【5章・狂剣乱舞】3
アルスの走る速さは映画「トワイライト」のヴァンパイア位と私自身考えております
※全力疾走時
実は記憶の回想シーンでアルスが両手で獣人の首を掴んで叩き付ける所があるんですけど、少し映画のワンシーンをオマージュというか参考にしてみました
「ちょっと待って………”作れるの”?」
「言ってなかったか?」
ミハイルは左手で握り地面に突き立てていた槍を右に持ち替えて左手を握ったり、開いたりと何か感触を確かめているかの様な素振りを見せながら言う
「これまでも魔導書の話はしてきたわよね? それなのに一度も触れられていなかったのだけど!?」
「そうか……まぁ、所詮話しても意味の無い話だ」
手に持っていた紙の資料を握り潰し、ミハイルにゆっくりと近付いていく。爪が食込み、少し破けた紙の資料は乱雑にデスクの上に舞い落ちた
「何故? 私が権力の無い王女だから? 政略結婚の道具でしか無い私には意味が無いと?」
「フッ……違うぞ、もう魔導書は”造れない”からだ。恐らくこの大陸にいる誰もが”造れない”」
清々しい程の軽い嘲笑だったが、怒る気にはならなかった。三千年生きた存在が”作れない”と言ったら作れないのだろう、不思議と諦めがつく……訳がなかった
数時間前までは諦めていただろう、しかしアルスとの軽い舌戦で思い知らされ、ミネルヴァの闘志を燃やしていた。アルスが垣間見せた王族でも知っている者が限られてくるという稀有な情報という武器と本人の価値を大幅に上げる稀有なスキルの存在
「今、私に必要なのは情報よ。今は情報だけで良い、因みにその魔導書を”作れる”っていう情報を他に知っている者は居るの?」
「知っている者………恐らく、もう居ない。だが、こんな情報を独占した所で何の利得にもならないぞ」
「闇ギルドが欲しがりそうな情報じゃない…………引き合いに出したら新興侯爵家の継嗣なんて直ぐに消せるわ」
振り返り、デスクの引き出しを小さな鍵で開けるミネルヴァ。先程の資料に比べ丁寧な扱いで取りだした紙には王都にある小さな仕立て屋が血の様な暗い赤色のインクの丸で囲まれていた
「闇ギルドか……帝国や共和国、エスト神聖王国でも活動しているらしいな」
「この地図にはその闇ギルドに依頼を出せる場所が印されているのよ。ある貴族が隠し持っていてね……盗み取っておいてよかったわ」
「依頼を出すのか?」
「普通には出さない、私でもあの組織の危険度は把握しているわ………ミハイル、行ってくれるかしら?」
笑顔の中に潜む狂気にも既に慣れ、ミハイルはその目の前の女性の生涯を見てみたいと改めて感じる様になっていた
「そうだな、俺が行こう。闇ギルド……面白そうだ」
「遊びじゃないのよ? それに不死身とはいえ大変よ。闇ギルドの構成員は全員が精鋭……」
「関係無い、俺は死なないんだ。それに手は出さないつもりだ」
いつもと違う非好戦的なミハイルの反応に驚き、背を向け扉へと歩いて行くミハイルを唖然と見送る
重厚な扉が開かれ、見慣れた歩行姿勢に戻ったミハイルは外に控えていたメイドと入れ替わる様に出て行く
「どうしたの?」
「殿下、部屋の換気と清掃を」
「----分かったわ、ありがとう。二時間で終わらせて頂戴………暫く庭園に居るわ」
深く頭を下げたメイドの横を過ぎるミネルヴァ。部屋の構造上、多少の埃や、冬場の煤などが溜まりやすくなっている
他の部屋より清掃に拘らなければ病気に繋がる事も少なからずあるだろう
しかし掃除だけが目的という訳でも無い。ミネルヴァの居なくなったこの部屋には様々な情報の資料や大規模な政策の資料が”何故か”多く存在し、貴族派の貴族出身のメイド達にとってはとても価値のある物の宝庫と化していた
(まるで蚊ね……雌ほど自分の周りをコソコソと…)
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〜王城、カルセインの私室〜
「どうするガーネット。 ”一体どういうことだ”とアルスに聞くのは無粋か?」
「粋か、粋じゃないかはこの際どうでもいいわ……問題なのはあの場であの会話を完全に理解していたのが当事者のアルスと二ーヴルお兄様、近衛騎士団長、そして陛下だけという事よ!」
(あらあら……気付いてたか……)
その場で木と化していたアルスは目を瞑り、なるべく話の渦中へと巻き込まれない様に大人しくしていたが、どうしても当事者であるアルスは逃げる事が出来無かった
「アルス、俺の記憶では剣聖フォトゥンヘルムの年齢は存命であれば九十六歳なのだが? どうしたらその年齢の人間を”味方に付けよう”などと豪語出来るんだ?」
豪語という単語に吹き出しそうになるのをなんとか抑え、アルスはゆっくり目を開けた
「そうだ。彼は御歳九十六のまさに生ける伝説……豪語というのは………少し心外ですね。剣を置いた理由をご存知で?」
二人は首を横に振る
「歳だと考えているのでは?」
今度は少し引っ掛かりながらもゆっくりと複数回頷く
「負けたんですよ。そして気付いた、研鑽に研鑽を重ねた自分の剣術が通用しない事に」
「”何に”だ?」
流石カルセインと言ったところか、アルスが敢えて省いた要所を聞いてくる
「それは……………」
「-----何だ?」
トントントントン
少し伸ばした沈黙はまるでこの扉を叩く音を待っていたかの様なものだった
「誰よ……」
「アーバンドレイク公です。恐らく俺が国を出る事を嗅ぎ付けたのでしょう」
「チッ……一体何処から…………アルス開けてくれ」
アルスは頷き、扉を開く。この部屋に近衛騎士は居らず、扉の向こうに数人居るだけだった
「殿下、アルスは今どk………」
目が合った




