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THE BLACK KNIGHT  作者: じゃみるぽん
四章・嵐の前の静けさ
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【4章・蠱惑】2

もう百話ですね。誤字脱字等あればご報告お願いします!

荷車に荷物を積んでいるアルスを除いた九人のSクラスは今からこの街を出る準備をしていたのだが複数の緊迫した様子の騎士に止められていた



「その……アルス=シス=エルロランテは何故今居ないのでしょうか?」



「アルスは突然消えるからな……理由なんて知らないぞ」



「----魔法学園の教師がそれでいいのでしょうか?」



「ハハハ、このクラスはSクラス。全員が貴族だぞ……それに名家揃いで王族も居る。男爵家の生まれの俺がこの面子を纏めるなんて無理な話だよ」



「……まぁ、いいでしょう。しかしこの街は先程閉鎖しましたから暫く此処を出る事は出来ません」



その言葉に反応したのは勿論この場の全員でカルセインはその騎士に向かって歩み寄っていく


その騎士も職業柄、”この街から出すな”という命令を遵守しなければならない


しかし、自分の前に立つ赤髪の青年は奴隷愛好家またの名をカルセイン=ヴァン=アトランティスその人だ


カルセインの噂がどれ程酷いものだったとしても目の前に居るのが王子というのは変わらない


カルセインは杖代わりにしていた魔槍を握り直し騎士に差し向ける



「カルセイン! やめろ、お前の評判は折角戻りつつあるんだぞ! 今此処でそれを蔑ろにするような事!」



「先生、良いんです。別に殺そうとしている訳じゃない……俺が領主に会わせろとこの騎士を脅した事にする為です」



「そんな事、槍は要らないだろ!」



「”見せ付ける必要があるんだ”いつもはアルスの役目だが今だけは俺が言うぞ。周囲に複数の人影…俺達を囲む様に上手く殺意を隠して潜んでいる」



カルセインの一言に唖然とするアリティア先生は目線を横に居た近衛に向けて合図を出す。生徒を守れと警戒しろと剣を抜けと。言葉は無く目の動きのみで


同時にガーネットは荷車から杖を引き出して地面に突く


セレスティーナは鞘を触り角度を少し変えて抜き易くしながらガーネットに背を合わせて立つ


ストレイフとエリゴスも鞘を触り、荷車から少し離れる


この位置から人影は見えない。しかし不自然に通行人が少なく、とても静かになっている事から緊張が高まる



「流石です……申し訳ありませんが、私達エレガイレの騎士は応戦する事が出来ません……その人影はビルイルの傭兵団。この街に居る悪党達です」



「おい、ちょっと待て……まさかとは思うがハートマウス卿はそいつらを野放しにしているのか?」



「お、脅されている様で……すいません! これ以上は!」



急に態度を変えて怯えた様に走り去って行く騎士の背中は小さい



「お、おい………」



近衛騎士は剣を抜き周囲を警戒する様に辺りを見渡す。完全に戦闘態勢に入った一行を見て笑いながら一人の赤いターバンを巻いた男が姿を見せた


格好は傭兵らしく軽装で動きやすい服装


両手に剣を持ち、足と腰の後ろにも剣を付けていて不気味な男は騎士が走り去った方を眺めて口を開く



「はぁ……駄目だな本当に」



「何者だ!」



一人の近衛が問い掛ける



「何者……ね、しがない傭兵団だよ。さっきあの騎士が漏らしてただろ? 情報」



「目的は何だ? 此処には殿下が居るんだぞ、返答によっては武力行使も厭わない」



「王国の騎士さんは優しいね、-----いや温いというのか?」



ビュッ



何処からか飛んで来た矢は近衛の首に突き刺さる。ヘルムとプレートアーマーの隙間を射抜くその技術は相当高く、一瞬で絶命し倒れる近衛を見て全員が剣や杖、ハルバードを構える



「俺達の目的はただ一つ。同胞を殺した奴を殺す事」



「-----近衛一人軽く殺すのに仲間一人殺されたら激怒するのか? お前らの組織は」



「随分と煽るじゃないか、カルセイン王子。理不尽だと思うか? そうだよ、この世界は平等では無いんだ」



突然建物の陰から女が飛び出してくる。目の前の男と同じ様な服装からして傭兵だろう


身体強化魔法を使っているのか低い姿勢で尚且つ早い速度で剣を握りカルセインに迫る


猫のように細い目は完全にカルセインを捉えておりその眼光からは明確な殺意を感じる


一人の近衛がカルセインを守る様に前に立ち、女に斬り掛かるが躱され女の蹴りで近衛が地面に倒れる


僅か二秒、戦闘の幕が切って落とされたのだが、直ぐにグレイスの氷魔法でその女は氷漬けになる



「振り出しに戻ったな、それにしても氷魔法ね……お前か? 殺したのは?」



「さて、どうでしょう?」



グレイスが杖を構えて言う。男は小声で違うだろと呟いているが誰にも聴こえない。呟いた後手を挙げると建物の屋上や中、更には道の角や路地からも数十人の傭兵らしき人間が出て来る



「ボスは言っていた、この九人と学園の職員、近衛騎士の中に同胞を殺せる人間は居ないと」



手を挙げたターバンを巻いた男はその口角を吊り上げながら言う。この時全員の脳内には、では何故自分達を殺したがっているのか、という疑問が渦巻いていた


しかし、全員がほぼ同じタイミングで一つの答えが脳内に浮び上がった



「アルス……」



「そう、其奴……何処に居る? 其奴が現れるまでお前達を一人一人殺そうと思ってな」



「返り討ちになる事を考えていないのか?」



「はぁ、王子の煽りは止まる事を知らない様だが一つ忠告だ。舐めるなよ…餓鬼が」



ターバンを巻いた男は剣をカルセインに向けて投擲する。その瞬間別方向から飛んで来た矢もカルセインに向かっており、両方向からの同時攻撃に舌打ちをしながらなんとか攻撃を防ぐ


しかし勿論攻撃を受けたのはカルセインだけでは無い


鉄の鎖が鞭のようにセーレを襲い、短剣を持った少女二人がグレイスに斬り掛かる


セーレは片方の剣が弾かれ、地面に落とされたもののもう片方の剣で傭兵の首を切り裂く


グレイスも少女だからといって容赦はせずに膝から下を氷漬けにして身動きが取れない様にした後屋上で弓を構える男に『氷塊』を放つ


屋上の男はギリギリで『氷塊』を避けたものの、腕を掠り番えていた矢を吹き飛ばされてしまう


再び矢を取りだして番える屋上の男だが弦を引いた時には頭に炎の矢が貫通しており、前のめりに倒れて屋上から地面に落ちる



「相変わらず、正確ねシトリーは」



「えぇ、【弓聖】はこれ位出来なきゃね」



そう言いながら後ろから迫る傭兵を弓で殴りゼロ距離から炎の矢を放つシトリー



この様子に何故か首を傾げているのは先程手を挙げていた男



Sクラス九人に教員が三人、近衛が四人の総勢十六人と三十人程の傭兵は今の所拮抗した戦況状況で魔法を連発する魔法学園側が多少有利な様にも見える



「違うな……ボスの言う通り此処にゼルニアを殺せる人間は居ない」



そう言って手を三回叩き、両手に剣を構えた男



ドォォン



屋上から飛ばされた火矢が荷車の中へ突き刺さった。荷車が吹き飛び、オロバスやエリゴス、ストレイフもその爆風で吹き飛んでいく


手を叩いた瞬間に地面に伏せた傭兵達は何事も無かったかのように立ち上がり、再び斬り掛かって来るがガーネットの魔法で一掃される



「まるでアリを踏みつぶす人間じゃないか精霊魔法士ってのは………恐ろしいね」



黒く焦げた地面に、未だに燃えている傭兵の体と服の布地。圧倒的な攻撃力と破壊力に少しだが驚きを与えた様だ



(何でこの男は平然としているのよ……仲間を殺されたというのに、それに私は精霊魔法士よ…!?)



「何で驚かないのかって顔だね。----はぁっ!」



男は地面を蹴り、ガーネットに肉薄して剣を振るう。何本もの剣撃を杖で防ぎ魔法で反撃する


男の実力は高く、魔法戦に慣れている印象がある


近くの傭兵を片付けた近衛がガーネットに飛び入って加勢する。傭兵達による切り傷だろうが膝の辺りに血が滲んでいる


呼吸も乱れていて先程の戦いで消耗していた事が窺える



「殿下……お下がり下さい、ここは私が…」



ガーネットを安心させようとするその近衛騎士の言葉に微笑んで答えるガーネットは魔力を高めて地面に杖を突き立てる


「《精霊よ、我に炎の力を、永遠に燃え大地煮える滅却の炎》『炎熱地獄』これで……」



地面が赤く染まり、石畳の地面が柔らかくなる。足が沈み靴が溶けるその温度に男も思わず舌打ちをして大きく後ろに飛ぶ


広範囲に効果のあるこの魔法で後方で行われていた激しい戦闘も一時的に収まり、睨み合いに移る


睨み合いといっても数の差は歴然、教師もアリティア先生しか残っておらず近衛騎士もガーネットの前に居る奴しか残っていない


クラスメイトは全員生きているものの、疲労が目に見えて伝わってくる



(マズイわね………これでは力尽きるのも時間の問題かしら………)



『炎熱地獄』の環境変化でお互いその場から動けず、睨み合いの膠着状態が続く


シトリーが弦を引き、傭兵の一人もシトリーを狙い定めて弦を引いている。どちらかが一歩でも動けば解かれる緊張感の中でこの場に居ない誰かの話し声が聴こえてくる


シトリーは少し離れた場所からの声に思わずその方向へ目をやる


この声は二人分だろうか、小さく聴こえる足音から落ち着いた歩調で徐々に近付いて来る様にも思える。未だに姿は見えないのだが、曲がり角の先にその人物達は居るだろう事は予想出来る



「…………………暑いね、何でだろ」


「…………………分かりかねますが、今朝はまだ気温が低かった筈です。おかしいですね」



隣の人間の呼吸音が聴こえる程の両者緊迫した空気感の中、聞き覚えのある声が聴こえてくる事でSクラス側の人間の顔があからさまに変化していく


口角が上がり、微笑むSクラス側の人間。オロバスなんかは重いハルバードを地面に置き、まるで戦闘を放棄したかのような行動をとっている


殺し合いの最中に武器を捨てる人間が居るだろうか、その行動が余裕から来るものだと傭兵達は気付いているものの、何から来る余裕なのかが全く分からない


傭兵団側の緊張感がより一層高まった所で姿を見せたのは私服のアルスとメイド服のヴァイオレット。目を細め辺りを見渡すアルスは小さく頷きながら鞘に手を添える。ヴァイオレットも杖を取り出し地面に突く



「これは…………『空間知覚』を使っていなかった俺が悪いのかな?」


「使っていなかったのですね、今後からはこまめに使う事をお勧めします----さて、どうしますか?」


「大体状況は理解した………ヴァイオレットは皆の回復を優先してくれ…………鏖殺だ」

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