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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
五章・嵐、見ゆ
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【5章・こうして人類は進化する】

フォトゥンヘルムが語ったのはアルスの祖父、ゼファー=トロワ=エルロランテとの出会いだった


先代のストロヴァルス皇帝がまだ若く、剣聖として名を馳せ始めた頃のフォトゥンヘルムが傍で仕えていた時、皇帝を通じてお互い知り合ったという


ここら辺は少しだが記憶にあり、自身の仕事を邪魔するストロヴァルス貴族を見境なく殺すゼファーを黙認する皇帝に何度も反対意見を訴え、出会う度、相対する度に二人の間で熾烈な言い争いが行われていた記憶だ


互いに高慢な貴族、傲慢な騎士としか意識していなかった二人が互いに戦士として意識し始めたのはゼファーが多くの”掃除屋”を率いてストロヴァルスにある金鉱山を取り立てていた時の事


衣類を剥がし、火魔法で焼き、地中深くに埋める作業は効率的且つ緻密に計算されており、それを率いるゼファーが只者では無いとその時強く実感したのだ


それからというものゼファーがストロヴァルスに顔を出す度にフォトゥンヘルムは一体一の決闘を申し出て闘った。結果は決して世に明かせないゼファーの全勝


恐ろしく速い足と速い反射神経でフォトゥンヘルムを翻弄し、圧倒的な力で吹き飛ばすその戦闘スタイルは常人では理解出来ない”苦労”と”研鑽”が積み重ねられていた


勿論悔しかった。自分が剣術の頂点に立っていると身を以て実感していたが故に天から地へと叩き落とされた衝撃は計り知れないものだった。今まで剣で刻まれ味わったどんな傷より深く、記憶に残った心の傷


”自分が一番なんだ”とその意思と希望の光を頼りに何度もゼファーに挑んだ。一つ一つの動き、呼吸のタイミング、癖や目線の流れも全て細かく紙に綴り続けた


「----私の勝ちだ」


数年後の事だった、ゼファーの首元に剣身が折れた剣を添えて告げた一言はこれまで行って来なかった努力を報うものであり、人生の中で最も喜びを感じたものだった


互いに気心の知れた仲になった後はゼファーの剣術が幾年も改良に改良を重ねられ、現在は一家相伝、伝統の深いものだと教えられた。それを知るや否や打開した人間として興奮が止まらない毎日を謳歌する事が出来たのだ


”何時か勝つ”


”我等は無敵でなければならない”


”必ずお前を倒す”


決して若いという年齢では無いゼファーだが、その闘争心や志は立派なもので剣聖というスキルを賜った絶対的強者に何時か勝とうとしていたのだ。しかしこの言葉に込められた”本当の意味”をこの時はまだ知らないでいた


やがて長い年月が経ち、交流のあったアトランティス王国の皇太子がストロヴァルスに訪れた。その時既に皇帝も退位し”あのアトランティス貴族”も王国で隠居していると風の噂で聞いていた


歳という越えられない壁を前に衰え始めた自分の指導を”中々筋が良い”アトランティス王太子は素直に聞き入れ成長していった


どんどんと急成長する王太子という弟子を持ち一年後、人生残り少ないだろうと思われる長期遠征に参加したフォトゥンヘルムは道中不思議な存在と衝突する事になった


”私は剣聖フォトゥンヘルム、お前の名を聞こう”


その言葉が引き金となり、フォトゥンヘルムという蛙は大海を知る事になる


久し振りとも表現出来ない程遠い過去の惨敗とはまた一味違った惨敗。対策や攻略法などという問題では無く根本から”勝てない”と悩ませた存在だった


”どう足掻こうと人間である貴様に私は倒せない”


言葉で言われなくても身体で分かっている、とフォトゥンヘルムは何度も挑み、その老体を酷使して不可能を打開しようとしたが報われず、行き詰まってしまったのだ。ストロヴァルスに戻っても剣を振り、敵を倒すという事に”もし敵がその神を名乗る存在であれば自分の存在は無意味じゃないか”と意味を見い出せずに居た


仕方無く先代の願望を汲み取り仕えていた今の皇帝にはこの事は言えない。言ったところでどうなる問題では無いのだ


遂に自分を慕っていた優秀な王太子への指導も放棄し、大森林の屋敷へと生活を移す事になったフォトゥンヘルムは帝国城からの私物の中に埃の被った木箱を見つける。中には一本の剣と一枚の手紙が添えられており、家具や食器が入った木箱と共にその木箱はそこにあったのだ


手紙の内容は記憶を共にする人間が居るという訳の分からないもの、そして神に滅ぼされた国に生まれた最後の騎士として自分の家は代々神を滅ぼす事を掲げ、社会の闇に紛れてその勢力を伸ばし、生きていたという事


”我等は未だ彼奴らを滅ぼす手立てが無く、その存在を知る同胞等が消され、彼奴らに都合の悪い歴史も消されていく始末だ”


この時フォトゥンヘルムが真っ先に思ったのは”手立てが無い……”為す術が無いその絶望だった。しかしその後に綴られた一文は同時に希望を抱かせるに値するもので生きる価値すら見い出せずに居たフォトゥンヘルムには文字通り、生きる”繋ぎ”となった


”魔剣ダインスレイヴ、この剣を持つ者は皆不死となり己の時間をも巻き戻していく。やがて我等一族が神を滅ぼすその日まで待って居てくれ。彼奴らを滅ぼす準備が整い次第共に戦う事になる”


魔剣ダインスレイヴは老いた身体に潤いと活力を与え、衰えていた足腰に筋力、視力までもが蘇っていったのだ。しかし”不変の理”を捻じ曲げる程の力は有していなかった


再び心を重い扉で閉じたフォトゥンヘルムは”その日”を今か今かと人として命を繋ぐ事以外の行動を削ぎ落として待ち侘び……



「今に至ると……」



「そうだ、若が私に勝てないのは”対策”したからだ。ゼファーの代”まで”のあの剣術を知り尽くした私に知識だけ有し、上手く活用出来ていない若は勝てない」



「あれだけ……弱いと言っておきながら」



アルスの顔に光が差し込み、俯き手で覆い隠すその隙間からは笑顔が見えた



「準備が整ったのだろう? 神を滅ぼさなければ私の心は永遠に晴れない。そこらの有象無象は私に任せて……」



「ちょっと待て。俺はお……」



突然口を開いたアルスは何か言おうとして辞める。目の前の剣聖が何故か涙ぐみ、血がこびりついた手で目頭を押えていたからだ



「血は争えないな……”お前を倒す”だろう? あぁいいぞ、こうして人類は進化するからな。-----だがまぁ…【剣聖】の力を後世に伝える事になると歴代の剣聖がどう言うか……」



「歴代……死んだ人間を気にしても意味無いだろう?」



「私の弟子だった異世界転移者が言っていた。自分の世界では死んだら”あの世”に行くと。若の言っていた”奇妙な場所”と近しいものかもしれんぞ」



「想像するだけ無駄だな……俺の行った場所は人が居る様な場所では無かったよ。”あの世”というのは今あるもので満足出来ない俺の様に強欲な人間ばかり住んでいるみたいだな…」



アルスの言葉に笑いながら屋敷へと踵を返すフォトゥンヘルムに三人は着いて行く


中は汚れ、所々埃が被っているこの屋敷にメイドや使用人等は居るのだろうか


答えは明確だが、一応問うヴァイオレット



「当然私一人だよ。-----少し待っててくれ、今髭を剃る。服は……」



「俺が買う。帝都で良いか? 今夜別の用があってね」



「流石貴族様だ。-----今は子爵位じゃないんだろう? アトランティスでシスと言うと………伯爵位か」



「それに関してなんだが………実は侯爵位なんだ。-----複雑でね」



「------なるほど、では今からは髭を剃らせてもらおう…こっちは単純だからな」

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