【6章・戦いの始まり】5
一日に使える魔力の九割を使用して強奪した装甲艦を誰にも見られない沖合へと飛ばしたアルスとアイザックはナルコス子爵と同様に帆が無く重厚な金属で包まれた艦体に魅了されていた
強奪から数日経過しているがこの装甲艦、所々に巨大な魔道具を用いているものの初めて見る物ばかりで動かし方が分からない
アイザックも知っている装甲艦とは似て非なるものだと呟き、甲板上を歩き回っており何やら特徴的で目立つ突起物の周りを何度も回っていた
「これは? 大砲にしては細長い」
「専門家では無いから詳しくないんだが、俺の元居た世界では主砲と言われていた……強力な大砲だよ。-----で、あっちに三つ付いているのが副砲だった様な……」
「曖昧なのか?」
「戦争とは無縁だったからな。それに当時は戦艦なんて……というより駆逐艦か……分からない。素人目で見てもこれは中途半端な軍艦だ。動力源は未だに分からないか?」
「タービンと奇妙な装置は見付けたが、稼働方法が一向に分からない」
アイザックは自身の記憶とは二回り程太い主砲から手を離し、アルスと共に艦内へと戻って行く。
魔道具が多用されているという事もあり恐らく魔法主体で動くのだとアイザックは語る
「若、恐らく発見しました」
組織の人間が二人に報告する。二人は顔を見合せると微かに口角を上げてその黒い背中に着いて行く
「恐らく此処が”司令室”という扱いで宜しいかと」
硝子張りで前方三面を見渡せるこの場所は眺めが良く、先程居た甲板上がある程度見渡せる位置にあった
『鑑定』
辺り一帯の素材やら何やらを出来る限り鑑定する
「これは……ミスリルか。これ自体がかなり下まで続いている一個の巨大な魔道具だ」
アルスはそう言いながら銀色の舵を指でつつく。舵である様にも見えるが、装甲艦の中心部と繋がっているのは奇妙だった
「その舵に魔力を注ぎ込むのはどうだ?」
「なるほど、面白い………」
舵の端を片手で握り、魔道具を扱う要領で魔力を流し込んでみる
「ん……?」
アルスは現在万全状態に比べて魔力を多く蓄えていないものの、大抵の魔道具は動かせる程の魔力はある筈だった
しかし、目の前の舵から流れて行くアルスの魔力は装甲艦の中心部へと移動するだけで周りに対して変化は生まれない
「-----予備の魔力を使う」
「そこまで必要なのか!?」
アルスは軽く頷くと耳飾りに内包し、貯蓄していた魔力をミスリルの舵へと流し込む。圧倒的魔力消費が激しい時空間魔法でさえも使用に困らない程の膨大な魔力を次々に吸収していくその様を見てアルスを初めとしてアイザック、組織の人間等は通常の魔法士は決して動かす事が出来ないと悟っていた
『空間知覚』
「-----動いたぞ、出航だ」
「船に乗るのは三十年振りか、この世界で初めての船が軍艦とは……」
「お前、歳………あぁ複雑なんだよな」
「まぁ……そうだ」
ゆっくりと進み出した装甲艦は海を掻き分けて波を越える。面白い事に一度起動したこの装甲艦は魔力を注ぎ込み続ける必要が無く、魔力炉と呼ばれる機関に水を流し込むと魔力で蒸発するまで熱せられ、その蒸気でタービンが回転するという仕組みであった。しかも、熱せられた水蒸気は海水を外部から取り込み冷却する事で再び魔力炉に送り込む事が可能になり効率良くこの装甲艦を動かす事が出来るのだ
「総員、方位角が分かる魔道具が何処かに無いかっ?」
「この装甲艦、やはり中途半端だ。外観こそ俺が居た世界の軍艦だが、魔道具以外の装置が全てアナログ。-----ほら、此処に羅針盤が埋め込まれているぞ」
「完璧にする為にはコンピューターとやらが必要なのか?」
「あぁ。だがそれ以上に魔法は………便利な道具だと思うけどな」
道具。そんな言い方をするのは異世界転移者、或いは転生者位だろう。アルスは自分が会得している魔法を体の一部分の様に感じており、魔導書という後天的に魔法スキルを得るあの本も言うなれば”体の一部”であり、過去に存在した雷魔法士と結界魔法士の意思を継いでいるものだ
「方位3-0-0を維持。後は任せた、俺は少し寝る」
「「はっ」」
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
〜王立魔法学園、生徒会室〜
現生徒会長であるレクト=セーズ=ヴェルディは不気味な笑みを浮かべながら剣を研いでいた。とある近衛騎士から受け取った闇ギルドとの取引材料で実際に取引が成立し、”魔物を学園に放つ”という形で王女と王子を襲うという依頼を出したのだ
「しかし、分からないな。闇ギルドは王族関係の依頼を一切受け付けないと風の噂で聞いていたのだが………あっさりと了承されたよ」
「王国の大臣であるヴェルディ卿の息子である会長だからこそでは?」
「煽てるなよ。ビクター副会長」
「でも、会長。この学園には”剣聖”も居ますよ? 本当に魔物を放つだけでアルス=シス=エルロランテを失脚させる事が出来るのでしょうか?」
「彼奴か……警戒する程実力は備わっていない筈だが?」
「会長……知らないんですか? 冒険者ギルドの中で彼はもう有名人ですよ。歩幅は小さいですが英雄への道を着々と進んでいる」
「英雄だと? 笑わせるな」
研ぎ終わり、天井に掲げられたレクトの剣は光沢を帯びており、汚れや傷が一切見当たらない完璧な状態へと変化を遂げていた
(何故、あの様な男に王女と公爵令嬢が………)
レクトの嫉妬心が掻き立てられる。明日、魔物に苦戦するアルスの姿を想像し思い浮かべるだけで自然と出てしまう不気味な笑い声が生徒会室に響いた
ナルコス子爵が装甲艦の扱いの難しさに苦戦しつつも外装や装備に見惚れ、アルス達と試行錯誤を重ねる事によって主砲や副砲の使用方法を解明した時の事だった




