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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
四章・嵐の前の静けさ
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【4章・蠱惑】5

前に一度アルス達の住む大陸以外の大陸を話で登場させましたが、あれは後の物語の中で”付け足し感”が無くなる様に半ば無理やりねじ込んだものなのでそういった大陸があるんだ程度の認識で構いません


これは質問でも何でも無いですが、言っておきたかったので言わせて頂きました


これからもこの作品を宜しくお願いします

「さて、本題に入りましょう?」


頷く二人は”気を引き締める”全感覚を研ぎ澄まして周囲の物体の位置感覚を把握し、見える限りにある全ての物体の”重量”と”危険性”を予測する



「まぁ、本題と言っても実は御二人に事件の進捗を聞きたかっただけなのよね」



「進捗ですか……」



「無かったらそれまで…ですけど。ちょっとした事でもいいから聞かせて欲しいわ」



ディーンは横目でジョンを見る。あの時計を、と言わんばかりのアイコンタクトで時計を出す事を促す



「-----こういった物が見つかりました」



ジョンは懐中時計を取り出して目の前のローテーブルに丁寧に置く


置かれた王族の物と思われる懐中時計を見て目を見張ったミネルヴァは膝の上に置いていた手を懐中時計へと伸ばしかけたが直ぐに引っ込める



「殿下、これをご存知で?」



「え? あ、違うの………王家の物だなって」



「そうですね、紋章は王家の物です。これが地下収容所でベルモット伯爵の牢にて発見致しました」



ミネルヴァは置かれた懐中時計を手に取り、眺める。裏返したり、チェーンを触ったりと随分興味しんしんだ



「これは私が預かってもいいかしら?」



「え……「はい、構いません」」



ディーンが一瞬疑問を呈する様な言葉を呟いたがジョンの了承の言葉に掻き消される。ディーンは何故だろ、と目で訴えかけるがジョンは目を細め小さく首を横に振るだけ


ミネルヴァは立ち上がり、最初出てきた部屋へ歩いて行く。恐らく懐中時計を置きに行ったのだろう


姿が見えなくのを見計らってディーンは小声で、尚且つ首すら動かさないままジョンに問い掛けた



「……何故だ」


「……分かるだろ、怪し過ぎる。あれは絶対に殿下の持ち物だ」


「……唯一と言っていい程の証拠だぞ」


「命令したのは殿下だ、従う他無い」



足音が聞こえて二人は話を止める



「待たせたわね、じゃあ続きを……」





「殿下、ミハイルです! 」



扉の外からだ、大声で中に呼び掛ける人物は不明だが家名では無い事は分かる


ディーンはソファから立ち上がり、扉の方へ向かう。歩いて戻って来たミネルヴァを再び別の部屋まで歩かせる訳にはいかないからだ



「良いのですか!? ありがとうございます」



「感謝される程の事じゃありませんし、これくらいで王女様に感謝されると…此方もやりにくいです」



扉を開けると目の前に近衛騎士が居た。若く、落ち着いた表情の男だ



「え?」



「ハハ…混乱するだろうな。気にするな、入れ」



「はっ!!」



近衛騎士の男は部屋に入ると扉の横に並ぶように立ち、静止する



「何の用かしら? ミハイル」



「はっ! 申し上げさせて頂きます! ベルツ商会からの連絡で殿下の命令で仕入れた品物が届いたと、しかし道中荷車が襲われ品数が予定より減少してしまったとの報告です」



ベルツ商会はオニキスに本店を構える大商会でアトランティスの王都にも一店舗、大規模な商店がある


どうやらミネルヴァはその商会と何か計画していた様でその報告らしい


聞く限り良い報告では無いが、特にミネルヴァは慌てる様子も無い事から大して問題でも無い様に思える



「それはどの程度、減少したのかしら?」



「八十と報告では聞いております」



「多いわね、今はお客様がいらっしゃるのでまた後で対応します。ありがとう」



「はっ! 失礼しました!」



「ちょっと、待って下さい。大切な用事でしたら私達はここで失礼しますが?」


「えぇ、お渡しした懐中時計しか収穫が無いので」



ディーンの言葉にジョンが付け足す。二人は帰りたいだけなのだが、懐中時計しか出す物が無いというのもまた事実



「そうですか…? 気を使って頂かなくても結構ですのに……」



「何を仰いますか! 殿下の予定を押し退けてまで自分達の用事を突き通す事など……烏滸がましいです」



そう言い残して二人は足早に扉に向かい、近衛騎士の横を通り過ぎて出て行く。この一瞬の出来事にミネルヴァも近衛騎士も瞬きする事しか出来ず、呆然と時が過ぎるのを待つのみだった



開けられた扉から出て行く二人は扉が閉まるその直前まで笑顔だった。悪い噂が多いバラムトレス家だがその印象など微塵も感じない



「あの二人、強いですね……」



「貴方がそれを言うなんて、相当なのね」



扉が閉じて雰囲気の変わったミネルヴァの私室


扉の横に立っていたミハイルはそのまま歩き出してソファの背もたれに腰掛け、腕を組む



「それに気付いてたな、いや……あれは違うか」



「気付いてはいないわね、でも貴方これ……落としたでしょ」



そう言ってミネルヴァは部屋の奥へ足を運び、金色の懐中時計を持って来る。ミハイルはその時計を見ると直ぐに組んだ腕を解き、飛び込む勢いでミネルヴァに迫る



「これを何処で!?」



「あの二人曰く、ベルモット伯爵の牢にあったらしいわ……私からのプレゼントを落とすなんて、泣くわよ?」



手渡された懐中時計をミハイルは懐にしまう



「それで……何故アイツらを選んだんだ? 見るからに強い、何れお前を阻む存在になるかもしれんぞ」



「そうね、バラムトレス。この国で随一の武家よ……だからこそ潰しておきたいのよ」



「もっと早く俺を呼べば今日片付いたのにな」



不敵な笑みを浮かべるミハイルの口調には絶対的な自信があり、そしてミネルヴァもそれを疑う事をしない



「今はまだその時では無いわ、最近話題の青年の話……仕事をしない貴方でも耳には入ってきているでしょ?」



「話題…? 青年ね……あ〜、あの雷帝候補の青年だね?」



思い出した様に手を叩き、ハッと顔を明るくさせるミハイルは天井を眺めてその青年の顔を思い浮かべる



「あの青年の家とバラムトレスは親戚同士よ。両家とも武家として知れ渡っているけれど、青年の家の方が陞爵して今や侯爵、侮れない名声を手にしているのよ」



ミネルヴァはエルロランテ家とバラムトレス家が手を組めば、武力と権力を備えた恐ろしい存在になる、と考えているのだ


ミネルヴァは王城内での政治の動き、貴族の動きをある程度把握している


その中でエルロランテ家の期待が様々な分野で高まっている事も知っているし、妹であるガーネットとアルスを引っ付かせようとする動き、反対に離そうとしている動きがあるのも知っている


今回ベルモット伯爵の事件も原因を探ればアルスに辿り着くという事もあり、正に時の人といった印象がある



「アルス=シス=エルロランテ、俺は会いたくないな」



「え、何故?」



「何でだろうな………この地に降りて三千年になるが千二百年振りだよ、あの興奮は」



「何よ、それ……貴方好きよね、千二百年前の話」



窓から外を覗くと見える庭園と王宮の華美さは言葉では表現できないものがある


と、誰しもが言うがこの男ミハイルは違う


何度も見た、そして同じ様な庭園も何度も見た、更にはこれを超える美しいものも何度も見た



「ミネルヴァ。何度も言うがあの時期にあった戦、あれを超える戦を俺は知らない」



「でも貴方、その戦争には出ていなかったのよね?」



「あぁ、戦にはな。戦いはよくしていたよ、戦争と権力にしか興味の無いエストの連中とは違う」



「違う? 戦争と戦いは違うの?」



「当然。俺は強い奴と戦えればいい、千二百年前の”あの男”との戦い………今でも夢に見るよ」



後ろ姿でも小さく笑ったのが分かる。内に秘めた狂気、それが一瞬漏れた瞬間だった。辺りの気温が数度下がった様な、ミネルヴァは鳥肌の立った自分の腕を触り、少し擦る



「その話とエルロランテの嫡男に何の関係が?」



「同じ紫髪だった……老いてなお、矍鑠とした良い剣士だったよ。彼も剣士だろう? 見たら分かる、強くて良い剣士だ。見る度思い出してしまうからな……出来れば会いたくないよ」



「その……年老いた剣士の名前は?」



未だ外を見ているミハイルはそのまま首を横に振る



「何でよ……」



「前も言った筈だ、知らないんだよ。奴も名乗らなかったし、俺もわざわざ聞かなかった」



まぁいいわ、と言ってミネルヴァはミハイルを連れて部屋を出る。外の近衛騎士に要件を伝え、同行させて向かう先はベルツ商会


王女のお出かけだ


途中で声を掛けてくる貴族もミネルヴァには媚び売り諂う人形にしか見えず、最低限の受け答えのみでその場をやり過ごすというルーティーンも最近”飽き”が来た



(あと一年……フフフ、面白くなりそうね)

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