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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
五章・嵐、見ゆ
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【5章・従順】4

初めてメールを使った次話投稿をしてみました。何らかの不具合が見つかった場合は御連絡下さい

アルスは組織の人間が集めた大量の資料に埋もれ、ヴィオラと共に帝国内にある鉱石取引の記録を漁っていた


アルスは別にチャーチル家を疑って調べているのでは無い


新しく見つかった鉱脈を巡って買収や何らかの策略が練られる事は良くあるのだ


エスターライヒ家の人間として護衛の手配や労働者の確保を約束し、それなりの利益を得ている事からこのチャーチル家の鉱山を狙う陰謀は暴き、エルロランテ家との繋がりが明かされる事が無い様に立ち回る必要があるのだ



「どうやら帝国の金鉱山は好況らしい。ミスリル鉱山に比べて数も多いし、貴族家より商家が多く管理しているみたいだ」


「そうですね……しかしここ最近貴族家に買収された鉱山が急増していますね」


「流行なのかな、チャーチル家のミスリル鉱山には一度出向く必要が有りそうだ」


「あ、そういえば。数ヶ月前に隣接する共和国で膨大な量の魔力が”雷魔法”に変換されて使用された件、御存知ですか?」



雷魔法。アルスが持っている属性魔法で地水火風の四属性から外れた闇光氷雷の四属性魔法だ


自分以外に魔法の会得者が居るのか、と興味が湧いたが、身に覚えのある時期と場所にその興味は一瞬にして冷めた



「それは多分雷帝エル=ドゥ=フェル、フェル家の当主と俺が秘密の鍛錬をしていた時の残滓だな」


「えっ!? そ、そうだったんですね。それにしても凄い魔法を使用した痕跡があったと組織から報告書が送られてきましたよ」


「ハハ、確かに凄い魔法だった。俺じゃないんだけどな、雷帝は化け物だよ」


「その様ですね。前回勃発した帝国と神聖王国の戦争では神聖王国の冒険者ギルドに所属するSランク冒険者チームを壊滅させ活動不能にしたと。そして神聖王国の冒険者ギルドは彼を一番警戒している」


「そんな話があるのか、聞いた事無かったな……冒険者ギルドは各国情報共有が行われているんだろう?その辺りアトランティスのギルドはどう考えているんだろうな」


「好ましくは思っていないでしょう。冒険者達が反旗を翻さないか心配ですね」



ヴィオラの心配は案外現実的で、実際国の上層部が目を背けている問題でもあった


戦争への従軍という”縛り”は厳しいものの、当然ある期間でしか効力を持たない為に軽視されて来た


来年に戦争を控えた現在、その縛りは一部の冒険者の間で話題となり、舞い込んで来ているSランク冒険者チーム壊滅の報せは上位の冒険者にとって非常に苦しいもの



「冒険者ギルドと王国軍、何方側に分があるか……貴族達と違って素性が分からないから判断は出来ないな」


「どんな人間が居るか全てを把握するのは難しいですよね……」



素早く目を動かし、資料の文字を追う二人



「こんなものかな。ヴィオラ、父上に報告を、チャーチル家の労働者は同じ規定で選別、護衛も組織の人間を十人増員。全員に9ミリの自動拳銃を携帯させると」


「全員に自動拳銃を……承知しました。使用させるのは模造品(レプリカ)でしょうか?」


「いや、異世界品(オリジナル)で頼む。動作不良があっては困るからな」



ヴィオラは頷き、部屋を出て行く


この世界には魔法銃という似た存在がある。しかし、鉛の弾を爆音と共に発射する銃はあまり現存していない。五月蝿い、当たらない、危ない、と忌避され、第一に装弾方法や安全装置の解除、スライドの外し方等の分解方法すら知られていない


そのまだ慣れ親しまれていない”銃”という代物はそれを主な得物として扱う一人の男によって開発が望まれ、ここ最近エルロランテ家でその製造計画が進んでいるのだ


現在は二十丁の異世界品(オリジナル)と四十丁の模造品(レプリカ)を有しており、弾も多く備えている


その一人の男、アイザック=サヴィンが言うには銃の構造が頑丈で、強力な弾を発射する為に本体の殆どが厚い金属で造り上げられている”デザートイーグル”という銃を元にしている事がこの異世界で銃を製造するに当たって功を奏していると言う



(そろそろ、夜か。あまりアイザックを待たせるのは今後の信用問題に関わるし……そうだな……エクリプスを撫でてから行こうかな……)



▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢


〜ストロヴァルス帝国、とある屋敷〜



身なりが清潔でない人間数名が貴族風の男に付き従い、布の被った大きな荷物や奇抜な木箱を荷車から下ろすその作業を木陰から見ている怪しげな女性が居た


シミターを握り、荷車から荷を下ろす人間を一人一人目で追いながら舌舐めずりを一周


まるで獲物を捉えたかの様な行動にその後ろで更に屋敷を見張っていた”骸”アイザックは笑いながら恐ろしい、と口にする



「骸、どうしますか? 奴は首狩り、オニキス共和国随一の殺し屋です」


「取り敢えず無視だ」


「承知しました」



何時もならベストの上でスーツの下に隠しているショルダーホルスターも現在はスーツの上に装着しており、何時戦いが勃発しても良い様に臨戦態勢をとっていた


荷車では筋骨隆々な男三人が鳥人族の女性と思われるものを鉄格子ごと下ろしている最中、太く無骨な鉄格子に必死に掴まる細い指は哀愁を漂わせ、特有の翼も満足に広げられない窮屈な空間は見ていて此方が窮屈に感じてしまう



「ん…?」



荷を下ろし終え、撤収の為に御者が綱を握る。突然香る香料に疑問を抱くが、特に気にする様子無く綱を振る


バチンッ


馬を刺激するその音は一瞬だが、辺りの音を掻き消す爆音だ


ザクッ


荷車が去ろうと動き出したのを機に一人の女性はシミターを構え、恐ろしい速度で門の前に立つ二人の用心棒を斬り殺していた


両者共に首に深く傷を負っており、息絶えるのと同時にその頭は切り離された


最初の一撃で両者共死んでいた。しかし、追撃を加えて首を切り離すのがこの女性の習慣である



「疾いな。流石首狩りエリザベータ=マキシモフ」



組織の人間を通して伝わったアルスの報告の中に”首狩りは魔剣や魔石に興味を示さず、特殊なナイフに固執していた”とあり、状況を鑑みるにそれを奪還しようと此処に居るのだと想像が付く



「奴を待つのは面倒臭い。それに嫌な予感がする……」


「突入しますか?」


「まだだな、様子見だ」



(そろそろ日が暮れる。若……あまり待たせないでくれよ……)



日が落ちた。橙色に染っていた空も紫色へと移ろい、気温故の寒気と不気味さ故の寒気が鬱陶しく感じている



「済まない、遅くなった」



スライドを引き、勢い良く排出された弾を受け止め、また装弾するという変わった遊びをアイザックがしていると突然黒い鎧を身に纏った不気味な男が歪む空間から出現し、組織の人間達を驚かせる



「若…か、予想よりは早かったぞ。退屈だったがな」


「なら良かった」


「何? まぁ、いい。状況を説明する……」



アイザックは簡潔に今日起こった出来事をアルスに伝え、組織の人間を集める



「掃除屋……」


「あぁ、我々が居た証拠は消す。勿論邪魔をする人間も消すけどな」


「面白い冗談だ。-----行くぞ、魔剣と魔石の奪還及び”不穏分子の排除”だ」



不穏分子。アルスは現在この存在を最も危険視している。神よりも



「良いのか? 若に人殺しはまだ早いんじゃ……」



アイザックは横目でヘルムの奥を覗く、辺りが暗く分かりにくいものの一族共通の灰色の瞳は妖しく揺れ、その意思の強さを感じ取れた



「-----そんな事も無さそうだな」


「あぁ、心配は要らない。心構えは既に出来ている『結界』」



アルスは手を真横に広げ、ゆっくりと掌を上に向けるのと同時に魔力を大量に放出する


周囲に居る総勢十五名の組織の人間一人一人を包み込む高硬度の結界だ



「信じられない……この結界は……」


「普段王女殿下を護衛する為に用いている結界だ。経験上大抵の攻撃は効かない。だが! ……気を抜くな。慎重且つ冷静に、そして正確に任務を遂行する」


「「「はっ!!」」」



組織の長としての片鱗を見せたアルスにアイザックや組織と人間達は悦びを感じ、《ザ・バランス・オブ・ジ・アポカリプス》の前途洋洋たる未来を彷彿とさせる瞬間であった


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