再会はLから 後編
真ん中らへんにシオン視点あります。
次の日。
私は昼食を食べ終えた後、久しぶりにお気に入りの場所に行ってみた。そして、そこにはやっぱり思ったとおりシオンの姿があった。
「やあ、ノエル。君ならきっとここに来ると思っていたよ」
「こんにちは、シオン。私もそう思っていたわ。だってあなたってば、「またね」って言ったらいつもここに来てくれたもの」
「それはそうさ。誰だって「次も楽しみに待っててね」なんて笑顔で言われたら、普通、来るしかないと思うけど」
「あら、じゃあもしかして迷惑だった……?」
「そんなことないよ! 迷惑だなんて思っていたら何回も会いに来たりしないさ」
よかった……。一瞬迷惑だったの!? と焦ってしまった。
「それにしても昨日は驚いたよ。まさか君が来てるなんて思いもしなかったから。……一応これでも夜会に出席する度に、毎回君の姿を探していたんだよ? もしかしたら、王都に帰って来てるかもってさ」
「え!? そうだったの? ……ごめんなさい、実は王都に帰ってきたのはついこの間なの。それからはデビューの準備で忙しくて、連絡できなくて……」
知らなかった。彼がそんなにも私に会いたいと思ってくれていたなんて……。
そうとも知らず、領地にいたことが申し訳なくて、しゅんとしてしまう。
そんな私の様子に彼は少し困ったように笑う。
「あ~、……ごめん。責めるつもりはなかったんだ。ただそれだけ僕が君に会いたかったということを知ってもらいたかっただけで、ごめんね」
ああ、彼までしゅんとしてしまった! そんなつもりはなかったのに。
「ううん、大丈夫よ! 気持ちは伝わったから。……それよりシオン、あなた私より年上だったのね。てっきり同い年だと思ってたわ」
夜会に出席できるということはもうデビューが済んでいるということ。当時は私と変わらない位の背丈だったから、てっきり同い年なんだと思い込んでいた。そう彼に話すと、
「どうせ当時の僕は小さかったさ。……これでも結構気にしてたんだよ? 女の子の君の方が僕よりずっと平気そうにバイオリンを弾くものだから……それが悔しくて、嫌いなものでも食べるようにしたし、体力をつけるために鍛錬だってするようになったしね。おかげで今では平均的にはなれたと思う」
そうやってすねたようにそっぽを向く様は子供の頃と同じなのに、すらりとした体つきは大人の男性で……そのギャップに思わずくすっとなる。
「そうだったのね、ごめんなさい」
「……別にいいよ。それより、今日は君に話があるんだけど」
私に話? いったい何だろう。
思わず彼の顔をじっと見つめてしまう。
「その、覚えてる? 前に君が「もし演奏会を開くなら呼んで欲しいって」言ったこと。それで、今度王都の劇場で演奏することになったんだけど……もしよかったら見に来ない?」
「ほんと?昔のこと覚えててくれたんだ……。うれしい。シオンの晴れ舞台よね? あなたが良いならぜひ見に行きたいわ!」
そう言うと、彼はぱっと顔を明るくさせ、それから、目じりを少し赤く染めて嬉しそうにはにかんだ。
そんな顔をしないで欲しい。そんな風にされたらこっちまで赤くなる。
「……よかった。じゃあ今度チケットを家の方に送るから」
「わかった、待ってる」
平然と返したつもりだけれど大丈夫よね?
動揺のあまりそっけない返事になってしまった。
けれど、彼の方は気にした様子もなく、嬉しそうに別の話をしだしたので――そのことにほっと胸をなでおろした。
******
昨日は本当に驚いた。まさかノエルに会えるなんて思ってもいなかったから。夜会なんてめんどくさいと思っていたけど……出席して本当に良かった。
そして今日も彼女に会うことが出来た。ずっと会いたいと思っていた分、感慨も一入だ。
昨夜も思ったが、久しぶりに見た彼女はとてもきれいになっていた。柔らかな金の髪に優し気な青い瞳の色はそのままに美しい大人の女性へと成長していた。かと思えば中身は昔と同じ――少し変わった優しい彼女のままで、もしかしたら変わってしまったかもしれないと不安に思っていたけれど杞憂だったようだ。
隣に座る彼女を見る。
さっきまで一緒にバイオリンを弾いていたけれど、相変わらず彼女の音は独特だ。既知の曲はそれなりに上手く弾けるようになっていたけれど、初めて弾く曲はやっぱり苦手みたいで、気を抜くと偶にバリっと音が鳴っていた。
笑っちゃいけないんだろうけど、その音を聴くと安心する。やっぱり彼女は僕の知っている彼女のままなんだって。
楽しそうに話す彼女の顔を見る。その表情を見ていると自然と頬が緩む。
彼女と一緒に居るとひどく落ち着いて、最近は特に忙しく――あんなにも張りつめていた心が嘘みたいに解けていった。
ノエルは不思議だ。
彼女には何度でも自分の演奏を聴いてもらいたいと思う。
彼女が褒めてくれるのならばもっと頑張ろうって思える。
ノエルと話すときは楽しくて、彼女の前では等身大の自分でいられた。
それだけにノエルと出会ってからはあっという間で、逆に会えない6年間はとても長く感じた。彼女と話せないことが悲しくて、つらくて、苦しくて……早く会いたかった。彼女に会ってその笑顔を見たくてたまらなかった……。再会してからは、隣でずっとこのまま見ていたいと思う。
どうしてこんな気持ちになるのか。隣に座る彼女の表情を見て、その理由がすとんと胸に落ちた。
ああ、そうか……僕は――ノエルのことがずっと好きだったんだ。
一度自覚をしてしまえば、決意は早かった。
彼女に会えたこの機会を逃すものか。どんなことをしても絶対に手に入れてみせる。
******
後日、シオンから演奏会のチケットを貰った私は、その会場である王都の劇場に来ていた。
チケットが届いてから、毎日、今日という日を楽しみに待っていたのだが……
「とっても大きな劇場……こんな場所で演奏できるなんて、シオンてばやっぱりすごいのね」
こんな豪華な劇場に入るなんて、自分の方が不釣り合いな気がして恐縮してしまう。恐る恐る入ると、中は大勢の老若男女でいっぱいだった。
「すごい人……さすが王都で今話題のビオール伯爵の演奏会ね。……よかったのかしら私なんかが見に来て」
きっとチケットもすごい人気だったんじゃないだろうか。余ってるとシオンは言っていたけど……そんなことはないはずだ。それに、さっきちらりと自分の席を見てきたけれど、貴賓席だった。彼がわざわざ私のためにあの席を用意してくれたのかと思うと……嬉しくもあり、申し訳ないと思う。
「……けど、せっかく彼が見に来ないかといってくれたのだもの、こんな気持ちでいたら用意してくれたシオンに悪いよね」
そうだ。せっかく彼が誘ってくれたのだから目一杯楽しもう。そう気持ちを切り替えて、私は自分の席に着いた。
******
しばらくして、演奏会が始まった。舞台の中央でバイオリンを弾くシオンの姿は、太陽の元とはまた違った魅力を醸し出していた。
妖艶というか、なんというか……明るい場所で見る彼は天使の様なのに、ろうそくの明かりだけの、こう暗い場所だと――あのエメラルドみたいなきれいな瞳も淡い髪色も相まってまるで妖精みたいで……彼から目が離せない。
ふと、オペラグラス越しに目が合った気がした。
そのことに思わずドキッとしてしまう。
気のせい? ……それとも私を見てくれた?
心臓がどきどきとうるさい。おまけに、ふっと微笑むものだから困りものだ。ここが暗いからいいものの、もし明るければ私の顔が真っ赤なのがまるわかりだもの。
次に彼が弾き始めた曲にどよめきが起きる。事前に知らされていた曲目にはない曲だったからだ。けれど、私は周囲とは違う理由で驚いていた。
この曲……昔、シオンと一緒に初めて作った曲だわ。どうして……。
他の観客は初めこそ曲目にないことに驚いていたが、すぐにその素晴らしい演奏に聴き惚れていった。しかし私は未だ困惑の最中にいた。
どうして今この曲を彼が弾くのか、理由が分からない。でも――
私は、シオンがこの曲を覚えていてくれたことが嬉しくてたまらなかった。やっぱり心のどこかで彼が私の知らない場所に行ってしまったような気がしていたから……私の知っている部分が少しでも残っていることにほっとする。
それからは他の観客たちと同じようにシオンの演奏に聴き惚れた。その間中、目の奥がずっと熱かった。
5話目は力尽きて無理でした……。
続きは明日投稿になります。