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そしてNに続く

ラストです!

「……これ、は」


一体どういうことなのか。目の前に広がる光景が信じられず、シオンの顔を見る。


「わからない、僕が控室に戻った時にはもうこの状況で……」


そう話す彼の顔色は今にも倒れてしまいそうなほど真っ青だ。


……いったい誰がこんなひどいことをしたのだろうか。犯人に対していいようのない怒りが込み上げてくる。


ひとまず、このままではいけないと、屋敷の侍女に事の顛末を話し、夫人を呼んできてもらうよう頼んだ。そのまま二人して部屋の前で待っていると、暫くして、騒ぎを聞きつけた夫人が執事を連れてやって来た。彼らも部屋の惨状を見て青ざめる。


暫く話し合った後、夫人はシオンに頭を下げ、「犯人は後で必ず見つけ出す」と約束してくれた。そしてこの後の演奏会をどうするかということになったのだけれど……。


「……演奏会は中止にするしかないね。予備に持ってきたものも壊されているようだし……」

「そんな!? どうにかなりませんか夫人?」

「ごめんなさい……。屋敷にあるバイオリンも弦がすべて切られてしまっているみたいで……」


クレア夫人の言葉に、わずかな望みもなくなってしまい途方に暮れる。


どうしよう……諦めるしかないの?


……そんなのは嫌。だって今日は王族の方もいらしているのよ。それなのにこのまま中止になってしまったら、せっかくの彼の名誉も演奏を楽しみにしていた人たちの気持ちを踏みにじることになってしまう……それにシオンだって本当はこのまま終わりになんかしたくはないはずだ。


何か手はないのか必死になって考えていると、ふと思い出した。

そうだ……バイオリン!! 一つだけまだ無事なのがあるじゃない!


シオンに少しだけ待ってもらうよう声をかけ、急いで荷物を置かせてもらっている部屋に向かう。

そして、自分の持ってきたケースを見つけると、中を確かめる。


よかった、無事だわ……。


どうやら、別の場所に会ったため、被害を免れたようだ。私はケースを持つと、急いで彼のもとに戻る。


「シオン、これを使って!!」

「それは、バイオリン!? いったいどうして」

「シオンに贈ろうと思ってこっそり持ってきていたの。確かめたけど、中は無事よ。お願いこれを使って」


彼は何か言いたそうだったが、絶対中止になんかしたくない。そんな決意を込めて彼の瞳をじっと見つめると、彼にも私の気持ちが伝わった様だ。「わかった」といって受け取ってくれた。

そして、一緒に会場に戻り、しばらくして演奏会が再開した。


シオンの演奏は先程の事件の動揺を感じさせない位、澱みなく素晴らしいものだった。


――そして無事、演奏会は大成功を収めたのだった。


******


後日。

私はいつもの場所に来ていた。彼と会う約束をしていたためだ。久しぶりに訪れたここは、前と変わらず静かで誰もいない。

約束していた時間より早く着いてしまったため、彼を待つ間、持参したバイオリンを弾いていた。……彼からもらったバイオリンをここで弾くのは久しぶりだった。


――どのくらい経っただろうか。しばらくしてシオンの姿が見えたので演奏をやめて手を振る。


「こんにちは、シオン」

「こんにちは、ノエル。ごめん、待たせちゃった?」


彼の言葉に首を横に振り、それから笑顔で彼にバイオリンを差し出した。

シオンは初め不思議そうな顔をしていたけれど……意図が伝わったのか、苦笑しながらも受け取ってくれる。そしてそのまま顎と肩で支えるとバイオリンを弾いてくれた。


華やかで艶のある、透き通った音色は体の芯を通るような力強さがありながらも、どこか優しい響きを持つ。他のどのバイオリンを弾いてもシオンの演奏は美しい。でも……やっぱり、シオンがこのバイオリンを弾いたときに鳴るこの音が一番好きだと思った。



******



「ありがとう。私のお願いを聞いてくれて。とっても素晴らしい演奏だったわ」

「どういたしまして。君が気に入ってくれたようで何よりだよ」


そうやってお互いの顔を見て、笑い合う。


それから彼は私の隣に座ると、この前の演奏会のことを話してくれた。あの後バイオリンを壊した犯人は見つかったらしい。なんでも招待客の一人で、シオンが注目を浴びるのが気に食わなかったらしく、恥をかかせてやろうと人目を盗み犯行に及んだそうだ。今では犯人は捕まり、あの日参加した王族の方が事の顛末を聞いたらしく、国王から直々に厳重な処罰が与えられるようだ。


壊れたバイオリンが戻ってこないのは残念だが……それを聞いて安心した。ほっと息をついていると、そんな私を気遣うように彼がほほ笑んだ。


「……とまあ、そんな感じなんだけど……それよりあの時はありがとう。ノエルのお陰で途中で止めずにすんだよ」

「ううん。私の方こそあのまま中止なんて嫌だったから、無事に終わってよかったわ」

「そっか。……それより本当に良かったの? バイオリン。あのまま僕がもらってしまっても……」

「もちろん! だってシオンに渡すために用意したんだもの。私自らお店に足を運んで、あなたに気に入ってもらえるようにって、一から作ってもらったの。――材質に、弦に、音色……全部あなたにピッタリと合うものを選んだつもりよ」


気に入ってもらえたかしら?そう言おうとして思わず言葉を飲み込む。なぜかシオンの顔は耳まで赤く染まっていて、彼は片手で口元を抑えていた。


え?どうして真っ赤なの?

理由が分からず目をぱちくりしていたら、ふいに大きな息をついたかと思うと、


「……そうなんだ。……ありがとうノエル。ずっと大切にするからね」


そう言って、とても嬉しそうに微笑むものだから……なんだか恥ずかしくなって「え、ええ」と返すのがやっとだった。


……なんだか変な空気になってきたので、彼に別の話題を振る。


「そ、そういえば話したいことがあるって言っていたけれど、それってさっきの話?」

「ああ、確かにそれもあったけど……本題は違うよ」

「そうなの? じゃあ聞かせてくれる?」

「……うん」


そう言うと、急に彼が真剣な表情になった。


「……あのさ、ノエルはすごいよね」

「うん?」


「普通、自分では一生懸命頑張っているつもりなのに、全く上手くならなかったり、怒られたりしたら弾くのが嫌にならない? それなのに「全然上手くならない」とか、「またおばあさまに怒られた」とか言ってる割にまったく挫けないし。そのくせいつも楽しそうにバイオリンを弾いている」


え、ちょっとまって……。いきなり何? なんで私のことなの?全然話が見えてこないんだけど……。


いきなり自分の話をされて戸惑っている私をよそに彼はどんどん話を続けていく。


「その時の君の笑顔を見てるとさ、羨ましいと思うと同時に、褒められないからって弾くのが嫌になりかけていた自分の方が恥ずかしくなった。……もっと頑張ろうって思ったよ。再会してからもあの頃みたいに楽しそうにバイオリンを弾く姿を見て君はちっとも変わっていないと感じた」


そこで彼は顔を背け、少しうつむく。


「僕の方は――君との約束があったからここまで頑張ってきたけれど、その途中何度も嫌に思うこともあったし、やめたいと考えたこともあったよ。 でも、君とまた会って、話をして、一緒に弾いて……そんな時間はあの頃みたいに楽しくて幸せで……バイオリンをやめないで良かったと思った」


そして、ふいに私の方を見ると、彼はまぶしそうに目を細めた。


「僕にとって君は……まっすぐで……まぶしくて……きれいで……温かくて。僕なんかが傍に居ていいのかなと思う時もあるけれど、それでも一緒に居たくて……」

「そんなことない! 私だってシオンとは才能も違うし、釣り合わないかもしれないけれど、あなたと一緒に居たい」


私にとっても、シオンはまぶしくて……きれいで……。

色んな感情がごちゃ混ぜになってしまい、気が付いたら叫んでいた。

そんな私にシオンは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに優しい顔を向けてくれた。


「……うん。ありがとう。僕もそうだよ。……ノエルと一緒に居るとね、心が安らぐんだ。肩の力を張っていなくて済むし、すごく落ち着く。自分の演奏を聴かれても嫌じゃないし、何だったらもっと聴いていて欲しいと思う。それに、君といると楽しいと感じるんだ。もちろんバイオリンもね。だから……」


ふいに、彼は私の手を取ると両手で優しく包みこんだ。そして微笑むと、


「……だからこれからもノエルにはずっと僕と一緒にいて欲しいんだ。そしてできれば僕の演奏を傍で聴いて欲しい――僕の妻として。……だめかな?」


もちろんよ! と言おうとして、後に続く言葉で固まってしまう。

……今、なんて?


「あれ? 伝わらなかった? 僕と結婚して欲しい――て意味だったんだけど……」

「え!? 」


なんで? どうして……。


彼の真意が分からず狼狽える私に、シオンは呆れたように……


「どうしてって、それは僕が君のことが好きだからに決まってるじゃないか」


……という、とんでもないことをさらっと言ってのけた。


「す、好きって……いつから……」

「うーん……。子供の頃からかなぁ……自覚したのは最近だけど……」


知らなかった。彼はそんなに前から私のことが好きだったのか。


「そうだったの……全然気付かなかったわ」

「……これでも結構アピールしてたんだけどなぁ。エスコートを申し込んだり、演奏会に招待したり……只の友人だと思っていたらここまでしないよ」


そう言って苦笑する。けれど、すぐにニヤリと笑って、


「……でも、そんな反応をするってことは期待してもいいのかな?」


なんて言ってきた。


うう……。彼はやっぱり少し意地悪だ。

子供の頃とちっとも変わらない。


今で自分の気持ちに蓋をして、考えないようにしていたから、自分の気持ちがよく分からない。――そう言っても彼の態度は変わらなかった。


「なんとなくわかっていたしね。……まあこれから時間は沢山あるし、その時にでも君の気持ちを聞かせてもらうよ」


そう笑ってくれるけど、きっとシオンには私の気持ちなんて筒抜けなんだろう。


さっきから顔がやたら熱い。

鏡を見なくてわかる。きっと今頃私の顔は真っ赤になっているはずだ。

彼の方も気付いているはずなのになにも言わない。その代わり、頬をうっすらと赤く染めながら優しく微笑んでくる。

その表情が余りにも甘くて……今すぐにでも溶けてしまいそうだ。


「……それで返事は?」

「私、は……」


そんなの一つに決まっている。悩むまでもないじゃないか。

私は彼の目を見つめ返し、そして――



******



女性の様に高く透き通った美しい音色が辺りに響き渡っている。

そんな素晴らしい演奏を……あの頃と変わらず、今も私はすぐ傍で聴いている。そんな毎日を送れるなんて、私はこの上なく幸せ者だ。



なんとか完結することができました!

たった7話だというのに途中で力尽きてしまい、自分の体力の無さを改めて痛感しました……。

いつか長編のお話も書きたいと思っているので、途中で力尽きないよう頑張りたいと思います。

お読みいただきありがとうございました!

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