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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
五章・嵐、見ゆ
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【5章・こうして人類は進化する】2

〜ストロヴァルス帝国城、玉座の間〜



ユリウス=エスターライヒという黒い鎧を纏った男が帝国城に現れて数時間後、城内は勿論帝都でも騒ぎが起きていた



「皇帝陛下っ! エスターライヒを名乗る男は今何処にっ!?」



筋骨隆々な身体を激しく揺らしながら大股で玉座の間を闊歩し、ネメシスに近付いていくのはこの国の軍務卿モルブレイン=スターゲイト、今夜のオークションにも参加するこの国の重鎮であり、帝国内で数多の悪事を働く”犯罪者”



「落ち着け……スターゲイト。多少無礼な登場ではあったが……それだけだ。それにお前も何だかんだ五年は付き合っているでは無いか」



「陛下、それはあくまで”仕事上仕方無く”です。軍務卿の立場から言わせてもらえば”不法侵入”でしか無いのですよっ!?」



「”不法侵入”か………ん、ちょっと待て……彼奴等何処から侵入して来たのだ…?」



不意に当たり前の疑問を抱き固まる皇帝は困惑する家臣達を見回し、口を開く



「成りすましていたのか? それともこの城に許可無く彼奴等を入れた間者がこの中に……」



冷たい視線で射抜くその先には強張らせた表情で膝を突き、地面を眺める貴族達。軍務卿と同じく彼等もこの国の根幹を担う重鎮達でたった三人を不法入国させるくらい片手で出来てしまう者ばかりだ



「まぁ……わざわざ我の怒りを買う愚かな者など此処には居ないだろう」



明らかな安堵が目に見え、表情が和らぐ貴族達



「----だが、もし今後その様な身勝手な行動をしたら………覚えておけよ。大陸から家名が消えるぞ」



「「「はっ!!」」」



▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢


〜帝国城、大広間〜



今夜のオークション会場となるこの大広間では参加者分の椅子に割り当てられた数字の札。硝子が大胆に使われたケースの中には出品されるのであろう”商品”があった



「皇太子殿下っ! こちらの商品に鞘は付属していないのでしょうか?」



「あぁ、その剣は”魔剣”だ。刃に触れるなよ毒がある----先日五人がその刃に触れて死んだ」



「なっ……し、承知しました……」



硝子ケースに先程より大分丁寧な手つきでしまうと、多少狼狽えながら足早に離れていく城の使用人


皇太子自らこの場を仕切るのはそれ程このオークションが重要だからで各国の善人から悪人、”多種多様”な人間が集まり、帝国にとんでもない量の金を落としていく


しかしその為にはある程度参加者の”嗜好”や”需要”を理解し、商品を提供しなければならず、骨董品、武器、絵画に壺、更には奴隷まで収集するというのは圧倒的権力を持つ王族だからこそ為せる業なのだ



「皇太子殿下、最終確認を。本日参加者方に提供させて頂きます果実酒は”ワイン”で宜しいでしょうか?」



「あぁ、ロマノフ家の要望だ。在庫はどれ程ある?」



「樽で五つ程取り寄せており、既に三つ届いております」



「あと二つはまだか……まぁ、十分だな。下がっていいぞ」



頷き、使用人は歩き去っていく



”骨董品”をケースから取り出し、磨く使用人や鳥人族から生えている羽を整える使用人、布が被せられた状態の絵画を運び込む使用人。沢山の使用人が忙しなく動くこの場は正に帝国の豊かさを表していると言えるだろう


先の戦争で実質上の敗北を味わい苦渋を舐めた帝国だが、クーデターは早急に鎮圧され、人材の流出は最低限に抑えられている。実はアトランティス王国が想像する程ストロヴァルス帝国は疲弊していない


しかし帝国全体の治安は以前より悪化しており、取り寄せた酒樽が未だに届いていないのも道中で襲われたりと何らかのトラブルがあったに違い無い、とレイは考えていた



▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢


〜帝都、何処かの路地裏〜



「------と、ストロヴァルスの皇太子レイ=フォラン=ストロヴァルスは考えているのであろうが、実際には俺が強だt……拝借した訳だ」



「アルス様、善行を自信ありげに話すのは此方としても鼻が高く、誇らしい事ですが……悪行をその様に話されると専属メイドとして反応し難いのですが」



「そうよ。ヴァイオレットの言う通り、その………」



「ワイン?」



「そう、ワインの酒樽を強奪するなんて犯罪じゃない!」



「少しいいか、嬢ちゃん達。私から言わせてもらえれば金貨を積まれただけで荷車を渡すあの商人の方が悪行を行っていたと思うのだが…?」



そう喋るのは髭を剃り、社交用に仕立ててもらった服装に身を包む四十代半ばの男。脇に抱える布でぐるぐる巻きにされた魔剣ダインスレイヴは現在その面影すら無い



「そーだそーだー。ストロヴァルス商人の汚い心に付け込んだ聡明な”商売”と言ってくれないか?」



「嫌です!」


「嫌よ」



名目上は盗賊に襲われたという事になる予定の二つの酒樽はアルス達の手に渡っていたのだった



「アルスはその…えーっと……ワインが好きなの?」



「好きか嫌いかで言ったら好きだよ。でも俺の為じゃないんだ」



では誰の為か、エルロランテ家に一人だけ居る風貌の変わった拘りの強い男の為である



『空間収納』



「まぁ、信じるわ。-----ところでアルス、もしオークションで”目当ての物”が手に入ったらどうするの?」



「一応エスターライヒという偽名で落とす事になるが、保管はエスターライヒの屋敷では無く皇帝に任せるつもりだ」



「いいの? もしそのまま盗られたりしたら……」



「ないない……皇族があの魔石を出品するのは自分達にとって余る代物で手に負えないからだよ。それに皇族に預けておけばわざわざ盗みに来る輩は居ないだろうし……」



四人は路地裏から開けた道に出て話ながら道を歩く。既に帝国に白馬は返却し、エクリプスも短い用だったがエルロランテ邸に返してある為に徒歩なのだ。素性を明かさない目的の黒い鎧は通行人の目を引くものの、目が合うと直ぐ様道を開けてくれるという便利な機能が付いている



「ん、あれは……」



アルスが目を向ける先には此方の方、つまり通り過ぎようと道を進む比較的大きな荷車があった


馬では無く牛を二頭用いている事から”荷物”が重い事が窺えるが、そんな事は薄目で見ても明らか


普段ならば通り過ぎる様な荷車だが、アルスが気になったのは中身だった



「あの荷車がどうしたの?」



「奴隷だ……獣人も乗っている」



「悲しいわね、帝国は王国に比べて獣人への扱いが酷いのよ。王国内なら私でも何とか出来るのだけど……帝国では厳しいわね……」



アルスの目を向けた先には呼吸用か陽の光を取り入れる為か鉄の棒で仕切られた小窓があり、その顔の半分すら見えない大きさの窓からはアルスを見つめる大きな青い瞳が見えた


強く印象に残るであろうその瞳は人のものでは無く、獣人のものでアルスが少し引く程此方を見つめている



「奴隷解放はあまりにも多くの人間を敵に回すからね。俺の従兄弟に当たるバラムトレス家が解放出来ているのはあくまでも”違法奴隷”だけ、それでも日々血で血を洗う争いが絶えない生活を送ってるんだ。全ての奴隷を解放するなんて国の労働力を大きく損なうだけで文字面だけの夢物語だ……」



「アルス様……」



金貨や銀貨や銅貨にミスリル、鉄などを産出する鉱業や水産業、林業などの肉体労働を好んで行う人間なんて現実上少ないのだ。それらを補うのが奴隷であり、こうした前提の元”商売”が組まれて来た


アルスの言葉に深く頷くフォトゥンヘルムは何か思う事があるのだろう



「ところでアルスは何処に向かっているの?」



「何処? もう着いたよ」



「え?」 「ん?」



突然アルスが止まり、三人も止まる。数十分かけて歩いた先には何の変哲もない商店があり、アルスは先陣を切り”不気味な格好”でも躊躇い無く入って行く。三人も続いて中に入るが、よくある商店で特に変わった印象は受けない


唯一変わった点を挙げるとするならばアルスの格好を見ても何も反応を見せず、ただ笑顔で掃除をする店員が居るという所か



「此処はザ・バランス・オブ・ジ・アポカリプスが”闇ギルド”として活動している帝国支部だ。此処に来た目的は一つ、最近の帝国事情とオークションに備えて今夜起こり得る騒動を一通り把握しておく事だ」

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