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30. 仁と敦司

 12月25日。


 日本では無宗教が多いため、クリスマスという日は誰かの誕生日を祝うよりも、恋人や家族とパーティをするものだという認識が強い。

 それはもちろん、美月も例外ではなくアサギにクリスマスのことをそんな風に教えると、アサギは目を輝かせてパーティに向けて準備を始めたのである。


 アサギには別の目的もあったのだが、それは当日のお楽しみと、特に仁には教えなかった。そんな中、アサギは美月と一緒にデパートの『アルト』へ来ていた。


 「ふんふふんー♪ 小さいけどツリーに、おーなめんとは買ったし、後は食材ね!」


 「あ、プレゼントも必要ですよ? 仁さんに贈るんですよね」


 「そうよ! 何か魔王である私に思うところがあるみたいだから、こっちに敵意はないことを伝えないとね!」


 そんな決意を鼻息荒く言う。美月はそんなアサギを見てニコニコしていた。だが、アサギはそれはそれとして別の警戒を強めていた。


 「……とりあえず昨日の変質者は居ないみたいね……」


 「あ、そうですね……」


 少し表情を曇らせて俯く美月。流石にデパートの中では襲っては来ないだろうとは思うが、用心に越したことはない。

 

 「ま、さっさと用事を済ませて帰るのが吉ね! 今日はみんな休みだし、楽しみね」


 「居酒屋は古谷さんと赤嶺さんが『どーせひとり者だよ!』って言いながら変わってくれたのが良かったです」


 「あと、月菜ちゃんもね! 今度お礼しようっと♪」


 「夕方には仕込みたいので、手早く行きましょう!」


 「そうね! あっちゃんは上手く仁を連れだしてくれたかなあ」


 「先輩は大丈夫ですよ? さ、行きましょう♪」



 ◆ ◇ ◆



 「……で? どこへ行くんだ?」


 「……さあ?」


 敦司は仁を連れて公園のブランコに座っていた。とりあえず美月に頼まれたもののこうしてふたりで出かけることは無かった上、友達と遊びに行くという知識が欠落している敦司は公園以外の選択肢が無かったのだ。


 「よくわからんが、久々の休みなんだ。帰って寝ていいか?」


 スッとブランコを立ち上がる仁を見て慌てて引き留める敦司。

 

 「ま、待ってくれ、その……(ここで家に仁さんがいたら三叉路に何を言われるかわからねぇ。ど、どうする俺……!)」


 「? 用があるなら早くしてくれないか?」


 「あ、えーと……そうだ! 仁さん、今日はクリスマスって言うんだけどな――」


 苦し紛れに敦司は今日がクリスマスであることを話しだす。最初は興味が無さげな仁だったが、プレゼントをするという部分で耳を傾ける気になった。


 「なるほど、飲めや歌えの後にプレゼントか。ミツキには世話になっているし、ここはひとつ奮発するか」


 「そう来なくっちゃな! それじゃ、行こうぜ」


 確かふたりはアルトデパートへ行くと言っていたことを思い出し、そことは真逆にある商店街へと仁を連れて行く。

 

 「女性にプレゼントなどしたことないが……何を贈ればいいんだ……?」


 「あー……そこは俺もわからねぇや。大学で喋っている女は指輪やら、ネックレスみたいなアクセサリーを好んでるみてぇだがよ」


 「ふむ……」


 アクセサリーなら、元の世界で国の南に居を構えている職人がいいものを作るのだと思いつつ、無いものねだりはできないと商店街を散策し、靴やアクセサリーにバッグといった商品を物色し、仁は美月に似合いそうなイヤリングを購入した。


 「お、いいじゃん仁さん意外とセンスあるな。なら俺は同じブランドのネックレスにしようかな。アサギさんはいつも手ぶらだしカバンだな。後はTシャツにしとくか」


 『歓迎』と書かれたTシャツをどこからか持ってきて会計を済ませる。


 「(どこにでもあるなあのTシャツ……)」


 そう胸中で呟きながら、アサギの分も買わないとうるさいだろうなと考える。しかしアクセサリーが必要だろうか? 贅沢はできないからぬいぐるみとTシャツでいいだろう、他の店にするかと移動しようとしたところでふとアクセサリーが目に止まる。


 「(指輪か……。そういえば子供のころ、迷子を助けた時に結婚しろとうるさいやつがいたな。すぐ父親に連れられてどこかへ行ってしまったが)」


 (わたしとけっこんしてねー!! するのー!!)


 ザザ……とその時のことが脳裏によぎる。


 「(そういえば……あいつに似ていた、ような……)」


 「なあ、仁さんどうだ? アサギさんのプレゼント、いいのあったか?」


 「!?」


 不意に敦司に話しかけられ、どきりとして飛び上がる仁は慌てて振り返って口を開く。


 スッ


 「あ、ああ! あいつにはこんな高いものは必要ない。適当なぬいぐるみにでもする」


 「そうかぁ? まあ金を出すのは仁さんだし、いいけどよ。あの狼のぬいぐるみ気にいってたみたいだし、アリかもしれねぇなあ」


 へへ、と美月とアサギが喜ぶであろうことを想像し笑みを見せる敦司をよそに、仁はすぐにレジへと向かう。


 「お会計、一万二千円になります! プレゼント用の袋おわけ――」


 「あー! 頼む! ほら、丁度だ!」


 「?」


 敦司が変な汗をかく仁を訝しむが、紙袋を手にした仁が戻ってきたので店を後にする。


 「じゃ、次はぬいぐるみか?」


 「ああ。またゲームセンターとやらにいかないとな……」


 一体いくらかかるのか……そう思い憂鬱になる仁に、敦司はあっけらかんとした調子で答える。


 「ぬいぐるみやに行けばいいのがあるだろうぜ。ちっと男だけで入るのは厳しいけど、ま、今日くらいはプレゼント探してますって雰囲気出せばいけるか」


 「そうなのか」


 ファンシーなお店に入った武骨なふたりは、中に居た女子高生や大学生たちに好奇の目にさらされることになるのだが、それはまた別のお話。その中から大きな熊のぬいぐるみを購入し、げっそりとしたふたりが店から出てくる。


 「く、くそ……ひそひそされていたじゃないか……!」


 「し、しかたねぇだろ!? 逆にクリスマスだから人があんなに多いとは思わなかったんだよ! ……ま、いいのがあって良かったじゃねぇか」


 「しかし、八千円……アクセサリーより高いとは……」


 「その熊、人気だからなぁ。ラスト一個だったし、アサギさんなら喜ぶだろうぜ!」


 「ふう……」


 二カっと笑う敦司に、仁は嘆息しながら上半身ほどのぬいぐるみを見て歩くのだった。



 ――そして夕方。


 敦司はオペレーション通りに仁を夕方まで外へ連れ出すことに成功し、安堵しながらワンルームへと戻って行く。


 「いやあ、仁さんゲーム下手だよなぁ! 俺よりも下手なやつぁ久しぶりだぜ!」


 「車など乗ったことがないから仕方がないだろう」


 「いや、俺も乗ったことねぇんだけど……」


 「ふん……」


 妙な対抗意識を燃やされ呆れる敦司が、ふと、周囲が騒がしいことに気付く。


 「なんだ……? こいつらどこに向かってんだ?」


 直後、


 ウー! ウー! カンカンカン!


 と、消防車が数台目の前を過ぎ去っていった。


 「火事か……? 冬場は乾燥するから多いって聞くけど、何もクリスマスになることあぁねえよな……」


 「そうだな……」


 ふたりが消防車の向かった方を見ると、じわじわと黒煙が立ち上ってきた。それを見て仁が目を大きく見開いて駆け出した。


 「あ! どうしたんだよ仁さん!」


 「……嫌な予感がする……!」


 すぐに現場に到着すると、野次馬を押しのけて仁と敦司は前にでる。そこで見えた光景は――


 「マジか!? あれって!」


 「ミツキの部屋だ……! くそ、アサギとミツキは大丈夫だろうな!」


 部屋へ行こうとした仁を、敦司は慌てて肩を押さえ引き留めてから口を開く。


 「ふたりは大丈夫だ! 今日は買い物に出ているはず! ……ん? ならなんで火が出ているんだ……?」


 「どちらにせよ荷物もある、俺は行くぞ。最悪魔法で火を消せばいい」


 「待てって!」


 するとそこで聞きなれた声が耳に入り、そちらへ目を向ける。


 「ダメですよアサギさん!」」


 「いや! 離して美月ちゃん!」


 「もうあれだけ火が回っていたらダメです!」


 「だってあそこには仁からもらったぬいぐるみが! それに、私達が暮らしてきた思い出の場所よ!」


 「行かせませんから……!」


 近くでアサギと美月が言い争っているところに出くわした。無事だったか、という安堵が先にきた後、話を聞くため駆け寄る。


 「ミツキ!」


 「あ! 仁さん! ウチの部屋から火が出たって大家さんから連絡があって慌てて帰ってきたんです!」


 「火の元は?」


 「大丈夫……だったと思いますけど、朝ご飯の時になにかミスしたのかも……」


 「くそ……!」


 仁が部屋を見ながら毒づいたその時、美月の手を振り切ってアサギが飛び出した!


 「あ! アサギさん待って!」


 「俺が行く! 敦司、ミツキを頼む!」


 『君! 待ちなさい!』という消防団員の怒号が聞こえる中、敦司に荷物を託して仁もアサギの後を追った――

アサギ、どうなる!?


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『いよいよ、か』


次回はさらに加速しますよ!

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