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再会はLから 前編

どうしても6話にしたかったので、前編後編に分けました。今回は前編です。

王都を離れてから6年の歳月が流れた。


シオンとの約束もあったし、私としては早く王都に戻りたかったのだけれど……あのいつも強気だったおばあさまが体調を崩されて以来、しおらしく成られてしまって、「もっと一緒に居て欲しい」とお願いしてくるものだから……戻るに戻れなくなってしまった。

けれど、今回デビューの歳になったため、こうしてまた王都に戻ってくることが出来たのだ。


久しぶりに屋敷に戻ると、お父様や使用人の皆が歓迎してくれた。私も久々に彼らに出会うことが出来て嬉しかった。


そして、今日はデビュー当日。私にはまだ婚約者がいないので、今回のエスコートはお兄様に頼んである。昔、何回か父と一緒に行ったことはあっても、久々の王宮で緊張する。緊張のあまり、必要ないと思っていても、ついついあのバイオリンを持ってきてしまった。


シオンに借りたバイオリンは今も大事にしまっている。普段使うことはないけれど、偶に音を聞きたくなったり、ふとさみしくなると、ケースから出してきて弾いている。

私だって物の価値ぐらいわかるようになった。彼は練習用だって言っていたけれど……あの時思った通りで、お世辞にも安いとはいえる代物じゃなかった。これと比べると私が本番で使うバイオリンが安物といえるレベルだった。


本当ならそんな大事な品を舞踏会なんかに持ってきたらいけないのだろうけど、緊張や不安で一杯で、これを持っていれば彼がそばにいるような気がして、安心できるから……こっそり持ってきてしまった。

こんなにいい物をずっと借りたままでなにもお礼をしないのは失礼なので、今度彼に会えたら何かお礼をしようと思う。

そんなことを考えていたら、気が付いたら会場についていた。


******


初めて参加した夜会はとってもキラキラしていた。シャンデリアやドレス、それを彩る宝石達。目に入るものすべてが輝いていて、思わず目をつむってしまいそう。


やっぱり王都は違うのね……。

参加している人々のどれもが美しく洗練されていて、知らず知らずのうちにため息が漏れる。


お兄様が知り合いのもとに行ってしまってから、一人残された私は会場の隅っこで、近くにいる貴婦人たちの話に耳を傾けていた。

彼女たちは、今年の流行や今回どこどこの令嬢がデビューするだのといった話で盛り上がっていた――と思ったら、急に色めき立ったかと思うと、一斉に同じ方向を見つめだした。


何だろうと思って彼女らがみている方を見ると、誰かがダンスの前に一曲演奏をしようとするところのようだった。


「まあ、見てビオール様よ」

「今回はどんなすばらしい演奏をなさるのかしら。楽しみだわ」


どうやら、今夜は貴族の子息子女達のデビューということもあり、あのビオール伯爵様が演奏を披露してくださるようだ。彼の噂は領地にも届いていた。とても素晴らしい演奏をなさる将来有望な若手バイオリニストだと。私は姿を拝見したことはないけれど、かなりの美丈夫らしく、特に若いご令嬢や貴婦人の間で大人気らしい。


いったいどんな演奏を披露してくれるのか。

私もバイオリンを嗜む端くれの一人としてとても興味を惹かれる。

内心ワクワクしながら彼がバイオリンを弾き始めるのを待つ。

そして、ちらりと伯爵の顔を見てみる。


うわー、本当にきれいな人。

……でも、あれ?どこか見覚えがあるような……。


いったいどこで会ったのだろう?どことなく「彼」に似ている気もするけれど、まさかそんな……

必死に記憶を手繰り寄せていると、演奏が始まったようだ。まるで透き通るようなバイオリンの音が聴こえてくる。


この音!

間違いない、この女性みたいにきれいで艶のある音はシオンだ。ビオール様って彼のことだったんだ!記事にはいつもビオール伯爵としか書かれていなかったからわからなかった。


そっか……すっかり有名になったのね。王宮で演奏できるくらいだもの、やっぱり彼は才能があったのよ……。


何だろう、彼が成功して嬉しいはずなのに、反面どこか遠くに行ってしまったみたいで少し寂しい。

そんな気持ちに蓋をして、私は控室に戻ってバイオリンを持ってくると、会場には戻らずにそのまま夜の庭園に向かった。

そしてちょうどよさそうなベンチを見つけると、そこに腰かける。

ここなら会場から少し離れているし、バイオリンの音もホールの音に紛れて聞こえないだろう。


ケースからバイオリンを取り出し、顎と肩の間に挟むように支えるとゆっくりと弾き始める。

腕はあのころに比べると大分上達したように思う。初見の曲でなければ、今ではほとんどバリバリ鳴らなくなった。



そうして、しばらく弾いていると、ふいに声をかけられた。


「ずいぶん上手くなったんだね」


はっとして、その人物の方を慌てて見る。


「シオン……」


そこには声も背丈も、記憶の中にある彼とはずいぶん変わってしまった男性がいた。それでも幼い頃の面影が残る彼の顔を見て、自然と頬が緩む。


「久しぶりだね、ノエル」

「まあ、覚えててくれたの?」

「忘れるわけないさ。君の方こそ覚えててくれたんだ?」

「もちろんよ。私だって忘れるはずないわ。それよりどうしてここに?ホールでの演奏はいいの?」

「別に構わないさ。弾くのは元々あの一曲の予定だったし。あのあと、人に囲まれてうんざりして、一人になりたくて庭に出てみたらバイオリンの音がするじゃないか。それで気になって来てみたんだよ……そしたらまさか君がいるなんて」


そうだったのか。聞こえないだろうと思っていたけどばっちり聞こえていたらしい。そのことが恥ずかしくて顔が熱くなったけれど、ここが暗くて良かった。彼には気づかれてないみたいだ。


そして、私の方も平然を装いながら淡々とここでバイオリンを弾いていたわけを説明する。


「……そうか。僕の演奏を聴いて自分も弾きたくなったから弾いていたって……ふふっ、やっぱり君って変わってないな」


それはどういう意味だろう。昔と変わらずおかしなことをしているとでも言いたいのだろうか。自分なりに結構落ち着いてきたと思っていただけに割とショックだ。


「もう。何も笑うことないじゃない……でも、よかった。シオンも変わってなくて安心した」

「そう?自分でいうのもなんだけど僕、結構かっこよくなったと思うんだけどなぁ」

「まあ!ふふっ自分で言っちゃったら意味ないわよ……また会えてうれしいわ、シオン」

「僕もだよ。……ノエル、君に会えるのをずっと待ってた」


そう言って彼は私を抱きしめる。私は彼の思いがけない行動に驚いてしまい、固まって動けない。今まで手をつないだことはあっても、ハグなんかしたことがなかった。彼はいったいどうしたんだろう……長いこと会わない間に随分積極的になったようだ。


この状態でいるのがいたたまれなくて、気が付けば――私は思わず「バイオリン!」と叫んでいた。


「ほら、約束したでしょう?次会ったらあなたにバイオリンを返すって」

「? ……ああ」


彼もそのことを思いだしたようだ。力が緩んだすきに、彼の腕から抜け出す。そしてベンチに置いていたバイオリンを手に取るとそのまま彼に差し出した。


「はい、今まで貸してくれてありがとう。約束どおり返すね」

「いや、これはそのままノエルが持っていて」

「え? でも……」

「いいから。代わりのものはいくらでもあるし、君に持っていて欲しいんだ……だめかな?」


そんな風に言われると、私も強く断れない。それになんだかあの日の会話と似ていて……その時のシオンの悲しそうな表情を思い出してしまったら無理だった。


「わかった……じゃあ、これはこのまま私が持ってるね。でも自分だけ貰うのは悪いから私もシオンにバイオリンを贈る!」

「別にそこまでしなくて大丈夫だよ、僕が勝手にしたことだし。その気持ちだけ受け取っとくね。ありがとう」


今無理に言ってもきっと彼は私の提案を受け取らないだろう。シオンは昔から変に頑ななところがあったから……。とりあえず、今は彼の言葉に「わかった」と頷いておく。

そして後日、彼に贈るバイオリンを探しに行こう。実物を渡したらさすがの彼も断れないだろうし……。


「何考えてるの?」

「ううん、別に。バイオリンありがとうね。これからも絶対大事にするから!」

「うん、そうしてくれると僕も嬉しいよ」


******


その後は、一緒にベンチに座って昔の話をした。そして、夜会が終わる頃になると彼に挨拶をしてから別れた。


「今日は久しぶりにあなたと会えて楽しかったわ……またね、シオン」

「僕も、ノエルに会えてうれしかったよ。……またね」



明日は、久しぶりにあの場所に行こう。そして――きっとそこには彼の姿もあるに違いない。


明日はお休みさせていただきます。後編は明後日更新予定です。

もしかしたら続けて5話目も投稿できるかもしれません。

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