【5章・狂剣乱舞】2
「なんだとっ!! そんな事出来る訳がないだろう!!」
玉座の間に二ーヴルの怒声が響く
二ーヴルは過去にフォトゥンヘルムに剣の指南を受けていたという事もあり、その性格や本性、そして彼自身が抱えている問題を知っているのだろう
しかしそれはアルスも同じで、同時にフォトゥンヘルムが抱える問題を解決出来る”もの”を持っている
「アルス……いくらあのフォトゥンヘルム殿でも齢九十六の老人だぞ? この国の為には……」
「大丈夫ですよ、陛下。私は知っております、その上でお話ししているのです」
九十六歳の剣聖がどうやってこの国に平和をもたらすというのだろうか
二ーヴルの歯軋りは止まらない
状況を理解していないのはミネルヴァと近衛達、ガーネット、カルセイン
アルスと国王の静かな睨み合いを唖然と見守る中、二ーヴルはアルスに歩み寄って胸ぐらを掴もうと首に手を伸ばすも、その手は結界によって弾かれた
「何故知っているんだ……? ただの侯爵家の継嗣であるお前がっ……何故……!?」
「別にそこまで熱くなる事でしょうか? この世の真理に近付いた者の運命ではないでしょうか?」
「私は何故知っているんだ、と聞いたんだ……! 答えろ」
「二ーヴル! そこまでだ……アルス、フォトゥンヘルム殿が再び剣を持つ事は無いと、我は思っているのだが?」
ただ疑問に思ったのだろう。半信半疑といった様子でアルスに尋ねた国王
二ーヴルは腕を組み、苦虫を噛み潰した様な顔をし、近衛騎士団長は俯き、笑いを堪えているのか肩だけが頻繁に上下している
「彼は人一倍剣に生涯をかけた人物です。もしそんな人物に剣で勝つ事が出来れば、共に歩んで行く事も可能でしょう」
アルスから視線を外し、国王は斜め上にある巨大なシャンデリアを細めて眺める
「---確かに、可能かも知れぬ。が、どうやって接触するつもりだ? 二ーヴルが指南を受けた十二年前を最期に外部の人間との接触は絶っている筈」
「ストロヴァルスの要人と知り合いなのでそこからいけるかと、”仲が良くて持ちつ持たれつ”の関係ですので下手に貸し借りは生みません」
「我が素直にアルスの言葉を信用出来れば良かったのだがな……最近帝国内の勢力も纏まりやっと”落ち着いてきた”のだ。アルスの言う要人が我が国に仇なす存在であるならば、一つになった帝国はこの国を脅かす存在となるだろう。危険だ」
ストロヴァルス帝国をこれ程警戒する国王の姿は珍しく、ガーネットやカルセインは顔を見合せ、近衛騎士達も目をキョトンとさせている
「有り得ません」
「その根拠は?」
「仲が良いというのは、理由になりますでしょうか?」
「度合いによるな」
「心の友と言っても遜色無い程と自負しております」
「-----うむ……まぁ、認めよう。だが我は元からアルスの実力を認めている。無理をする必要は無い、これだけは肝に銘じておけ」
「はっ」
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〜王城、ミネルヴァの私室〜
あの後直ぐに自室へと戻ったミネルヴァとミハイル。ミネルヴァは数少ない窓から外を眺めながら呟いた
「何なのよ、アイツ……それに剣聖って動けるの? あの方は今年九十六歳の筈……どうなの!?」
「知らない……フォトゥンヘルムは確かに帝国の最終兵器、でもそれは四十年前までの話だ」
「知らないって何よ…! 三千年前からこの大陸に居るんでしょ!」
「基本的に俺は人間に興味が無い、どんな歴戦の猛者も結局は俺達の命を絶つに及ばないからな……」
そうは言ったものの、ミハイル自身は各国の情報を常に収集しておりある程度把握している。が、あの空間で繰り広げられた会話に全く着いて行けなかった
何故フォトゥンヘルム? 何故九十六歳の老人なのか? 剣聖一人に何が出来るというのか?
しかし根本的な疑問はやはり、アルス=シス=エルロランテは一体何者なのかというもの
自分でも知らない様な情報を躊躇いも無く、惜しむ様子すら無く口走るあの青年の顔を脳裏に浮かべ、その三千年もの知識の入った頭で記憶を探る
「エルロランテ……似ている……あの男と、雰囲気が……子孫か? ……いや、奴等は逃げた筈……」
ミネルヴァに聴こえない様にブツブツ呟くミハイル
「少なくとも私が全力で調べた限りでは、普通の伯爵家が陛下の褒美で陞爵した”ありきたり”な侯爵家だったわ」
「そうか……でもあの紫髪の青年、俺を見ていたぞ。鑑定無効の魔道具に反応したのか、それとも俺を知っていたのか……?」
ミネルヴァはデスクの上に広げられた複数の資料を漁り、その中の一つを摘み上げて見る。流し見ている様に見えるがこれでも高速で全て隈無く目を通しており、他の資料も手に取り尋常じゃ無い速度で見比べている
「アルス=シス=エルロランテは……鑑定持ちね、それに雷魔法に結界魔法、洗礼の儀式では時空間魔法を会得しているわね……剣術のレベルは10!?
騎士団長クラスじゃないの……」
「なるほど、やはり強いか………だがそのスキル量、才能でどうにかなる量じゃないな」
「えぇ……これは恐らく魔導書を幾つか使用しているわね、市場に回る物なんて良くて四属性魔法の本よ? どうやって手に入れたのかしら……」
この国に現存する魔導書の殆どは見つかり次第王城の保管施設に保管されている為に市場にあまり出回らない様になっている
「魔導書は元来、過去に存在した人間の国…何だったか…………えー………アヴァロン王国…帝国? 共和国か? そんな名前の国が”造った”物だが………」
「ちょっと待って………”作れるの”?」
「言ってなかったか?」




