハ、それはそうでしたね。-----セレス、知っているかもしれないが、この案の会議中に公爵家以外は私兵に”騎士団”と名乗る事を禁止したのだが、エルロランテ家の当主が”代わり次第”公爵へ陞爵するとの噂もあって会議が荒れたんだ。-----実際の所どうなんだ? 本人から聞いているのだろう?」



ダンケルクは真剣な面持ちでセレスティーナに問いた。



「お兄様の懸念点は”代わり次第”という所ですよね?」


「ああ」


「アルスから聞いた話だと数年前のある日、陛下と近衛騎士団長がエルロランテ邸に訪れ、アルスとガーネットの婚約を持ち掛けたらしいのです。アルスは不在で当主のウルグ様と奥方であるユリアーナ様が居らっしゃる時だったと」


「受けたのか」


「いえ、受けなかったと。全てはアルスが当主になり、エルロランテ家の方針を定められる様になってから自分で考えさせるとだけ決めたらしいのです」


「だから”代わり次第”なのか。アルス君はどういう方針なんだ? セレスも気が気でないだろう、もし王族が降嫁した場合、先に婚約していたお前が”二番目”という事になってしまう」



そう、降嫁した王女は世間体を気にして嫁ぎ先では第一夫人という扱いになるのだ。これはそういう決まりがあってこうなるというものでは無く、あくまで伝統。今までもこういった王家の無言の圧力で悲しむ人間が居た為に、妹がその目に遭わない為に、ダンケルクは問いたのだった。



「アルスの”本当の気持ち”は分かりません。 でもアルスはガーネットを受け入れようとしています」


「受け入れる……か。なるほど」



ダンケルクはそう呟くと席を立ち、扉の外に控えていたメイドを呼ぶ。



「二ーヴルを……王太子を呼んでくれ。ダンケルクが呼んでいると言えば何とかなる」


「王太子でしたら現在は王宮の方に居らっしゃるかと」


「であれば、入れ。捕まったらその時要件を話せば良い」



バタン



それだけ一方的に言い放つとダンケルクは勢い良く扉を閉めた。


▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢


〜アトランティス王国、リズウェル〜



日が落ち、完全に空が黒く染まった頃アルスはリズウェルへと戻って来た第一、第二、第四分隊から砦に第一師団の騎士が配備された事を聞いて今後の行動をどうするか悩んでいた。



「第一師団……エーデガルド卿には頭が上がらないな」


「どうしましょう……あの偽物は”有益な情報”を持っていませんでしたし……我々は一旦王都へ戻るべきでしょうか?」



ソロモンは偽物から”王国内に内通者が居る”という情報を偽物自身の命と引き換えに得たのだが、大して驚愕する事も無く、予想出来た情報であった為に無かった事になっているのだ。



「そうだな………ガーネット、どうする?」


「魔法大隊からは特に何も通達は無いのよね?」


「ああ」


「では明日の朝、朝食後に此処を出て帰りましょう」


「「「はっ」」」


「ちょっと待て、何故朝食後なんだ?」



ふとしたアルスの疑問に全員が制止し、ガーネットの方を見る。



「此処の料理を食べてから帰りたいのよ。他に理由は無いわ」


「牛か……」



実はリズウェル付近で育てられている”リズウェル牛”はこの地域の特産品として一部の貴族や美食家等から人気を博しているのだ。複数の記憶を持ち、知識を引き継いでいるアルスは幾度かリズウェル牛というのを食べる目的でも、飼う目的でも、色々な目的で接した事があった。



「アルスも知っているのね、なら話が早いじゃない。皆で此処の牛肉を味わってから王都に戻りましょう」


「分かったよ」 「「「はっ」」」



明日の朝、リズウェル牛を楽しむという事を決めた特別護衛小隊はその場で解散し、それぞれの部屋へと戻って行く。鎧を脱いで鞘を取り付けるベルトのみを装備して普段着に着替えていたアルスは一人で宿の屋上へと上り、夜空に輝く星々を眺めながら仰向けになり寛ごうとしていた。



(綺麗だな……)



一つ一つの星では決して成り立つ事が無いその美しい景色はアルスの心を癒していく。護衛小隊設立後、初めての任務で複数人の殺害や複数人の死亡を目撃しているアルスだが自分の中にある記憶のせいで人の死という悲しい出来事にも反応出来ず、感傷に浸る事すら難しくなっていた。


深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。今日起こった出来事の光景が脳裏に浮かび、指輪の記憶と重なっていく。”殺し”を悪と割り切り、全ての悪を背負うつもりで生きているアルスは一族の中でも類を見ない速度で同業者を排除し、その事業を引き継いでいる今日この頃。



「アルス様、少し良いでしょうか?」



屋上へと上がって来た二人の女性は迫り来る決着の知らせを運んで来るのだった



「どうした?」



遂に一族に課された重責から解放される時が来たのだ

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