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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
五章・嵐、見ゆ
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【5章・ユリウス=エスターライヒ】5

私の脳内ではアルスの身に着けている全身鎧は比較的スリムな物です。読者の皆様も思われていたのでは?ですから”え、耳飾り今も着けてるの?”と思われた方はそこを深く考えず”上手く収まっている”程度に結論付けておいて頂けると幸いです

張り詰めた空気の中、運ばれて来た魔剣ディヴェインを見てアルスの周りの何人かが息を飲んだ


緊張か恐怖か、恐らく後者であろう。何故ならばこの魔剣はただ単に強力で持つだけで畏怖され、恐怖を覚えさせる等の”都合のいい”代物では無いからだ


この魔剣の能力は”毒”それも如何なる生物に効力を持ち、人間ならば必ず死に至る程の強力な毒が刃から染み出している。しかも刃を下に向けて暫く待つだけで滴り落ちる様な潤沢な毒を備えているという剣を持つ自分にも毒の危険が生まれてしまう非常にリスクの高い魔剣なのだ



「ユリウス様……第二の本命と仰られたアレですけど……危険では?」


「ハハ…セレスに畏まられると何か不思議な気分だな。此処では”ユリウス”でいいよ、設定さえ守ってくれたらそこまで畏まらなくてもいい。-----それで…えーっと、”危険か”だっけ? 勿論危険だよ。だからこそ欲しいんだ、あの魔剣から生む毒は未だに対抗出来る血清が無くて正に為す術が無いんだ……」



アルスが求めているのは魔剣の毒に対抗出来る方法であり、やがては自分にその抗体をつける事。エルロランテ邸に二つ程毒のサンプルがあるが、何せ抗体を生み出す事が出来る動物や魔物が見つからない



「だから欲しいのね……」



人がある程度密集している現在の状況で”設定”などと口走るのはマズイ事だが、それ以上にセレスティーナの口調を直しておきたかったのだろう


メイドの服装であるセレスティーナが主人であるアルスに親しい口調で話すというのは少し奇妙で不思議な光景だが、この緊迫した空気の中では気にする人など一人として居ない



「それでは魔剣ディヴェインの初期設定価格は金貨500枚ッ!」



「白金貨6枚」


「白金貨8」


「白金貨30」



突然金額が跳ね上がり、白金貨6枚を提示した貴族の男が悔しそうに顔を歪めると同時にアルスの方を見て白金貨30枚を提示したモルブレイン=スターゲイトはニヤニヤと口角を上げてグラスを少し上げ、”挨拶”をしてくる



「挨拶のつもりか……だとしたら中々気持ち悪い挨拶だな。-----300」



札を上げ、そう告げるとナイフの時の様に辺りが静まり返り、宰相は驚きながらもアルスの名前とその金額を場の全員に聞かせる様に復唱する



「-----350」



またしても軍務卿モルブレイン=スターゲイトが札を上げたが重ねる様にアルスはもう一度札を上げて400と提示する



「450」


「500」


「550」



白金貨50枚ずつ上がっていく戦いだが、軍務卿の表情から徐々に余裕が薄れており何方が有利に戦況を運べているのかは火を見るより明らかだった



「そろそろかな。-----1000」



ガタッ



あまりにも破格だからか、倍近いつりあげに驚いたのか、軍務卿は勢い良く立ち上がり座っていた大きな椅子がガタリと音を立てて暴れた



「エスターライヒ貴様ッ! 此処はただ適当に高い金額を言う場所では無いんだぞッ!」



傍についていた従者だろう人間が二人がかりでアルスに歩み寄ろうとする軍務卿を抑えるも、キングベアーの様な恰幅の良い人間を止めれる筈も無く、押し切られてしまう



「若……どうするんだ?」


「俺が対応する。手は出すなよ、後お前は絶対に喋るなよ? 本当にバレる」



アルスは重過ぎる腰を上げて体を軍務卿の方へ向ける


強く拳を握り額に血管を浮かび上がらせた軍務卿を見ると厄介な展開を予想してしまうが、生涯で”杞憂だったか”という台詞を吐きたいという夢があるアルスは微動だにせず、ただ事が過ぎるのを待っていた



「貴様……」



立ち上がっておきながら何もしないというアルスの行動が逆効果だったのか、無駄に軍務卿の警戒心を高めて周囲の帝国騎士にも警戒されてしまう



「心配しなくていい、全額払えるからな」



「若いな…何歳だ?」



身長はある程度把握出来るものの、顔等は一切分からない。恐らく声から判断したのだろう



「さぁ? 全額払えるんだ。何歳でも良いだろう」



「そこまでだ! スターゲイト軍務卿、此処は争いの場では無い! エスターライヒ殿も座ってくれ」



オークションを仕切る宰相からの言葉に軍務卿は渋々頷き、席へと戻るが”元々格好がおかしいんだ””戦いに来ている様なものじゃないか”という真っ当な意見を吐き捨てて行く



「他に…………居なさそうですね。ではエスターライヒ殿が落札です」



若干宰相の早めに切り上げたいという思考が読めた流れに誰からも分からないヘルムの中で微笑みながらアルスは再び重過ぎる腰を椅子に預けて一息つく



「続きまして……最後の商品です。商品が商品である為に此処には運び込む事が出来ないのですが…始めます。初期設定価格は白金貨500枚ッ!」



普通ならば直ぐ上がる札もこの金額故に中々が上がらず、互いの顔を伺いながら誰が出すのか、誰が出すか、と少し引き気味な姿勢の参加者が大多数を占めていた


アルスも元々この魔石が目的で帝国オークションに参加している訳だが、まだ一度も上げていない


というのもアルスは宰相の言った”此処に運び込む事が出来ない”というのに引っ掛かりを覚え、考え込むのと同時に『空間知覚』をミスリルの耳飾りの魔力を使ってその範囲を拡げて魔石の安否を確認しようとしていた



「ユリウス様? 魔石が本命なのでは?」



「---------あぁ、そうだ。でも肝心の魔石がこの帝国城に見当たらない…」



「「えっ!?」」 「それは……」



「ヴィンス=スターゲイト…何かあるな、俺の不注意だけじゃ無い…チッ………完全にやられたよ」



アルスの舌打ちに周りの人間達はビクつき、恐怖している



「組織に連絡をしますか?」


「あぁ、だが拠点を割り出すだけだ。俺もセレスもフォ…英霊も帰国して数日はアトランティス王国で実質上の拘束に遭うからな、劫火と死神は今……」


「任務中です」


「そうか……でも骸は空いていたよな?」


「はい」


「骸に行かせろ、俺の命令に従うかは正直分からないが……全力で頼んでおいてくれ。-----『空間移動』」



アルスはそう少し悲しげに言いながら差し伸べられたヴァイオレットの手に自分の手を重ねて”飛ばす”


有り得ない金額で魔剣を落とした鎧の男と急に消えた金髪メイドは周りに驚き以前に混乱を振り撒いる


ほぼ同時に上げられたアルスの札と600という数字は混乱を深めるばかりで数人の”不審な男ユリウス=エスターライヒ”を探ろうという気はとっくに失せていた



「700」



ここまで高額だと札を上げる人物がある程度絞られてくるというもので、いくらこの帝国オークションに大陸中の富豪が集まっているとはいえ白金貨700枚を軽く出せる人物は少ない。だが数人が組んで金を出すというのならば話は別で、組んだら厄介であろう”団体”が出て来たのだ



「ロマノフ…家族で協力という訳ね」


「感動モノじゃないか…なぁ、若?」


「全く求めていないんだがな。実際、彼処の長男や長女の事を考えると有り得る金額……厄介だな、此方は既に1000枚減っているんだぞ」



「800」



「………850」



長男、長女ともこの国の有力者の子息と婚約しており個人で事業も展開している。カミーユがチャーチル家のミスリル鉱山を狙っていたという事もあり、最近は資金源を拡大していると見て間違いないだろう



(まぁ……でも想定範囲内だな)



「1000」



アルスの上げた札に視線が集まる。二度目の白金貨1000枚の提示に今頃皇帝は笑っているだろうと誰しもが考えていたが、実際には消えた白龍の魔石を巡って現在怒りを膨らませて城中の帝国騎士を捜索に当てていたのだった



「1010」



「1500」



「1501」



(-----お、底が見えたな)



「2000」






少し長い沈黙はロマノフファミリーが札を上げるのを待つ沈黙。そのプレッシャーの中こめかみに手を置き真剣な面持ちで家族と相談する長男とエトムント=ロマノフ。既に諦めたのか天井を眺める長女の表情からはこの戦いの決着がついたのも同然の空気感を感じ取れた



「そ、それでは白龍の魔石は白金貨2000枚でエスターライヒ殿が落札です」



「す、凄いですユリウス様!」



セレスを挟んで向こうのエリザベスが目を輝かせて言う



「中々痛い出費だったけどな。これで”金が無くなったから支援はしない”とかは無いからそこは安心してくれ」



「勿論です! 心配すらしていません」



オークションは終了したが、外を駆け回る帝国騎士の様子からは”終わり”というものを一切感じない


一応白龍の魔石の所有権はアルスにあり、魔石さえ戻れば一件落着なのだがアルスもセレスもフォトゥンヘルムも別件で動けず、中々厳しい現状なのだが今頃ヴァイオレットがエルロランテ邸に戻り、ウルグや組織の面々に事情を話している頃だろう


アルスの予想ではあと三時間で情報収集が始まり、ヴィンス=スターゲイトについての情報が洗い出されて四時間後には捜索が始まると見ていた



「俺達も実は三時間しか残されていないんだがな。急ぐぞ、二人共」


「えぇ」


「あぁ」



「あのー……」



「エリザベス、済まない。本当に今日は時間が無くてね、オークションを無事終えられるかすら怪しかった位なんだ。この埋め合わせは絶対にする、手紙でも出してくれ…俺で良ければ何時でも相手するよ。また逢おう」



この見た目でこの様な優しい台詞はやはり似合わないと心底思ってしまう


素顔すら見せた事無いというのに別れる事になるとはアルスは勿論、セレスとフォトゥンヘルムもエリザベスに同情しこの少し悲しい別れを惜しむのだった


年齢は学生。しかも当主でも無く、騎士や冒険者等の肩書きも持たないユリウスという男


強いて挙げる所が本当に無い男だが、”絶対に何かある”と確信させてくれる言動に行動、そして容貌


一度自分で調べ、エスターライヒ家と懇意にしている母親にも聞いたが答え分からず未だ闇に包まれているエスターライヒ家。闇ギルドにも身元の特定と詳しい情報等を依頼したものの出て来たのはアトランティス王国出身の貴族で子爵家の分家の末裔だという不確かで曖昧な情報だけだった



(やっぱり……そこが魅力よね)



当時出した”それこそがエスターライヒ家の魅力”という自分でも納得し難い結論は今日、アルスと出会って堅いものと成った


半ば無理矢理でこじつけな所があるのは重々承知しているが美女二人に強そうな護衛をつけた全身鎧の男程、闇に包まれているものを他には知らず、アルスに言われた通りまた逢う日を夢見てエリザベスは深くなった夜空を眺めようと窓際に歩いて行ったのだった

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