第5話 誠の想いは何と踊るのか~初めての体育祭~⑥
午前の競技が終わり、昼食の時間になった。昼食はどこで食べても良いことになっていて、応援に来た保護者と食べる生徒や、更衣した教室で食べる生徒など様々だ。そのためか、昼休憩は長めに確保されている。
美玖が今日は朝早く登校しなくてはならなかった俺の代わりに弁当を作ってくれているはずなので、俺は教室に戻る生徒を片目に生徒会のテントで待つ。
「ねえ! みんなでお弁当食べようよ! 朝市先生、このテントって使っていいですか?」
夏野が提案する。
「ああ、いいぞ。レジャーシート持ってきてるから、自由に使ってくれ」
「やった! 朝市先生ありがとうございます。準備いいですね!」
「まあ、毎年体育祭見てるからな。必要なものは分かってる」
「じゃあ、それぞれ自分のご飯を教室に戻って取ってこようか」
先生二人は本部の方へ行き、秋城に続いて生徒会のメンバーはみんな校舎の方へ向かう。
「あれ? 誠先輩教室に戻らないんですか? もしかして弁当忘れちゃいました?」
「いや、妹が弁当届けてくれることになってるんだ。妹が来たら適当にどっかに行ってるから、俺のことは気にしなくていいぞ」
「まこ兄! ここにいた! もう、クラスのテントにいないんだったらそう言ってよね」
タイミングよく美玖がテントにやって来た。
「言ってなかったっけ。ごめんな。というかなんでそんな重箱持ってんだ?」
美玖はとても二人分とは思えない大きさの箱を抱えている。
「張り切ってお弁当作ってたら、作りすぎちゃった」
美玖が恥ずかしそうに俯きながら答える。
「ねえ、まこちゃん。もしかしてこの美少女がまこちゃんの妹?」
「どう考えてもそうだろ。これで他人だったほうが怖いよ。名前は美玖だ。」
「えー! 聞いてない! まこちゃんにこんな可愛い妹がいるなんて! 初めまして! あたし、まこちゃんのクラスメイトで生徒会の夏野奏。よろしくね!」
夏野が美玖に勢いよく抱きつく。大型犬が久しぶりに飼い主に会ったときのようだ。
「可愛い……」
そしてなぜか霜雪も夏野と反対側から美玖に抱きつく。
「え? え、まこ兄。ど、どういうこと?」
「美玖さん、私は生徒会の霜雪真実。私、昔から妹に憧れていたの。私の妹にならない?」
突然真顔で何を言い出すんだ。こんな霜雪初めて見た。
「真実ちゃんだめだよ!」
そうだ、よく分からないことを言いだした霜雪を止めろ。
「美玖ちゃんはあたしの妹になるの! 絶対に渡さない!」
だめだ。夏野はいつも通りよく分からない。
「えへー。まこ兄、両手に花になっちゃった」
お前もまんざらでもないような表情するなよ。
「奏さん、真実さん、まこ兄と結婚してくれたら美玖は妹になるよ?」
美玖はどこで覚えたのか聞きたくなるような猫なで声で二人に囁く。そして、それを聞いた夏野と霜雪は本気で考えているような表情をする。
「おい、真剣に考えてくれるな。俺がお前らのこと怖くなるか、俺が傷つくかの二択しかないから。ほら、弁当取って来いよ。美玖、どっか空いてるところ行こう」
「あ、ちょっと待って。生徒会の皆さん、一緒にお弁当食べませんか? 作りすぎちゃったんで、食べるの手伝ってください」
「喜んでー! そうと決まればみんな急いで自分のお弁当取ってこよう!」
夏野は走って校舎に向かう。
「とても可愛い妹さんだね。じゃあ、誠は椅子を片付けてシートを引いておいてくれるかい? よろしく頼んだよ」
秋城と星宮はそう言い残して自分達も弁当を取りに行った。
「ん? お前らも弁当取りに行って来いよ」
月見と春雨がテントに残っていたので声を掛ける。
「いや、テントの準備をしてから取りに行こうと」
「そ、そうです。誠さんだけに任せるのは後輩として……」
「そんなこと気にすんなよ。そんな手間でもないから一人でやっとく。できるだけみんな同時に食べ始めたいだろ。ほら、行ってこい」
「いいんですか?」
「いいっていいって。ほら急げ」
二人はお礼を言って駆け足で校舎に戻っていく。わざわざお礼を言われることでもないが、いざ言われると照れる。よくできた後輩たちだ。俺は美玖と二人きりになったテントでパイプ椅子をまとめ始める。
「面白くていい人たちだね」
「面白いかは知らんが、いい奴ら……ではあると思う」
「面白いよ。あんなに可愛いお姉さんたちに妹にしたいって言われて、なんか嬉しかったな」
「本当に妹になるなよ」
「何? まこ兄、嫉妬してるの?」
「そんなわけないだろ。本当の兄妹なんだから」
「もう、素直に可愛い妹が盗られそうで嫉妬しちゃいましたって言えばいいのに。それにしてもまこ兄、変わったね」
「何も変わってないよ」
「変わったよ。学校でこんなに楽しそうなまこ兄、初めて見た。あの人たちのおかげだね」
美玖が変わったと言えば少しはそうなのかもしれない。つまらなくはない体育祭は初めてなような気がする。自分が成長したなんては思わないが、この真実は自分の中できちんと受け止める必要がある。
「ほら、そっちの端を持って広げて」
最後に美玖と協力してシートを引き終わったころに、ちょうど、他の奴らが弁当を取って帰ってきた。
弁当を半分食べ終わる頃には、美玖はすっかり生徒会の女性陣と仲良くなり、俺と月見、秋城はシートの端に追いやられていた。
「誠先輩、あんなに可愛い妹さんがいたんですね。びっくりしました」
「身内びいきに可愛いとは思ってたが、世間的に見ても美玖は可愛い部類に入るんだな」
「むしろ、誠先輩より世間の評価の方が高いと思いますけどね。奏先輩はともかく、真実先輩もデレデレだったのは意外でしたね」
「そうだね。普段クールな分、妹に甘えてみたい願望とか、逆にお姉さんとしてかっこいいところを見せたい願望があるのかもしれないね。それにしても妹はあんなにコミュニケーション能力が高いのに、実の兄と言ったら」
「コミュ障で悪かったな。俺と美玖は違うんだよ。俺は今までの学校生活で別に文句も不満もなかったが、美玖にはもっと色々楽しんで欲しいと思う。まあ、俺が心配するまでもなく美玖は学校でも今みたいに楽しくやってるみたいだが」
「誠はまだ学校を楽しめていないのかい?」
「それは分からんな。ただ、生徒会に入ってから刺激が多くて退屈することはない。毎日が同じって感じはなくなった」
「それは良かった。これからももっと刺激的な毎日を約束するよ」
「ほどほどにしてくれ。今でも十分すぎるくらいだ」
程なくして朝市先生と小夜先生がテントに戻ってきた。
「みんな、生徒会にってOB、OGから差し入れ貰ったから、このクーラーボックスの飲み物自由に飲んでもいいわよ。人数分以上は入ってるから、もう取り分とかきにせずに好きに飲んじゃいなさい。あら、この可愛いお嬢さんは誰かの彼女かしら?」
「あ、うちの兄がいつもお世話になっています。妹の冬風美玖です」
「あー 冬風君の妹さん。これは丁寧にどうも。生徒会担当の小夜と朝市よ。美玖さんも飲み物自由に取っていいからね。むしろいっぱいありすぎるくらいだから貰ってちょうだい。ゆっくりしていってね」
「はい! ありがとうございます!」
小夜先生と朝市先生も弁当を取って来たらしく、小夜先生は早速、女子の集まりに参加する。
「なんだ、その目はお前ら。俺もこのむさくるしい集まりに参加させてくれよ」
もちろん朝市先生は男子会に参加する。
「そういえば秋城と冬風はフォークダンスを踊る相手は決まってんのか」
「ええ、決めていますよ。二人ともね」
「へえー なかなかやるな。楽しみにしとくよ」
「そういえば朝市先生は学生の頃どんな人と踊ったんですか?」
秋城の質問に朝市先生はちょうど飲んでいたお茶を吹き出しかける。
「ちょっと輝彦! 汚いじゃない。気をつけなさい」
「ごほっ! す、すまん。涼香。秋城、教師のプライベートは詮索したらだめだぞ」
「そんなに動揺しなくてもいいじゃないですか。それに先に聞いてきたのは朝市先生ですよ」
秋城は意地悪そうな目で朝市先生を見ている。こいつは何かを分かっていてやっているな。まあ、朝市先生の過去を無理に詮索する気はこいつと違って起きない。
そんなこんなで話しながら弁当を食べていると、昼休憩はあと十分ほどになった。
「みなさん、お世話になりました。一緒にお弁当食べられてすごく楽しかったです! ふつつかものの兄ですが、これからもどうぞよろしくお願いします」
「ふつつかじゃねーよ」
「また遊ぼうね!」
「また今度みんなで遊びに行きましょうか」
「美玖さん、ぜひまた会いましょう」
「美玖ちゃん、ま、またね」
「はい! 楽しみにしてます!」
本当にすっかり仲良くなったようだ。美玖は笑顔で手を振りながら、観客席の方へと戻っていった。




