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ダカラアナタヲマモリタイ

作者: フクロウowl

今回は軽めのホラーと言ってもそこまで怖い要素はありません。そしてかなり短い文章に凝縮されていますので、どうかお許しください。

「おやおや、夜中にこんな高い所に来るなんて珍しい人だ。…何?家に居たくないから来た?そうかいそうかい。なら気が済むまでいるといい。

私かい?私はただの老婆じゃよ。怖がらなくていいさ。さ、ここ空いてるから座りな。

…折角会ったんだ、一つ昔話をしてやろう。なーに、怖い話じゃないから安心しなされ。ではいくぞ────」


 あるところにもうすぐ十歳になる少女がいた。その子は背丈が小さく元気な子だった。誰とでも気さくに接し、周りの人からも好かれる可愛らしい女の子だった。しかし彼女は影で町の人々にこう呼ばれていた、「不幸な女の子」と。

 その名がついた理由は、彼女が不可解な程に事故に巻き込まれていたからである。例えば、彼女に近くを走っていた車が突然彼女にぶつかりそうになったり、彼女の目の前に大岩が落ちてきたりと、挙げればきりがない程だった。本人も薄々おかしいと感じてきたようで、最近は人気のない山沿いの道を通って帰ったり、友達とも遊ばないようにするなど彼女なりに他人へ危害が及ばないようにしていた。

 その日もまた一人で山沿いの道を歩いて帰っていた。少し前と違うことと言えば。最近事故どころか不運な目に全く合っていないということだ。

 空は快晴、遊び足りていなかった少女は道の途中にある、まっすぐと上に続く石の階段を登って山の中へ入っていった。

石の階段は軽く見積もっても百段はあったが、少女はここ一か月の間に三回程登っているので登りきるのにそう時間はかからなかった。階段の終わりには鳥居があったが、少女は見向きもせず、その先にある広場に入った。ジャリジャリと音をたてながら少女は広場を走り回る。周りに人気がないこともあってか笑顔で走る少女はあるものを見つけ、立ち止まる。それは祠であった。

「前来た時はこんなのなかったのに…」

 そう言って少女が祠を観察している時だった。

「こんにちは、お嬢ちゃん」

 突然呼ばれ振り返った少女が見たのは、すぐ近くの長椅子に座った大人の女だった。女はこの時期には珍しく着物を着ていたが、少女にとってそんなことはどうでもよく、自分の周りに人がいることを恐れて後ずさりした。おびえる少女を見て女は優しい笑みを浮かべ、こう言った。

「私はあみって言うの。せっかく会ったんだし、少し一緒に話さない?」

 あみと名乗る女はここに座れと言わんばかりに自分の隣をたたいた。恐れながらも少女はあみの隣に座った。

「ねえあなた、なんでこんなとこに来たの?」

 あみに問いかけられ、少女は顔を上げぬまま「暇だったから」の一言で済ませた。あみは顔の表情は変えずにある提案をした。

「ならさ、一緒に追いかけっこしない?私も暇だからさ」

 普段から他の人とは違う意識で生きていた少女にとって、「私も」という言葉は、心の中では最も欲しがっていた同士を意味する言葉だった。つまり十歳の少女の心の扉をほんの少しでも開くには十分だったのである。少女が若干嫌がりながらも提案にのると、あみは先程よりも大きな笑みを浮かべ「じゃ、あなたが鬼ねー」と言って走り出した。

「ま、待ってー」

 少女は長椅子から立ち上がり、あみの後を追った───

 それから少女とあみが打ち解けるまでは早かった。さんざん走り回った後は、再び長椅子に座り、互いに自分の身の回りの話をした。あみの話からは様々な人が登場し、少女を笑わせた。いつも愛想笑いをしていた少女もその時は本心から笑っていた。

「そういえば、あなた。お父さんはどうしたの?」

 少女は笑顔のまま答えた。

「おとうは東京に行ってるよ。一人で働いてるんだってー」

「そっカー」

 突然あみの声が少し低くなり、少女があみの顔を見る。

「ごめんね。私、最近こエが変になるのよ」

 あみはそう言いながら懐に手を入れてなにかを取り出す。

「でも大丈夫。こレがあれば治るから」

 あみの手には十円玉ぐらいの大きさの青い球があった。少女はそれを飴だと思い、無意識にそれをねだった。

「ねえねえ、それ私も欲しい!」

「ダメよ!!」

 即座にあみが緊迫した声で少女を睨みつける。怒られるとは夢にも思わなかったであろう少女は唖然とした。驚いて動かない少女をよそに、あみは飴玉のようなものを飲み込む。そして何事もなかったかのような笑顔で「ごめんなさいね」と言って再び話し始めた。

 その後一回の追いかけっこを挟みながらも、少女とあみは話し続けた。あみの声がおかしくなる時が何回かあったが、その都度あみはあの飴玉のようなものを飲み込んでいた。気付けば真っ青だった空も飴色に変わっていた。

「あははは、おモしろいわね。…本当にドうしちゃッたのかしら、私」

ボソボソと喋るあみを見て、少女は心配そうな顔をする。

「大丈夫?病院に行った方がいいんじゃない?」

「大丈夫よぉ、これがあれば治るから」

 そう言ってあみは懐からまたあの飴玉(仮称)を出す。今日何回も同じ事を行ったというのに、今回はあみの手が震えていた。そして口に入れる前に飴玉は落ちてしまった。震える手を不思議そうに見ながらあみは再び懐に手を入れて、飴玉を探す。しかしながら何処にもなかったようで少しずつ不機嫌になってくる。

「どうしテ…」

 少しすると、あみは探すのを止め、地面に落ちた飴玉を見つめた。何を思ったか、あみがそれに手を伸ばそうとした時、

「駄目だよあみ。地面に落ちた食べ物は食べちゃいけないってお母さんが言ってたよ」

 少女に伸ばしかけた手をつかまれ、焦るようにあみは手を戻した。

「は、ハは。そりゃそうだよね。落ちたのナんて、食べレる訳ないものね。な、何考えテたのかしら…」

 あみの息遣いが徐々に荒くなる。揺れる瞳孔を少女に向け、今度はあみが少女の両手を握る。

「ね、ねえ、私と暮らさない?こんなんだからさ、誰かに看病されてないと駄目なのよ、だから、ね?」

 突然理解出来ない提案をされ少女は混乱する。あみの手を握る力と眼がどんどん大きくなり、少女が提案を断ろうとした時には既に彼女一人の力では振りほどけなくなっていた。

「む、無理だよ!わたしには家族もいるし。あみ、本当にどうしちゃったの!」

 その言葉を聞いた途端あみの力がスッと抜け、その隙に少女は自分の手を戻し、長椅子から離れた。あみは放心したように口を開き、ゆらゆらと立ち上がる。

「いかないでよ…ねぇ、ねぇ…。いくんじゃないよ!!!!!」

 叫んだあみが眼を大きく開き、地面を蹴ろうとした、その時だった。

 飛び出しかけたあみの胴体を黄色い光が突き刺し、後方の壁まで吹き飛ばした。少女が驚き、光が来た方向を見ると、鳥居の前に一人の男が立っていた。

「嬢ちゃん危ねぇぜ、そこどきな」

 男は両手を黄色く光らせ、あみへ追撃する。少女は言われるがまま男の所まで走ると、男の顔を見た。男の顔は猿のようだった。服装もどこか孫悟空っぽさがあり、日本語を話す猿なのではないかと思ってしまうだろう。少女は猿男の横に移動すると振り向いてあみを見つめた。猿男が放った黄色い光によって石壁に突き刺されたあみはこちらを睨みつけていた。

「なニかねえ、私にこんなものをなゲつけテくる奴は…」

 あみが体に刺さっている光の槍を触ると、一瞬にして光が散り、あみは地面に足をつけた。

「あいつは悪霊だ。最近ここの結界が弱まったせいで入ってきやがったんだ。ほら、あそこに祠があるだろう?あれがあんたにも見えるのがその証拠だ」

 猿男の指刺した所には、今日少女が不思議に思った祠があり、少女は納得したのか、息を呑んだ。さらに猿男は説明を加える。

「それと、あいつが変な飴みてぇなの持ってたろ?あいつが悪霊になったのはあれが原因らしいぜ」

「なんでそんなこと知ってるの、おじちゃん」

「おじちゃんじゃねぇよ。俺は知っているというか、風の噂で聞いただけのこと」

 そうこうしているうちに、あみが近付いてくる。

「邪魔者が、ハいったね。その子は・・何処にも、いかせヤ、しないよ…。く、く、ク、く、ははは!」

 あみが狂ったように笑うと同時に、腕の付け根の辺りから黒い腕が何本も生えてきた。その黒い腕は禍々しい妖気を放ちながらみるみる大きくなり、少女と猿男に迫る。

「おらよ!」

 猿男の手が再び発光し、光の槍を黒い腕に投げつけてあみの動きを封じる。

「嬢ちゃん、早く逃げな。時間は稼ぐ」

「でも、あみが・・・」

「あいつはもう元には戻らねえ」

「そんなぁ・・・。」

 少女の顔に涙がこぼれる。その一瞬、あみは狂ったような笑いを止めた。しかし元に戻ることはなく、雄叫びと共に光の槍を消し去り、何本もの黒い腕を伸ばした。

「ごめん、あみ。きっともう一度、会いに来るから!助けてみせるから!それまでちゃんと、待っててよね!」

 少女はあみに向かってそう叫ぶと、すぐさま鳥居を抜けて階段を下りて行った。

「助けるねぇ…」

 猿男は降りていく少女を見ながら呟いた。

「…悪いが、あの子は逃がさせてもらうぜ」

「アナタニアノコハワタサナイ、偽喋ぎちょう!」

 自分の名前を呼ばれたのが気に食わなかったのか、猿男は舌打ちをした。けれど、すぐに不敵な笑みを浮かべると手を光らせてあみに突進していった───

 辺りは既に薄暗く、少女が百段近くの階段を下りるのは時間が掛かった。残り三十段あたりになって道路が見え、少し安心した少女は後ろを振り返った。

 頂上では黄色い光があらゆる方向にとんでいる。おそらくあの猿男も厳しい状況なのだろう。そう思った少女が止めていた足を動かそうとしたその時である。猿男が乱発させた光の槍の一つが、少女のすぐ後ろに打ち付けられたのである。あまりの衝撃で少女は吹き飛ばされる。この高さから地面に叩きつけられれば無事では済まないだろう。少女は何とか態勢を整えようと考えるも、時既に遅く、少女の体は顔を真下にして急降下していた。顔と階段がぶつかる寸前、少女の視界は真っ黒になった。

 目を開けた少女が見たのは、明かりをつけた車が走る道路だった。つまり階段の一番下だったのだ。少女が体を見回しても傷は一つもなく、どこも痛くはなかった。

「あみ…」

 振り向こうとするが、少女の体がそれを行うことはなく、家へと急いで帰っていった───

 その後、家に帰ったはずの少女を見た者は誰もいなくなったという。


「お終いっと。なかなかに面白い話だったろう?……何?『少女はその後どうなったか』だって?さあね、私は知らないよ。彼女がどうなったのかも猿男がどうなったのかも。そこはあんたの想像に任せるってものだ。きっと幸せになっとるさ。

 ところでこの話でいつも思うんだがね、なんで猿男の名前が『偽喋』なのかねえ。いやだってさ、少女を助けに来た正義の味方だろう?なのになんで『りをらせる』なんて名前なのかなぁって思ってさ。……何?『そんなの作者の勝手だろ』だ?全く悲しいやつだねぇ。細かいところまで考えたくなるのが物語の面白いとこだってのに。

 まあ、今日はこのくらいでいいだろう。また来たくなったらいつでも来な。私は待ってるからね。それじゃ…あ、そうそう。そこの石の階段、段数多くて危ないから、気を付けて帰るんだよ。サヨウナラ───」

                                       終


はい、どうもフクロウowlです。今回の作品はどうだったでしょう。いまいち分かりにくい所もあるかと思います。これはあくまでノーマルエンドってやつです(自分の中では)。もし機会があればトゥルーエンドを書きたいと思います。と言ってもそんなにびっくりはしないかもですが…。

余談ながら私が書いていく小説のテーマは「どんなことにも裏がある」でやっていきます。先日書き終えた盗人のお話もそれを意識して書いたつもりですし、これからもそのつもりで頑張っていきます。

ご感想があれば是非頂けると嬉しいです。それでは

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