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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
四章・嵐の前の静けさ
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【4章・備えあれば憂いなし】3

いつもご覧頂きありがとうございます!

何だろう、辺りが白くて何も見えない


目は開いているから見えているのか、顔を下に向けると映るのは自分の裸



驚きのあまり瞬きをする



するといつの間にか服を着て野原に寝そべっていた。夜空が綺麗な野原だ、少し夜風が冷えているアルスは動こうと藻掻くが思う様に体が動かなかった



また驚きのあまり瞬きをする



(またか……)



今度は戦場か、太鼓と笛の音が聴こえる。音色の方向に首を向けようとするも固定された様に少しも動かない



またまた驚きのあまり瞬きをする



口の中に土が入っている。何故こんな事になっているのか、分からない。少し血の味もして片目が開かない、痛みに慣れていて痛みに詳しいアルスはこの痛みが何の痛みなのか分かる。目が潰れた時の痛みだ



(久し振りだな……この痛み……懐かしい……でも何時の事だったか……思い出せない……)



瞬き、いや目を瞑ってしまった



再び目を開けた時には目の前が緑で埋め尽くされていた。森だ、そしてこの奇妙な木々には幾度か見覚えがあり不思議と心が弾むのを感じる


ひんやりと腕が冷えた為にふと視線を左腕に落としたアルス。腕の上で一粒の雨が弾けていた


雨か、と認識した時には雨足が強まり髪の毛も、体も、周囲の木々も雨で濡れて来る


雨が目に入ったら目を閉じてしまうのは必然であり、アルスは目を閉じない様に額を軽く押さえて上から降り注ぐ雨を防ぐ



(ん……?)



雨の音が大きくて良く聴こえなかったが、一瞬遠く離れた背後で落ち葉を踏み砕く音がして振り返る


『空間知覚』は機能していないが、聴覚は研ぎ澄まされていた。降り注ぐ雨の騒音の中でも鳴く野鳥の声はある程度場所が特定出来る位には聴き取れる


再び落ち葉が踏み砕かれ、斜め前に見えていた木々の枝が揺れる


誰だ!と叫ぼうと口を開くが声は出ない


徐々に音が近付いて来ていて、アルスは”走り出した”初めて”走る”という思い切った行動をとれたアルスは自分がいつの間にか服を着ていた事と、自分の体が普段より大きい驚き、自分の走る速度が異常である事に気付いていない


その速さは馬を追い抜き、荒野を駆ける狼をも追い抜くであろう速度


姿形を見ない限り、その速度を出す存在が人間とは思えないだろう


木々の間を縫う様に駆け抜けていくアルスは片手を木の枝に掛けて猿を連想させる様な動きで前方に飛ぶ。幹と幹を飛び移りながら後ろに着いて来ているであろう存在から逃げて行く



(クソっ……!!)



再び声を出そうと口を開くが勿論出ない。この際自分の身体能力に変化が起きている事等どうでもいい


この信じられない動きに確実に着いてこれている存在が真後ろに居る事が何よりも怖いのだ


アルスはわざと瞬きをする。しかし場面変化は起きず、延々と森の中を駆け抜けている



(ならば此方から仕掛けるまでっ!)



アルスは枝を掴み、上半身を捻ってその枝の上に立つ。目を凝らすと遠くからアルスと同じ様に木々の間を入って追い掛けてくる”人影”が見える


若干、霧の立ち込めたこの森でアルスは迫り来る人影に向かって飛び付き、殴る


アルスの振りかぶった拳は空を切る、目の前に居た筈の人影は消えていた。真後ろに現れた気配を即座に察知して肘での追撃を入れるが再び躱され空を切る


そのまま地面に落ちていく二人は落下死も有り得る程の高所から平然と着地をする


ウルグと一体一をしている時の様な”やりにくさ”


ウルグとの鍛錬を直ぐに思い出し、こういった場合に来る次の攻撃手段を記憶の中から引き出す



(上かっ!!)



頭が痛むが、気にしない。この場合上から来るであろうと読んだ攻撃は予想通り上から来る


アルスはその人影の首を両手で掴み、地面に叩き付ける


人影はまさかの人では無く、獣人だった。この姿からして牙狼族だろう。銀髪の美しい毛並みを持った筋骨隆々の獣人


大きな口を開き、鋭利な牙を見せ付けながらも白目をむいて叩き付けられるその姿を見てアルスは困惑する


自分はここまで力があっただろうか? 人より握力や膂力が強い事は自覚しているものの、身体能力が圧倒的に優れている獣人を気絶に追い込む程では無かった筈だと


しかし、流石獣人といった所か。直ぐに目をアルスの方へ向けて、銀髪の獣人はアルスを”投げ飛ばす”


空中で回転しながら斜めに吹き飛んだアルスは途中で体勢を整えて木の枝に乗り移る


足を落ち着かせたアルスだが瞬きの間に迫っていた銀髪の獣人の蹴りが顔面に当たる


反射的に防いだつもりの両手は押し切られて顔面を大胆に蹴られたアルス





再び場面が切り替わる。今度は廃れた街の様な場所に呆然と立ち尽くしていた



(………ここは? また戦場だ………さっきの獣人は何処だ、森でも無い………)



自然溢れる先程の場所とは一変して人工物の多い景色が広がっている


地面に転がる騎士の死体には虫がたかり、突き刺さる槍は使い込まれていたのか所々磨り減っている



グサッ



胸に刺さる痛みに、思わず強く目を瞑る。目を開けると飛んで来たのだろう矢が右胸に当たりその矢は地面に転がっていた


傷口から出る血液も着ている服に染み込んでいた。しかし着ている服は森での服とは全く違う物


アルスの矢が刺さらない体に驚いたのか、廃墟と化した建物の陰から次々に出てくる騎士。鎧のデザインは全く知らないもので何処の国の騎士なのかも分からない


振り返り、逃げようと体を捻った時、アルスは指先に何か当たった感触を覚える



(ん?……これは、アロンダイトでは無いな……)



取り敢えず、左に差してあった剣を左手で抜き構えるアルス


不意に剣に反射した自分の顔は自分では無く、アルスより大分大人びた紫髪の男がそこには映っていた。今更顔が違った程度の事で驚きはしないアルスは一斉に斬り掛かってくる騎士達を薙ぎ払う様に地面へ『破撃』を放つ


顔は違っても、技は使える。その技術がある事からエルロランテの血筋というのは判明するのだが紫髪だという事からも大体予想は着くものだ


しかしこの技も記憶上のものでアルスの意思で使った訳では無い。あくまでこの男の記憶を辿っているだけ


騎士の中でも隊長らしきリーダー格の人間が此方を見て何か喋っているが何も聴こえない



アルスは再び、人間とは思えない速度で走り出す。場面は変わっても身体能力は変わらない様だ


石畳から家の屋上の縁を片手で掴んで回りながら屋上へと着地する


柔軟性も向上していて、その進化度合いに正直興奮しているが自分が一体此処で何をしているのか。それだけが一向に思い出せない



瞬きをする



場面変化が起こった。前回は瞬きが場面変化の引き金では無かった為に油断していた


屋上を歩いていたアルスは現在、薄く水の張った湖を歩いていた


揺れる波も無く、膝から下までしか水の無いこの湖の先に終わりは見えず、振り返って見ても陸を思わせる様な影は何処にも見えない


水面に映る自分の顔は自分の顔では無いにしろ、さっきと同じ顔では無かった


長髪を後ろで結んでいて、透き通った綺麗な灰色の瞳をしている




瞬きをする




今度は剣を握り、人間の胸を深く貫いて壁に磔にしている様な残虐な場面へと移り変わった


目の前で口から血を吐きながら何が喋る人間の声は届かない。しかし何故だろう、自分は喋っていないというのに相手は時々睨み、笑い、血を此方に向かって吐いてくる


まるで会話しているみたいだ


実際に会話しているのだろうか、何故自分は何も喋れないのか、剣で固定していた人間の体から目を背けて後ろを向く


自分は何をしているのだろう、自分の顔はどんなだっただろう


鬼の形相で此方に向かって歩いてくる集団を呆然と眺めながら考えるが一行に答えは出ない


見た目は人間の様に見えるが、不思議と違う様にも思えてくる


集団の一人がアルスの方へ向かって手を翳すと、アルスの首がへし折れた



場面が変わる



短く切り揃えられた芝生の上で腕を後ろに組んで立っていたアルスは、軍服らしき服装で涙を流しながら棺を運ぶ男達を横目に辺りを見回す


誰かの葬式だろうか。軍服らしき服装の人間が多い為に騎士団かそれ相応の組織での葬式という事なのだろう


アルスの肩を軽く叩き、話し掛けてくる女性はとても誰かに似ていて、その灰色の瞳は思わず微笑んでしまうものがある


アルス自身声を出していないというのに会話が成り立っている様なこの状況で、視界にその亡くなった人物の遺影を持った男性が目に入る



「父上………」



初めて言語化出来た単語だったが、そこに嬉しさは無い。何故ならば遺影に映る人間は”アルスの父”では無かったからだ


父では無いのに父上と呟く事。矛盾しているが理由は明確に理解出来る


本当の父親は別に居ると、話し掛けてきた女性の瞳に反射する自分の顔はやはり見覚えが無く、アルスの思い浮かべる本当の父親の息子では無かった


心の中で自分を思い浮かべる。アルス=シス=エルロランテを、そして自分の本当の父親ウルグ=シス=エルロランテを


記憶の中を探ろうとすればする程痛む頭


同時に入り乱れる様々な人間の記憶は同時にアルスとの間に強い繋がりを構築している様で、アルスに知識は勿論、経験も与えてくれていた


華麗な剣戟に、魔物を屠る剛腕、逃げ惑う騎馬兵を追い抜く瞬足、片手で首を掴み馬上から引き摺り降ろす怪力、そして山の様に積み重なった屍の上に立ち、一方向を呆然と見つめる記憶、アルスの元へ届いた黒い鎧と同じ物を着た自分が見つめる先に見える男は花紺青色の剣身を輝かせた両刃の剣を持っており、”魔王”を名乗るのに相応しい威厳と圧力を持っていた


様々な記憶の中で戦いの知識や体の使い方、呼吸法から剣術、体術まで会得したものの目の前の存在には勝てないと感じる程だったのだ


アロンダイトを持った魔王は走り出す。そしてこの男も屍の山を駆け下り、魔王に向かって抜き身の剣を握って走り出した


激しい火花を放ちながらぶつかり合う両者の剣


何時見ても美しいアロンダイトには当たり前であるかの様に刃毀れが見当たらない



一撃、更に一撃とこの男は確実に魔王に斬撃を入れていくが魔王は動じず、そのまま激しく打ち合う。アルスもこの黒い鎧を着た男も、同じ祖先の記憶を共有してきただけあるのか攻撃時の思考回路がアルスと似通った所がある



まるでアロンダイトが魔王の剣だったかの様な記憶を最後に、アルスは目を開く


まだまだ記憶はあります。簡略化したものだと思っておいて下さい

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