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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
六章・暴風
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【6章・睨み合い】3

砦の中に用意された簡易的な広いテーブルと簡素な椅子に座る勇者達は向かいに座って王女らしい笑顔を浮かべるガーネットに聖騎士が乗り込んで来た理由と自分達の旅の目的を話した



「アルス」


「はっ」


「何か言いたい事はある?」


「ありません。正直あの聖騎士が退いた理由が未だに分からなく、混乱しています」


「そう……では取り敢えず勇者様の目的である貴方も居るのだし、私達抜きで話してみる?」



もう既に学園の同級生では無い二人。ガーネットの”貴方”呼びで二人の間に格差がある事を再認識させられる



「私は構いません」


「勇者様は?」


「是非お願いしたいです。エルロランテ殿には沢山聞きたい事がある」


「分かったわ。小隊の皆さん行きましょう……聖騎士が来たという事は相手の方も軍を揃えているでしょうし、斥候を出して周囲の確認を」



「「「はっ」」」



祠堂=皇、静音=皇、ユリウス、カーミラ。冒険者の中でも卓越した人気を誇り、誰しもが憧れる存在である四人は目の前に座る青年を見て朧気な恐怖と興味を抱いていた



「”アルス”この戦争をどう思う?」


「王国の存亡をかけた戦いになると思う。勝てば今まで通りだろう、しかし負ければ話が違うと思うんだ。王国と獣王国の境が曖昧になり、獣人による侵攻が始まる。敗戦後の弱った王国ではまともに国境を守る事が出来ずに獣人と人間の均衡が崩れてしまう」


「なるほどそう考えているのか………一応聞くが勝算はあるのか?」


「ハハハ、気付いているだろ? あるよ。だって……」



お互いをファーストネームで呼び合う程には親しくなった勇者パーティーとアルス。互いに謎が多いからこそ、あからさま探り合いが苦にならないのだが、当然言語化しない疑問もある。実際に先程から祠堂の視線が立て掛けられたアロンダイトに向いているのだ



「魔剣アロンダイト。この世に現存する全ての魔剣の原点であり、起源。-----嘗て魔王が使用していた伝説の剣か」


「ああ、そっちは聖剣カリバーンだろ?」


「勿論。はぁ……こんな時に同業者を見つけるとはなぁ……アトランティスにはゲイボルグ、エストには聖杖、てっきりアロンダイトは帝国にあるものだと思っていたよ」



それが今は三つともアトランティスにある



「あげないぞ」


「ハハハ、要らないよ。因みにその剣の事を誰かに話した?」


「”家族だけ”には話したよ」


「理解してくれたのか? 神器を持つ事で生まれる責任を、その犠牲も」


「あぁ、全てね」


「凄いな……まぁ、でも”良かったよ”」



椅子に浅く座り足を伸ばした祠堂は先程までの”勇者”では無く、只の祠堂=皇として振舞っている様に思えた



「良かったとは?」


「もし、アロンダイトが神達の手に渡っていたらと先代含め俺はそれを最も危惧していたんだ」


「俺で安心したのか?」


「ああ。アルスはまだまだ隠している事が多そうだけど信頼出来る。アロンダイトの事、誰にも口外しないと約束しよう」


「少し早計じゃないか?」


「何だよ。後ろめたい事でもあるのか?」


「無いよ」


「なら大丈夫だ」



全く根拠の無い納得にアルスは困惑しつつも、勇者という存在に興味を持ち始めていた。魔王が存在しないこの大陸で、皮肉にも神から与えられた力で神を殺すという仕事を請け負っている一族。どの代の勇者もカリバーン一本と己の肉体のみで神殺しを行っており、その苦行はアルスだからこそ同情出来るもの


それからアルスはエストの三人居る兵士長について出来る限りの情報を話した。第一兵士長のベスティエル、第二兵士長のカリス、第三兵士長のディミトリについてだ


カリスの処分方法に若干の吐き気を催したのか静音は席を立ってしまい、カーミラが着いて行く



「済まない、アルス。静音はまだ慣れていないんだ………正しい処理方法だというのに………」


「いやいや、わざわざ俺が詳細を言ったのが悪かったよ。後で謝っておく」


「そうか、ありがとう。それにしても凄い行動力だな、一人でやったのか?」


「-----まぁ、家の者に少し手伝わせたが」


「なるほど……俺はあまりアトランティスの貴族事情について知らないんだが、そういう綱渡り的な事に手伝ってくれるものなのか?」


「ハハハ、俺の所が少し特殊なだけさ」



男三人、貴族と冒険者と勇者というそれぞれの価値観の共有は貴重で、三人の中で話が盛り上がっていく。外では騎士達が何やら忙しく動いており気になるが、それ以上に二人がこれまでに体験してきた冒険談はエルロランテ家に伝わる指輪でも体験出来そうにないものばかりだった



「冒険か……意味も無く毛嫌いしていたが、旅行程度なら一度行ってみるのも悪くないかもな」



アルスがボソッと呟いたのを期に、部下である近衛騎士の一人がこの部屋に向かって走って来るのを”知覚”する


ドタドタドタドタ


足音から相当焦っているのを感じるが、魔物や敵襲等の気配は一切無い



「我々の小隊に救援要請です! 至急門までお越しくださいっ! 」


「了解。詳細を」


「此処から南西方向に二十キロ程離れている砦がエスト神聖王国軍と冒険者の襲撃を受けたとの事です。襲撃から一時間程経っているという事を鑑みても状況は悪化しているでしょう」



アルスは一度祠堂とユリウスの方を見る



「行ってくれ。俺達は只の客だ」


「二人共ありがとう。-----各分隊長は?」



視線を近衛騎士に戻し、問う



「王女殿下と共に門で待機しております」


「良し。直ぐに出るぞ」


「はっ!」



砦の下に降りたアルスは軍服を『空間収納』内に放り込み、『空間移動』で愛馬エクリプスと愛用している黒い鎧を身に付けた状態で現れた


相変わらずの黒い鎧だが、正式に特別護衛小隊を率いている現在の鎧には赤を基調とし、金色の刺繍で鳳凰が描かれている特殊なマントが装着されている


当然、王族を表す赤と金色の鳳凰は王族のもので、アルスのものでもエルロランテ家のものでも無い。その様な特別なマントを付けていられるのもアルスがガーネットの護衛で、国王にその実力を認められているからであった



「似合っているわよ。アルス」


「ありがとうございます」


「-----別に公の場以外なら今まで通りの口調で良いのに」



頬を膨らませ、アルスにジト目で訴え掛けてくるガーネット



「分かったよ、ガーネット。そういじけるな」



無言のパンチが優しくアルスの右腕に当たり、金属特有の重い音が響く。今回、アルスは襲撃を受けている砦の位置を詳しく知らず、『空間移動』を使えない。そして雷魔法を用いた高速移動も人数と重量の関係で不可能だ



「アルシェラ、エリス! 神聖王国の冒険者に対して何か情報は?」


「魔法士の数と質はアトランティス王国の冒険者達を大きく上回るかと!」


「ここ最近でSランク冒険者が急増しているとも聞いた事があります!」



アルシェラとエリスは元冒険者で、ウルグから貸し出された優秀な騎士達だ。しかもアルシェラとは二度も小隊設立前に会っており、一度は交戦さえしている



「了解。魔法士への対応は俺とガーネットに任せろ。詳しい指示は現地で出す」


「「「はっ!」」」


「行くぞっ! 王国の勝利と我々の平穏を掴み取る為に!」


「「「王国の勝利と我々の平穏を掴み取る為に!」」」



黒騎士を先頭に駆け出した特別護衛小隊。その役割は王族の護衛、言い換えればそれだけの話だった。王女であるガーネットが動けばアルス達も動き、敵と遭遇次第”護衛”を理由に殲滅する。最早なんでもありのこの小隊は隊列を組み、平原や森の中を怒涛の如く駆けていたのだった


そう、王国の勝利とアルス自身が願う平穏の為に

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