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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
四章・嵐の前の静けさ
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【4章・蠱惑】4

誤字脱字等あればご報告を

〜地下収容所〜


湿った石壁に囲まれ、吊るされたランタンの光だけが一人の男を照らしていた。簡素なベットに腰を下ろし、膝に肘を置き項垂れているベルモット伯爵だ


鉄格子の向こうには王国騎士が複数配置されており、警備が厳重になっている


これは以前この収容所で犯罪者が謎の失踪を遂げた為


ベルモット伯爵の部屋には最低限の家具がある。勿論特別待遇なのだが、国王のエスト間者に対する警戒心は高く、伯爵相手にこの措置は異例だ


唯一と言っても過言では無い木製の家具も石で囲まれたこの部屋の中では冷えきり、木の温もりなど疾うに忘れてしまう程


悉く会話という物が制限されて、閑寂な収容所だからか自分の脳が何時もより冴えている気がした


まるで今まで何者かに操られていたかの様な、そしてその解放感に不器用に微笑むベルモット伯爵の耳に小さな足音が聴こえてくる



「父上……」



「ジェイクか……済まない、どうやらおかしくなっていた様だ……」



「僕も何処か自分を見失っていました。父上を止める事が出来なかった僕にも罪はある!」



「そういう優しさはこの先捨てるんだ……」



未だに項垂れたまま優しい口調でジェイクに語り掛けるベルモット伯爵は何かを恐れている様でそれを隠そうと外見だけを優しさで取り繕っている様にも思える



「な、何故ですか……?」



「優しさは何の役にも立たないからだ。俺もいろんな人間に手を貸し、協力したよ……しかし見てみろこのザマだ」



自嘲し、汗ばんだ額を掌で拭う。少しだが呼吸が乱れて肩で呼吸しているのが分かる


この収容所は全体的に湿ってはいるものの、気温自体はそう高く無い筈だ


ジェイクが握る鉄格子も冷たく、手汗どころかどんどん手が冷たくなっているのを感じる



「何を……怖がって…いるのですか……?」



ジェイクの途切れ途切れの問い掛けにベルモット伯爵がベッドから立ち上がり、鉄格子に近付く


俯いていたからこそ、よく見えなかったがベルモット伯爵の顔には油汗が滲み、目が虚ろになっていた



「聞け……エストには気を付けろ、それにこの国の貴族もな。其奴らに俺はもう少しで殺されるだろう…」



「こ、殺される……?」



「あ、あぁ…」



鉄格子を握るまだ小さいジェイクの手に皺の入った柔らかい手が包むように重なる。震えている事は言葉の通り手に取るように分かる



「アトランティスの貴族……一体誰が……」



「分からない……しかし、国の上層部に間者が居る事は確実だ」



アトランティス王国の上層部と言うと大臣ら辺だろうか、ジェイクは思考を巡らせて面識のある人物を次々と思い浮かべては口に出していく



「辞めろジェイク! それ以上は……!」



突然近くに居た王国騎士がジェイクを鉄格子から引き剥がそうと脇に手を差し込んで”横に投げた”



「なっ……な、何をするっ!!」



「なっ!? ジェイクを離せっ!!」



騎士に投げられ硬い石の地面を転がったジェイクは尻餅を搗きながら手を騎士にかざして威嚇する


小さな雷が手を纏っているのを見ても騎士は動じずジェイクに近寄っていく


世に珍しい雷魔法は見るだけで恐れる人間も居る程。しかし何故だろう、目の前の騎士は表情一つ変えずに手に持つ槍をジェイクに向けた


その距離僅か数センチ


何かまずいことを口走ったのか、それすら分からず混乱する



「ら、ら、『雷弾』!!」



掌から出された雷の弾は迫る騎士の顔面目掛けて飛んでいくが騎士は首を傾けるだけで躱す


収容所の見張りを担う騎士如きが至近距離からの魔法攻撃を躱すなんて事出来るのだろうか


躱された事に驚き目を見張った時には騎士の槍が胸を貫通しており、肋の砕ける音が鮮明に聴こえる



「ジェイクっ!! 貴様っ!! こんな事をして許されると思うなよっ!!」



数時間後、地面に倒れる少年の死体と収監していたベルモット伯爵の死体、そして”十人の見回り騎士”の惨殺死体が発見された


目撃者は居ない。この時間帯を見回っていた騎士は全員死んでいて何も情報を得る事が出来なかったのだ


ただ一つ分かった事を挙げるとするならば鉄格子が力ずくでこじ開けられていたという事。人間の力では不可能な行為に獣人を視野に入れて犯人が捜索されているのだが、多少知識のある者ならば直ぐに分かるだろう


いくら力の強い獣人だからと言って収容所の鉄格子を熱された鉄の様にぐにゃぐにゃに曲げる事は不可能だという事に


しかし公に捜査する事は出来ない。王城の地下にある収容所でまた事件があったと公開するには体裁が悪過ぎる


そして、またまた二人の男が第一王女ミネルヴァ=ヴァン=アトランティスの命令を受けてこの件を捜査していた



「凄いな……」


「ハハ……」



ジョンとディーンはベルモット伯爵の部屋の前に立ち、捻じ曲げられた鉄格子を眺めていた


話には聞いていたものの実物を見てみるとやはりその曲げられ方は人の物では無いと断言出来るもの



「魔族か……?」


「王城の地下にか? 有り得ないだろ」


「そうか、でも獣人では無いだろうな」


「あぁ」


「「毛が一本も落ちて無い」」



二人は頷き、捻じ曲げられた鉄格子の隙間を通って部屋に入ってく。所々に飛び散った血液は変色しており更に収容所の暗さと相まって不気味さが増している


壁に掛けてあるランタンを手に取り、家具の一つ一つを照らしていく。元から証拠や手掛かりがあると踏んで見ている訳では無い


二人に推理力は無いし、人より優る洞察力がある訳でも無い


謎に命令されたのだ。この国の第一王女に


世間一般の中で第一王女は政略結婚の道具として囁かれている。しかし血と生まれは王族で逆らう事も無視する事も出来ない


最近、従兄弟のアルスが国からお叱りを喰らったという報告がバラムトレスの家人から上がった事もあり、二人は王族にすこしビビっている



「なぁ……もう帰ろうぜ、犯人なんて分かる訳ない」


「ディーン……子供が恋しいのだな、なら帰る前に煙草と酒を辞めると誓う事だ」


「-------ん、迷うな……」


「おいおい、そこは迷っt………これは…!」



ジョンがディーンを叱ろうとしたその時、地面に紋章の入った懐中時計が落ちているのを見つける



「お、手掛かりか? でもベルモット伯爵の物じゃないか?」


「違う……これは王族の紋章だ」



金色と赤色の鳳凰の紋章が懐中時計の裏側には刻まれていた。なぜこんな所に王族の持ち物があるのだろうか、この場所に王族の誰かが足を運んだ、あるいは王族と親しい人間がその持ち物を持ち込んだか


懐中時計を懐にしまい、立ち上がる


他に手掛かりが無いと割り切ったのか、ジョンはディーンと共に収容所の出口へと向かった


王国騎士と貴族が行き交い、軍服を身に着けた人間が入り乱れる王城は地下で起きた事件など知らなそうな顔で歩いている



「バラムトレスの御二人ですねっ!」



帰路につく二人を呼び止めたのは一人の近衛騎士



「そうだが、何の用だ?」



「ミネルヴァ第一王女殿下がお呼びです! 即座に殿下のお部屋へ!」



「部屋に……? ディーンどうする?」


「……呼ばれたら行くしかない」



若い近衛騎士に着いていく二人。微妙に早歩きの近衛騎士はヘルムを脇に抱えて一直線に王城の階段を上がっていく



「急かされたのか?」



あまりの急ぎ様にディーンが問い掛ける



「い、いえ……王女殿下の頼みですから」



「へぇ、尊敬しているのか?」



言いにくそうに言う近衛騎士に再び問い掛ける



「尊敬…では無いですね。勿論王族としての矜恃や意識は尊敬していますが……実は怖いんです。少しでも遅れたら何かされるんじゃないかと…」



予想外の返答に困惑する二人は互いに顔を見合わせて首を傾げる



「兄さん、第一王女殿下は怖かったか?」


「そんな話聞いた事ないけどな……そんな言葉とは無縁の方だった筈だ」


「お前の思い過ごしじゃないか?」



急に階段を上る足を止めて唾を飲み込み振り返った近衛騎士は辺りを見回し誰も見ていない事を確認すると口を開く



「私は最近近衛になったので知りませんが”昔”は確かに怖いとは無縁の方だったと聞いております」



「へぇ……最近は違うのだな」



「実際に何かされたとかは無いのですが……雰囲気というか…オーラというか……」



「それまでだ。 これ以上はお前が近衛をクビになる……最悪斬首だぞ」



「は、はい! 申し訳ありませんっ!!」



(謝る事じゃないんだが……)



二人は近衛に連れられミネルヴァが居るという部屋の前まで来る。メイドや近衛騎士が扉の前に多く立ち此方をじっと見つめてくる



「ミネルヴァ第一王女殿下、ジョン=トロワ=バラムトレス殿とディーン=バラムトレス殿がお見えです」



部屋の中から繊細で綺麗な入室を促す声が聴こえてくる。メイドに扉を開けられて入ると真っ先に濃密な花の香りが鼻腔を通った


そして目に入る真っ白な床に、赤い絨毯は金色と赤色が多く使われている王城とは別世界の様


横に居るディーンはその光景に溜息をついている


中央に置かれた大きなソファと灰色のローテーブルはこれからの話し合いを示唆しているのか王女の私室にしては公室よりな家具の配置


鏡は無く、凹凸を極力減らした家具が多い所を見るとバラムトレス、エルロランテの血を引く者はよからぬ事を考えてしまうものだ



「ディーン、変な”考え”は辞めろ。此処は王女殿下の私室だぞ」


「兄さんこそ、考えていた癖に……」



「何の事でしょうか? 私に関係のある話かしら? 」



そう言って姿を見せたのはこの国の第一王女、ミネルヴァ=ヴァン=アトランティスだ



「あれ、殿下先程返事を………」



「あぁ……この部屋の扉は特殊でして、魔道具で声を外に届けないといけませんの」



なるほど、と頷く二人だが同時にかき消した”考え”が再び甦る



「美しいお部屋ですね」



ジョンが笑顔で言う



「ありがとう、でいいのかしら? 最近改装したのよ。取り敢えず座って」



「「はっ」」



とても深く沈むソファに腰掛けて同じく腰掛けたミネルヴァと向かい合う。青い瞳は母親、ララ第一王妃陛下と現王太子、二ーヴル=ヴァン=アトランティスと同じだ



「さて、本題に入りましょう?」

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