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このラブコメは嘘か誠か真実か  作者: 堂上みゆき
第1章 第1話 生徒会発足
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第1話 彼、彼女らの嘘はいつ始まったのか~生徒会発足~②

 弁当を食べるときも、もちろん人はグループを組む。机を移動させる分だけ、よりそれらの境界は顕著だ。人は嘘を接着剤にし、他人と関係を構築する。


 いつしかその接着剤は蜘蛛の糸のように絡み合い、自らを、集団を縛り付ける。あると分かっている蜘蛛の巣に自ら好んで入る虫などはいないし、一度その糸に捕らわれては抜け出すのは困難である。同じだ。人も集団に新たに入るのは難しいし危険だ。


 そしてそこから抜けようとするのはもっと危険だ。捕らわれた虫が迎える最期は捕食されるのみ。人間でいうところのいじめ、仲間外れだ。


 ふと夏野がいつもいるグループの方に視線を向けた。今朝の出来事で変に意識してしまっているらしい。しかし、夏野以外のメンバーはいつも通り机を寄せ合って弁当を食べていたが、夏野本人の姿は見えなかった。一人だと誰かと話すことなどない分、食べ終わるのは早い。楽しそうな笑い声が響く教室を出て、英語準備室に向かった。



「失礼します、二年三組の冬風誠です。朝市先生に用があって来ました」


「あら、冬風君。二か月ぶりね」


 英語準備室に入ると小夜(さよ)涼香(りょうか)先生と目が合った。一年生の時の英語の担当だった先生だ。朝市先生と小夜先生は二人ともこの四季高校出身の同級生で、とても仲がいいらしい。


「小夜先生、朝市先生いますか? 昼休みに来いって言われたんですけど」


「あー、いるいる。そこで寝てるわよ。ちょっと待ってね」


 ちょうど入り口から死角になっている所の椅子で寝ているらしい。人を呼びつけておいてなんて自由な教師だ。小夜先生がその方に行くと、まるで椅子を蹴飛ばしたような衝撃音と朝市先生らしき男の人の声が準備室に響いた。


「いってー! 誰だ!」


「私よ、輝彦。生徒呼びつけておいて教師が寝てんじゃないわよ」


「てめー、涼香。覚えとけよ」


 どうやら仲がいいというのは本当らしい。小夜先生は笑いながら自分の席に戻り、朝市先生は強打したであろうお尻をさすりながら、椅子に座り直し、俺を呼んだ。


「冬風、すまねぇな。最近寝不足で」


「どうせアニメでも見て夜更かししたんでしょ」


「うるせえ! 涼香、お前だって今日寝不足だろ。あくびが多いぞ。どうせ若いアイドルのライブ映像見てキャーキャー言ってたんだろ」


「いいでしょ、というか私もまだ若いわよ、おっさん」


「俺とお前は同い年だろ!」


 一体何を見せられているんだろうという俺の疑問も、二人の勢いに負けて言い出せず、俺が咳払いをしてやっと、二人も咳払いをして何事もなかったように装い始めた。


「つくづくすまんな。で、本題なんだが、冬風。お前生徒会に入れ」


「へ?」


 我ながら情けない声が出たと思うが仕方ない。いきなりこの先生は何を言い出すんだ。


「へ? じゃねーよ。うちは内部進学で系列の大学に行く生徒がほとんどで、受験の心配がないから、生徒会長選挙は通常十月に行われる。それまでは三年の生徒会長がいて、その選挙で初めて二年が生徒会長になり、そこから一年間生徒会長として仕事をしていくわけだが、どういうわけか去年の選挙で会長になったやつがこの時期に生徒会を解散したんだよ。それで先日イレギュラーな生徒会長選挙が行われて二年の秋城が生徒会長になっただろ? で、その新しい生徒会のメンバーのとしてお前を推薦してきたやつがいたからお前は生徒会に入る。なんか疑問あるか?」


「会長選挙があったことはもちろん知っています。でも僕が生徒会に入らないといけない理由はどこにもないですよね? 僕を推薦したってやつも僕をからかうために推薦したんですよ。僕はそんなやつの思い通りなんてなりたくないです」


「噂通り思ったことを何でも言う正直な奴だな。俺は好きだぞ、そういうやつ。だから俺も思っていることを今から言うぞ。生徒会のメンバーはもうほとんど決まっているが、最低限あと一人欲しい。それから今回のイレギュラーな事態の生徒会ということで、入りたいという志願してくるやつはほとんどいなかった。前生徒会の三年メンバーも新しくなった生徒会に入る気はないらしい。というわけでだ、生徒会の担当教師としてはもう新しいメンバーを一から探すのは面倒くさいし、お前には推薦があった。だから冬風、お前は生徒会に入るんだよ」


 無茶苦茶だ。自分が担当の教師として面倒くさいだけで俺を生徒会に入れようとしてくる。ただ朝市先生は何も嘘をついていない。


 普通の教師ならここで、やりがいやら、自分を変えるためやら、もっともらしい、何かの志望理由書に書けそうな事を言って説得しようとしてくるだろう。嘘の中でも、俺はそんな嘘が特に嫌いだ。嘘で生徒をだまし、自分は責任を取らない。もちろんはたから見れば良いことを言っている、いい先生なのだろう。だがそれはただの詐欺師だ。甘い言葉で他人を自分の思うように誘導する。そんな教師が俺は嫌いだった。


「断ったらどうします?」


「他を探すより多分お前を説得するほうが簡単だ。けどそれもめんどくせーから今ここで承諾してくれ」


 どんな嘘よりも今の自分にとってはこの本音が心地いい。


「分かりました。僕も今断って先生に付きまとわれたくないんで取り敢えず生徒会に行くだけ行ってみます。ただ上手くやれるかどうか、続けるかどうかは分かりませんし、保証できません」


 いつもそうだ。嘘をつかなくなってから、何度か集団に入るチャンスはあったが、どれも上手くは行かなかった。人は本音なんて求めていない。欲しいのは心地の良い嘘だ。そのうち俺はまたそのことを実感し、そこを去ることになるだろう。


「それで十分だ。ありがとな。秋城(あきしろ)、冬風が生徒会入ってくれるってよ」


 後ろを振り向くと、すぐ近くに生徒会長になったばかりの秋城(あきしろ)政宗(まさむね)が立っていた。いつからこの男は俺の後ろにいたんだ。茶髪で綺麗に整えられた髪をしていて、モテる男という概念を擬人化したような奴が俺の方に微笑みを向けてくる。俺が女子ならさぞかし喜んだだろうが、残念、俺は男だ。


「ありがとう、冬風君。これで生徒会のメンバーがそろったよ。早速だけど今日から本格的に活動を始めるから、放課後に生徒会室に来てくれ。待ってるよ」


 秋城は満足げに準備室を出ていった。成績、体力テスト学年一位という漫画みたいな事前情報があるとはいえ、食えないやつだと少し接しただけで分かるのだから大したやつなんだろう。さすがはこの学校の生徒会長というべきか。


「ま、というわけだ。秋城達と協力して生徒会頑張ってくれ。俺もできるだけ頑張るよ」


 おそらくこの先生のできるだけというのは、おそろしくハードルが低いのだろうが、もうこの先生のやる気に関してはあきらめた方が良さそうだ。


「じゃあ、これからよろしくお願いします。では」


 準備室を出て少し振り返ってみると後悔しかかったが、俺は嘘をつかない。取り敢えずは今日の放課後から生徒会として働く決心を改めて固めた。




「あんな強引に入れちゃってよかったの?」


 小夜が二人きりになった準備室で朝市に話しかける。


「お前がさっき霜雪を説得したのもたいがい強引だったぞ。まあ、強引とはいえ、やると決めたのはあいつ自身だ。それよりあいつが誰から推薦されたか気にならないのか?」


「そうね、気になるけどやめとくわ。それは彼とその子の問題であって他人が口を出すものじゃない気がする」


「確かにそうだな。冬風も、推薦してきたやつもそれぞれ問題を抱えている。それは俺らが解決することじゃなくて、あいつら自身が向き合うべきものだ」


「あら、今日はやけに大人ね。その聡明さがいつもあればよかったのに」


「うるせぇよ。ただ昔を思い出しただけだ」


 遠くを懐かしむ表情を浮かべる朝市を見ながら、小夜は小さく「そうね」と微笑んだ。


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